韓国におけるローカルチキンマーケット

朝鮮半島のほぼ南半球を占める大韓民国、韓国。
面積は日本のおよそ1/4、人口は約4,685万人で、その約25%が首都ソウルに集中しています。
ソウルは世界的な超高密度都市であり、韓国の政治経済の中心です。
そんな韓国で、市民の定番となっている食べ物のひとつがチキンです。
主に、フライドとヤンニョム(韓国のコチュジャンをベースに甘辛いたれで会えたチキン)の2種類に分かれていますが、子どもから大人まで、男女問わず好きなメニューの代表格で、「韓国人のソウルフード(Soul food)」または「チヌニム」:チキン+ハヌニム(神様という意味)という、面白いあだ名もついているほどです。
チキンから派生した、「チメク」と呼ばれるものもあります。
それは、「チキン」と「メクチュ(ビールの意)」を合わせた造語で、市民(特に社会人)の間では人気の組合せとして一般化しています。2014年には、中国で人気だった韓国ドラマの主人公が「チメク」をおいしく食べるシーンがきっかけて、中国で韓国式のチキン専門店が一時期急増したとの記事もありました。
今回は、韓国におけるチキン市場の実情とその生き残りをかけた企業同士の広告宣伝における戦略についてお伝えいたします。

供給過多な韓国のチキン専門店

韓国のある消費者調査では、回答者の半分以上が、”1週間に1回以上夜食(夜遅い時間にお酒などと一緒に何かを食べること、夜の間食的な位置づけ)を食べる”と答え、その78%が最も好きな夜食メニューとしてチキンを選んだそうです。
その人気を証明するのが、圧倒的多数のチキン専門店です。
韓国にはおよそ300以上ものローカルチキンブランドが存在します。
定年退職後の自営業として人気なのが、特別な技術がなくてもわずかな資金で開業できるチキン専門店です。
2013年末の韓国統計庁の資料によると、韓国のフランチャイズチキンの店舗数は、コンビニエンスストアの店舗数(2万5039店)に次ぐ、第2位でその数は2万2529店舗。
これに、個人経営の店舗や、ビールなど他の業種を兼ねている店舗まで合算するとさらに上回り、その数は3万6000店に達していると韓国KB金融特殊経営研究所の調べにより報告されています。
これは、全世界にあるマクドナルドの店舗数(3万5429店、2013年基準)も超える大きな数値です。

韓国のチキン専門店の数 2012年

※()の中は前年対比増加率
※情報元:韓国統計省の2012年基準データ
※グラフ:「ハンギョレ」(韓国の日刊紙)の2014年記事より抜粋

そして、その店舗数は現在も増え続けています。
韓国公正取引調整院が発表した加盟本部情報公開書登録現況(2016年基準)の国内フランチャイズ産業規模によると、2015年に新規開業した業種のうち最も多かったのはコンビニエンスストア(5755店舗)、次いで韓国料理店(4552店舗)、そして第3位にチキン専門店(3988カ所)というデータがあります。
実際にローカルチキンブランド店、大手5社、BBQ、キョチョンチキン(Kyochon Chicken)、 BHC、ネネチキン(NeNe Chicken)、グッネチキン(Goobne Chicken)の支店数をみてもその数は年々増加傾向にあるのがわかります。

チキンフランチャイズ大手5社の店舗数の増加 2014-2015

また、それと同時に、加盟契約を解約、終了したチキン専門店の数は、2015年の1年間で2852店舗。

KB金融特殊研究所の分析によると、2002~2011年の国内におけるチキン専門店のうち、競争に勝てず休業、廃業した店舗は5万カ所に達するとされており、年間の退出比率も2009年から増加傾向にあります。

また、店の平均生存期間は2.7年で、個人事業者全体の3.4年よりも短いことがわかっており、市場では厳しいチキン戦争が繰り広げられていると予想されます。

激戦化するチキン業界の広告戦略

数多くのライバルに打ち勝つため、ローカルチキンブランド店の広告宣伝競争も激化しています。
大手のローカルチキンブランドでは、毎年新メニューを提案し、有名タレントや人気アイドルを広告塔として起用し多額の広告費をかけた商品の宣伝に力をいれています。
実際に、2016年4月に計上された宣伝広告費で最も高額だったのが、14.8 Billion US$のキョチョンチキン(Kyochon Chicken)、第2位は、BBQで12.8 Billion US$、第3位はBHCとグプネチキン(Gubne Chicken)の10.1 Billion US$です。
韓国のタレント業界でもローカルチキンブランドのCMに出演することは人気があることの証であり、その年に最も旬な芸能人を知りたいのであれば、ローカルチキンブランドのイメージモデルを確認したらよいと言われています。

実際にどのような広告メディアを使用し、どのようなタレントを広告塔として起用しているのかいくつか例をあげます。

1.BBQ

広告塔トップアイドルグループ「防弾少年団(Bangtan boys)」
広告メディアTV、SNS、ポスター
BBQ 広告

2.BHC

広告塔トップ女優「チョン・ジヒョン(Jeon Ji-hyun)」
広告メディアTV、SNS、ポスター
BHC 広告

3.ネネチキン(NeNe Chicken)

広告塔トップコメディアン「ユ・ジェソク(Yu Jae-suk)」、
人気アイドルグループ「ガールフレンド(Girlfriend)」
広告メディアTV、インターネット、ポスター
ネネチキン NeNe Chicken 広告

4.グッネチキン(Goobne Chicken)

広告塔人気モデル/女優「ソ・ヒョンジン(Seo Hyun-jin)」
広告メディアTV、インターネット、ポスター
グッネチキン Goobne Chicken 広告

消費者のブランド比較評価

白熱した競争が繰り広げられているローカルチキン業界ですが、各ブランドに対する消費者側の評価も様々な分野に富んでいます。まず、韓国の外食チェーン業界になくてはならないものがデリバリーサービスです。
デリバリーサービスは、顧客満足度を表す重要な項目として評価されています。
韓国消費者庁(Korea Consumer Agency )による2016年度の顧客満足度調査によると、総合評価トップを獲得したローカルチキンブランドは、デリバリーサービス項目の評価が全体で一番高いブランドでした。
この結果からも、消費者によるデリバリーサービスの重要度が高いことがうかがえます。
また、韓国政府の減塩政策や健康ブームを背景に韓国では健康への関心が高まり、減塩や低ナトリウム食品への注目度が増しています。チキン業界でも各ブランドのチキン1ホール/1ピース当たりの塩分量が調査され、消費者側からの比較の対象とされています。

企業の倫理意識に敏感な韓国の消費者文化

韓国では、消費財の購入に影響する要素として、商品そのものの質以外に企業の倫理意識も問われます。
正確にはその企業の経営陣、または社員の社会的な評判に敏感な消費者が多い傾向にあります。
例えば、ある有名企業の社長の息子が一般市民と言い争いになり、暴力事件を起こしたと報道されると、その企業への批判と共に、不買運動、ボイコットが即座に起こります。
その背景には、現在の韓国社会が貧富の格差が広がっている中、多くの一般市民には政府や大手企業などの既得権階層に対する敵対心が潜んでいることが考えられます。
総体的に弱者の立場でいる消費者ですが、活発なSNS活動を武器に、企業への圧力をかけられる存在になっているのが今の韓国の消費者です。
最近、チキン業界でもこのような消費者のボイコットで大きな話題となったことがありました。
ローカルチキンブランド大手のBBQは、2017年3月にAI(鳥インフルエンザ)による供給不均衡や配送手数料の影響で、10%の料金引き上げを発表しました。
しかし、AIが物価上昇に影響を及ぼさないことを政府が明らかにしたにも関わらず、値上げを実施。
SNSを通して集まった多くの市民がボイコット活動に参加し、大きな騒ぎになりました。
また、BBQの会長であるユン・ホングン氏が、今年3月に弾劾された前大統領、朴槿恵(パク・クネ)被告を支援する団体の会長を務めているとのことがネットを中心に広がり、更に強い反感を買う結果となりました。
世論の悪化により、BBQは値上げを撤回し、ブログで謝罪の広告を掲示したのですが、使用した文句や写真が慎重ではなかったことで逆効果を得てしまいました。最終的には修正した内容で再度謝罪文を掲載しましたが、消費者からの評価は厳しいものでした。
好評も悪評もSNSを通じてすぐにオンラインで国内に広がる現代社会。
そのさまざまな活動に国民が積極的に参加し、マーケットをつくり支えるというのも韓国ならではの特性ではないでしょうか。

BBQがブログに掲載した謝罪文

BBQがブログに掲載した謝罪文

今後の韓国ローカルチキン業界

今後も様々な面で競争が白熱化しそうな韓国のローカルチキン業界。
ライバルたちに打ち勝つには、まず自社ブランドの良さや強みを把握することではないでしょうか。
自社製品を理解して強みを活かしたアピールをし、ブランドの差別化を行っていくことが重要です。
これはあらゆる国に進出を考えている企業すべてにおいていえることです。
自社製品の強みは何か?他社ブランドに負けない特徴とは何か?自社のこだわり、企業戦略とは何か?海外進出への一歩として、いま一度、自社ブランドの良さを見直すことは必須です。

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