ネット通販は、PCやスマートフォンで購入ボタンをクリックするだけで、いつでもどこでも買い物ができ、買ったものが自宅に配達される便利なシステムです。今やECなしに私達の生活は成り立たないほど浸透しています。
このように新型コロナウイルスの感染拡大以前からネット通販は急激に伸びを見せ、国内では年10%前後の成長が見込まれています。
しかし、BtoBの大量物流に比べて、単身者世帯や共働き世帯多く、また、配達時に受取人不在で手間がかかるBtoCの小口物流は業界の課題になっています。
私達の日常においてはヤマト運輸や佐川急便のような業者しか接することはありませんが、私達の手元に荷物が届くまでにどのようなプロセスを経ているのでしょうか。
ここでは、物流業界全般と、物流業界のキープレーヤーについてご紹介し、業界が直面する課題を解決する「物流DX」について触れていきます。
物流業界の事業構造
まず初めに、物流業界の事業構造についてご紹介します。
フォワーダーとキャリア
法律で「貨物利用運送事業者」と呼ばれるフォワーダーは、自らは輸送手段を持たず、トラック・JR・船舶・航空機などを利用して荷主と直接契約して貨物輸送を行う業者のことを指します。
一方、自ら輸送手段を持って輸送する事業者のことをキャリア(実運送事業者)と呼びます。
https://lab.pasona.co.jp/trade/word/22/
しかし、それぞれの業務は時代の移りとともに変化しています。
従来まで、フォワーダーは単に運送取次、航空代理店業、海運仲介業などを示していましたが、貿易取引が日常的に行われる今日において、フォワーダーは貨物利用運送事業以外の業務も対応します。
国際物流に関わる業務を幅広く行うことで商社やメーカーの貿易事業をサポートし、付加価値の高いサービスを提供することが求められているのです。
日本のフォワーダーは、昔から貿易業に関わってきた港湾運送事業者や倉庫事業者が多くなっていますが、欧州やアジアなどある特定のエリアに強い商社系のフォワーダーなどが他社に差別化しつつ競合しています。
例えば、航空のフォワーダーは近鉄エクスプレス、オーバーゲージ貨物はジャパントラスト、上海向けのフェリーはFCSスタンダードロジックスなどが挙げられます。
フォワーダーの数は非常に多く、下記の「フォワーダー」一覧で「ア行」だけでも50社以上存在します。
https://www.jpntrust.co.jp/service/forwarder.html
※乙仲/フォワーダー/海貨業者/通関業者
https://tiero.jp/magazine/trade1/
ここで、「業界屈指の独立系フォワーダー」とされるジャパントラスト株式会社について簡単にご紹介します。
北米路線、全世界向けの特殊輸送で必ず見積りに入れるべきと言われるジャパントラストは、2016年に日本発北米向けのコンテナ貨物の取扱量で、NVOCCとして世界6位の実績を上げています。ここ数年の取扱量も毎年約2,000TEU増加しています。
※特徴や実績など詳しくお知りになりたい方はYouTubeをご覧ください。
調査会社のグランビューリサーチによれば、フォワーディング業界の2019年の市場規模は1700億ドルです。2020年から2026年にかけて年平均2.8%の成長を見込みます。
海運貨物
正式に「海運貨物取扱業者」と呼ばれる海運貨物事業者は、港湾地区で貨物を取り扱う専門業者です。
輸出者や輸入者の代わりとなって貨物の船積みの手続き・引取りの手続きを行ったり、搬出入・運送など様々な業務を行ったりしています。近年の業界における売上高シェアランキングでは、1位が日本郵船、2位が商船三井となっています。
https://hunade.com/forwarder-otsunaka-chigai
輸出・輸入業で携わる業務にはそれぞれ下記のようなものがあります。
https://www.mitsui-soko.com/company/group/mse/service/02
輸出時
船やコンテナヤードで引き渡すまで貨物を運び、輸出者の代わりに船会社から発行されるB/L(船荷証券)を受け取る
輸入時
輸入者から受け取ったB/Lを船会社に提出→D/O(荷渡し指図書)を受け取る→船会社から貨物を引き取る
航空貨物
航空貨物の事業者や航空会社が担っていることが多く、下記一覧を見てみると親しみを感じる企業名が多いのではないでしょうか。
https://suik.jp/greport?code=SM000060
航空の場合の輸出・輸入業で携わる業務は先述した海運貨物の手続きと基本的には流れは同じと考えて良いでしょう。
物流全領域を担う3PL(Third Party Logistics)
3PLとは”Third Party Logistics”の略語で、企業の物流機能全般を一括請け負いするアウトソーシングのこと。
・First Party:荷主企業自らがロジスティクスを行う
・Second Party:運送会社や倉庫会社等にロジスティクス業務を部分的に委託すること
・Third Party:第3者が荷主企業に代わり最も効率的な物流戦略や物流システムの構築を提案し、荷主企業のロジスティクス業務全体を包括的に請け負う業態
http://www.shizunai.co.jp/s_c/02.html
近年、目まぐるしく変化する市況への対応は荷主企業にとって重要な経営課題の一つです。企業のロジスティクス部門において、本業である製品の研究開発や販売活動により注力したいと考えており、専門家である3PL企業へしっかりと任せたいと感じる担当者が増えています。
調査会社のグランビューリサーチによれば、2019年の3PLの市場規模は8,310億ドルです。日本の3PL事業者は、日立物流、日本通運などが当てはまります。
物流業界の動向
https://www.sbbit.jp/article/cont1/35561#&gid=null&pid=1
郵便などの物流業界では上位5社に中国郵政、UPS、ドイツ郵政(DHL)、Fedexが圧倒的な売上を誇っています。しかし、この業界は市場規模が非常に大きく、この5社が圧倒的と言っても市場シェアは実は2%未満です
DHL
世界最大手のDHLは、ドイツポストDHL傘下のブランドです、2019 年のグループ全体の売上高は約630億ユーロに達しています。社会と環境にとってサステナブルなビジネスの実現を目指し、2050年までにロジスティクスにおけるゼロ・エミッションの達成を掲げています。
Fedex
1973年に設立の米大手総合物流会社で、拠点空港を利用したハブ・アンド・スポークと呼ばれる航空輸送業務や国際宅配便に強みを持っています。フォワーディングにおける首位の座をDHLと競っています。
DBシェンカー
140か国に2,000の拠点を有するDBシェンカーの広範なグローバル・ネットワークがその基盤となります。
ドイツ鉄道の傘下の物流会社であるDBシェンカーは、元々は鉄道貨物主体の企業で、その後陸運・海運にも事業を拡大した企業です。
日本においては、1964年に進出後2002年に西濃運輸との合弁企業の国際運輸事業「西濃シェンカー」を設立しています。世界の800以上の拠点で展開し、年間約1,200のチャーター便を運航しています。
世界の物流業界の特筆すべきトレンド
それでは、世界の物流業界はどのような動向になっているのでしょうか。課題やニーズについて見てみましょう。
生産性の低さが課題
冒頭で触れたように、拡大するEC市場に対して、物流業界は定着するアナログからの脱却にもがいており、煩雑な業務による生産性の低さが問題となっています。
海外動向
中国の「一帯一路」政策には、中国からバルト海にかかあるシルクロード経済ベルトや、中国沿岸から欧州に伸びる21世紀海上シルクロードなどがあり、これらの新しいインフラ整備は、海外物流の新しいビジネスチャンスとして捉えられています。
https://www.mlit.go.jp/common/001116212.pdf
【参考:中国の広域経済圏構想「一帯一路」とは。各国のメリット・デメリットと日本の加盟の行方】
https://www.provej.jp/column/china/silkload/
国内の主な企業
次に国内の主な事業者の紹介をします。
日本通運
日本通運株式会社は、日本における最大手の総合物流事業者で、国内外に持つ幅広い輸送ネットワークを活かしてた法人向け貨物輸送・物流業務を得意としている。長年、売上高はトラック輸送事業界では第1位を維持しています。
https://www.mlit.go.jp/common/001116212.pdf
国内物流最大手の日本通運は、売上高2兆円超と世界上位ですが、海外比率はわずか2割と海外市場に遅れを取り、海外事業は航空貨物のフォワーダーを除くと存在感を示せていませんでした。
しかし、ここ数年、成長が見込める東南アジアの地固めに乗り出し、現地のM&Aも視野に入れながら世界の物流大手を目指し、今後10年で海外比率を5割の目標を掲げています。
日立物流
国内は325拠点、米州、欧州、東アジア、その他アジア太平洋地域などの29カ国に436拠点を持つ日立物流は、多彩で高品質なサービスをグローバル展開しています。
https://article.auone.jp/detail/1/3/6/7_6_r_20201004_1601755483305856
同社は輸出入は海外市場の影響を受けており、中国の上期営業利益は、航空運賃の上昇と前年同期からの反動増で前年同期の4.8倍に急伸しました。今後、佐川急便のSGホールディングスと資本業務提携の話がありましたが、2020年9月に見送ることになりました。
https://www.hitachi-transportsystem.com/jp/ir/library/annual/pdf/4_AR2019jp.pdf
その見直しに伴って取得した自己株式を、M&Aや提携など新たなパートナーとの協業に活用するとしています。具体的には、海外事業の強化、スマートウエアハウスなどのDX分野への投資をし、中国、ASEAN諸国に展開する方向を示しています。
郵船ロジスティクス
郵船ロジスティクスは、1955年に設立されました。国際物流事業は、2010年に航空貨物と海上貨物ロジスティクスに強みを持つ「NYK Logistics」と経営統合して誕生しました。
南アジア、オセアニア、東アジア、欧州、アメリカなど43ヶ国に514拠点を持ち、2016年度の営業収益は4,391億円、営業利益は42億円です。国際物流業者ランキング(取扱量)の上位には、事業の歴史が長い欧州の会社が上位を占めていますが、郵船ロジスティクスは常に15位前後で推移しています。
同社はベトナム現地物流会社との提携で陸海空の総合物流を展開しており、特に強みとなっているのがコントラクト・ロジスティクス(物流一括受託)です。ベトナムの倉庫・配送業務の近年の売上高は、飛躍的に伸びており、成長著しいベトナムの物流需要を取り込んでいます。
https://www.yusen-logistics.com/jp/about-us/company-profile/management-strengths
物流DXとは
もともとロジスティクス業界では、製造業のインダストリー4.0の普及などによってインターネットを活用したグルーバルに分散したサプライチェーン構築の変革を迫られていました。
また、アマゾンなどの小売企業が仕掛けるECの台頭により、配送サービスの利用を前提とする購買活動へとシフトが進んでいました。
この動きをコロナウイルス感染拡大が後押しし加速させたため、世界のロジスティクス業界は、宅配便の増加、顧客にスピーディーい届けることをさらに迫られることになり、DXの実行が待ったなしで求められています。
2020年12月、日本郵便と楽天は、物流分野で戦略的提携関係を結び、それぞれが持つデータを共有して物流DXの業務基盤構築を目指す方向である発表しました。
日本郵便の持つ全国物流網や膨大な荷量やデータと、楽天のEC需要予測と物流受注データの運用ノウハウを共有し、消費者、荷主、物流企業それぞれの満足度が高める物流プラットフォームが実現するかもしれません。
昨今様々な業界においてDXが取り入れられており、物流業界の先進的な企業は取り組みを加速させています。しかし、富士電機が行った「物流倉庫DX推進への意識調査」によると、実際DXを取り入れている企業は下記の円グラフの通り、ごくわずかであることが分かりました。「取り組んでいる」は全体のわずか4%で、「取り組んでないし、必要性も感じていない」は32%でした。
https://www.fujielectric.co.jp/products/logistics/research/research06/
デジタル化が実現すれば下記のように物流に対するニーズも変化すると言われており、DXによって業界が再編される可能性もあるでしょう。
最後に
物流業界の業態や主要プレイヤーについてご理解いただけましたでしょうか。コロナ渦で急増したECの利用が物流業界を圧迫しているという課題のため、物流業界では人手不足が深刻になっているようです。
EC市場はコロナウイルス感染が無かった場合でも毎年10%成長する市場と言われていたため、その成長率は更に加速しています。そのため、早急にDXを取り入れることが求められている業界の一つなのではないでしょうか。
<参考>
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=251426
https://www.logi-today.com/413608
https://job.rikunabi.com/2021/company/r611700071/
https://job.mynavi.jp/conts/2022/keyword/gyoukai/gyo1035.html
https://ampmedia.jp/2020/11/07/logistics-dx/
https://www.hitachi-transportsystem.com/jp/profile/network/
https://hunade.com/forwarders-ranking#toc1
https://www.fpt-software.jp/with-covid19-dx-required-by-the-logistics-industry/