伸長するインド建設機械市場。商機は脱炭素化の取り組みにあり?

世界でも驚くほどの経済成長率、人口の多さ、新たな現地企業の勃興、海外企業の進出、投資など、世界的に今大変注目されているのがインドです。今や最先端のIT技術や優秀な科学者を有し、世界のさまざまなトップ企業で働く人々や、自国の企業を発展させていこうとする優秀な人材を多数輩出しています。それに合わせてGDPもコロナ禍を除き上がり続け、2020年には米国、中国、日本、ドイツ、イギリスに次ぐ順位となっています。

本記事では、伸び盛りの市場であるインドの、インフラの重要領域である建設機械業界についてご紹介します。

インドの経済発展政策

インドでは「ガティ・シャクティ」と呼ばれる国家戦略プランがあります。「スピードと力」という意味を持っており、ナレンドラ・モディ首相が提言をしているものです。現在インドでは、経済の急速な発展により建設ラッシュが続いています。しかしながら、その足を引っ張るのがインフラの問題です。資材の輸送などがスムーズに行えないために、作業の遅延が発生し計画通りに建設が進まず、周辺で渋滞が発生し、その結果余計にコストがかかります。作業期間が長引き、その間建設機械や運送での排気ガス排出量が増加し、環境汚染の元になってしまうなどの問題が挙げられます。 

これらの問題を解消するためインド政府は「ガティ・シャクティ」のもとインフラの充実化、そして経済発展を進め、環境対策やグリーン燃料に関しても力を入れています。具体的には、今後の成長目標を達成するために、国家インフラストラクチャー・パイプライン(NIP)と呼ばれるインフラへの巨大な投資を行い、開発を進めようとしています。これは政府として100万ルピーを超える投資を行い、道路や鉄道網、建設などのインフラを整備し輸送、サービス、人々の移動をシームレスに行うことができるようにするという計画です。

この計画の中で、経済の発展を促しインフラの整備をするのに欠かせないのが、建設機械です。この建設機械は、その開発に多く使用されるため、経済発展には付きものである環境汚染の原因の一部ともなりますが、建設機械化が必要になってきています。

インドの発展と建設機械業界との関わり

時を同じくして、民間企業の方でも動きがあります。好景気と資金力を背景に海外企業によるブランドの買収が行われ、日本でも話題になったインド自動車大手「タタ・モーターズ」が、アメリカの自動車大手「フォード」から「ジャガー」と「ランドローバー」ブランドを買収しました。そしてタタのグループ会社でIT大手の「タタ・コンサルタンシー・サービス」(TCS)を筆頭に、IT、食品、石油化学、金融、住宅建設業など多くの分野で急激に発展しています。その中でも大きな発展を続けているのが景気の上昇に欠かせない建設業界。業界が発展していくために必要な、建物の建設と、それを担う建設機械もあわせて発展を続けています。官民ともに注力業界となっているわけですね。

インドの建設機械市場事情

インドでは建設機械の生産が大変活発になっています。既述のインフラ整備などのために、需要が高まっていることが大きな要因の一つです。日本の建設機械会社「日立」は現地の「タタ」と協業し、「タタ日立コンストラクションマシナリー」を設立し、建設機械を販売しています。

その他にも「クボタ」「コベルコ」なども、現地インドで子会社を設立し、建設機械を販売しています。さらに現地企業のムンバイに本社がある工業機械製造会社「L & T」や、アメリカ、イギリスなど数多くの建設機械メーカーが参入し、建設機械生産業界は活気があふれている状況です。 

インドの建設機械販売市場も活発で、年々販売数を急激に増加させており、2021年にはその販売台数が約25%増加すると予想されています。2020年には、63,500台もの建設機械を販売しており、これからも伸びるであろう高い生産能力とポテンシャルを秘め、現地メーカーや世界各国の建設機械メーカーが注目している市場です。 

建設機械の種類

建設機械は大きく分けると、運搬や整地用、掘削用、基礎工事用、固め用、コンクリート用、解体用などに分けられています。下表にあげた各機械には難しい名称が付けられていますが、実際には街で見かける機械がほとんどです。マンションの解体現場や、ビルの建築現場など、さまざまな箇所で見かけることがありますよね。この建設機械は、日本をはじめ、インドや世界においてもほぼ同じような建設機械が使用されています。 

建設機械名用途
油圧ショベル油圧の力を使用し、土砂などをすくい上げる機械。
建設用クレーン建築用材を吊り上げる機械。吊り上げる際にアームが伸縮し、移動可能なものや、設置型、固定型などが存在する。
ホイールローダー油圧ショベルよりもすくい上げることのできる容量が多い車輪で走行可能な、いわゆるトラクターショベル。
ダンプトラック荷台の運転席側が斜めにせり上がり、それによって荷台にあるものを下ろすことができる装置がついているトラックのこと。 
モータグレーダ下部に水平状のプレートが備え付けられており、整地が可能な機械。
スキッドステアローダ操舵角が無限で、横や後ろに自由に移動可能な機械。荷物を運ぶ用途や、狭く操舵の効かない場所など、使用方法はさまざま。
杭打機通常の杭を打つものから、高層建築物用地下杭の打ち込み用など大型のものも存在。
アスファルトフィニッシャーアスファルトを詰め込み、加熱し、舗装するための機械。
選別機産業用廃材を、リサイクルや危険物などに選別する機械。
粉砕機建築で発生した廃材や、瓦礫などを粉砕する機械。
穴掘建柱車 柱を立てるために、スクリューなどで掘削が可能な車。

この中で外に出ていない機械といえば選別機くらいでしょうか?選別機は、環境の問題に配慮して、建築廃材などを仕分けしリサイクル可能な材料選別するなど、適切に処理しなければならないという法律に基づき使用されています。全ての業界にも言えることですが、このように機械の種類や、建設機械そのものにも環境に配慮したものが必要になってきています。 

建設機械のグリーン化の取り組み

選別機の導入のように、建設業界も環境に配慮をした運営を行わなくてはなりません。経済発展に伴って使用が増加し、ディーゼル燃料を使用する建設機械はなおさら配慮が必要になってきます。 

日本を代表する建設機械メーカー「日立建機」では油圧ショベルにハイブリッドを導入し、燃費を15%改善する努力や、尿素水を排気ガスに噴射することによってディーゼルエンジンから発生する窒素酸化物の低減をする技術を使用しています。

「コマツ」も「ホンダ」と提携し、モーターで駆動する小型電動ショベルを販売予定で、環境に配慮した電動化建設機械の開発に意欲的です。このように既存の機械に手を加えて、環境性能を上げる方法もありますが、使用する燃料を二酸化炭素の利用と排出を同等にする、「カーボンニュートラル」な燃料の利用、環境負荷の少ない燃料に代えようという動きが世界で広まっています。

グリーンエネルギーの活用

グリーンエネルギーは、再生可能な資源を使用して作り出したエネルギーのことです。太陽光発電、水力、風力のような化石燃料を使用せず、持続的に使用可能な発電方法が代表的なものです。そしてグリーンエネルギーの中には、「グリーン燃料」というのも存在します。グリーン燃料は既述したカーボンニュートラルが達成可能な燃料のことです。その燃料が作成された際の二酸化炭素と、燃焼されて排出された二酸化炭素がほぼ同等となるため、大気中の二酸化炭素量を増加させないという種類の燃料です。

グリーンエネルギーの代表格バイオ燃料

グリーン燃料の中にもいくつかの種類がありますが、主に生物(バイオマス)が原料となります。ブラジルなどでは盛んに生産、使用もされている、とうもろこしやサトウキビなどを利用し発酵させてアルコールを精製し、そのアルコールをベースに加工して燃料にするものです。家畜飼育場の糞尿、生ごみ、紙のゴミから発生するガスを利用するものなど。 

そして最近では「いすゞ自動車」と「ユーグレナ」が開発している「ミドリムシ」を利用したグリーン燃料が注目されています。これは、ミドリムシの中で生成される油分を精製して燃料として使用するというものです。その他にも二酸化炭素と水素を化学的に合成して作製する「合成燃料」、さらには工場などから排気された二酸化炭素の利用して作成するものや、大気中の二酸化炭素を使用して燃料を作成する研究も行われています。

これらのグリーン燃料であれば、機械の中のアルコールで腐食してしまうような素材の交換など手を加えるだけで、既存の内燃機関を使用可能で、大がかりな設備や機能の変更を伴わないことが大きなメリットとなっています。 

この燃料を使用することによって、化石燃料の使用を抑え二酸化炭素の増加を防ぐことが可能なため、世界中でこのグリーン燃料が化石燃料よりも低コストで作成するための研究が世界で盛んに行われています。インドでもそれは例外ではありません。現状では、環境に対する準備が追いつかない勢いで経済が発展を遂げているため、大気汚染、環境破壊が深刻な状況に陥ってしまっている状況です。そのため、一般自動車への対策もさることながら、開発事業に使用される建設機械へのグリーン化が急がれています。 

 

まとめ

経済発展と共に重要な課題となる環境への配慮。大きな成長と共に環境への取り組みも重要になってきます。発展のためのインフラ建設と、それに使用する建設機械はその中でも環境に配慮しなくてはならない面が多くあります。グリーン燃料の使用や、より効率の良い機械の導入と共に、生産能力を高めたインドの建設機械市場は、インフラ整備に伴う建設機械の需要の高まり、そして製造、販売がさらに増加していく中で、この環境に配慮した新しい技術も投入され、総合的に世界をリードするような市場へと成長をしている状態です。

インドの経済はこれからも発展し続けると予想され、豊かな国家と美しい環境の共存、さらには世界との平和な共存が実現する世の中になると良いですよね。 

 

^建設省 
https://www.env.go.jp/hourei/11/000102.html 

^日立インド 
https://www.hitachicm.com/global/jp/corporate/publicity/magazine/backnumber/2017/vol120/pdf/feature_01.pdf 

^クボタ 
https://www.kubota.co.jp/news/2021/management-20210422.html 

^コベルコ 
https://www.kobelcocm-global.com/jp/news/2018/180330.html 

^インド建設機械市場 
https://economictimes.indiatimes.com/industry/indl-goods/svs/construction/construction-equipment-industry-could-grow-25-in-2021-regain-pre-covid-peak-in-2022-jcb-india/articleshow/84788473.cms?from=mdr

^グリーン燃料 
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01721/00005/ 

関連する事例

海外進出および展開はどのように取り組めば良い?
とお悩みの担当者様へ

海外進出および展開を検討する際に、
①どんな情報からまず集めればよいか分からない。
②どんな観点で進出検討国の現場を見ればよいか分からない。
③海外進出後の決定を分ける、「細かな要素」は何かを知りたい。

このような悩みをお持ちの方々に、プロジェクト時には必ず現地視察を行う、弊社PROVE社員が現地訪問した際に、どんな観点で海外現地を視察しているのかをお伝えさせていただきます。