AB InBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)は世界最大のビール会社で、500以上のブランドを展開し、世界150カ国以上で販売しています。
代表的なブランドは、「バドワイザー」や「コロナビール」です。
本記事ではAB InBevについて詳しく知りたい方に向けて、会社概要や経営状況、成長戦略を紹介します。
AB InBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)とは
出典:AB InBev
AB InBevはベルギーに本社をおく、世界最大のビール会社です。この章では会社概要・経営理念・事業内容について紹介します。
会社概要
AB InBevの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | Anheuser-Busch InBev SA/NV |
設立 | 2008年 |
本社 | ベルギー |
従業員数 | 155,000人 |
進出地域 | 150カ国以上 |
売上高 | 593億ドル |
AB InBevの始まりは、1240年にベルギーの修道院で誕生したビールの「Leffe(レフ)」です。2004年にInterbrew(インターブリュー)とAmBev(アンベブ)が合併し、2008年にそのInBevがAnheuser-Busch(アンハイザー・ブッシュ)を買収したことで、現在のAB InBevが誕生しました。
現在では世界50カ国に拠点があり、500以上のブランドを展開しています。
経営理念
AB InBevは、モットーに「Big to Create a Future With More Cheers(未来の乾杯のために、大きな夢を)」を掲げています。その実現のために、以下の10の原則を重要視しています。
1. 大きな夢を抱く
2. 長期的な視野で考える
3. 優れた人材に支えられ、多様なチームを構築する
4. 消費者のために変化をリードし、イノベーションを起こす
5. 消費者とともに成長する
6. 地域社会とともに繁栄する
7. シンプルで拡張可能なソリューションを優先する
8. コストを管理し、成長を促進するための選択をする
9. 優れた価値を創造し、共有する
10. 決して安易な近道をしない
これらのモットーと10の原則がAB InBevの経営理念です。
事業内容
AB InBevの事業内容は、世界150カ国以上で製造したビールを販売することです。ここでは、代表的なブランド一覧を紹介します。
グローバルブランド | ・バドワイザー ・コロナ・エクストラ ・ミケロブ・ウルトラ |
ローカルメガブランド | ・アギラ ・ブラーマ ・カーリング・ブラック・レーベル ・カス・フレッシュ |
ビヨンドビール(新たな領域のビール) | ・ブルタル・フルーツ ・カットウォーター |
ノンアルコール | ・バドワイザー・ゼロ ・コロナ 0.0 |
このように世界で展開するブランドだけではなく、地域に特化したブランドや新たなビール領域のビヨンドビール、さらにはノンアルコールの事業も展開しています。
AB InBevの経営状況
AB InBevの経営状況を売上高・営業利益の推移から考察します。売上高・営業利益の推移は以下のとおりです。
参考:AB InBev「Document Search」
AB InBevは2020年に売上高・営業利益が大きく落ち込みましたが、2021年から3年連続で売上増を達成しています。2023年の売上高は593億ドル(約8.3兆円)で前年比2.7%の増加でした。ただし、営業利益は139億ドル(約1.9兆円)で、前年比約3.8%の減少でした。
AB InBevの地域別売上高の推移
AB InBevのセグメントは、5つの地域で分類しています。そのため、経営状況を地域別の売上高の推移から考察します。まずは、2023年の地域別売上高の構成割合です。
参考:AB InBev「Document Search」
北米・中米・南米の合計は73.9%で、AB InBevの主要な地域はアメリカ大陸ともいえます。ここでは、地域別の売上高と粗利益の推移を紹介します。
North America(北米)
北米の売上高と粗利益の推移は以下のとおりです。
参考:AB InBev「Document Search」
グラフのように2022年までは、順調に売上を拡大していました。しかし、2023年の売上高は前年比9%の減少となり、急激にブレーキがかかります。原因は、2023年4月にアメリカのバドライトの広告に、トランスジェンダー俳優を起用したことで大規模な不買運動に発展したためです。バドライトはアメリカで20年以上首位を獲得していたブランドでしたが、不買運動により首位の座から陥落しています。
Middle Americas(中米)
中米の売上高と粗利益の推移は以下のとおりです。
参考:AB InBev「Document Search」
中米では2020年以降、売上高が急拡大しています。2023年の売上高は163億ドル(約2.2兆円)で、前年比15%増と3年連続の2桁成長を達成しました。営業利益も99億ドルで、100億ドルに迫っています。
また2023年の同地域での取り組みとして、Millfoods(ミルフーズ)と提携し、メキシコにトウモロコシの加工施設を建設するために3億ドルの投資を発表しています。ほかにも4億3,000万ドルを投資してコロンビアに新しい醸造所を建設し、2024年に操業を開始する予定です。
South America(南米)
南米の売上高と粗利益の推移は以下のとおりです。
参考:AB InBev「Document Search」
南米では2020年に売上高が大きく落ち込んだものの、2021年に回復し、2022年には大きく成長しました。2023年はさらなる拡大に成功しており、AB InBevの成長に寄与しています。
同地域では、「TaDa Delivery」アプリによる注文が増加しています。アルゼンチン・パラグアイ・ボリビア・ウルグアイでリリースされており、アプリによる注文が45%増加したとのことです。
「TaDa Delivery」アプリは、ビールやソフトドリンク、スナックなどの宅配サービスです。手軽に自宅で冷えたビールが飲めるとして人気を集めています。
EMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)
EMEAの売上高と粗利益の推移は以下のとおりです。
参考:AB InBev「Document Search」
EMEAの売上高は85億ドル(1.1兆円)で、前年比5%増を達成したものの、営業利益は前年と同水準でした。
イギリスでは、ノンアルコールビールや低アルコールビールの需要が拡大しています。その影響により、ノンアルコールビールのコロナ・セロの販売量が2022年と比較して2倍に拡大しました。
Asia Pacific(アジア)
アジアの売上高と粗利益の推移は以下のとおりです。
参考:AB InBev「Document Search」
アジアの売上高は2020年を除き、おおよそ65億ドル~70億ドルで推移しています。2023年も売上高・営業利益ともに横ばいの状態でした。
AB InBevの成長戦略
AB InBevは成長戦略として、以下の3つの柱を掲げています。
・Lead and Grow the Category:ビール業界を率いて成長させる
AB InBevは世界のビールの4本に1本を販売しており、ビール業界を牽引しています。ビールは過去4年間世界的に需要が伸びており、今後5年間も需要が伸びる見込みです。同社は、ビヨンドビールなどの新たな取り組みで、今後も業界の先駆者となることを目指しています。
・Digitize and Monetize our Ecosystem:エコシステムのデジタル化と収益化
同社は200以上の醸造所があり、20億人の消費者、600万人の顧客に訴求できる強大な販売ルートをもっています。この販売ルートをエコシステムとしてデジタル化したのがB2BプラットフォームのBEESです。BEESのマーケットプレイス事業は15の市場で展開されており、200万人の顧客を獲得しています。つまり、BEESの収益化に注力するのが成長戦略の2つ目の柱です。
・Optimize our Business:ビジネスの最適化
3つ目の柱は、資源配分の最適化・リスク管理・効率的な資本構成に重点をおくことです。
AB InBevはローカライゼーションの成功事例
AB InBevはセグメントを地域ごとに分類しているように、地域別にブランド展開を行うことで好みや文化に対応した製品を提供しています。つまり、AB InBevはローカライゼーション(地域化)により、成功した企業といえます。そのため、海外進出を検討している企業は、AB InBevの経営戦略を参考にしてみてはいかがでしょうか。