スー・チー氏の政権継続。ミャンマーの魅力と今後の課題。日系企業進出動向も併せて紹介

政治的な混乱や経済の低迷が続き、かつては「最貧国」とまでいわれたミャンマー。

しかし、2011年以降の政治改革や経済改革によって、最近では「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるようになっています。

一方、法律やインフラ整備は拡充段階となっており、10年スパンの計画が必要になっています。

電力の70%以上を水力発電に依存するミャンマーでは、3月〜5月は季節的にダムの貯水量が低下し、水力発電の発電量が低下します。

それと同時に、家庭等では暑さのために電力需要が増えるため、停電が頻発するほどインフラの整備が整っていないのです。

地理

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol93/index.html

ここでは、「最後のフロンティア」と呼ばれるミャンマーの魅力と、企業が進出する際の課題、2020年11月に選挙で圧勝したアウンサンスー・チー政権の抱える課題など、メリット・デメリットの両方をご紹介します。

ミャンマーの歴史と主要産業

ミャンマーの歴史

1962年の軍事クーデターによる社会主義政権樹立以来、ミャンマーでは、事実上の鎖国が続いていました。1988年以降は軍事政権による民主化抑圧に対して、欧米諸国の経済制裁が加わりました。ミャンマーほぼ世界経済から隔絶された状態が続いてきました。

ミャンマー歴史

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol93/index.html

なぜ「最後のフロンティア」と呼ばれるようになったか

転機となったのは、2011年、新憲法下でのテイン・セイン政権の発足でした。

大統領

https://keynoters.co.jp/myanmar35/

このことをきっかけとして、世界の対ミャンマー経済制裁が緩和されるようになりました。

経済特区の創設、税制優遇措置の導入など外資導入に向けた環境整備が進められ、「最後のフロンティア」として脚光を浴びるようになったのです。そのように呼ばれるようになった理由は、人口、GDPがまだ伸び盛りである点です。

人口

2011年時点で人口6242万人となっており、隣国タイとほぼ同じになっています。

年齢別では、若年層の多いピラミッド型で、高齢者の多い先進国に見られる逆ピラミッド型とは正反対である。

東南アジア諸国において、ミャンマーの人口は、5番目に位置しています。

今後生産年齢人口の増加が継続し、人口ボーナス期が2053年まで続きます。今後のミャンマーは経済成長が期待できる有望な国とされています。

人口

https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001938/07001938.pdf

GDP

IMFの発表ではミャンマーの一人当たりのGDPはタイの7分の1程度としています。

ミャンマーGDP推移

https://www.a-compass.com/2019/08/19/%E4%BB%8A%E3%81%93%E3%81%9D%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%A7%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9%E5%B1%95%E9%96%8B%E3%81%AE%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%82%B9/

2018年度の日本の経済成長率は0.8%でした。一方ミャンマーの経済成長率は 6.4%に達しています。

約50年以上ミャンマーは国際経済から隔離されていましたが、2011年の民政化後、欧米諸国からの経済制裁が解除され、海外からの開発援助や投資が大量に流入しています。

世界銀行は2020年6月8日、「世界経済見通し」の中で、ミャンマーの2020年の経済成長率は、ASEAN10か国中2位をキープしていると発表しています。

予測値

https://www.smam-jp.com/market/report/marketreport/asia_oceania/news180822as.html

アセアン比較

フィリピン、ベトナムと成長率が近い数字になっていますが、ミャンマーはまだインフラ整備がほとんど整っていないことから、まだまだ開拓の余地があります。そのため「アジア最後のフロンティア」と呼ばれているのでしょう。。

主要産業

農業GDP

https://www.nna.jp/corp_contents/service/research/contents/mm_agri

農業

ミャンマーは東南アジア大陸部で最も広大な国土を持っています。

主要作物は米、サトウキビ、豆類です。特に米を主要作物として土壌や河川などが農業に適した環境の農業国です。

軍事政権に農業に重点を置いた政策の下、作付面積の増加が図られてきた歴史があり、GDPにおいて農業が占める割合は4~6割を占めてきました。

農村人口自体は全体の70%となっていますが、最近若年層の都市部への流出が進み、農業従事者は最近減少傾向が続いています。

経済成長によるサービス業が伸びていることも影響し、2009年に4割まで、2017年には2.6割にまで縮小しています。

製造業

中国、タイにおける人件費は高騰しています。

そのため各国は、チャイナプラスワン、タイプラスワンと呼ばれる動きを示しています。(チャイナプラスワン、タイプラスワンとは拠点が集中する中国やタイから、中国以外の国へ分散投資する経営戦略のことです。)

主に製造業に多い動きです。そこで検討されるのが、まだ製造費用のコストがそれほど高くないミャンマーです。

ミャンマーでの人件費は中国の2割、ベトナムと比べても3~4割と言われています。

※後述しますが、管理職の賃金は高騰傾向にあります。

スーチー政権の課題とは

アウンサン将軍の娘:スーチー氏とは

「ビルマ独立の父」と呼ばれるアウンサン将軍の娘として、1945年ビルマで生まれました。

大学卒業後は国連や日本の京都大学にて勤務。

その後、民主化運動の燃え盛るビルマへ帰国しました。

軍事政権は反軍政を掲げるNLDの書記長のスー・チー氏が国家の安全を危うくしたとして、1989年7月20日、彼女を自宅軟禁にします。

90年の総選挙でNLDは80%以上の議席を獲得するも、軍事政権はこの結果を無視。

その後、91年にノーベル平和賞を受賞し、1995年7月10日、ミャンマーの軍事政権によって彼女は6年ぶりに無条件で解放されることになりました。

かつては「ザ・レディ」と親しまれたスー・チー氏ですが、ここ数年人気が凋落しています。

ロヒンギャ問題

スー・チー率いる国民民主連盟は、野党時代に軍事政権を鋭く批判して支持を集めて政権奪取しました。

しかしその後は、国民の不満が高まっています。

その理由は、前回選挙でNLDが掲げた、「ロヒンギャ問題」がなかなか解決に向かわないからです。

「ロヒンギャ」とは、ミャンマーのイスラム系少数民族のことを指します。2017年英国内務省の資料では、ロヒンギャの人口は200万人と推定されています。

2015年以降、ミャンマーから海路を使用して流出するロヒンギャが激増。

バングラデシュ、タイ、インドネシア、マレーシアなどの周辺国はロヒンギャを「経済移民」として扱い、受け入れを拒んでいます。

国連はミャンマーに対してロヒンギャに市民権を付与することを要求しました。

国際世論においてロヒンギャを支援するような動向になると、ミャンマーはこの動きに強く反発。

ロヒンギャに対して「人口抑制保健法」が制定され、国外追放のデモが行われるようになりました。

ロヒンギャ

スー・チー政権は欧米の圧力を受け、ロヒンギャのミャンマー帰還を止むなく認めていますが、対応が進んでいないのが実情です。

ミャンマーの軍事弾圧から逃れた約70万人のロヒンギャのためにスー・チーが声を上げなかったことに対し、国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、2018年彼女に授与した同団体最高の栄誉賞を取り消す意向を明らかにしました。

またノーベル平和賞もはく奪するようにとの意見も上がっています。

インフラ整備

JETROの「2016年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、ミャンマーに進出した企業は、電力不足・停電において最も不便さを感じており、全体の85%にまで及んでいるということが分かりました。

海外電力調査会資料によると、2013 年のミャンマーにおける発電電力構成において、最も多くを占める水力発電による発電容量は、約86 億万kWhと発電量全体の約 74%を占めており、乾季における水不足が発生すると電力が足りず、停電が頻発します。

未だにこの状況は改善されていないようです。

電力問題

http://www.techno–create.co.jp/monthly_report/pdf/170410month_vol21.pdf

エネルギー源

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/8f45b218e9422619/20170020.pdf

中国との関係

中国にとってミャンマーは、「一帯一路構想」の要所を占める重要な国です。

2020年1月18日、中国の習近平国家主席は、ミャンマーを訪問し、スー・チー国家顧問と会談しました。

「一帯一路」に基づく「中国=ミャンマー経済回廊」を目指すとし、30項目以上の経済協力の合意を行いました。

中国ミャンマー

https://www.yomiuri.co.jp/world/20200119-OYT1T50029/

スー・チー氏も「中国は最も大事なパートナーだ」と述べるのは、中国がこの構想においてミャンマーに多額のインフラ整備を行っていることも理由の一つです。

スー・チー政権は経済や少数民族対策などで失政が相次ぎ、特にロヒンギャの問題以降、中国依存回帰する傾向を強めているようです。

しかし、中国の高額投資をそのまま受け入れることは避けています。

最近の「チャウピューの深海港湾プロジェクト」の事例では、当初中国が73億ドル投資するとしていましたが、ミャンマーが再交渉を依頼し、13億ドルにまで規模を縮小しています。

このように、ミャンマーは中国に飲み込まれないように警戒心を示しています。

ミャンマーの魅力

外務省海外在留邦人調査統計の調査では、ASEAN 地域に進出している日系企業は、2015 年までで累計 9,658 拠点に及び、2011 年から 2015 年までの 5 年間においては、最も進出拠点として多かったのはミャンマーで、増加拠点数は 278 拠点となっています。

2020年のデータでは、進出した企業数は約400社となりました。

下記はミャンマーの基本情報と、進出している日本企業の一覧です。

ミャンマー日系企業
ミャンマー日系企業例

※ミャンマーの首都ヤンゴンの街並みを紹介するYouTube動画もご覧ください

すでにミャンマーの魅力として、経済成長が見込める、マネージャークラス以下の賃金がまだ安いことを挙げましたが、それ以外に2つご紹介します。

豊富な資源

海洋資源

天然ガスや石油が産出し、主に中国やタイへ輸出をされています。

特に天然ガスはミャンマーの輸出額jにおいて大きな割合を占め、この分野への外資の投資や外資による探鉱開発も行われています。

内陸資源

金、銅、鉛、プラチナ、レアメタルといった金属資源が豊富なだけでなく、翡翠やルビーなどの宝石資源も世界有数の産出国。

国土の約50%が森林地帯で、まだ手付かずの木材資源も豊富です。

特に質が高いチーク材(マホガニーと並ぶ優良高級材)が有名で、多くのミャンマー産のチーク材が日本に輸出されています。また、天然ゴムの生産量は、2018年に世界10位にもなっています。

中国とインドに近いロケーション

ミャンマーは人口世界1位の中国と2位のインドに挟まれた場所にあります。

その他にも人口規模8位のバングラディッシュや、タイ、ラオスとも国境を接しています。

これらの国々の人口を合計すると、約30億人。このような立地条件を持つことから、ミャンマーは製造拠点や物流拠点として注目されています。

進出の課題

下記の表はジェトロが2012年~2016年までに調査した、企業がミャンマーに進出際の「経営上の課題」をまとめたものです。インフラ整備と賃金について見てみましょう。

経営上の課題

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/8f45b218e9422619/20170020.pdf

インフラ整備

他国のインフラの整備状況を比較するために、「道路舗装率」を見てみると、タイの道路は約90%、ベトナムは40%を超えています。

一方、ミャンマーは10%程度と非常に遅れていることが分かります。

発電容量もタイ、ベトナムの1割以下。ミャンマーの電力事情は悪く、頻繁に停電が起こっています。

工場進出した企業はこのようなインフラの問題にストレスを感じており、「人件費が多少高くてもカンボジアの方が良い」との不満の声を漏らしているようです。

電気普及状況

人件費の上昇

米ドル換算での製造業マネージャー層の一人あたりの賃金は、日系企業の進出が急増したこの数年の間、月額数 10 ドルから100ドル以上に上昇しています。

他の東南アジア諸国と同様、ミャンマーにおいても給与水準は上昇していますが、ミャンマーは急上昇しており、雇用側にとって悩みの種となっています。

人件費

https://diamond.jp/articles/-/87624?page=6

最後に

「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるミャンマーは可能性を秘めた国ですが、海外から企業を誘致するには、不安定な政治とインフラの整備の遅れが今後課題になっていくでしょう。

チャイナプラスワン、タイプラスワンの拠点としてミャンマーに進出する企業も増えているので、現地情報を収集したい場合は是非お問合せください。

<参考>
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66223970T11C20A1EA2000/

http://japanese.cri.cn/20201117/d2b57f5c-1a24-9150-b91d-7d89af2a9371.html

https://globe.asahi.com/article/13878169

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65727500R01C20A1FF8000/

https://www.kyoto-seika.ac.jp/freedom/sp/aungsansuukyi/profile.html

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/06/post-10350_4.php

https://www.msf.or.jp/news/detail/special_3586.html?utm_medium=cpc&utm_source=google_grants&utm_content=douteki

https://www.eyjapan.jp/services/specialty-services/global-support/emerging-markets/topics/pdf/2013-02-28-nikkan-04.pdf

http://asia-community.net/%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%B0%B4%E6%BA%90%E3%83%BB%E9%A3%B2%E6%96%99%E3%81%B8%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%A9%E6%95%B4%E5%82%99%E3%81%AF%EF%BC%9F/

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/06_hakusho/ODA2006/html/honbun/hp102060200.htm

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/031300053/

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/15/world/010900495/?P=1

https://kuno-cpa.co.jp/myanmar_blog/%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AE%E7%94%A3%E6%A5%AD%E5%88%A5%E5%8B%95%E5%90%91%EF%BD%9E%E4%BB%8A%E3%80%81%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AF%E3%81%93%E3%81%86/

https://www.bbc.com/japanese/50753973

https://www.bbc.com/japanese/46190041

https://blog.conocer.jp/asean-07/

https://gooddo.jp/magazine/peace-justice/refugees/rohingya_refugees/

https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20130607/483305/

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