ASEANにおける地政学的リスクを徹底解説

日本企業の新たな進出先としてASEANが注目を集めていますが、ASEAN各国は歴史的背景や抱える課題がそれぞれ異なります。そのため、同地域に進出する際は、どのような地政学的リスクがあるのかを理解しておくことが大切です。そこで本記事では、ASEANにおける主要な地政学的リスクをわかりやすく解説します。 

地政学的リスクとは 

地政学的リスクとは、国際関係や地域情勢の変化によって企業活動や経済に影響を与える要因のことです。例えば、以下のような要因が該当します。 

  • 国家間の対立 
  • 領土問題 
  • 政権の不安定化 
  • 軍事的緊張 
  • テロ 
  • 政治的対立 

その影響の大きさから、地政学的リスクは海外進出の意思決定において重要な検討事項と言えます。 

地政学的リスクがビジネスに与える影響 

地政学的リスクは企業活動に様々な影響を与えます。ここでは、具体例を交えてその影響をわかりやすく解説します。 

物流の停滞 

地政学的リスクの影響の一つは、物流の停滞です。港湾の封鎖や陸路の規制、輸出入制限などにより、原材料や部品の供給が滞ることがあります。例えば、港湾が封鎖されると日本からの海上輸送が困難となり、納期の遅れや生産計画の見直しが必要になるでしょう。こうしたリスクに備えるためには、複数の輸送ルートを確保したり、在庫を適切に管理したりすることが有効です。 

ビジネスモデルの崩壊 

地政学的リスクは、既存のビジネスモデルを崩壊させる可能性があります。例えば、中国の工場で製品を製造し、米国に輸出するビジネスモデルです。このような製品は米国の関税政策により、価格競争力が低下しました。中国以外の選択肢としてASEANに注目が集まっているほどです。このような関税の引き上げや輸出入規制、保護主義的政策の強化は、事業の継続に悪影響を及ぼす可能性があります。 

コストの高騰 

地政学的リスクは、コスト面にも影響を及ぼします。輸送ルートの変更や代替材料の調達により、運送費用や調達費用が上昇することがあるためです。また、国際的な緊張や紛争による原油価格の変動、関税の引き上げ、輸出入規制なども製造コストや販売価格に直結します。場合によっては、これらにより利益率が低下し、事業戦略の見直しが必要となることも考えられます。 

ASEANにおける地政学的リスク 

ASEANは、東南アジア10カ国で構成される枠組みです。豊富な人口と高い経済成長により注目される一方で、米中関係の悪化を背景に複数の地政学的リスクを抱えています。ここでは、特に重要な7つのリスクについて解説します。 

米国の関税政策 

米国は、貿易赤字の削減と国内産業の保護を目的に、世界各国に高関税を課しています。特に中国やインドに対する関税は厳しく、米国市場への輸出産業に大きな影を落としています。ASEAN諸国も例外ではありません。シンガポールのように自由貿易協定を結んでいる国でさえ、10%の関税が課されています。 

また、7月下旬から8月初旬にかけて、米国は日本や欧州、ASEAN諸国と関税率について合意しました。しかしその直後から、トランプ米大統領は医薬品や半導体に100%以上の関税を課す方針を表明し、先行きは依然として不透明です。 このように、特定品目への高関税が実施されれば、ASEANに進出した企業も大きな影響を受ける可能性があります。 

米国の関税政策の詳細は、「米国の関税問題の現状とASEAN各国の対応」をご参照ください。 

米国のイスラエル支援 

米国は、イスラエル・パレスチナ紛争において、イスラエルに軍事支援を行っています。 

そのイスラエルは、主な戦場であるパレスチナのガザ地区に対して、封鎖政策を実施しています。その結果、ガザ地区では食料や水、医薬品、燃料の不足が深刻です。2025年9月16日には、国連人権理事会の調査委員会がガザでのイスラエルの行為を初めて「集団虐殺」と認定しました。この人道危機に対し、国際社会からイスラエルの政策に対して、強い批判の声が上がっています。 

この問題はASEAN諸国と米国の関係にも波及しています。パレスチナはイスラム教徒が多数を占める地域で、ASEANにもイスラム教徒の多い国が存在するためです。特にインドネシアやマレーシアは、米国のイスラエル支援に強く反発しており、米国との関係悪化につながる恐れがあります。 

中国資本への依存 

ASEAN諸国の中には、中国が推進する「一帯一路」構想を通じてインフラ整備を進めている国があります。その代表例はカンボジアです。中国資本を使い高速鉄道や橋などのインフラを整備しており、2024年に投入された資金は34億ドルにのぼるとされています。 

しかし、このような中国資本への依存はリスクを伴います。中国経済の減速によって資金の流入が減少する可能性がある他、多額の融資返済やインフラ維持費が国家財政を圧迫する懸念があるためです。実際、カンボジアは中国の「債務の罠」に陥る危険性が指摘されています。 

債務の罠とは、二国間の融資において、借り手の国が貸し手の国から圧力を受けることです。具体的には、返済不能に陥ると空港や港湾といったインフラの権利の譲渡や軍事協力などが求められます。 

一帯一路の詳細は、「中国の広域経済圏構想「一帯一路」とは?」の記事をご参照ください。 

中国からの安価な商品の流入 

米中対立の影響により、中国はASEANとの経済関係を強化しています。その中で懸念されているのが、中国の過剰生産によって生み出された安価な商品の流入です。安価な中国製品の流入は、消費者にはメリットがあります。しかし、域内の企業にとっては深刻なリスクとなります。価格競争が激化すれば、収益性の確保が難しくなり、事業継続や成長戦略に影響を及ぼす可能性があるためです。 

台湾問題 

台湾問題とは、台湾と中国間に存在する政治的問題のことです。現在、台湾は中華民国政府が統治しています。一方、中国は「一つの中国」を掲げ、台湾を自国の不可分の領土と主張しています。 

米国は台湾問題に対して、現状維持を重視しており、台湾の独立や中国の武力による統一のいずれも望んでいません。その一方で、台湾の軍備拡張を支援しているため、米中関係悪化の一因となっています。 

現在、台湾に中国が侵攻する台湾有事の可能性は低いとみられていますが、完全に可能性がないとまでは言い切れません。さらに、米国は台湾有事に備え、フィリピンやベトナムとの関係強化を図っています。このような協力関係の構築により、台湾の地政学的リスクがASEAN全体に波及する可能性があります。 

南シナ海問題 

南シナ海問題とは、中国、ベトナム、フィリピンなどによる南シナ海の島々の領有権を巡る問題です。周辺国には他にも、マレーシア、ブルネイ、台湾があります。 

その主な要因は、中国が南シナ海に軍事施設とみられる構造物を建設していることです。この中国の行動により、同地域の緊張が高まっています。南シナ海は国際貿易における重要な航路であるため、この海域の支配が強化されると、航路の自由が制限されるリスクがあるためです。 

米国も南シナ海の航行の自由を重視しており、関係国との連携を強化しています。このような背景から、南シナ海問題は、ASEANのみならず世界的な地政学的リスクの一つと言えます。 

ミャンマーの紛争 

国軍によるクーデターの発生から4年が経過した現在、ミャンマーでは民主派勢力と国軍の間で戦闘が続いており、紛争の終結が見通せない状態です。このような国内の政情不安は、国民生活や経済活動に深刻な影響を及ぼしています。この状況はミャンマー国内のみならず、ASEAN諸国にとっても地政学的リスクとなっています。隣接国との国境付近では、難民の流入や治安の悪化が懸念されるためです。 

ASEAN進出の前に地政学的リスクを把握しよう 

ASEANは、高い経済成長と豊富な人口を背景に、中国に代わる進出先として多くの日本企業から注目を集めています。しかし、地政学的リスクは国ごとに大きく異なります。海外事業を成功させるためには、進出前にこうしたリスクを正しく把握することが重要です。 

プルーヴでは、海外進出や海外事業の拡大を支援しています。進出先の選定や海外市場調査、地政学的リスクについてもご相談いただけます。海外進出をご検討中の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。 

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