今回は、日本の最大の輸出国である中国に2週間ほど滞在し、日用品の市場調査を行うためにいくつかの卸売市場を訪れました。
その中で現地調査をしなければわからなかった日本製品の現状などについてここではお伝えします。
中国の家庭用製品の需要
人口増加とマーケットへの期待
世界で最も人口の多い中国。その数は2年前の2018年の時点で約13億93万人。
もうすぐ14億人へとせまる勢いで増え続けています。
日本の人口が約1.3億人なのでその数の多さは一目瞭然です。
爆発的な人口の増加に対し、中国政府は「一人っ子政策」を1979年から2015年まで導入し、厳しい人口削減、計画的生育政策を行ってきました。
しかし、将来的に日本よりもはるかに深刻な超高齢化社会になっていくこと懸念して、4年前の2016年からは一組の夫婦間で2人までの子どもを持つことが認められるようになりました。
このような人口削減政策を30年以上も続けているにも関わらず、今後も2030年頃まではさらなる人口の増加が見込まれており、まだまだ経済成長が期待できるマーケットであると考えられています。
こうした人口増加と経済発展に伴い、引き続き家庭用製品の需要が拡大しています。
中国進出・日系企業の家庭用製品メーカー
中国進出の日用品メーカーの苦戦と成功
今回の調査を行う背景となった日本の日用品メーカーは、中国で20年以上の実績があり、市場シェアはトップレベルを維持しているところです。
中国に進出している主な日系企業の大手日用品メーカーは花王やライオンです。
花王は、1993年に中国に進出しました。
ライバルで外資系企業のP&Gが中国市場への進出に成功していた一方で、花王は進出後の十数年間、事業拡大に苦戦していました。
なぜなら中国の日用品、オーラルケアの市場は中国現地、または欧米のメーカーが圧倒的なシェアを占めているからです。
約10年前、そんな状況の中、現地のニーズに合わせた新商品を開発したことで好転の兆しが見えたきっかけがありました。
それは水不足にも関わらず、洗濯時の使用水の多さが問題になっていた中国で、1回のみのすすぎで洗濯できる濃縮液体洗剤の「アタック瞬清」を販売しました。
この節水効果で注目を集め、花王製品を拡販させていきました。
その後も日本で人気商品の紙おむつ「メリーズ」や生理用品「ロリエ」などの市場も広げていきました。
そして2011年には中国大手の日用品メーカーである上海家化聯合と販売提携を結びました。
上海家化聯合が抑えているマーケットに花王製品を販売していくような形で事業拡大が進みました。
ライオンも同じ理由で、1988年の進出当初は苦しめられていました。
しかし、現在では大手の電子商取引サイトである阿里巴巴(アリババ)を上手く利用してオーラルケア商品を中心に「システマ」ブランドや衣料用洗剤の「トップ」など拡販をしています。
その結果、その分野においての中国国内市場ではトップになっています。
インターネットでは上記のような情報が飛び交っているため、誰でも高品質な日本製品が中国市場で人気であるという認識を持ちます。
しかし、訪れた4つの中国市場を実際に見てみると、その認識を覆すような状況が潜んでいました。
日本での情報では信じがたい現実だと言えるでしょう。
家庭用製品の卸売市場の特徴
日本製品があまり利用されていない事情がある
特に業務用製品は「日本製=安心・安全」というブランド力から好んで使用されていますが、家電や生活用品などにおける一般消費者の保有率はまだそれほど高くありません。
そうした疑問点があったため、今回は家庭用製品の中国市場を訪れました。
また、家庭用製品市場の拡大を見越し、製品の成長性やニーズについての調査を行うことになりました。調査で訪れたのは、上海と地方都市の4都市(上海、武漢、義烏、永康)です。
上海市場
まず中国最大級の都市である上海の市場調査は欠かせません。
何故なら上海は、日系企業の中国国内の進出先で常に上位であり、中国国内・世界の市域人口の順位でも、重慶に続き2位の2428万人を記録しています。
東京の人口が約1000万人なので2倍以上です。
人口の多い都市では家庭用製品の需要が比例して大きい分、市場状況に日系企業が関わってくるので、ちょっとした変化も見逃せない市場とも言えます。
武漢市場
主要自動車メーカーがそろって進出し、ホンダや日産は主要工場を武漢に置いています。
武漢に進出している日系企業は229社のうち、92社が製造業です。
これは全体の約半分の割合を占めています。
自動車メーカー以外だと金融では三菱UFJ銀行、みずほ銀行、小売ではイオンモール、イオンリテール、商社では三井物産や住友商事、豊田通商、金属鉄鋼では新日鉄住金、丸一鋼管、建設では日立製作所、電気・電子では住友電装、ニフコなど幅広い分野の日系企業が武漢に進出しています。
その他に訪問した地方都市は、金属加工品のメッカとされていて、10元ショップ(100)の商品や日用品の製造が数多く行われている都市です。
中国国内における10元ショップは多くの人々の生活に大きな影響を与えていると言えます。
その理由は、日用品を買いに来る顧客数が多いからです。
10元ショップができる2012年以前の中国では、日用品などを購入する際、居住区の端にある雑貨店やスーパーにいくことが一般的でした。
しかし日系企業大手のダイソーが広州に進出したことを機に、若者が好むようなデザインでリーズナブルな価格で日用品が出に入る10元ショップが人気になり、多くの10元ショップが中国国内にできました。
こうした背景があるため、10元ショップに売られる家庭用製品の製造が多い武漢の市場も注目度の高い市場です。
義烏市場
上海から南西に150kmほど離れたところにある義烏市場の存在も外せませんでした。
ここは東京ドーム約30個分の広さがあり、約6万軒の店舗が入っています。
人口はおよそ200万人です。義烏は世界的に有名な卸売市場で、電化製品から衣類、日用品、玩具まで何でも安く揃う巨大マーケットとなっております。
2017年1月には、現代のシルクロードさながら、義烏からイギリス・ロンドンまでの鉄道も開通しました。
日本人にはまだあまり馴染みのない地名ですが、今後要注目の市場となりそうです。
これらの都市で実際の家庭用製品市場を視察し、競合他社や販売代理店の元を訪ねました。
家庭用製品市場の成長性をはじめ、製品が実際にスーパーやホームセンターでどのように扱われているのか、製品についての率直な意見や評価をヒアリングしました。
そこで、実際に現地の声に耳を傾けると驚きの事実が見えてきたのです。
現地調査から発覚した2つの課題点
価格競争に敗れて品質落ちる日本製品
どのメーカーや代理店も、人口増加やオンライン販売といった新しいチャネルの登場によって、家庭用製品市場は今後も成長していくという予想を立てていました。
しかし、ヒアリングを進める中でもっと根本的な問題が発覚しました。
まず1つ目は日本製は「価格は高いけれど高品質」ということを売りにしているにも関わらず、コストダウンによって製品の質が低下しているというのです。
今回調査した製品については、中国・韓国製の方が高品質なうえに、価格は日本製の約半分から3分の2程度で売られていました。
つまりコストダウンを意識するあまり、品質を下げすぎてしまっていたのです。競合製品と見比べても質の違いは明らかで、実際に他社の営業トークとしても使われているということでした。日本製品よりも良いというアピールに使われているのです。
こうしたことから、日本製品の品質悪化の原因は「価格競争に負けて品質を落としている」という問題点が明らかとなりましたが、なぜそこまで品質を落とさざるを得ない状況になってしまったのでしょうか。
その問題の原因は、日本の物価と人件費の高さです。日系企業なので日本での商品研究・開発がメインとなっています。
しかし、販売する市場の価格が、その地域の物価に合わせた値段になるため、安く売らなければなりません。
そうすると、高コストで製品を作り、低コストで売るという、売り上げ利益のないサイクルになってしまうことがおわかりいただけると思います。
これが原因で、「高コスト」の部分を大幅に削減したことから、今まで保ち続けていた「高品質な日本製品」をなくし、品質を下げてでも、低価格で売れる製品の製造へと転換してしまったのです。その結果、物価、人件費が日本よりも安い中国、韓国にコスト面でも品質面でも負けてしまっているのです。
日本の優秀な技術の流出
また、この現地調査だけでなく、「日本製品の品質の良さ」が現実的になくなってきていることが明らかにされてきていますが、毎年春節という中国の正月の時期になると日本にくる中国人観光客が日本の家電製品や生活用品といった家庭用製品を「爆買い」していく報道がされます。
こうした影響により、世間一般の日本の人々は「中国製品はすぐに壊れるような物ばかりで品質が悪いため、日本に来て信頼度の高い日本製品を買っているのだ」と勘違いしてしましがちです。
こうした一場面を大きく取り上げられることで、日本国内にはいつまでも「日本製品は高品質である」という感覚が抜けずに、成長できなくなってしまっています。
中国本土では、実際に日本の性能よりも優れた家庭用製品が出始めています。
例えば、炊飯器をスマホで操作できるような製品などであります。
この製品は中国の大手スマホメーカーであるシャオミ(小米)が開発したものです。
スマホメーカーなのでスマホの操作と家電製品の連携は得意であり、そうした点から新たな便利製品を生み出していくことは理解ができますが、なぜ日本製品の質と匹敵すると言われるくらいの技術を短期間で手に入れ、1万円以下という値段で販売することができるのでしょうか。
それは、日本の高度な技術を持つ人材が中国に流れてしまったことが大きな原因です。旧三洋電機の炊飯機の開発を行っていた人がこの企業に買われたことがきっかけです。
近年の日本製品は低価格競争だけで品質を落としたことだけで、他の外国籍企業に劣ってしまっているのではなく、本来の日本の技術が中国、海外に流出してしまっていることによって、従来の日本製品の品質よりも良いものが生産され、その波に押されているのです。
東南アジアやロシアといった国では、いまだに根強く日本製の安全・高品質神話が支持されていますが、競合他社の製品も改良を重ねているため、気づかない内にすでにその信頼が失われていることもあるのではないでしょうか。
さらに販売代理店へのヒアリングでわかったのは、競合他社に比べて売上総利益(マージン)が極端に低いという事実でした。
現地の競合他社は一次代理店や二次代理店など業者ごとの販売価格を明確に定め、各代理店の利益を守るためのルールを敷いています。そのコントロール体制が弱いことによって価格的な差を生み出してしまっているということでした。
なぜ売上総利益が低い?
ういった実態はよくあるケースであり、情報が現地法人には伝わっていたものの、そこで情報が奇麗にコーティングされ、日本の本社側との理解に相違が生まれてしまうようです。
まとめ
高い市場シェアを取りながらブランドを確立しているメーカーであっても、実際に現地の声を聞いてみると、数字からは見えない事実が浮かび上がってくることがあります。
日本で感じる中国からの日本製品のイメージと、実際現地へ行き市場調査をする中で、埋もれている大きな問題を直接把握することができました。
むしろ安定した業績を誇る企業だからこそ、怠慢や驕りがこうした現地とのギャップを生んでしまうのかもしれません。
今回は中国における日用品の市場調査でしたが、これはどの市場や製品においても起こり得ることだと感じました。
自社製品に対して、競合他社やそれを扱う代理店がどう評価しているか、また代理店との付き合い方なども含め、今一度、現地の声に耳を傾けて理解する必要があるのではないでしょうか。