マレーシア市場調査から見えたMLM事業の実態

市場調査を行っていると、予想しなかった文化や価値観を知ることがあります。
今回は、マレーシアにおけるMLM事業についてお伝えします。

競合他社調査から発覚した意外な事実

今回調査をした製品はマレーシア国内ですでに販売されているのですが、想定よりも売りが立たず、その原因の分析となります。

まずマレーシア市場で多くのシェアを占めている2社(以下、A社・B社)について調べてみることにしました。

マレーシアは多民族国家として有名ですが、その中でもマレー系と中華系という大きな二つの括りに分けることができます。
A社はマレー系、B社は中華系をターゲットに商品を販売していることが分かりました。

そのうちA社に取材をお願いするため、アポイントを取ってみることにしました。

ホームページに書いてある電話番号に電話をすると、コールセンターへと繋がり、待ち合わせ先にカフェを指定されたのです。オフィスではなく、カフェを指定されたことに違和感があり、何度か電話をかけ直してアポイントを取りました。しかし、その度に指定される待ち合わせ場所はカフェだったのです。

仕方なく、指定されたカフェに出向き、営業担当者と落ち合いました。彼は、普段は別の仕事をしているが、問い合わせがあればこうして営業活動をしていると話していました。

そして、商品の説明を一通り終えると、私にもA社の商品を売るディーラーになるよう勧めてきたのです。彼は、身につけている高級時計を私に見せながら、「ディーラーになれば、こういう高級時計もすぐに買えるよ。帰りも、僕の高級車で送っていくよ。」と、ディーラーになることのメリットを伝えてきました。

しかし、A社のディーラーになるにはマレーシア国民IDが必要だと分かり、私はディーラーへの勧誘をそれ以上受けずにすみました。

その後の調査により、A社はMLM(マルチ・レベル・マーケティング)、つまり日本で言うところのマルチ商法を行っている会社だったことが判明しました。そして、もう一つの競合他社、B社もMLM事業を行っている会社だということが分かったのです。

シェアを占めている2社の共通点は、MLM事業を展開していることだったのです。

マレーシアでMLMが受け入れられている背景

マレーシアにおけるMLM事業拡大の歴史

日本では、マルチ商法と聞くと、「こわい」、「勧誘がしつこい」などのマイナスイメージがありますが、なぜマレーシアではMLM市場が広がっているのでしょうか。

1970年代にアムウェイ社、エイボン社が進出したことをきっかけに、マレーシアのMLM市場が生まれました。その後、2000年頃には他の外資系企業が数社参入し、市場が拡大したと考えられます。

そのわずか2年後、2002年には10億ドル(1200億円相当)の市場となり、翌2003年には12.58億ドル(1500億円相当)へと成長しました。これは、前年と比較して25.8%の成長を遂げていることになります。また、2006年時点では、合計622社・19.3億ドルと、25%の成長率を達成します。

そして現在もなお、その市場は拡大していると言われています。

マレーシアでMLM事業を行うための条件とメリット

マレーシアでMLM事業を展開するには、AJLと呼ばれるライセンスの申請と取得をしなければなりません。ライセンスを取得するためには、次の6つの条件を満たす必要があります。

  1. 資本金: RM5,000,000(100%外資による設立の場合)
  2. 経営目的の明文化と申請
  3. マーケティングプランの策定と申請
  4. 販売予定製品の申請(5製品以上)
  5. 売上計画の策定と申請
  6. 組織及びオペレーション体制の策定と申請

マレーシアは東南アジア最大のネットワークビジネス市場より抜粋

5,000,000リンギット、日本円にして1億5千万円以上のお金をかけて会社を設立しなければなりません。それでも多くの会社がマレーシアにMLM事業の申請をする理由は、それに見合うメリットがあるからなのでしょう。

その理由として、
1.ASEAN諸国のハブとしての役割
2.副業に積極的
3.口コミなどによる影響が広がりやすい国民性
の3点が考えられるのではないでしょうか。

1.ASEAN諸国のハブとしての役割

多民族国家であることから、英語・中国語・タミル語・マレー語などの多くの言語が交わされるマレーシアは、人々の移動もイスラム圏からアジアまで幅広くなることが予測できます。
実際に多くのMLM企業は、マレーシアをASEANでの拠点として、周りの国々にサービスを展開しているようです。

2.副業に積極的

経済格差が広がっているマレーシアでは、副業に対しても積極的な傾向にあります。空いた時間で多くのお金を稼ぐことができる仕事の一つとして、MLM事業のディーラーが受け入れられているのでしょう。

3. 口コミなどによる影響が広がりやすい国民性

東南アジア全体に言えることですが、口コミなどの評判が広がりやすい環境にあるようです。上記の2つと相まって、口コミの効果もあり、MLM事業がマレーシアの人々に受け入れられたのかもしれません。

今回の調査結果について、見聞きしてきたことを正直に依頼された企業様に報告しました。やはりご担当者様は大変驚かれていらっしゃいましたが、マレーシアの人々にとってMLM事業に対するマイナスイメージは少ないという事実を知っていただいた上で、今後の戦略を練る材料としていただけたらという思いがありました。

もちろん今回の調査結果はあくまで対象の製品ジャンルに限った結果であり、すべての製品にあてはまることではないかもしれません。ただし、日本の常識で考えているといつの間にか知らないところで市場のシェアを奪われている可能性があることを、マレーシアへの進出・戦略を考える上では抑えておくべき必要がありそうです。

また、今回の調査を通じて、MLM事業を行っている会社はサポートセンターの体制がしっかりしているとも感じました。MLM事業を行うかどうかは別として、このような要素は、日系企業も積極的に取り入れていくべきではないでしょうか。

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