半導体産業の概要・日本と世界の現状を企業ランキングから紐解く

半導体はパソコンやスマホ、自動車、デジタルカメラなどの多くの製品に使われています。そのため、現代の豊かな生活は半導体なしに実現できないといえるでしょう。

本記事では半導体の概要や、世界の半導体産業の現状について紹介します。

半導体とは?

半導体とは、導体と絶縁体の両方の性質を持つ物質です。導体は金属のように電気を通しやすい性質のことで、絶縁体はゴムのように電気を通さない性質のことです。

半導体は主にシリコンから製造され、導体・絶縁体の性質が温度の条件などにより変化します。

例えば温度が低いときは絶縁体、高いときは導体といった具合です。この特徴を利用することで、複雑な電流の制御が可能になります。そのため、パソコンやスマホの計算処理をする集積回路には、なくてはならない物質なのです。

半導体の使い道

半導体は目に見えない内部に使われているため、どのような製品に使われているかイメージしにくい方もいるでしょう。そこで、半導体を使用している製品の例をいくつか挙げてみます。

  • スマホ
  • デジタルカメラ
  • パソコン
  • テレビ
  • 自動車
  • エアコン
  • 洗濯機
  • 炊飯器
  • 冷蔵庫
  • LED電球

このように身の回りの多くの家電・製品には、半導体が使われているのです。現代において、半導体はなくてはならない物質であることがわかるでしょう。

半導体の製造工程と関係する会社例

半導体の製造工程は以下の3つのステップがあり、これらの工程のどの部分に関わっているかによって、半導体関連企業の呼び方が変わります。

  • 設計工程
  • 前工程
  • 後工程

この章では、半導体の製造工程の内容と関係する企業例を紹介します。

・設計工程
半導体チップ上にどのような回路を作るのかを設計する工程です。効率的なパターンを検討し、回路に転写するためのフォトマスクと呼ばれる原版を作成します。
設計工程の半導体回路の開発・設計だけを行う企業をファブレス企業と呼びます。ファブレス企業の代表例は、QualcommやBroadcomです。

・前工程
前工程では、シリコンをスライス状にしたウエハーの表面を酸化・薄膜形成し、フォトレジストを塗布します。その処理が終わると、ウエハー表面に設計工程で作成したフォトマスクを使い、回路パターンを焼き付けて必要な回路を作り込んでいきます。さらに電極を形成し、ウエハーの検査をして前工程の完了です。

前工程のみを行う企業をファウンドリーと呼びます。ファウンドリーの代表企業はTSMCです。

・後工程
前工程で作ったウエハーをダイヤモンドブレードでカットし、リードフレームと呼ばれるチップに固定します。そのチップを保護するために樹脂でパッケージをして、最終検査をするのが後工程です。
後工程のみを行う企業をOSATと呼びます。OSATの代表企業は、ASEやAmkorです。

すべての工程を一貫して行う半導体メーカーはIDM

設計工程・前工程・後工程を自社ですべて一貫して行う半導体メーカーをIDMと呼びます。IDMの代表企業は、SamsungとIntelです。

垂直統合型・水平分業型

半導体製造工程の各企業の役割分担を図に表すと以下のとおりです。

IDMの製造方法は垂直統合型と呼び、ファブレス・ファウンドリー・OSATなどの工程ごとに役割分担する方法は水平分業型と呼びます。

世界の半導体産業の推移と日本の凋落

経済産業省がまとめた半導体産業の推移と、日本の世界におけるシェア率を示したグラフは以下のとおりです。

出典:経済産業省「半導体戦略(骨子)

日本は半導体産業において1988年にシェア率50%を超え、「半導体王国」と呼ばれていました。1992年の売上ランキングでは、上位10社のうち国内企業が6社もランクインしていたほどです。

しかし1990年代以降、徐々にその地位が低下し、2019年には10.0%にまでシェア率が低迷します。2019年の売上ランキングに食い込んだのは、キオクシアの1社のみとなっています。

このように日本の半導体産業が凋落した大きな要因は、国内の半導体工場の多くが老朽化し最先端の半導体を作れなくなったためです。

半導体チップに組み込まれる電子回路の幅を線幅と呼び、半導体の性能は線幅が狭くなるほど高くなります。半導体は性能別にハイエンド・ミドルエンド・ローエンドと区別され、それぞれの線幅は以下のとおりです。

ハイエンド:5~16nm
ミドルエンド:20~40nm
ローエンド:55~90nm

※nm(ナノメートル)は10億分の1メートルで、すなわち100万分の1ミリのこと

日本の生産能力はローエンドが多数を占めており、最も優れている工場でも40nmです。

加えて米中技術覇権対立を背景に、アメリカの国内製造回帰の動きが活発化しています。そのため、日本の製造装置・素材産業がアメリカに移転する恐れもあります。

このように世界の半導体競争が激化するなか、国内の半導体産業はジリ貧になる可能性が指摘されているのです。

2022年世界半導体企業トップ10

Omdiaの調査によると、2022年の世界半導体市場の上位10社は以下のとおりです。

順位企業名収益
1位Samsung Electronics(サムスン電子)韓国670億ドル
2位Intel(インテル)アメリカ608億ドル
3位Qualcomm(クアルコム)アメリカ367億ドル
4位SK Hynix(SKハイニックス)韓国341億ドル
5位Broadcom(ブロードコム)アメリカ269億ドル
6位Micron Technology(マイクロン・テクノロジ)アメリカ268億ドル
7位AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)アメリカ237億ドル
8位NVIDIA(エヌビディア)アメリカ210億ドル
9位Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)アメリカ188億ドル
10位MediaTek(メディアテック)台湾185億ドル

参考:Omdia「2022, a record year for semiconductors that feels anything but

※ランキングには、TSMCに代表されるファウンドリーは含まれていません。

このように、韓国・アメリカ・台湾の企業が上位にランクインし、日本企業はトップ10に入れませんでした。

製造工程別企業ランキング

世界の半導体企業がどのように活躍しているか、製造工程別のシェア率ランキングでさらに掘り下げていきます。

・ファブレス

順位企業名シェア率
1位Qualcomm(クアルコム)アメリカ17.3%
2位Broadcom(ブロードコム)アメリカ12.4%
3位NVIDIA(エヌビディア)アメリカ12.1%
4位MediaTek(メディアテック)台湾10.3%
5位AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)アメリカ9.5%

参考:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略(改定案)

ファブレスはアメリカ企業がトップ5に4社にランクインしており、アメリカの独占状態です。

・ファウンドリー

順位企業名シェア率
1位TSMC(台湾積体電路製造)台湾50.6%
2位Samsung Electronics(サムスン電子)韓国17.6%
3位UMC Electronics(UMCエレクトロニクス)台湾7.5%
4位GlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ)アメリカ5.9%
5位SMIC(中芯国際集成電路製造有限公司)中国4.9%

参考:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略(改定案)

TSMCが50%以上のシェアを占めているため、ファウンドリーは台湾に集中しています。

・OSAT

順位企業名シェア率
1位ASE(日月光半導体)台湾27.6%
2位Amkor(アムコアテクノロジー)アメリカ15.9%
3位JCET Group中国11.3%
4位TFME(通富微电子股份有限公司)中国7.1%
5位PTI(パワーテック)台湾6.4%

参考:TECH+「2023年の半導体OSAT市場は前年比13%減も2024年は成長局面に、IDC予測

OSATは台湾・中国・アメリカの順にシェアを獲得しています。

メモリ製造企業ランキング

半導体の主要製品はメモリです。最後に、NANDメモリとDRAMメモリのシェア率ランキングを紹介します。

・NANDメモリ

順位企業名シェア率
1位Samsung Electronics(サムスン電子)韓国33.9%
2位KIOXIA(キオクシア)日本18.9%
3位Western Digital(ウエスタンデジタル)アメリカ13.9%
4位SK Hynix(SKハイニックス)韓国13.2%
5位Micron Technology(マイクロン・テクノロジ)アメリカ10.6%

参考:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略(改定案)

NANDメモリは電源がなくても記録を保持できるため、ストレージとして利用されているメモリです。デジタルカメラやスマホ、USBメモリといった記憶媒体に利用されています。

・DRAMメモリ

順位企業名シェア率
1位Samsung Electronics(サムスン電子)韓国42.7%
2位SK Hynix(SKハイニックス)韓国28.6%
3位Micron Technology(マイクロン・テクノロジ)アメリカ22.8%
4位Nanya(南亜)台湾3.2%
5位Winbond(ウィンボンド)台湾1.0%

参考:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略(改定案)

DRAMメモリは電源を切ると記録が消えるメモリです。スマホやパソコンなどのいわゆるメインメモリとして利用されています。

まとめ

世界の半導体市場が拡大するなか、日本の半導体産業は低迷を続けています。その大きな要因はハイエンド・ミドルエンドの生産能力がないことです。そこで日米が連携し、2nmのハイエンドのファウンドリーを目指しています。

今後の半導体業界では、凋落した日本企業が復活できるのか、日本がハイエンドのファウンドリーを作れるのかに注目が集まっています。


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