これからイスラム圏への進出を予定している企業も多いのではないでしょうか。しかし、海外進出は日本と全く異なる習慣や考え方があるため、ハードルは決して低くありません。
特にイスラム圏は注意点が多くあります。そこで本記事ではラマダンの基礎知識や、イスラム圏の国とのビジネスにおける留意点を紹介します。
イスラム圏の国はどこか
出典:外務省「探検しよう!みんなの地球」
イスラム教と聞くとアフガニスタンやイラク、サウジアラビアなどの中東をイメージする方も多いかもしれませんが、イスラム圏はアフリカやアジアにも広がっています。
イスラム教はキリスト教に次いで信者が多く、世界人口の4分の1を占めているほどです。
ビジネスにおいて注目されているイスラム圏の国は、ゴールドマンサックスのジム・オニール氏が発表した「ネクストイレブン」のうちイスラム教信者の多い7ヵ国です。
- イラン
- トルコ
- パキスタン
- エジプト
- ナイジェリア
- バングラデシュ
- インドネシア
日本の近くでいえば、東南アジアの諸国にイスラム教信者の多い国があります。
ラマダンとは?何をするのか?
日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、イスラム教信者のムスリムにとって「ラマダン」は大切な行事です。
イスラム教では5行と呼ばれるムスリムに課された5つの義務があり、その一つの「断食(サウム)」をラマダンに行うためです。
ラマダンの特徴には以下の3つがあります。
- 日中に一切の飲食をしない
- 約1ヵ月続く
- 禁止されるのは食事だけではない
それでは、ラマダンで押さえておくべき特徴やムスリムの過ごし方について詳しく紹介します。
特徴① 日中に一切の飲食をしない
日が出ている間は一切の飲食を禁止されるのがラマダンで行われる「断食(サウム)」です。
ラマダンは断食というイメージが強いため、1日中なにも食べないと思っている方もいるかもしれませんが、日没後から日の出前までに2度食事をします。
日没後の食事を「イフタール」、夜明け前の食事を「サフール」と呼びます。
サフールは夜明け前といっても、深夜の2時や3時に食べるため、日本人の感覚でいえば真夜中に食べる食事といえるでしょう。
特徴② 約1ヵ月続く
ラマダンは日本語で断食月とも呼ばれるように、期間は1ヵ月続きます。
ここで、「いつからいつまでなの?」と疑問に思う方もいるでしょう。
そもそもラマダンとは、イスラム歴(ヒジュラ歴)の第9月の呼び名です。そのイスラム歴の1年は354日で、太陽暦とは約11日の違いがあります。
1年ごとに約11日のズレが生じるため、ラマダンの期間も毎年異なります。直近のラマダンの期間は以下のとおりです。
2022年:4月1日~5月1日
2023年:3月22日~4月23日
2024年:3月10日~4月8日
約33年で季節を一巡りすることになります。
また国によっては、月の観測により若干異なることもあるので注意が必要です。
特徴③ 禁止されるのは食事だけではない
ラマダンは断食のイメージが強いですが、禁止されるのは日中の飲食だけではありません。
ラマダンでは悪口・喧嘩・嘘・タバコ・性的行為なども禁止されています。
一方、ラマダン中に「サダカ」と呼ばれる善行をするとより良いとされているため、積極的に寄付や貧しい人への施しなどが行われます。
日本企業がイスラム圏へ進出する際の留意点
日本企業がイスラム圏へ進出する際には、イスラム教の習慣を理解することが重要です。特に日本文化とは異なる以下の3つについては、留意すべき点といえます。
- 礼拝の時間と場所への配慮
- 金曜日は基本的に休み
- 食習慣の違い
留意点①礼拝の時間と場所への配慮
イスラム圏へ進出する際は「礼拝」についての理解を深め、時間と場所に配慮する必要があります。
その主な理由は、ムスリムに課せられた5行と呼ばれる5つの義務にあります。
信仰告白:神への信仰を声にだすこと
礼拝:1日5回お祈りをすること
喜捨:貧しい者に施すこと
断食:ラマダン、日中の飲食を断つこと
巡礼:メッカへ行くこと
先にも紹介したようにラマダンは5行の断食にあたります。しかし、この5行のなかで最も重要とされているのは「礼拝」です。
礼拝はサラートと呼ばれ、メッカに向かい1日5回お祈りすることを指します。5回の礼拝は時間帯が決まっていて、それぞれ呼び名があります。
1. ファジュル:日の出前
2. ズフル:お昼過ぎ
3. アスル:日没前
4. マグリブ:日没後
5. イシャー:就寝前
ビジネスで留意しなければいけないのは、これらの時間に会議などをセッティングしないことです。
ムスリムの最も重要な義務である礼拝は、仕事よりも重視される傾向にあるため、礼拝を理由に会議に出られないことや、礼拝の時間に拘束することで精神的なダメージを与えてしまうことがあるためです。
また礼拝場所の確保の手段として社内に作る方法もありますが、現地であれば、礼拝堂や礼拝所から近い場所に事務所を構えるのも一つの方法といえるでしょう。
留意点②金曜日は基本的に休み
日本企業がイスラム圏へ進出する際の2つめの留意点は、金曜日が休みになることです。
イスラム教において金曜日は、聖なる曜日と考えられており、祈るのに一番良い曜日だとされています。そのため、成人男性には金曜礼拝(サラートル・ジェムア)と呼ばれる義務があります。
金曜礼拝は、ズフルの時間に礼拝堂や礼拝所などで集団礼拝することを指し、単独での礼拝は金曜礼拝と認められません。
イスラム圏の国々では金曜礼拝のために、金曜を休みにしていることが多く、もし仕事をしていても間に合うように仕事を切り上げてしまいます。
また木曜・金曜を休みにしたり、金曜・土曜を休みにしたりするのが一般的です。
日本企業が進出した場合は、日本の営業所とイスラム圏の営業所で、営業日が異なることになります。その影響として、現地の担当者と電話で連絡がつかないことが多くなるでしょう。
そのため、進出する国の休みに合わせた連絡手段の確立がポイントとなります。
留意点③食習慣の違い
日本企業がイスラム圏へ進出する際の留意点は食習慣の違いです。
イスラム教では宗教上の理由から、豚やアルコールが禁止されているのは有名です。しかし、血液や宗教上の適切な処理がされていない肉を食べることも禁止されているのをご存じでしょうか。
つまり豚以外の牛や鶏、羊といった肉であってもイスラム教の戒律に則り、適切な処理をしたハラール・ミートでなければなりません。
また日本の食事にはブイヨンやラードなどに豚の肉や骨が使われていたり、みりんなどの調味料にアルコールが含まれていたりと、直接目に見えなくても禁忌食材が含まれていることもあります。
これらの理由から、現地のスタッフに料理を提供したり、現地の担当者を日本で研修したりする際には特段の配慮が必要です。
ラマダン期間中のビジネスの留意点
イスラム圏におけるビジネスの展開には、ラマダン期間中にも留意点があります。
先に紹介したように、ラマダン期間中のムスリムは日中の飲食を一切しません。その反動により日中は集中力が低下するため、仕事の生産性も低下するリスクがあるためです。
また、ラマダン明けはラマダン月の終了を祝う大祭「イード・アル・フィトル」があります。日本でいえば正月やお盆に近い感覚で、帰省するために長期休暇を取得するのが一般的です。
これらの理由から、ラマダン期間中は通常通りの生産活動ができないことがほとんどでしょう。
まとめ
本記事ではイスラム圏の特徴的なラマダンと、日本企業がイスラム圏へ進出する際の留意点について紹介しました。日本の商習慣と違う点も多いため、進出する際は戸惑うこともあるでしょう。
そこでイスラム圏への進出を検討・予定している企業様は、現地でのビジネスをスムーズに進めるためにも、ぜひProveにご相談ください。