コールドチェーンとは生産地から小売まで冷蔵・冷凍状態を保ったまま流通させる手法のことで、新型コロナウイルスのワクチン供給にかかわって脚光を集めました。コールドチェーン市場は、実は莫大な市場規模が期待されています。ここでは、コールドチェーンの紹介と、各国の課題や動向についてご説明します。
グローバルコールドチェーンとは
コールドチェーンとは、商品の生産・輸送・消費の過程で絶えず低温に保つ物流方式のことです。最近ではグローバルにコールドチェーン産業が発展しています。フードロスの削減に向け、食品の安全管理へのニーズが高まりつつある中で、コールドチェーンによる物流が急拡大しています。
グローバルコールドチェーンはワクチン輸送に活用されている
新型コロナウイルスのワクチンは、マイナス20度やマイナス75度などの超低温が必須です。これは、mRNAに含まれる物質が鎖のようにたくさんつながってできているため、低温でないと鎖が切れてしまうからと言われています。全世界へワクチンを供給するために、コールドチェーンは欠かせない物流方式です。
前述のように、新型コロナウイルスのワクチン輸送のためのコールドチェーンを構築する場合。例えば、ワクチンを製造するファイザー社、物流サービスDHL、そして大手航空会社ANA は、ワクチンを厳密な温度管理で安全に輸送するためのオペレーション体制を構築しています。
コールドチェーンは、古くから食品業界を中心に発展してきました。市場拡大の裏には自由貿易の拡大やグローバル食品メーカーの発展があり、2026年にはコールドチェーン産業の市場規模が5850億ドル以上になると言われています。
世界の中でもっとも大きいのはアジア太平洋地域の市場です。地域の人々の平均所得が上昇したことにより、高品質で新鮮な有機農産物の需要が増加。市場の拡大につながりました。
コールドチェーンがもたらすメリット
コールドチェーンが発達すると、大きく3つのメリットがあります。
生鮮食品の広域輸送が可能に
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000314.000059861.html
地域が限定されていた食材をエリア関係なく食べられるようになります。また、名産品が各地で販売される機会も多くなりました。さらには国内の食材だけでなく、海外からの生鮮食品も食べられるようになり、逆に海外へ日本の食材を輸出することも可能になります。
食品ロスの大幅削減
コールドチェーンでは鮮度の保持期間が大幅に延び、物流における食品廃棄リスクを大幅に軽減することができます。
https://www.nikkeikinholdings.co.jp/csr/dna/feature2018/02.html
医療関連の流通網の拡大
食品以外にも、医薬品流通への影響も大きくなっています。ワクチンなど安定した低温での管理が必要な医療関連製品の全国流通が可能となりました。厳格な温度管理が要求される医療業界でも、コールドチェーンは大きな役割を果たしています。
ワクチン供給におけるグローバルコールドチェーンの役割
新型コロナウイルスの感染拡大により、生鮮食品のみならず低温管理が必要なワクチンの輸送も必要になりました。ワクチン開発が加速するにつれ、冷蔵輸送の重要性は高くなり、これまで以上に高いエネルギー効率で且つエコなコールドチェーンシステムを構築する必要が出てきます 。また最新のシステムによって、輸送車が停車中であっても冷凍機の温度を一定に保つことができ、省エネの向上も可能になりました。
生鮮食品の輸送とは異なり、医薬品輸送においてはATP協定(腐食性生鮮商品の国際輸送に関する協定)のような統一されたシステムはありませんが、コールドチェーンのサプライヤーや事業者は流通基準を遵守することが求められています。世界ではすでに幅広い地域で新型コロナウイルスワクチンが提供されていますが、ワクチン輸送には、厳格で長時間の低温保管が必須です。
例えば、ドイツの高性能真空断熱パネル・パッキングの製造会社va-Q-tecはワクチン供給の二―ズにより売上が急拡大しました。製品は高断熱、超低温、さらには電源不要の長距離輸送が可能であることが特徴です。
日本国内のグローバルコールドチェーン推進
コールドチェーンを確保する上で課題となっているのが、冷蔵・冷凍庫の不足です。地域問わずこれらの設備は不足していますが、特に水産物の原産地となっている地方では十分な冷凍庫の確保が必要です。このような冷凍庫不足の問題に対して、卸売市場では大容量冷凍庫を新設しているほか、設備が不足している地方空港から輸送する際は、他の拠点となっている空港や港湾に分散するといった対策も取られています。
国内だけではなく、輸出先の海外の空港でも冷蔵・冷凍庫が不足しています。冷蔵庫の不足によって提供先までコールドチェーンを確保できない場合や、冷凍庫の不足が原因で、通関時に冷凍商品を冷凍庫に保存できないといった実態もあります。このような課題に対して、農林水産省も積極的に支援しています。
https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/ryutu/210428.html
https://hojyokin-portal.jp/subsidies/8889
コールドチェーン事業に参入している日本企業
コールドチェーンに参入している日本企業を見てみると、一部ですが、大手では下記企業が挙げられます。
- Wismettacフーズ(株)
- (株)OCS
- (株)シティ・スーパー・ジャパン
- (株)ジーブリッジ
- (株)ニチレイフーズ
- 日本通運(株)
- (株)MARS Company
- 三井住友海上火災保険(株)
- ヤマトホールディングス(株)
- 郵船ロジスティクス(株)
輸送中の温度管理領域においては国内を中心とする製薬会社や食品会社からの一定の需要がありますが、コールドチェーンに参入する企業はどこも国際的に熾烈な価格競争を行っているようです。
グローバルコールドチェーンの海外市場概観と課題
https://www.daiwahouse.co.jp/tochikatsu/souken/business/column/clm42-2.html
2017年、世界のコールドチェーン市場の規模は1,599億米ドルで、2027年までに約6,000億米ドルに達すると言われています。一方で、コールドチェーンには下記のような世界的な課題があります。
温度管理が難しい
全工程で温度管理が必要なコールドチェーンは、どこかの工程で温度管理の水準を満たせないと品質が担保されなくなります。場合によっては温度管理ミスによって全品物が廃棄になってしまうこともあります。工程に関係なく、コールドチェーンに関わる全ての人が温度管理の方法を徹底的に理解しておくことが大切です。
整備コストが高い
全工程で温度管理が必要であるため、整備コストが高くなります。そのため、大規模輸送以外は他の物流会社にアウトソーシングするのも有効な方法とされています。
0度~10度のチルド帯のサービスが少ない
乳製品や青果物等に適切な、0度~10度のチルド帯のサービスを提供している企業が非常に限られています。
今後、2021年から2030年にかけて、ワクチンの90%がコールドチェーンへ依存すると言われるほど、需要の増大が見込まれています。WHOのデータでは、世界のワクチン接種率は約8割近くに達しているもののコールドチェーンの不適切な流通、不適切な輸送により25%のワクチンが破損しているというデータもあります。 国によっては、輸送中の温度管理が不十分なため、約80%の医薬品が効力を失っている懸念もあるようです。
コールドチェーンの各地域の市場動向
それでは次に海外主要エリアのコールドチェーン市場の動向をご紹介します。
欧州市場
欧州におけるコールドチェーンの市場は、2025年には2015年の約3.5倍になる見通しです。インフラの不備や物流コストの上昇など、成長のマイナス要因となりうるものもありますが、「電子商取引の普及拡大」、「冷蔵倉庫の増加」、「医薬品分野の成長」がコールドチェーンの市場拡大に大きく貢献しています。
他にも、コールドチェーン・ロジスティクスに関連したITソリューションや自動化ソフトウェアの利用拡大、さらにはコールドチェーン・アプリケーションへのRFID技術(電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書き可能なシステム) も、成長率の高さと深く関係していると言われています。さらには、新型コロナウイルスによる巣ごもり需要の拡大により、冷凍食品の販売が好調であることから、欧州に低温物流拠点を展開しようという企業も出てきています。
アメリカ市場
米国への輸出においては、検疫や通関に関する問題が浮上しています。例えば米国への和牛の輸出で、検疫・通関のために1週間程度の留め置きが発生したことにより、コールドチェーンが途切れてしまいました。そのため、販売期間が短縮されたという事例も報告されています。また、和牛と混載して輸出される品物も同様に留め置きの被害を受けてしまいます。特にニューヨークでは他の都市と比較しても通関に長い時間を要するため、販売期間が短くなってしまいます。そのような障壁はあるものの、現在世界の中では北米が世界最大のコールドチェーン市場を擁しています。
中国市場
中国の食品冷蔵市場の成長は著しく、市場規模は2023年には日本円で8兆7987億円にまで達すると想定されています。一方で、コールドチェーンの未整備や、それに伴うフードロスの増加が問題視されています。食品冷蔵流通率も22%と、先進国平均の95%からは大きく下回っており、食品損傷率も果物11%、野菜20%と先進国がそれぞれ5%であるのと比較しても、中国における農作物のフードロスは深刻です。このようなフードロス問題の背景から、中国政府もコールドチェーンの普及を後押ししています。
https://www.ycg-advisory.jp/learning/oversea_94/
ASEAN市場
今後の成長率が最も高い地域として注目を集めているのが、ASEAN地域です。国土交通省の発表によると、2015年のASEAN主要国の「冷凍冷蔵食品の消費額」は13,897百万ドルでした。これは2010年と比較して1.6倍に増加しています。近年、経済成長と個人所得の向上に伴って、電子レンジや冷蔵庫が一層普及しています。
スーパーやコンビニの増加に加え、人々のライフスタイルは変化し、伝統的な食事ではなく冷凍冷蔵食品の消費量が年々増加しています。2020年以降、ASEANの冷凍冷蔵食品の消費額は一層増えることが予測されています。
拡大の一方で、冷凍冷蔵食品の輸送や保管に対し、必要な温度管理が徹底されていないことが課題として残されています。国土交通省の調査によると、南アジアとASEAN地域では、食料紛失や廃棄の発生のうち約9割が、製造から流通の段階で発生しているということが分かっています。
このASEANのコールドチェーンの現状は、日本にとってビジネスチャンスとなるかもしれません。国土交通省は2017年10月、「コールドチェーン物流プロジェクト」を立ち上げることでASEAN各国の物流の改善支援を開始しています。
さいごに
コールドチェーンの仕組みや市場規模のポテンシャル、世界にどのような課題があるかご理解いただけましたでしょうか。
ASEANだけでなくインドもコールドチェーンのクオリティがまだ整っていない地域です。いち早く参入できる企業がビジネスチャンスを掴むことができると想定されます。今後も動向へ注目が集まりそうです。
https://www.youtube.com/watch?v=XGLn0WY_eSA
https://www.dnp.co.jp/news/detail/10159224_1587.html
https://spectra.mhi.com/jp/why-the-world-needs-the-cold-chain-more-than-ever-before
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000314.000059861.html
https://www.mylogi.jp/logistics/cold-chaine/
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/2101/18/news061.html
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/gfp/attach/pdf/cold_chain-3.pdf
https://www.daiwahouse.co.jp/tochikatsu/souken/business/column/clm42.html
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66988350U0A201C2000000/
https://www.lnews.jp/2021/02/n0219308.html
https://www.zaikei.co.jp/releases/1335229/
引用を使用するときを慎重に
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000950.000071640.html