デジタル時代の競争に打ち勝つためのサプライチェーンのポイントについて解説

現在、さまざまなデジタル技術がイノベーションを生み出している昨今、世界経済は大きな変化を遂げてきました。今まで存在しなかったデジタル技術が経済活動に大きな影響を与え、GAFAが大きな躍進を遂げたアメリカを中心に競争も激化しています。その為に必要になってくる戦略も考えなければいけない時代となりました。

また、昨今ではサプライチェーンの構築も注目されています。そこで、今回はサプライチェーンにおけるデジタル時代の競争に打ち勝つ方法と、戦略をまとめていきたいと思います。

デジタル時代の競争とは

ビッグデータ、IoT、AIなど第4次産業革命によって、GAFAに代表されるデジタルプラットフォームをはじめとする「経済のデジタル化」が進み、経済社会は急激に変化してきました。米国を中心とする巨大デジタルプラットフォーム企業は、イノベーションの世界的な
リーダーとなり、デジタル経済のルールを決め、一人勝ちとなる一方、日本企業は、フォローワーの立場で、そのルールに従わざるを得ない状況となりつつあります。

2019年に発刊された杉本和行著「デジタル時代の競争政策」では、「競争なくして成長なし。」人口構造の少子化・高齢化が進む中で、先進国へのキャッチアップが終了し、新興国からの追い上げをまともに受けることになった日本経済にとって、生産性の向上や経済成長を果たす鍵は、飽和・成熟化した既存の財・サービスへの需要でなく、新たな需要を作り出す、供給サイドの「イノベーション」であるとしています。イノベーションを促すのは、「競争」であるとしており、更に、「競争」は、「イノベーションの促進」だけでなく、「消費者利益の確保」や「所得の不均衡の是正」につながるものであり、そこには、経済社会制度全体への構想があるというのです。

デジタル時代の競争政策とは

国家を超える力を持つとも言われる巨大デジタルプラットフォーム企業が提供する利便性を享受する一方、「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」でも指摘されているように、そうした企業に対する人々の不安感も広がってきています。

こうした問題に対して、対処していかなけれなりませんが、そうした中で、大きな役割を果たしているのが、世界の競争当局、日本で言えば公正取引委員会です。その武器となっているのが競争政策、競争法、日本で言えば独占禁止法です。

公正取引委員会の毅然たる姿勢によって、デジタル経済の恩恵が人々にもたらされるように、イノベーションを妨げる反競争的行為には厳正に対処したいという強い意思とともに、特定のプラットフォームに利用者が集中し、寡占・独占が生じやすいというオンラインプラットフォームの特徴などに触れた上で、競争政策上の対応が必要です。

そのため政府は、「『令和』新時代:『Society 5.0』への挑戦」 として、成長戦略を進めています。その中心となるデジ タル経済に関する政策は、相当部分が公正取引委員会 の競争政策となっています。「データ」については、その価値の高まりに応じて独占禁止法上の対応を整理しています。デジタル分野において、「Amazon」、「Apple」、 「Airbnb」の事例など、積極的に厳正な法執行を行っています。更に、「個人情報」についても、消費者との間の取引における優越的地位の濫用規制として、踏み込むこととしています。

競争政策は、「自由」と「公正」 の価値を実現しようとするものでもあります。デジタル経済は急速に変化していますので、制度的対応は、実現までに時 間を要し、変化の流れに棹をさすおそれもあるのです。このため、デジタル経済において、「自由」と「公正」の 価値を実現するためには、まずは競争政策で対応する必要があるとされています。

なぜサプライチェーンに戦略が必要なのか

サプライチェーン(Supply Chain)とは、原料調達に始まり、製造、在庫管理、物流、販売などを通じて、消費者の手元に届くまでの一連の流れを指します。供給を鎖に見立て、一続きの連続した流れとして捉える考え方です。広域にわたる地震などの災害が起こると、サプライチェーンが寸断され、消費者に商品が届きづらくなり、経済活動に大きな支障が出ます。

このサプライチェーンを管理し、製品の開発や製造、販売を最適化する手法をSCM(Supply Chain Management、サプライチェーンマネジメント)といいます。納期や売り上げ、コストにも大きく関わってくるため、これを重視する企業も増えています。

さまざまな企業から成るサプライチェーンを構築することにより、個社単独では実現が難しい製品・サービスのイノベーションや開発スピードの向上を図り、競争力を高める企業が増加しています。

そのようなサプライチェーン構築の進展に伴い、外部からのサイバー攻撃に対する防御力が比較的低く、弱点となる中小企業を狙った攻撃が増大しています。不正な情報を発信する機能の埋め込みや、偽装品などによる脅威も高まっているのです。

さらに、サプライチェーン構築が進展したこれからの時代は、従来のようにセキュリティを強化するだけではなく、取引企業に対する説明責任を十分に果たさなければ、信頼を得られません。そのためには、セキュリティ基準を明確化した上で、検証結果などの客観的なエビデンスに基づき体系的に説明する取り組み(セキュリティ・アシュアランス)が求められるでしょう。

しかし、産業界はこの変化に対してどの程度の準備ができているのでしょうか?

サプライチェーンのデジタル戦略

サプライチェーンのデジタル準備を一発で改善する方法はありません。技術革新のレベルと影響の大きさを考慮し、リスクをマネジメントするように設計した複眼的なアプローチが必要です。

1:核となるサプライチェーンプロセスを最適化する

サプライチェーンは、計画、調達、製造、物流、返品の5つのコアプロセスで構成されています(業界標準:サプライチェーン活動参照モデル Supply Chain Operations Reference modelより)。現実には、多くの組織が、現在持っているデータをこれらのコアプロセス最適化のために活用できていません。

最適化は通常、企業資源計画 (Enterprise Resource Planning = ERP) システムの形式で存在するデータインフラストラクチャの構築から始まります。もっとも大切なのは、このデータの重要性を認識し、データの完全性 (インテグリティ) を維持するためのガバナンスプロセスを開発することです。

次のステップは、そのデータを持つことが違いを生む可能性のある領域におけるデータ収集の能力を改善することです。そうすれば、高度な分析及び意思決定支援システムを利用して、効率性を改善することができます。これにより、組織が旧来のビジネスを維持するために現在保持しているものを、最大限に活用できるようになります。卓越したオペレーションの基盤を構築し、資金を投じて企業が新しい競争方法に投資できるようにします。

2:サプライチェーンにビジネスプロセス思考(Business process orientation)を取り入れる

2つ目の段階は間違いなく最も困難なものですが、組織が機能ごとの最適化を超えて進むためには最も重要なものです。組織は、サプライチェーンのマネジメントを、新製品開発 (NPD = new product development) や顧客関係管理 (CRM = customer relationship management) と同様なエンドツーエンドのビジネスプロセスの一貫と捉え、重点的に取り組まなければなりません。そのためには、従来の機能に基づく構造、あるいはマトリックス組織の構造に、ビジネスプロセスの視点を取り込むよう組織構造を変更する必要があります。

Business process orientationは、デミング、ポーター、ダベンポートなどの研究に因んだ概念で、企業は「プロセスビュー」を採用することによって全体的なパフォーマンスを向上させることができるとしています。

ウォーリック大学WMG及びJDA による2016年の研究、『サプライチェーンの細分化 (セグメンテーション):欧州製造業にとって千載一遇のチャンス』によると、ビジネスプロセス指向を組織構造に反映しているヨーロッパの組織はわずか17%であるということです。機能ごとのリソースを活用しつつ、組織の壁を打ち破り、機能ごとの目標ではなく、戦略的な目標を中心に据えてビジネスを最適化しようとするなら、ビジネスプロセス指向を取り込むことは非常に重要です。

3:サプライチェーンのデジタルテクノロジー・トライアルリスクの軽減をする

サプライチェーンの個々の側面を改善するために企業が利用できるテクノロジーはたくさんあります。これらのテクノロジーを安全にトライアルできる場所をつくることが重要です。調査を万全に行えば、失敗を減らすことができるかもしれません。しかし、失敗から学ぶための適切なプロセスを備えているのなら、組織は「早く失敗する (fail fast=フェイルファスト)」ことを恐れてはなりません。(「Fail fast,=早く失敗しろ (失敗は成功の母)」はシリコンバレーなどのベンチャー企業でよく用いられている標語。Google を成功に導いた方法論として有名。)デジタルテクノロジーを試しに使ってみる際のリスクを取り除く方法の1つは、トライアルの対象を明確にすることです。

リスクを最小限に抑え、最大限に学ぶためには、現在もっている能力を少しずつ伸ばしていく必要があります。今あるプロセスに新しいテクノロジーを用いてみる、あるいは従来のテクノロジーを新しい方法で利用してみましょう。しかし、両方同時に行うことは避けます。そうすれば、トライアルが成功しても、失敗しても、その理由は明確です。また、現在のテクノロジーに便益をもたらす応用方法が現状では限られている場合、トライアルを行うことは、新しいテクノロジー (例えば、ブロックチェーンや分散型台帳技術など) の学習曲線を上向きにする道を提供することにもなります。そうなると、テクノロジーにとって有益な応用方法が明らかになった暁には、先行者として優位な立場を確保するのに役立つでしょう。

4:新しいビジネスモデルを探索する

私たちは、産業の進化の2つの段階の間の移行点にいます。移行は、価値を創造し、提供する方法を再定義する大きなチャンスです。環境及び社会的コストが消費主導型成長の経済的利益を上回り始めています。責任ある消費主義は、私たちに、より少なく、環境にやさしい製品やサービスを、公正に購入するよう促しています。これは、どうすれば「モノ」をできるだけ長く、可能な限り最高の価値ある状態で保持できるかということを、より広く共有し、検討することを促すビジネスモデルの再定義です。製品の提供から、サービスの提供へのシフトが見られ、サプライチェーンの設計の変更がこれを支えています。

デジタルテクノロジーは、これらの新しいビジネスモデルを実現するための重要な要素です。新しいビジネスモデルは破壊的であり、組織の短期的な成功をよりどころとする従来のビジネスモデルと直接対立するビジネスモデルとなることもしばしばです。小規模な組織にとっては、より俊敏な (agile アジャイルな) 組織構造の利点を活用する絶好の機会となります。従来型の大企業は、実際に実現可能なことを自由に追求できる組織を別個つくり、未来のビジネスモデルを構築することを検討しましょう。

まとめ

私たちは変化(希望的には、よりよくなるための変化)の最前線にいます。その結果、デジタルテクノロジーを賢く利用することで、経済成長と生産性の新しいモデルを支えるためにサプライチェーンが競い合うようになるでしょう。
その競争に打ち勝つためのポイントを抑えていくことで、デジタル時代、ひいてはグローバル経済において、優位な立場を築くことができるでしょう。

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