ヨーロッパ進出の足がかりとしてマーケットが成熟しているドイツへの進出を検討している日本の企業も多いかと思います。
ドイツは業種・規模によって地域特性が大きく異なっています。
一言でドイツといってもそのように地域によって特色があるのです。
これは都会や田舎といった都市規模や風習の違いだけではなく、過去の歴史的な背景から分散集権型の都市構成になっており、それぞれのエリアに応じて発展している産業が異なるためです。
したがって業種や規模によってメリットとデメリットが異なるため、進出する地域の選択は重要になってきます。他の日系企業が多いからといって安易に進出先を選ぶのは危険です。
日本企業の進出が多い西ドイツ
西ドイツはドイツ国内総生産(GDP)の36%を占めておりドイツでも国内最大規模の産業地域です。
主な都市はデュッセルドルフやフランクフルト、ケルンなど。
西ドイツには昔、ルール工業地帯という炭鉱で栄えたライン川沿いの工業地帯がありました。
その後金融や自動車産業が盛んになっていきます。現在でもこの自動車産業は特にドイツ全体の経済において重要な産業であると言えます。
第2次世界大戦以降、西ドイツのこの産業は戦略的で中核産業でした。
主に、車体やエンジン、トレーラー、道路牽引車、原動付き車両部品・付属品の製造業です。一般自動車だけでなくトラックやワゴン、バスも作っています。
この6つのコンツェルンの乗用車生産企業が経済的に占めている割合を西ドイツ内の自動車産業全体で見てみると、およそ30年前の1983年からの5年間で従業員数は5割、売上高・投資額は8割も上がっていました。
こうした自動車産業の歴史がある西ドイツでは現在に至るまで自動車産業が確固たる期間産業かつ戦略的産業に位置付けられているのです。
特にデュッセルドルフは地理的にちょうどヨーロッパの中心にあたるため、日本企業がヨーロッパ進出を考えたときに最初に選択する拠点となっています。
日本企業への誘致活動が行われたこともあり、東京・大阪・名古屋などの都市圏に本社を置く日本企業のヨーロッパ拠点が集中しています。
日本からの観光客は少ないですが、400以上の日系企業がオフィスを構え、約7,000人の日本人が在住し、「リトル・トーキョー」と呼ばれる日本人街が形成されています。
そのため、デュッセルドルフを中心に西ドイツ内での日系企業間でのパートナーシップを結んでいることも多いのですが、すでに強いパイプが出来上がっている中への新規参入を考えた際に既存パートナーを押しのけてでも選択してもらうだけの高いポテンシャルが求められることになります。
プルーヴでもお客様の新規のパートナーを探すお手伝いをしているのですが、他地方と比べると西ドイツでは既に日本企業案件が飽和しているのか、最初のアポイントメント時点で苦労することもありました。
物流拠点となっている北ドイツ
北ドイツはドイツ国内総生産(GDP)の16%を占めています。主な都市はハノーヴァー、ブレーメン、ハンブルクなど。
特にハンブルクはドイツ最大の港湾都市であり、貿易業が栄えています。
鉄道と高速道路網によって中央ヨーロッパの諸都市と結ばれ、観光地としても有名な赤レンガ倉庫街が広がるドイツ最大の物流拠点です。
このように北ドイツが貿易で繁栄している理由は、中世ヨーロッパ時代の貿易繁栄の影響が現在まで続いているからなのです。
中世の北ドイツである、リューベック、ハンブルク、ブレーメンはハンザ同盟という都市同盟を結び、バルト海沿いの地域の貿易を掌握してヨーロッパ北部の経済圏を支配していきました。
この貿易における重要交易品は、北欧に輸出していたバルト海のニシンである。
毎年ニシンの漁期になると、ハンザ都市圏から北欧へとニシンの買い付けで商人が派遣されていました。
年間数十万トンが塩漬けにされて欧州各地に輸出されていました。この北ドイツのハンザ商人は北欧(ノルウェーやスウェーデンのストックホルム開拓など)やその他ヨーロッパ地域に移住し、現地で商業利益を上げて、その国の経済発展にも大きく貢献した実績によりドイツへ多くの富を送りました。
これも北ドイツが栄えた最大理由の一つです。
近年では貿易業の他に、医療産業、バイオ産業、航空産業など技術集約産業の誘致に熱心で、多くの多国籍企業が拠点をおいています。
ドイツ全体では欧州の中でもトップの社数のバイオ産業
バイオ産業においては、ドイツ全体では欧州の中でもトップの社数で、特に北部ベルリンやその周辺地域における160社ほどあり、ネットワークを構築して最大の集積を誇っています。
このようなバイオ産業が発展したのは、1996年にドイツの教育研究省(BMBF)がバイオ技術を基盤としたベンチャー企業育成の多衛野地域コンペを開いた事をきっかけに、各州や市政府が中心となってバイオ産業の振興を行ったことが最大理由です。
またバイオ産業の発展に欠かせない存在である生命科学研究の機関が沢山あることや、安価で豊富な労働力、技術レベルの向上、政府支援策などによってこの産業が盛んになっていきました。
バイオ産業の技術の専門分野は、遺伝子工学が最も多く、次に農業・食料、抗体、環境技術、生物情報科学といった順で会社数が多くあります。
開発・生産製品やサービスでは、最も多いのは診療方法で、その次に解析、治療、医薬品、機器、ソフトウェアといった順位続きます。
今後このバイオ産業はゲノムの解析の進展により様々な病気が分かってくると同時にますます発展していくでしょう。
このような重要な情報をデ ータベース化し、効率よく解明を行うことが発展のカギとなっていきます。
そこで日立ソフトウェアが得意とするIT技術が利用されています。
バイオインフォ マティクスと呼ばれる分野です。
世界中のゲノム解析を行っている研究機関とネットワークをつなぎ、データ管理を行う事業などを進めていく方針です。
このバイオインフォマティクスシステムは新薬開発や蛋白質解析、近年対策が厳しくなっている欧州の環境問題への対応や食品の品種改良などにも活用される予定です。
バイオ産業に関わる分野でビジネス展開を考えている日系企業は北ドイツに進出するべきでしょう。
IT系などのスタートアップ企業が多い東ドイツ
東ドイツはドイツ国内総生産(GDP)の15%を占めています。主な都市はベルリンやライプツィヒ、ドレスデンなど。
ベルリンは地理的にヨーロッパの中心に位置しているため、欧州各国の主要都市へのアクセスにおいて非常に便利で好立地であります。
飛行機の他に、地下鉄や鉄道、路面電車がベルリン中心部に走っており、交通インフラの面でも利便性が高いです。
今やドイツ最大の人口(約361万人)を誇る都市であり、映画や音楽、広告、ファッションなど文化・芸術などのクリエイティブ産業が大きな割合を占め、流行を生み出す街となっています。
新しいことに挑戦しやすい都市として、とりわけベルリンにおいてはスタートアップ企業への投資額が群を抜いて国内一位となっており、「スタートアップの聖地」とも呼ばれています。
このような特徴を持つ東ドイツですが、なぜ芸術が栄え、ビジネス面ではスタートアップしやすい地として有名になったのでしょうか。
その背景を第2次世界大戦後の東西統一の観点から見ていきましょう。
第2次世界大戦後の東西統一の歴史的な背景
東ドイツは第二次世界大戦中に空襲にあい深刻な被害を受けましたが、冷戦時代を経て1990年に東西統一がされたのち、再びドイツの首都となり再開発が行われました。
この統一と再開発では実際に、西ドイツが東ドイツを吸収するような形で行われました。
東ドイツはベルリンの壁が崩壊するまで社会主義であったため、そうしたことを象徴するような建物は次々に壊されていきました。
こうした状況であったため、大きな産業の発展はできず、カオスな状態が続きました。
そのため収入の安定した職を求めにベルリン郊外へと人々が流出していきました。
ベルリン市内には安価な家賃でクリエイティブなアートを楽しめる国内のアーティストが集まり、旧東ドイツ側のベルリン東部において放置されていた建物を利用してアートシーン、クラブシーンを盛り上げていったことが、現在ここまで芸術色の強い地域となった理由になります。
こうした才気にあふれるクリエイティブな人材が流入してきたことにより、ビジネスの面においてもスタートアップ企業の活動が盛んになっていきました。
つまり当時の芸術が現在の新しいビジネスを生み出す根源に繋がっているのです。
また、ベルリン東部は経済発展が遅れていた点や、他の主要地域に比べて物価が安いことからオフィスの賃貸料や生活費も比較的抑えられる点などからも新たな企業家人材が集まりやすい要素となっていた。
そうしたベルリンの特徴によって新たな産業が発展していくこととなりました。
次は現在、どのようなスタートアップ企業が何の業界で活動しているのか詳しく見ていきます。そこでまずポイントを押さえておきましょう。
それは現在のスタートアップ企業において重要なのは「エコシステム」であるということです。
ビジネスにおけるエコシステムは「業界の枠を超えて、企業同士が共存していけるシステム」を意味しています。
2017年のグローバルスタートアップエコシステムレポートにおいて、ベルリンは欧州の中でも2位を誇っています。
ベルリンは上記のように創造性や芸術性に優れている人材が集まっていることから、自然とデザイナーやエンジニアなどを惹きつけやすくエコシステムが出来上がってくるのだそう。
こうした独特な理由から、スタートアップ企業のB to Cのクリエイティブ産業が活発化しています。
2014年にRocket Internetというインターネット関連事業を手掛ける会社が欧州の中で最高額での上場を成し遂げたことで、ベルリンのスタートアップ市場は一気に注目され始めました。
他に成功している例を挙げると、音楽配信サービスのSoundCloudや、タスク管理アプリを開発するWunderlist、カーシェアリングサービスを提供しているDriveNow、食材の定期購入サービスのHelloFresh、欧州内交通手段検索サービスを提供するGoEuroなどです。
このように個性的なスタートアップ企業が数多く活躍しています。
クリエイティブで斬新なビジネスを進出させていきたい日系企業にとっては、この東ドイツが適切な進出先と言えます。
因みに、こうしたベルリン発スタートアップ企業の中でも、日本とビジネス提携を組んで新たなプロジェクトを進めている企業もあります。
それは2013年に創設されたインファームという企業です。
ベルリン発スタートアップ企業で日本とビジネス提携をしたインファーム
主にヨーロッパ全土のスーパーマーケットを中心に垂直型農法を取り入れたサブスクリプション型農地栽培、販売といった業務を行っています。
垂直型農法(ヴァーティカル・ファーミング)は今数々のメディアが取り上げ、話題となりつつある未来の都市型農業です。
その特徴は広大な農地ではなく、ビルの室内で余ったスペースを利用して簡単に育てられる野菜などの水耕栽培を行うことです。
これは将来的に危惧されている食糧不足の対策にもなり、郊外から作物を輸送する際に排出されるCO2の削減できるメリットも沢山あります。
インファームは2020年より、JR東日本とパートナーシップ契約を結び、JR東日本が持つ紀ノ國屋の店舗で栽培、収穫された作物を消費者へ販売していくことが決まっています。
JR東日本も、この契約による新たなビジネスにより、地産地消、フードロスといった昨今の社会問題を解決してSDGsに貢献していける会社になれるように取り組んでいく姿勢を見せています。
新技術が研究開発される南ドイツ
南ドイツはドイツ国内の国内総生産(GDP)の33%を占めています。主な都市はミュンヘンやシュツットガルト、ニュルンベルクなど。
南ドイツでは自動車産業が盛んで、メルセデス・ベンツ、し、ボッシュをはじめとする部品メーカーも併せて展開しています。
一方で研究機関や大学が集中しており、産学の連携が取れた研究開発に注力しています。ドイツの特許庁がミュンヘンにあるのが象徴的ですが、新しい技術は南ドイツからもたらされるといえるでしょう。
ミュンヘン近郊には、遺伝子センターのほかにも数多くのバイオテクノロジー研究施設があり、近年多くのバイオテクノロジー系の企業が本拠地を置いています。
またミュンヘンは日本人街のような日系で固まった地域がないとはいえ、デュッセドルフに次いで日本人在住者の多い街となっています。
日本企業であることのアドバンテージを生かすには
日本からドイツへの企業進出となると西ドイツのデュッセルドルフへの進出が一種の定石となっているような感がありますが、逆にその他の地方に目を向けるとまだ進出企業が少なく、業種にかかわらず日系企業であるということが大きなアドバンテージとなる可能性を秘めています。
プルーヴが企業様の進出・展開のお手伝いをする際にも、相手先の日系企業への期待と安心を実感することがありました。
今回お話したようにドイツでは地方によって異なる産業ごとに集まる傾向がみられ、日本からの進出を考える企業は自分たちにあった戦略を立てて進出エリアを選定し進出していく必要性があります。
プルーヴでは海外進出に際してしっかりとした事前調査と現地展開のお手伝いをしております。
ドイツ進出の際には是非ご相談ください。
【参考】
ドイツの地域分散の状況について 国土交通省https://www.mlit.go.jp/common/001042018.pdf
“日本人はデュッセルドルフの一部です”…日独の蜜月関係が生んだ街https://traveloco.jp/kaigaizine/japantown-germany
第 1 部 第 5 章 知識集約型の新企業による地域振興を通じた産業の活性化
―ドイツのバイオ技術の事―
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2004/documents/L-7_02_5.pdf
地域性豊かなスタートアップシーン(ドイツ)https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2018/0602/5a2dccdac746535c.html