世界人口は年々増加傾向にあり、2022年には80億人を突破しました。このうち約半数におよぶ40億人は低所得者層といわれており、人口ピラミッドでみると底辺部分に値することからBOP(Base of the Pyramid)と呼ばれています。
ビジネスの面においては、特に発展途上国に多いBOP層に対し、少しでも暮らしやすい社会を築きあげるための取り組みである「BOPビジネス」の事例も多いです。
本記事では、BOPの内容からBOPビジネスの事例やメリットを解説します。BOPビジネスを通して発展途上国におけるブルーオーシャンの事業が見つかるかもしれません。今後海外での事業を拡大させたいと考えている場合は、BOPの概要やBOPビジネスの取り組みをおさえて、今後のビジネスチャンスのヒントに役立てましょう。
BOPとは
BOPとは、世界人口をピラミッドであらわした際に上から「富裕層、中間層、低所得者層」と三段階で分類したうちの「低所得者層」にあたる人たちのことです。BOPの正式名称は「Base of the Pyramid」と表記され、文字通り世界人口の底辺層を意味します。日本語では、低所得者以外に「貧困層」などと呼ばれることもあります。
BOPにあてはまる基準は専門家により異なりますが、一般的には「一人当たり年間所得が購買力平価で3000米ドル以下」を指すことが多いです。ピラミッドの土台をなすことからも分かる通り、BOP層の人口は多く、40億人と推測されています。
BOPペナルティにはどのようなものがある?
BOP層の人々が、貧困であることにより受ける不利益のことを「BOPペナルティ」といいます。BOPペナルティは、貧困のレベルが高くなるほど生活にかかる費用も高額になることが課題です。
主に挙げられるBOPペナルティの中には、次のようなものがあります。
- 交通費が高くつく
- 購入できる商品が限られ、物価が高くなる
- 情報の取得手段がなく社会から孤立しやすい
下記で詳しく解説します。
交通費が高くつく
BOP層は中心部に住めるほどの所得がなく、基本的に中心部から離れた栄えていない場所で生活することとなります。必然的に、生活に必要な買い物や公的なサービスを受けるには目的地までの距離が遠くなり、交通費がかかることがネックです。
何時間もかけて歩く場合は交通費がかかりませんが、タクシーなどを利用することも多くなるでしょう。徒歩の場合は時間的コストがかかり、交通機関を利用すれば経済的コストがかかるため、郊外に住む恩恵はあまり受けられません。
購入できる商品が限られ、物価が高くなる
BOP層は、交通費以外の生活にかかる費用も高くなることが挙げられます。BOP層の住む地域は、いちばん近いマーケットでも遠い場合があるため、買い物をする場所を選択できないことが多いです。
時間やコストをかけて買い物へ行ったとしても、そのお店が安いとは限らず購入できる商品も限定されるため、必然と支払いが高くついてしまいます。特に中心部からはずれた位置にあるマーケットでは、商品を仕入れるための物流にコストがかかるなどの問題点から、商品の物価も高く設定されていることが多いです。所得の低いBOP層にとって、余計に生活を圧迫する要因となっています。
情報の取得手段がなく社会から孤立しやすい
BOP層は情報取得手段であるスマホやテレビなどを持っておらず、情報弱者になることが多いです。また、中心部から離れた場所に住んでいることで、必然と情報が入りにくくなり、国内や世界における情勢が把握しづらいことが挙げられます。
情報の取得手段がないと、自分たちが暮らす地域の一部の情報しか分からず、社会から孤立しやすいことがデメリットです。他にも、中心部からの情報が入らないことで、買い物する際も各商品の市場価値が分からず、商人から不当に高い値段でぼったくられてしまう可能性もあります。医療や教育の面においても情報格差があることは生活しづらく、不利益を被る可能性が高いです。
上記3つのペナルティを考慮すると、世界人口の多くを占めるBOP層が不自由なく生活できる社会の構築を目指すことが重要であるとわかります。BOP層の生活水準の引き上げや、所得格差をなくすためには、BOPビジネスの拡大が必要です。BOPビジネスの概要について、次の見出し以降で詳しく解説していきます。
BOPビジネスとは
BOPビジネスは、BOP層における貧困問題の一助を担い、低所得者層が生活しやすい環境構築を目指す取り組みのことです。BOP層にとってメリットが大きいことはもちろん、ビジネス者側にとっても社会貢献ができるとともに、利益も得られることがメリットになります。
BOPは発展途上国をはじめ世界人口の過半数を占め、ビジネスの観点においても有望な市場規模を誇るターゲットとして注目が高いです。
BOPビジネスのメリット
企業がBOPビジネスをおこなうメリットには、主に次の3つがあります。
- ブランディング・企業イメージの向上が期待できる
- イノベーションの促進につながる
- 先駆者利益を獲得できる
BOPビジネスは、低所得者層にとって生活の質を上げる一助となるため大きなメリットがありますが、反対にBOPビジネスを促進する企業側においてもメリットがあります。
特に海外進出を考えている企業においては大きなビジネスチャンスにもつながるため、メリットをおさえてBOPビジネスを前向きに検討しましょう。
各メリットを、下記で詳しく解説します。
ブランディング・企業イメージの向上が期待できる
BOPビジネスに取り組むことで、自社ブランドの確立や企業イメージ向上が図れるメリットがあります。BOPビジネスは近年、日本国内だけでなく世界中で注目されているホットビジネスです。世界へ先駆けて取り組めるビジネスであるとともに、BOP層に向けた雇用をおこなうことで、社会貢献を実施していることをアピールできます。
メイン事業の内容を活かしたBOPビジネスを展開できる場合、自社の強みを活かした取り組みができ、効率良く社会貢献ができるでしょう。もしメイン事業とは異なるビジネスをおこなっていたとしても、BOPビジネスに取り組むことで企業ブランドの価値が高まり、思わぬビジネスチャンスが獲得できるかもしれません。
貧困・低所得者層の支援をおこなうことで社会貢献につながり、自社のブランドイメージを確立できることは双方にとってメリットが大きいため、BOPに取り組む意味はあるといえるでしょう。
イノベーションの促進につながる
企業がBOPビジネスをおこなうことで得られるメリットには、イノベーションの促進につながることも挙げられます。今まで発展途上国を相手にビジネスを展開してこなかった場合、BOP市場における販路や製品開発はこれまでの事業形態と大きく変わることが多いでしょう。
もし国内や先進国を中心に活動してきた場合、BOPビジネスに取り組むことでよりグローバルな視点を持つことができます。BOP向けの製品開発の中で、これまでとは異なる革新的なアイデアやサービスが生まれ、ビジネスモデルを再構築できる可能性も高いです。
先駆者利益を獲得できる
BOP市場はブルーオーシャンとして近年注目を浴びているマーケットでもあります。BOPビジネスで発展途上国を開拓できれば、開拓先での先駆者利益を獲得できることが大きなメリットです。
BOPビジネスでは競合他社が少ない土地で勝負できることが特徴として挙げられるため、大手企業でなくても比較的挑戦しやすいビジネスといえるでしょう。特に中小企業は素早い決断力と小回りがきくため、柔軟に対応できる行動力がBOPビジネスに向いています。日本人は困っている人に手を差し伸べる慈悲心も兼ね備えているため、BOPビジネスに最適だという意見もあります。
もし海外進出としてBOPビジネスを考えているのであれば、進出先での先駆者利益獲得を目指して計画を立てると良いでしょう。
BOPビジネスにおける注意点
BOPビジネスはブルーオーシャンだからといって、よく計画も立てずに事業を始めると失敗する可能性もあるため注意が必要です。実際に、調査不足によりBOPビジネスを撤退せざるを得なくなった企業もあるため、BOPビジネスにおける注意点をおさえましょう。
BOPビジネスを進めるうえでの注意点には、主に以下の3つが挙げられます。
- 適切な価格設定をおこなうために収益性を予測する
- 現地のインフラ環境を調査する
- 現地の人のニーズに合わせたサービスを提供する
下記で詳しく解説します。
適切な価格設定をおこなうために収益性を予測する
BOPビジネスを成功させるには、適切な価格設定が重要です。貧困層相手だからといって「この程度の低価格に設定すれば買ってもらえるだろう」という安直な考えを持つことは避ける必要があります。
現地の人の商品やサービスを購入してもらうためには、根拠に基づいた価格設定をおこなうとともに、その価格設定で自社に収益があるかを予測することが重要です。市場を予測し、商品やサービスがどれくらい売れるのか、いくらの価格設定なら利益が出るのかを含めて設定しないと、長期的なビジネス発展にはつながりません。
現地のインフラ環境を調査する
BOPビジネスの注意点として、現地のインフラ環境を調査する必要があることが挙げられます。BOPビジネスの進出先は、インフラ設備が整っていない可能性が高いです。自社で売りたい商品やサービスがあったとしても、販路がなければ難しい場合もあるでしょう。
他にも、電気や水道などビジネスに必要な要素は整っているのか、整っていない場合はどこから調達するのかなどを良く検討する必要があります。検討には現地調査などをおこない、ビジネスが成功できるビジョンがみえるかどうかを考えましょう。
現地の人のニーズに合わせたサービスを提供する
BOPビジネスでは、現地のニーズに合わせたサービスを提供することも大切な要素です。これまで発展途上国のような貧困地域に進出したことがない企業の場合、自社の商品やサービスをそのまま提供しても進出先では受けが良くない可能性があります。
現地ではどのようなニーズがあり、自社のサービスをどう改良すれば売れるのかを検討しましょう。
BOPビジネスの成功事例
BOPビジネスが海外進出において有効な方法であることを紹介してきましたが、ここでは日本企業がBOPビジネスで成功した事例をいくつか紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
ヤクルトの事例
BOPビジネスの成功事例のひとつに、ヤクルトが挙げられます。事業利益の半数以上は海外ビジネスから得ているヤクルトでは「ヤクルトレディ」という独自の販路を確立していることで有名です。
ヤクルトレディはそれぞれ個人事業主という形で、全国・世界各地で消費者の自宅や仕事場などに訪問してヤクルトを販売しています。女性販売員を利用することは、販売当初のターゲットである主婦層に受ける方法であり、次第に成功すると各地へ拡大をみせていきました。
このヤクルトレディによる販売方法は、まさにBOPビジネスにぴったりの手法です。販売店などを構える必要がないためインフラ問題も比較的解決しやすく、地域や現地人に密着できる販売方法はターゲットからの信頼も獲得できます。BOPの課題にうまく対処できている販売方法だといえるでしょう。
豊田通商の事例
BOPビジネスには、自社の商品やサービスを直接提供するだけではなく、その土地で問題となっている課題に対しビジネス支援をおこなった事例もあります。
豊田商事は、地域のグループ会社と協力しながら貧困地域のインフラ整備に貢献したことでBOPビジネスを成功させました。具体的には、電気不足が問題となっていたパキスタンへ支援をおこない、現地の人が生活しやすい環境を構築したことが挙げられます。
事前に資金問題や各方面との調整をおこないながら進めたことでプロジェクトは問題なく成功し、その後も学校の設立など、地域住民に密接して社会貢献をおこないました。
上記のような現地の人の生活水準向上のための取り組みは、自社ブランドの確立や信頼の獲得につながり、その後の海外進出において有利に働くでしょう。
まとめ
本記事では、BOPの意味やBOPビジネスの概要、メリット、成功事例などを紹介しました。世界の約半数を占めるBOP層は、日々の生活で多くの問題や課題をかかえています。
企業が発展途上国に対しBOPビジネスをおこなうことでBOP層の悩みや問題を解決できるとともに、社会貢献につながり自社のブランド力やイメージ向上が期待できます。しっかり計画を立ててBOPビジネスで成功できれば、進出先にも自社においてもメリットが大きいです。
海外進出を考えている場合は、BOPビジネスへの取り組みを視野に入れて検討してみてはいかがでしょうか。