
海外進出は、新たな成長の機会をもたらす一方で、必ずしも計画通りに進むとは限りません。特に、直面しやすい課題として、次のグローバル市場の5大リスクが挙げられます。
- 為替リスク
- 規制リスク
- 文化リスク
- 人材リスク
- サプライチェーンリスク
本記事では海外展開を検討している方に向けて、これら5つのリスクの原因や影響、対応策をわかりやすく解説します。
グローバル市場においてリスクマネジメントが重要な理由

海外の事業展開には、様々なリスクがあります。事業を継続し成功へ導くには、適切なリスクマネジメントが不可欠です。海外進出において、リスクマネジメントが重要とされる3つの理由を解説します。
成功確率を高めるため
グローバル市場には日本と異なる法律や文化、商習慣といった障壁が存在します。これらを軽視すると、計画が頓挫したり、想定外の損失を被ったりするリスクがあります。例えば、現地での人材採用が思うように進まなければ、事業を軌道に乗せることは難しいでしょう。このことから、海外事業を成功させるには、適切なリスクマネジメントが重要です。
事前の備えで損失を最小化するため
海外進出では、現地拠点の設立や人材確保、各種手続きなどに多くのリソースが必要です。そのため、事業が失敗すると損失が大きくなる可能性があります。このような損失が既存事業に影響を及ぼさないようにするには、事前にリスクを把握し、適切な対策を講じながら進めることが重要です。リスクマネジメントを徹底することで、不要なリソースの投入を抑え、仮に問題が発生した場合でも損害を最小限に食い止めることができます。
環境変化に柔軟に対応するため
リスクを事前に洗い出し、対応策を検討しておくことで、問題が発生しても柔軟に対応できます。また、適切なリスクマネジメント体制を構築することで、外部環境の変化に迅速に対応できるでしょう。こうした柔軟かつ迅速な対応は、事業の継続性と安定性を高めるのに役立ちます。
グローバル市場の5大リスクと対応策

適切なリスクマネジメントを行うためには、どのようなリスクが存在するのか、その原因や影響を把握することが大切です。ここでは、海外進出した企業が直面しやすいグローバル市場の5大リスクの原因や影響、対策について解説します。
為替リスク:為替変動による悪影響
為替リスクとは、通貨の価値が変動することで生じるリスクのことです。円安や円高などの為替変動は、海外で事業を展開する企業にとって重大なリスクの一つです。
原因
為替リスクの主な原因は、為替レートの変動です。為替レートは、各国の政治情勢や経済指標、国際市場の動きなどに連動して変化します。
影響
為替変動は、円換算での売上減少や仕入れコストの増加など、事業の採算性に影響します。円高の場合は利益が圧迫されやすくなる一方、円安の場合は輸出企業の収益が増加する傾向があります。このように、為替変動は企業に対して双方向の影響をもたらすのが特徴です。
具体例
為替変動による影響の具体例は次のとおりです。
- 円高の例:売上・収益の圧迫
円高になると、進出先の現地通貨の円に対する価値が相対的に低下するため、円換算の売上や営業利益が減少します。
- 円安の例:調達コストの増加
円安になると、日本円の価値が相対的に低下するため、日本から海外の原材料や資材を買い付けている場合は調達コストが増加します。
対応策:円建て決済や為替ヘッジの活用
為替リスクの主な対策は次のとおりです。
- 円建て決済:日本円で取引を行う方法
- 為替ヘッジの活用:為替予約取引を用いて為替リスクを抑制する手法
- 複数通貨での取引:特定通貨の変動リスクを緩和する手法
こうした対策を講じることで、為替リスクを最小限に抑えることができます。
規制リスク:法律・制度の壁
規制リスクとは、海外進出において事業の参入や運営を制約する法律や制度上の障壁のことです。
原因
規制リスクは、国や地域ごとに法律や制度が異なることで生じます。例えば、税制や輸出入規制、外資規制などです。政治情勢や政権交代、自国産業の保護などを目的に急に変更されることもあります。
海外法規制の詳細については、「海外法規制の全体像を把握しよう」の記事をご参照ください。
影響
各国の法律や制度に適応できない場合は、事業の停止や罰金、許認可の取り消しなどのリスクがあります。また、制度変更による手続きやコストの増加は、収益性の低下を招く恐れもあります。
具体例
規制リスクの具体例として、インドネシアの輸入規制を紹介します。
インドネシアでは、古着といった中古品の輸入が原則として禁止されています。また、アルコールや塩、牛肉など一部の食品にも輸入制限が設けられています。そのため、これらの商材を扱う事業をインドネシアで展開するのは非常に困難です。
対応策:法規制調査の実施
規制リスクに対する有効な対策は、進出前に「法規制調査」を行うことです。専門家と連携して調査を進め、法規制の変更にも迅速に対応できる体制を構築することが重要です。
文化リスク:消費行動や商習慣の違い
文化リスクとは、各国の消費行動や商習慣、価値観の違いによって生じるリスクのことです。日本と同じビジネスモデルやサービスが通用しない場合や、文化を軽視したプロモーションは売上やブランドイメージに悪影響を与える場合があります。
原因
文化リスクの主な原因は、国や地域ごとの価値観や宗教、嗜好、商習慣などの違いです。これらの違いを把握していないと、現地の消費者や取引先のニーズを正確に理解できず、誤った戦略や施策を実行してしまう可能性があります。
代表的な文化リスクについては、「海外進出で直面する“文化・商習慣リスク”とは?」の記事をご参照ください。
影響
進出先の文化を軽視した事業を展開すると、消費者に商品が受け入れられないばかりか、顧客離れやブランド価値の低下につながります。場合によっては、事業の継続が難しくなる可能性もあります。
具体例
文化リスクの影響を受けやすい食品分野での具体例を紹介します。
日本ではありふれた食材でも、海外では入手が困難な場合があります。また、現地の消費者の嗜好が日本人とは異なるため、味付けやメニューを調整する必要が生じます。さらに、宗教や信仰による食文化の違いも大きな要因です。例えば、イスラム圏ではハラール認証が求められる食品が多く、ヒンドゥー教圏では牛肉が忌避されるなど、宗教的な制約を考慮しなければなりません。 このように、食品分野での海外進出では、食材や味付けだけでなく、宗教的背景も含めた食文化の理解が不可欠であり、商品やメニューの見直しを余儀なくされるケースが少なくありません。
対応策:海外消費者調査で実態を把握
文化リスクへの対応には、進出前に「海外消費者調査」を行うことが有効です。調査で現地の価値観や嗜好、行動パターンを把握し、現地の生活習慣や商習慣を正確に理解することで、文化的な摩擦を未然に防げます。
人材リスク:採用・育成・定着の難しさ
人材リスクとは、海外拠点で必要な人材の確保・育成・定着が難しい場合に発生するリスクです。適当な人材が不足すると、事業の運営に支障が出る可能性があります。
原因
人材リスクの主な原因は以下のとおりです。
- 現地の雇用慣行や労働条件の理解不足
- 言葉の壁による意思疎通不全
- 人材獲得競争の激化
これらの原因が重なると、優秀な人材を確保するのが難しくなります。
影響
人材リスクが顕在化すると、計画通りに事業を進められなくなります。また、人材の確保や育成にかかるコストが増大する可能性もあります。さらに、従業員の離職によって知識やノウハウが失われることも問題です。
具体例
人材リスクによって事業運営に支障が生じる具体例は以下のとおりです。
- 必要なスキルを持つ人材を確保できない
- 言語や文化の違いによりコミュニケーションが不足し、業務効率が低下する
- 人材獲得コストが増大し、事業計画の見直しを迫られる
対応策:現地パートナーとの連携強化
人材リスクへの対策としては、現地事情に詳しいパートナー企業との連携が有効です。現地の採用戦略に詳しい人の協力を得ることで、改善できる可能性が高くなります。また、パートナー企業の選定には、「海外提携先の開拓・選定支援」サービスの活用をご検討ください。
サプライチェーンリスク:調達・物流を脅かす外部要因
サプライチェーンとは、原材料の調達から製品が消費者の手に届くまでの一連の流れを指します。サプライチェーンリスクとは、その過程で発生した問題で生じるリスクのことです。原料の供給の遅延や、関連企業のシステムがマルウェアに感染し、それがサプライチェーン全体に波及するケースなどです。
原因
原材料の供給が遅れるといった物理的リスクの原因には、自然災害や関連工場の閉鎖、原材料の不足などが挙げられます。また、マルウェアの感染といったセキュリティリスクの原因には、関連企業の対策不足が挙げられます。
影響
サプライチェーンリスクによる影響は、製品供給の遅延、コストの増加、ブランドイメージの低下などです。特に納期の遅延は、企業の信頼性を損なう恐れがあるため重大なリスクの一つと言えます。
具体例
サプライチェーンリスクの具体例は以下のとおりです。
- 災害で原材料の調達が滞り、生産スケジュールが遅延する
- 輸送ルートの停止により納品が遅れる
- 関連企業のパソコンにマルウェアが感染し、そこからサプライチェーンのシステムにマルウェアが侵入する
対応策:関連企業のリスク評価の実施
サプライチェーンリスクへの有効な対策は、調達から製造、流通に至るすべての工程において、関連企業のリスク評価を定期的に行うことです。各企業の調達体制やセキュリティ対策を点検することで、問題を未然に把握し、リスクを最小限に抑えられます。
さらに、必要に応じてサプライチェーンの再構築やパートナー企業の見直しも重要です。信頼できる取引先を確保するためには、「海外提携先の開拓・選定支援」サービスの活用をご検討ください。
リスクマネジメントで海外進出を成功させよう
グローバル市場には、為替・規制・文化・人材・サプライチェーンの5大リスクが存在します。これらを事前に把握し、適切に対応することが海外進出を成功させるカギです。 プルーヴでは、海外の法規制調査や消費者調査、現地パートナーの開拓支援など、幅広いサービスを提供しています。海外事業におけるリスクマネジメントを強化したい企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。