世界700兆円の新産業。食のDXフードテックトレンドと先端ベンチャー企業の取り組みをご紹介

金融とITが融合したFinTech(フィンテック)と呼ばれ新たなビジネスを生み出したように、フードテックとは、食とITが融合することで従来の枠を超えたサービスを提供することです。

新型コロナウイルスの感染拡大で需要が急上昇したUberEatsやロボットが調理する姿は日本人にとって分かりやすいフードテックでしょう。

IoTやAIを活用し、食に関わるプロセスは変革しています。フードテックは農業、サプライチェーン、配達に変革を起し、フードロスの削減などといった社会問題の解決にも貢献しています。

しかし、『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』を読んでみると日本のフードテックはまだまだ遅れている印象を受けます。

ここでは、市場規模は世界で700兆円に上ると言われているフードテックの動向と、海外最先端のフードテックのサービス、日本で注目されているフードテックのビジネスをご紹介します。

foodtech投資額

フードテックとは

フードテックが注目される背景

フードテック関連のカンファレンスが、アメリカやヨーロッパで盛んに開催され始めたのは2015年頃からで、食料問題などの社会的課題を解決できるビジネスモデルとして注目されています。

2050年には世界の総人口は現在の78億人より3割弱増えて、98億人に達する見込みです。

食糧需要は1.7倍となり、これを放置すれば食糧危機に陥るおそれがあります。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、農業生産から消費に至る過程において食料の約1/3が捨てられており、その量は1年あたり約13億トンに上ります。

日本における食品ロスはどのくらいあるのでしょうか。

農林水産省及び環境省「平成27年度推計」によると、日本では年間2842万トンの食品廃棄物があります。このうちまだ食べられるのに捨てられる食品ロスは年間646万トンに達します。

こうしたなか、サイエンスやICTをはじめとしたテクノロジーを活用した食の問題の解決や、食の可能性を広げる「フードテック」の概念が現れました。

  • 食品ロス削減
  • 植物由来の代替肉、細胞培養技術による培養肉を作り食糧危機を回避する
  • 調理に科学的な手法を取り入れ、家電やネットサービスなどとつなげることで食生活を豊かにする(例えば、スマホとコーヒーマシンを連動させて予約できるなど)

社会的な問題を解決するだけでなく、私たちの生活はフードテックによってよりカスタマイズされた豊かな食生活が実現できるのです。

フードテックとSDGs

国連のSDGs(持続可能な開発目標)において、2030年までに世界全体の一人あたりの食料廃棄を半減させ、収穫後損失などの食品ロスを減少させるとの目標を掲げています。

日本政府も「SDGsアクションプラン2018」において、家庭の食品ロス削減の取り組みの普及啓発、食品産業に対するフードバンク活動の推進、サプライチェーンの商習慣の見直しなどの取り組みを始めています。

このようなSDGsの目標達成に向けて、フードテックは注目されています。

フードテックが注目されたもう一つの背景

食品ロス以外にフードテックが注目された背景として「将来のタンパク源不足」があります。

2050年には地球100億人時代が到来し、より生活に質を求める中産層が増えると肉の消費が増えて、現在の家畜の生産量が追い付かずに、タンパク源が不足します。

食肉ビジネスは牛の放牧などで資源を無駄にし、森林破壊や温暖化の一因になっているとも言われており、環境問題になっていました。

しかし、代替肉であれば環境にも配慮しながら食肉の生産量を減らせる効果があるのです。

特に投資家が関心を持っているのがフードテックを活用した人工肉です。ここではビヨンド・ミートを紹介します。

ビヨンド・ミート

https://toyokeizai.net/articles/-/311931

日本でも大豆を使ったハンバーグなどが市販されていますが、ビヨンド・ミートの人工肉がフードテックと言われる所以は、食材の質感や調理法をITで解析し、味や香りを損なわずに調理する「分子調理法」に着目している点です。

ビヨンド・ミートは水、小麦、自然由来の油を用い、肉特有の風味を出す「ヘム」という成分を生み出すことに成功しました。植物の材料だけで、食感も味も本物さながらのハンバーガーを作り出しているのです。植物由来の代替肉は低価格です。また、ヴィーガン、ヴェジタリアンでも肉の食感を楽しめるといった利点があります。

ビヨンド・ミートは2019年米ナスダック市場に上場し、IPO株価は2倍以上に高騰しました。人工肉専門の製造業者としては初の上場企業です。

外食はフードテックでどう変わるか

UberEats以外で、日本の外食はフードテックでどのように変わっていくのでしょうか。

フードロスの改善だけでなく、飲食業界の人材不足の観点から、自販機、フードロボット、クラウドキッチンの海外と日本の事例をご紹介します。

自販機

日本ではまだ見ることがありませんが、自動販売機で新鮮なサラダが食べられる自販機がアメリカを中心に台頭しています。

自販機

CHOWBOTICS(チョウボティクス)によるサラダの自販機は、20種類以上の専用容器中の食材やドレッシングを組み合わせ、1000種類以上のサラダを提供します。このような自販機の活用はレストラン側にとって人材の不足の解決につながっています。

米国ではレストラン数が増え続けている中、労働力供給の減少によりスタッフ雇用に悩んでいるレストランは年々増加しています。

スタッフを維持するために苦戦する中、このサラダの自販機Sallyは非常に画期的です。

自動で販売、及び調理作業を行うだけでなく、今までになかった多種類でヘルシーで新鮮なサラダが24時間提供できるのです。

特にロボットニーズが受け入れられやすいカフェテリア、病院、学校などで重宝されているようです。

今後健康志向が高まる時代に入るとますます需要は高まるでしょう。

フードロボット

フードロボットは日本でも少しずつ導入が進んでいます。特に新型コロナウイルスの感染での影響でますます拡がっていくのではないでしょうか。

foodロボット

https://www.excite.co.jp/news/article/Getnavi_347282/

例えば下記のような点でニーズが高まっていくと見込まれています。

  • 飲食業の従業員同士の接触を減らす
  • 衛生面における安全性を確保する
  • 経営難のレストランの経費削減

クラウドキッチン

UberEatsというデリバリーサービスが浸透している影響から「クラウドキッチン」というサービスも注目されているフードテックの一つです。

新型コロナウイルスの影響で最も影響を受けており倒産件数が最多なのが飲食業関連です。

事業を続けていく飲食業オーナーの負担を少しでも軽減するよう、クラウドキッチンの活用が期待されています。

クラウドキッチン
クラウドキッチンコンセプト

https://kitchenbase.jp/

飲食業経営者にとって毎月の家賃、開業のコスト、運営コストは大きな出費です。

しかし、クラウドキッチンの場合、飲食店は新たに店舗を設置する必要がなく、料理を作るだけで経営が成立するような仕組みです。

販促のサポートも知見を持った専門スタッフによるサポートもあり、メニューの考案や料理だけに集中できるメリットが魅力です。

「Kitchen BASE」を利用すると月額制の料金で、初期段階では必要な開業コストを95%も抑えられるとされています。

複数のクラウドキッチン(ゴーストレストラン)が入居するシェアキッチンです。

日中は即席デリバリー向けの店舗、夜中から早朝はお弁当向けの店舗の運営者が活用しています。

独立した4つの厨房設備があり、提携するお店を日夜で二回転させる仕組みです。

AIとの融合

フードテックを語る上でAIとの融合も欠かせません。AIとの融合によって私達はより「カスタマイズ」されたサービスを受けることができるようになります。最先端の技術過ぎてまだまだ現実感がないかもしれませんが、最先端の技術を使った興味深いサービスを2つご紹介いたします。

ソニーの目指すAI x Robotics x Cookingサービス

クッキングという世界にAI x Roboticsが応用されるとどのような可能性があるかの思考実験としてのコンセプトムービーが作られました。「ロボットで人手不足を補うというのもあるが、ソニーは食のサイエンスを追究していきたい」と執行役員の北野氏は述べています。

寿司シンギュラリティ

寿司シンギュラリティ
オープンミール

上記の画像は「スシ・シンギュラリティ」と呼ばれるプロジェクトです。

3Dプリンターと食材の特徴を管理するフード・オペレーション・システム(FOS)を活用した今までになかった寿司の世界を、このプロジェクトでは体験できます。3Dプリンターを使うと寿司だけでなく食材の形状をこのように自由にカスタマイズできるようになります。今までの食の概念自体を変えてしまうかもしれません。

バスクカリナリーセンター

バスクカリナリーセンター

美食の街スペインのサン・セバスチャンにある食のアカデミア「バスク・カリナリー・センター」はフードテックの最先端に向かって独走していることから世界中から注目されています。もともとグルメの街として有名な場所ですが、このセンターは、スペイン政府などの協力を受け、業界に革命を起こしています。

「デジタルガストロノミー」を成功へ導くためにどうしたらいいのかの議論を重ね、「環境・自然」「健康・ダイエット」「人的要因・労働」「文化・社会」「科学・テクノロジー」「マーケット・バリューチェンジ」の6つのカテゴリーにおいて、10カ条の誓いを立てています。

このセンターが全体を通して力を入れているテーマは2つあります。

フードロスの減少

果物の皮や種など普通は捨ててしまう部分の再利用方法を研究しています。

「アーティチョークの葉を使ったコンブチャ」や、「海老の殻を使った塩」といったレシピを開発。

実習で魚を使った後に残る骨や頭の部分を、麹菌を使って、タンパク質を変質させ、魚醤のようなものを作ることに成功しました。

健康的な食生活を送れるようにすること

ドングリを食べて育った豚の生ハムの風味を、豚肉で味合うのではなくドングリのうまみ成分を抽出することで楽しめる代替肉を研究している。

 LABe

このセンターが運営するLABeと呼ばれる「デジタルガストロノミー・ラボ」は、2023年までに、ガストロノミー界に付加価値を与えるようなテックベースの製品、サービス、ビシネスモデルの国際的な基準になることを目標として設立されました。

オフィスとしての機能だけでなく、「研究所」や「交流」の場としての役割も果たしています。

利用者の中心はサン・セバスチャン内外に拠点を置く27のスタートアップ企業で、参画企業のビジネスの分野は、IoTや室内農業、スマートレストラン、3Dフードプリンターなどと幅広くお互いの交流の場としてビジネスのシナジーも期待されています。

フードテックベンチャー

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00335/00010/

ARTHYLEN

ARTHYLENは、ディープラーニング技術と拡張現実を組み合わせたもので、スーパーマーケット、食料品店、または倉庫のセクションに展示されている新鮮な製品を認識できるようにします。ユーザーは表示されている製品に関する詳細情報をリアルタイムで取得します。

ARTHYLEN
  1. ユーザーは自分のデバイスを使用して、店の棚から製品または生鮮食品の範囲の画像を取得します。
  2. 画像はテクスチャ(肌)による画像認識技術により処理され、製品のデータベース間で2Dでの識別が可能になります。
  3. 管理状況を分類する要素を特定するために、キャプチャされた画像を、さまざまな可能な状況でのその製品の画像のレパートリーと比較します。
  4. その比較と、撮影した画像で識別された製品の機能(ダメージ、肌の色、熟れ過ぎ、腐りやすさなど)に応じて、ユーザーに特定の推奨事項を提案します。キャプチャされた画像に提案をリアルタイムで投影し、製品の特性によって製品を識別します。

取得した情報はデータベースに組み込まれ、その後、部門別、店舗別の商品の状況を知ることができます。これには、店舗の管理とショッピング部門に役立つアプリケーションがあります。

Leanpath

Leanpath

Leanpathは、食品廃棄物の防止と測定を行うことを使命とした企業です。自動食品廃棄物追跡技術を発明し、データ収集ツール、クラウドベースの分析、専門家による指導など、完全な食品廃棄物防止ソリューションを提供しています。

GoogleやIKEAなどの大手企業の導入も著しく、 Leanpathを活用した料理チームは、2014年以来、5,200万ポンドを超える食品の無駄を防ぎました。

食の廃棄

キッチン内の食品廃棄物追跡システムを使用すると、その廃棄物の経済的および環境的影響を簡単かつ即座に確認でき、データは自動的にLeanpath Onlineにアップロードされます。無駄を防ぎ、コストを削減する強力なクラウドベースの分析システムです。

食の廃棄2

日本のフードテックベンチャー

デイブレイク株式会社

デイブレイク株式会社は2013年に設立した、特殊冷凍テクノロジーによって、食品ロス問題の解決を目指している企業です。

食材ロスを冷凍技術で解決することは大きな需要があります。

フローズンフルーツ「Heno Heno」は、ロス食品を使った製品は、低コストで製造販売できます。

「高級フルーツを食べて食品ロスをなくそう」というスローガンも、顧客にとっては付加価値を感じられる魅力的な商品です。

デイブレイクのヘノヘノ

八面六臂株式会社

八面六臂株式会社は2007年、飲食店向けに生鮮食品を中心としたEC事業としてサービスを開始しました。全国各地の産地市場や生産者からの独自仕入れを組み合わせることで、無駄な費用と時間を省いた新鮮な食材を届けているのが特徴です。

八面六臂

価格を自分で決められる、中間流通を通さないので、最終顧客である飲食店のニーズを把握できる、中間流通を通さないので、鮮度が保証されるなどのメリットが生産者側にあるのが特徴です。

八面六臂2

最後に

フードテックによって私たちの食の未来は変革の時代を迎えます。フードテックは日本の農業にも寄与することが注目されています。日本の農家は高齢化が進み、後継者不足もあって耕作放棄地も増えているのが問題となっていますが、フードテックによって農産物の生産性を高めたり、付加価値の高い農産物にシフトしたりするなど、農地の有効利用や雇用拡大も期待できるでしょう。

<参考>
https://www.nec-nexs.com/bizsupli/useful/feature/19.html

https://marketing-rc.com/article/20190412.html

https://www.archetype.co.jp/trend-food/

https://www.bridge-salon.jp/toushi/foodtech/

https://bae.dentsutec.co.jp/articles/foodtech-01/

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00127/00002/

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00127/00002/?SS=imgview&FD=-1041774028

https://www.fullcommit-partners.com/blog/73/

https://www.3dpc.co.jp/blog/personalized-3d-printed-sushi

https://note.com/fromthealley/n/n57d895010afd

https://paradigm-shift.co.jp/column/84/detail

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