商習慣とは、商取引に関する習慣のことです。分かりやすく表現をするとビジネス上のやり取りにおいて当たり前に実施されることで、例えば日本独特の商習慣の例としては月末締め翌月末払い、名刺交換、接待、書類の押印など様々なものが挙げられます。
こちらでは日本では当たり前の商習慣をいくつかピックアップをし、アメリカや中国、その他の国によって異なる商習慣に触れながら、海外展開をするならチェックしておきたい日本と海外の商習慣の違いについてご紹介をします。
商習慣とは?
商習慣とは商業上の取引に関する様々な習慣のことで、商取引の過程において形成された慣習を意味します。 日本は島国で海外との商取引の歴史はまだ浅く、独特の商習慣がいまだ多く残っています。例えば次章でご紹介をする「月末締め翌月末払い」や「即決せず一度持ち帰る」など海外にはない日本独特の商習慣で、グローバルな商取引においてなかなか理解されないこともあります。商習慣は主に歴史的背景から形成されたものであり、国によって異なる点がたくさんあるのです。
海外展開をする際は、スムーズに事運びをするのに現地の商習慣を知ることが大切です。
日本で当たり前の商習慣
国内で仕事をしていると日本では当たり前の商習慣ですが、海外では理解されないことも多く非常識に思われたり不作法と受け入れられてしまう可能性は住々にしてあります。
それでは具体的に日本の商習慣にはどういったものがあるのでしょうか。主にビジネスシーンにおいて、代表的な日本の商習慣を以下にご紹介します。
月末締め翌月末払い
日本の商取引では「月末締め翌月末払い」が支払いの基本になっています。取引代金の締め日から支払日までの期間のことを支払いサイトということもあります。これは与信取引といってお互いの信用があった上での取引なのですが、支払いの遅延などがあった場合は受け手側として不利な状況になり兼ねません。
日本でこのような商習慣が当たり前になっているのは、元請けや下請けといった業界構造による主従関係が生まれているからなのかもしれません。
海外では主従関係の意識はあまりなく、ビジネス上は対等で支払いサイトも双方で決められます。
即決せず一度持ち帰る
契約など何か決定事項があるビジネス商談において、その場では即決せず一度社内に持ち帰る、といったような商習慣が日本では多く見受けられます。若手の営業担当者の場合は決裁権がないため上長や会社の確認が必要であったりもしますが、日本のビジネス商談の場においてお断りをする場合でも契約をする場合でも「一度持ち帰って社内で検討する」という考え方が日本では一般的です。
一方で海外では決裁者同士の商談が基本でもあり、一度持ち帰ることを良しとしておらず商談の場で即決するケースが多いです。
新卒を一括採用する
新卒の一括採用とは、卒業予定で就職活動中の学生を一括選考し在学中に内定を出して、卒業後すぐに勤務をするという企業採用における日本独特の商習慣です。終身雇用制度や年功序列、ジョブローテーション、定年退職などの制度と一体となった日本型の雇用システムのひとつです。戦後、各方面で生産拡大に対応すべく人材雇用の確保が企業の課題となり、従来の新卒一括採用を含めた日本型の雇用システムが戦後の経済成長を支えました。
名刺交換
日本でのビジネスシーンにおいて名刺は欠かすことのできないアイテムであり、初対面の人とはまず挨拶やお辞儀をしながら名刺交換をするというのが常識です。名刺の渡し方や受け取り方、並べ方など多くのマナーもあります。また「相手の顔と同じ」という考えが一般的で、受け取った名刺にメモ書きはしないなど名刺を丁重に扱います。初対面の人同士では名刺交換から会話が始まり重要なコミュニケーションツールでもあります。
海外では握手をしたり抱き合ったり初対面でもフレンドリーに接する国もあり、名刺交換をしない形で商談がスタートします。
メールの挨拶・定型文
ビジネスメールである程度決まった定型文があるのも日本独自の商習慣です。宛名には会社名や部署名、名前、敬称を入れたり、メール本文の冒頭挨拶では「お世話になっております」「お疲れ様です」などの定型文がよく用いられたりします。文末の挨拶文としては「宜しくお願い致します」などで締めたりします。
一方で例えばアメリカでは、定型文などは特になく要点を簡潔にまとめてやり取りがされています。
価格交渉
日本のビジネス場面では価格交渉がよく見受けられます。まずは少し高めに価格を提示し、反応を見ながら段階的に価格を下げていくのです。
アメリカの場合は上記のような段階的な価格交渉は通常はしません。例えばメーカー側が卸価格を決めたら、仕入れ側はその価格が自社にとって妥当かどうかを判断して購入をします。価格交渉ではなく、ある期間内の目標額に達した場合に値引きをするというケースはあるみたいです。
接待
日本人にとって会食やゴルフなどのビジネス接待は重要な意味をもっています。お取引先の人たちと仕事上お付き合いをしていく中で、接待を通じて共に時間を過ごし距離を縮めて、よりいっそう関係構築をしていくことでビジネスに繋げていくというような日本独特の商習慣です。
このようにビジネス上の接待を大事に思う日本の商習慣は、海外からみたら珍しいかもしれません。
書類への押印
代表的な日本の商習慣の例として、押印が挙げられるでしょう。契約書の取り交わしや請求書、領収書など書類への押印はなくてはならないものです。日本のハンコ文化はインターネット通信環境がない時代からの慣習として根強く残っています。テレワークやデジタル化、働き方推進などが近年叫ばれてきており、脱ハンコ化に向けた動きにも着目していきたいものです。
例えばアメリカや中国ではハンコを使う文化はほとんどなく、サインで行います。
空気を読む
日本人にとって「空気を読む」という文化は、ビジネスシーンだけでなく日常生活においてもなじみ深いものです。言葉で現さなくても、雰囲気や表情、身振りなどから感じ取るという非言語コミュニケーションのようなものです。 海外は多民族な国家も多く、ある環境内において同じ文化で生きてきた人だけの構成は少ないことが多く、場の空気を読んで行動する文化はなかなか通用しないことが多いです。
曖昧な表現をする
前述と似ているところもありますが、一般的に日本人は曖昧な表現を好むと言われています。協調性を重んじる日本人が多く、相手との議論をするのは好みません。
昔から日本人は曖昧な表現をすることによって責任の所在を分散させ、なにか問題が発生したときに誰か一人が責任を追うことがないように配慮をしてきた、というのが背景としてあるのかもしれません。
ここまで、日本では当たり前の商習慣をいくつかピックアップしてきました。次からは、日本とは異なる海外の商習慣について、アメリカ、中国、その他国によって異なる商習慣の代表的な例をご紹介します。
アメリカの商習慣
アメリカの商習慣について、日本とは異なる商習慣の代表的な例を以下に3つほどご紹介します。
即断即決
はっきりとした意思表示が求められる傾向が強く、結果を先延ばしにすることは好ましくないとされています。日本の商談では「一度持ち帰って検討する」というような場面が見受けられますが、アメリカでは考えにくいことです。アメリカは決裁者同士の商談が一般的であり、担当者が商談に赴くことに対して回り道であると思われています。白黒はっきりし、即断即決な商談であることが通常です。
DBT(支払遅延日数)をチェックする
アメリカでは日本のように、非上場企業が財務情報を公開する義務はないとされています。ですのでその財務情報を推測する方法として、「DBT(支払遅延日数)」をチェックするというアメリカの商習慣があります。信用調査会社は企業から支払い情報を提供してもらって、支払遅延日数の具体的な数値化をしています。
これによって企業の支払い状況を把握して、与信調査といった取引の判断に役立てることができます。
トレード・レファレンスで取引先の実態を調査
アメリカの上場企業は、Webサイトを通じて株主へ決算書を公開する義務があるため一部入手することはできますが、非上場企業は決算書を入手することは基本的に難しいです。そのため、「トレード・レファレンス」で取引先の実態や安全性を確認するというのが一般的です。
トレード・レファレンスとは企業照会のことで、企業間の支払いに関する信用照会です。取引金額や支払い条件などの与信管理において、取引先の信用情報を入手することができます。アメリカの企業間取引において一般的な商習慣になっています。
中国の商習慣
続いて中国の商習慣について、日本とは異なる商習慣の代表的な例を以下に4つほどご紹介します。
支払いが遅い
支払いが遅いという中国特有の商習慣は世界的にも有名です。中国の経理担当者がする支払いの仕事として「取引先との関係を維持したまま、いかに支払いを遅らせることができるか」と言われています。このような債権回収の商習慣への対応策としては、前金の回収やL/C取引(信用状)、取引先を限定するなどが考えられます。 L/C取引(信用状)とは、輸入者の取引銀行が輸出者に発行するもので、銀行が輸入者に変わり代金の支払いを保証するものです。
会社を撤退させるのが困難
中国から会社を撤退するのは設立以上にとても難しいと言われています。
撤退するに際して、合弁企業については契約における全会一致項目という定めがあり、董事者全員の賛成が条件となっています。また会社の清算手続きも煩雑であったり、中国当局の承認がなかなか下りないケースもあります。事業譲渡をして撤退をする方法もありますが金額や利用価値などを考慮するなど、慎重に検討していく必要があります。
政治に関する話はNG
中国人は政治に関する話をしないという商習慣があります。中国の古い言い方に莫談国事という言葉がありますが、政治に関する話をしてはならないという意味があるようです。例えば文化大革命や天安門事件などの政治話題はタブーで、ビジネスや旅行など中国に行く日本人も多いですが、尖閣諸島や台湾といった領土に関する話題も避けた方が無難です。
財務情報の入手が容易
中国では、すべての有限責任公司は決算書の提出が義務付けられています。また公開企業の場合は、上場区分によって定期的に財務情報を提出しなければなりません。財務データに関しても政府の信用情報システムとの連携がされるため、提出をする中国企業は多いです。中国の決算月は12月と定められていて、7月頃または一部10月頃に財務情報を比較的容易に入手ができるようになります。
その他日本にはない商習慣
その他日本にはない商習慣について、国によって異なる商習慣の代表的な例を以下に3つほどご紹介します。
休暇日数
画像引用元:https://minagine.jp/media/management/paid-leave_qa/
休暇日数に関して、日本に比べて有給休暇の日数が多い国はいくつもあります。日本の有給付与日数が20日なのに対して、例えばブラジルや欧州の各国では30日あります。有給の消化率も日本は50%前後で推移していますが、他の先進国では100%の国も見受けられます。
また国によって祝日はそれぞれ異なりますが、祝祭日の場合は日本は世界で3番目に多い国になっています。 以上を総じた年間の休暇日数でみると日本は平均日数くらいで、国によって異なる商習慣の一例として休暇日数の違いが挙げられます。
ハラール認証
イスラム教徒の人々が食するハラールフードがありますが、「ハラール認証」とはイスラム法に則って食品を製造する過程で一定の条件を満たしている、とハラール認証局が認めたものを指します。イスラム諸国を中心に各国でこのハラール認証の重要性が増しており、その国々へ食品関係を扱う場合にはハラール認証を取得することで、輸出する際に有利に働きます。
固有名詞の表記
固有名詞の表記が国によって異なり、注意を払うべきものがいくつかあります。
例えばペルシア湾の呼称があります。国際的にはペルシア湾と呼ばれているイラン側の支持と、アラビア湾と呼称すべきというアラブ諸国間で発生している固有名詞の表記に関する事例です。
ほか日本と繋がりがある例としては、台湾の呼称に関してが挙げられます。正式名称は中華民国ですが、中国は中国台湾としたり日本を含む多くの国は台湾(Taiwan)と呼んだりしています。
まとめ
日本、アメリカ、中国など代表的な商習慣の例を交えて、日本と海外の商習慣の違いについてご紹介をしてきました。国によってさまざまな背景はありますが、日本と海外で商習慣の違いは少なくありません。海外展開を検討する際は、検討国の商習慣についてもよくチェックしておきたいものです。
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