サウジアラビアという国にどんな印象をお持ちでしょうか?
サウジアラビアは「世界一入国が難しい国」といわれているため、入国した経験がある日本のビジネスパーソンは多くありません。また、中東地域で日系企業がビジネスをする国というと、アラブ首長国連邦(UAE)のイメージが強いということもあり、現時点では日系企業にとっては海外進出の選択肢として挙げられることは少ないかもしれません。
それでもサウジアラビアの名目GDPは6,396億ドルであり、UAEの3,490億ドルを大きく引き離しており(※2017年時点)、経済規模だけをみれば決して無視することができない大国です。
またムハンマド・ビン・サルマーン新皇太子による政策により徐々に開かれつつ国へと変わろうとしています。
今回は、そんなサウジアラビアを視察し経験した事をお伝えしたいと思います。
ビザ取得の際の注意点
サウジアラビアをビジネス目的で訪れる際、ビザの取得で気をつけなければいけないことがあります。それは、日本側から申請するのではなく、まずサウジアラビアにいるビジネスパートナーを見つけ、そのパートナーにサウジアラビア側に申請してもらわなければいけないということです。これには多くの書類のやり取りが発生し、限られた中で書類を作成し、申請するのにはなかなか苦労しました。特にサウジアラビアにコネクションがなく、0から進出を考えている企業にとって、はじめの一歩といえる市場視察が簡単にはできない点は大きな障壁となっていると感じました。
サウジアラビアでの日本人の存在感
このような状況なので、サウジアラビアを訪れている日本人はまだそれほど多くありません。そのため、今回の訪問では現地の方に日本人だとお伝えすると、かなり多くの方に写真を求められました。ムスリムの女性は写真に写ることがNGの場合もあるため、私のみの1ショットを撮られることも多くありました。
それほど日本人の存在は珍しいものであり、現地の人々はアジア人を見るとまず「韓国の方ですか?」と聞き、次に「それでは、中国の方ですか?」と聞きます。これは、エンジニアリングや土地開発のプロジェクトにサムスンが関与している影響や、LG電子といった家電メーカーの存在感があるものと感じました。
【参考記事】
サムスン副会長、サウジ皇太子訪韓控えサムスン物産へ 「中東との協力強化」(中央日報)https://japanese.joins.com/article/817/254817.html
サウジアラビアの商習慣
サウジアラビアはイスラム教を国教としています。
イスラムの習慣はサウジアラビアでの生活に密接に関わっており、それはビジネスの場でも同じです。
例えば、ムスリムは一日5回の礼拝を行いますが、その度にお店を閉めたりビジネスを中断したりします。また、5月から6月にかけてラマダーンと呼ばれる断食の期間があり、食事ができるのは日が沈んだ後です。その期間は日中に仕事や外出などを落ち着いて進めることはできません(ラマダーンの期間中も、日中に5回の礼拝を行なっています)。
このように、ムスリムはイスラム教の教義に合わせて生活することにより、生活リズムが不規則になってしまう人も多くいます。それに加えて、サウジアラビアも食の欧米化が進み、ファストフードの消費が増えています。これらが原因でサウジアラビアでは肥満や糖尿病の患者が増えており、大きな社会問題となっているほどです。
これらのことから、日本人がムスリムの商習慣にフィットさせていくのはなかなか難しいと言わざるを得ません。実際、今回の視察で日本人の仕事のスタイルとムスリムのそれとの相性は、あまりよくないなと感じました。
開かれつつある大国
ここまでの話から、サウジアラビアに進出するのは大変そう、進出してもうまくいかないのでは……という懸念を持たれた方もいるかもしれません。確かに、サウジアラビアでビジネスを行うのは簡単ではありません。しかし、近年サウジアラビアでは以下のような変化が起こっており、ビジネスチャンスと呼べるものの可能性が増えてきています。
一つは、観光ビザの発給です。驚くべきことに、サウジアラビアには最近まで観光ビザがありませんでした。しかし、2018年頃から観光ビザを発給する動きが見られるようになりました。これには、ムハンマド・ビン・サルマーン新皇太子による政策が背景にあるといわれています。新皇太子が掲げる経済改革計画「ビジョン2030」は、石油依存型の経済から脱却して経済の多角化を目指すものであり、その手段の一つが、観光部門を拡大して国内外からの観光客を増やすことなのです。
今後は、国が支援するスポーツイベントを観戦するなどの目的があれば、ビザの発給が行われるそうです。事実、サウジアラビアのスポーツ庁は2018年9月よりオンラインのビザ発行システム「Sharek(シャレーク)」の運用を開始しました。
また、サウジアラビアの名目GDPは6,396億ドルであり、UAEの3,490億ドルを大きく引き離しています(ともに2017年のデータ)。さらに、サウジアラビアは近年政府主導でのスタートアップ支援に注力しており、今後はイスラエルに次いでスタートアップの第二の聖地として、注目度が高まっていく可能性があります。このような背景から、今後サウジアラビアでは石油関連のビジネスだけでなく、観光やスタートアップ関連の事業のチャンスがあるのでは、と感じました。
参考:イスラエルと聞いて何をイメージしますか?「妄想」が作る海外進出の機会ロス
宗教やそれに基づく商習慣を理解した上でサウジアラビアに進出すれば、ビジネスの可能性は十分にあると考えられます。プルーヴは、サウジアラビアはもちろんのこと、中東全般の国への進出や事前調査、ビジネスの策定に協力します。興味のある方は、ぜひご相談ください。
【参考記事】
サウジアラビアの肥満、糖尿病患者の増加(現代のサウジアラビアにおける社会問題)
(東京学芸大学国際教育センター)
http://crie.u-gakugei.ac.jp/report/pdf33/33_36.pdf
スポーツ庁、国外からの観戦者のために特別のビザ発給(JETRO)https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/09/5f1820f99c635c0e.html
サウジアラビア、UEAの名目GDP(三井住友銀行)https://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport040.pdf
サウジアラビアのスタートアップ支援状況(JETRO)https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/46faac1828550c31/20180053.pdf