2022年2月24日に始まった、ロシアによるウクライナ軍事侵攻から1年以上が経過しました。しかし、いまだに終結に至らず、世界経済にも大きな影響を与えています。
本コラムでは最新のウクライナ情勢と世界経済の変化について解説します。
ウクライナの最新情勢は?
ウクライナではロシアによる侵攻が始まった2022年2月24日以降、情勢が目まぐるしく変化しています。そのため、今後のウクライナがどのような道を辿るのかを予想してビジネスに生かすためにも、最新情勢は注目すべき内容です。
この章では、ウクライナの最新情勢3選を紹介します。
ニュース①:ウクライナ軍による反転攻勢
ウクライナの最新情勢で注目されているのは、ウクライナ軍の反転攻勢です。
2023年の年初から、西欧諸国による戦車などの武器供与が計画され、ドイツ・イギリスなどが実際に戦車を提供しています。これらの武器供与を受けて、大規模な反転攻勢が始まると予想されていましたが、2023年6月10日に、ついにゼレンスキー大統領が反転攻勢を認めています。
反転攻勢に関する主な流れは以下のとおりです。
■ウクライナ軍の反転攻勢に関する主な流れ
- 2023年1月 アメリカやドイツによる戦車の提供が計画
- 2023年3月 ドイツ・イギリスの戦車をウクライナに提供
- 2023年5月29日 ゼレンスキー大統領が「タイミングは決まった」と発表
- 2023年6月6日 兵士が「シー」を繰り返し、反転攻勢を示唆する動画を公開
- 2023年6月8日 バフムトの反転攻勢で1km以上の前進に成功
- 2023年6月10日 ゼレンスキー大統領が反転攻勢を認める
2023年6月19日では、ウクライナ軍が8集落を奪還するなどの成果をあげています。しかし、まだ多くのエリアが占拠されている状態で、すべての地域の奪還には、長期間がかかる見通しです。
ニュース②:ワグネル・プリゴジン氏の反乱・武装蜂起
ウクライナ情勢の直近の大きな動きは、民間軍事会社ワグネルの反乱・武装蜂起があげられます。
民間軍事会社ワグネルはプリゴジン氏が2014年に創設した戦闘集団です。ウクライナでは、バフムト侵攻の中心的な役割を果たしたことで知られています。
しかし、プリゴジン氏がSNSなどでロシア軍上層部を批判するなど、ワグネルとロシア軍の確執が2023年5月ごろより注目されるようになりました。さらに関係が悪化したことで、ついには2023年6月24日のロシアへの反乱につながります。
ワグネルの反乱・武装蜂起に関する主な出来事は以下のとおりです。
■ワグネルの反乱・武装蜂起の流れ
- 2023年5月10日 プリゴジン氏が10%の弾薬しか届かないとロシア軍上層部を非難
- 2023年5月25日 ワグネルがバフムトから徹底を開始
- 2023年6月24日 ワグネルがロシアに向けて進軍開始
- 2023年6月25日 ワグネルの動きを受けて、モスクワで「外出禁止令」を発令
- 2023年6月25日 ベラルーシ大統領の仲介によりワグネルの進軍が停止
- 2023年6月26日 プリゴジン氏が反乱の意図などについて肉声の声明で発表
結果としてワグネルの反乱は1日で中止となり、ウクライナ軍の発表によると「前線への影響はなかった」とされています。
この問題についてはプリゴジン氏の処遇など、ロシアの今後の動向が注目されています。
ニュース③:ウクライナ産農産物の輸出停止の懸念
ウクライナは欧州の大穀倉地帯とも呼ばれるほど、トウモロコシや小麦の輸出国として知られています。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まると、ウクライナ港湾業務が停止してしまい、輸出ができない状態になりました。その後は、輸出合意により再開したり、ロシアによる合意の履行停止などにより輸出できなかったりを繰り返しています。
直近では、2023年4月9にロシアが穀物輸出合意の離脱の可能性を言及するなど、穀物の流通に大きな影を落としています。
■ウクライナ産農産物の輸出に関する流れ
- 2022年2月24日 ウクライナ港湾業務停止
- 2022年7月23日 穀物輸出合意の翌日に商業港をロシアがミサイル攻撃
- 2022年10月31日 ロシアがウクライナ穀物の輸出合意の履行を停止
- 2022年11月2日 ロシアが「穀物輸出合意の履行を再開」を発表
- 2023年4月8日 ロシアが輸出合意を離脱する可能性を警告
- 2023年6月16日 ロシア外相が輸出合意の離脱を示唆
今後も、ウクライナ穀物の輸出が止まるリスクは常にあるといえるでしょう。
ウクライナ問題から世界経済はどのように変化したのか
ウクライナ問題が世界経済に与えた主な変化は以下の3つです。
それぞれの変化について詳しく解説します。
変化①:一次産業の高騰によるインフレ加速
ウクライナは世界有数の穀物地帯で、小麦やトウモロコシなどを主に輸出していました。しかしロシアの侵攻によって、輸出が止まってしまうなどの影響があったため、供給不足により一時産業の高騰を招いています。
その証拠に、侵攻直後のトウモロコシの先物価格は以下のとおりです。
引用:経済産業省「第1節 ロシアのウクライナ侵略による世界経済への影響」
多くの国で主食として食べられている小麦やトウモロコシが高騰したことで、インフレの加速が問題となっています。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、2022年の世界のインフレ率は7.4%で、当初予想していた3.8%から大幅に上昇しました。
その結果、所得の価値が下がり需要が圧迫されているのが現状です。
また、2023年の世界のインフレ率は4.8%と予想されており、今後もインフレが進む見込みです。
参考:日本貿易振興機構「世界の2022年インフレ率は7.4%、供給混乱は2023年も、IMF経済見通し」
変化②:周辺諸国の混乱と難民流入
ウクライナの侵攻は周辺諸国に貿易やサプライチェーン、送金などの混乱を発生させています。ウクライナ侵攻により地政学的な緊張・リスクからサプライチェーンや貿易を見直す動きが広がったためです。
例えば、ドイツはエネルギーの多くをロシアに頼ってきましたが、ロシアから輸入していたエネルギーを世界市場から入手するように変更しています。
さらに周辺諸国には、難民の流入といった問題もあります。
国際UNHCR協会によると、ロシアによる侵攻以降、ウクライナからヨーロッパへ避難した難民の数は810万人を超えて、国境を越えた人の数は2,000万人以上です。これほど多くの難民を受け入れているため、周辺諸国には大きな負担がかかっています。
参考:国際UNHCR協会「ウクライナ」
変化③:企業景況感の低下による新興国からの資金流出
ウクライナ問題による変化は、新興国からの資金流出です。
インフレの加速や原油高、サプライチェーンの見直しなど様々な要因によって、新興国の企業景況感が低下したためです。加えて、アメリカの政策金利の上昇が、新興国からの資金流出を促している1つの要因となっています。
一方日本では、2023年6月に日経平均株価がバブル後最高値を更新するなど、市場に資金が流入している状態です。このようにリスクの高い新興国から、リスクの低い先進国へ資金が流れる動きがみられています。
まとめ
本コラムは、ウクライナの最新情報と世界の影響や変化についてお届けしました。しかし今後もウクライナ情勢により、世界経済は大きく変化してくことが予想されます。
日本もその影響は避けられません。世界経済の時流に乗ったビジネスを展開するために、今後のウクライナに関する動向や行方を注視しましょう。