企業で新しい事業やプロジェクトを進める際に、フィジビリティスタディという言葉をきいたことがある方もいるのではないでしょうか。
フィジビリティとは「実現可能性」を意味し、新プロジェクトを実現すべきかを把握する指標のことです。
実現可能性を把握せずにいきなり新規ビジネスを始めることは危険性が高いですが、実際にどのような方法で判断すればいいのかわからないという事業者も多いことでしょう。 本記事では、実現可能性をはかるために実施されるフィジビリティスタディについて詳しく解説。フィジビリティスタディの進め方や、海外進出における利用方法と具体例も解説していますので、これから海外進出を検討している方も、ぜひ参考にしてみてください。
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フィジビリティスタディとは
フィジビリティスタディとは、新事業や新プロジェクトを始めるにあたって、その実現可能性を図るために調査・検証することです。フィジビリティは「実現可能性」、フィジビリティスタディは「実行可能性調査」とも呼ばれています。英語では、「Feasibility Study」と表記され、「FS」や「F/S」と呼ばれることも。
フィジビリティスタディは、単に実現可能性をはかるだけでなく、事業を進める上での悩みを解消し、取り組むべき施策を判断することも可能です。たとえば、新規事業を始める際に以下のような悩みを抱えている場合、フィジビリティスタディを実施すると良いでしょう。
- 自社商品は海外で売れるのか
- 海外に進出したいけれど、どこの地域に進出すればいいのかわからない
- 海外に商品を販売する際、必要となる準備項目が知りたい
フィジビリティスタディを実施することで、上記のような不安や疑問を払拭し、ビジネス失敗のリスク予防にもつながります。
フィジビリティスタディの目的
フィジビリティスタディを実施する目的は、ビジネスが自社にとって有益になるかどうかを判断することです。新規ビジネスの実現可能性をはかるためには、多角的な視点からの調査が必要となります。他にも、企業にとって有益なビジネスとなるような最適な実現方法の洗い出しも、フィジビリティスタディの重要な役割です。
プロジェクトの難易度や規模によっては、フィジビリティスタディの期間は長期にわたり、長ければ数年かけて調査を実施することもあります。
フィジビリティスタディによって実現可能性を証明できれば、投資家からの注目を集めることも可能となるでしょう。特に中小企業にとって、新規ビジネスにおける資金調達は重要であるため、今後のビジネスを左右する大きな取り組みといっても過言ではありません。
フィジビリティスタディ誕生の背景
フィジビリティスタディが誕生したといわれているのは、1933年。アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトが、世界恐慌の対策としてテネシー川流域開発公社(TVA)を設立した事例が発端です。
多角的な面から綿密な実行可能性調査を実施し、失敗のリスクを防止したことから、フィジビリティスタディの重要さが確立されていきました。
以降も、大企業や民間企業においてフィジビリティスタディが実施されるようになり、現在では新規ビジネスの立ち上げに必要不可欠な施策として注目されています。
フィジビリティスタディにおける4つの要素
フィジビリティスタディは、多角的な面から調査が必要と述べてきましたが、主に次の4つの要素から分析することが大切です。
- 技術面でのフィジビリティスタディ
- 財務面でのフィジビリティスタディ
- 業界・市場で面でのフィジビリティスタディ
- 運用面でのフィジビリティスタディ
企業が新たに海外進出を考えている場合を例に、下記で詳しく解説します。
技術面でのフィジビリティスタディ
海外進出する際、自社の生産技術のまま提供が可能なのか、現地ニーズに適応した生産・提供能力があるのかを正確に評価する必要があります。ビジネス立ち上げ時のみではなく、継続的に技術を提供し続けられるかも重要な要素です。
また、設備や企業が持ち合わせた技術力だけではなく、技術力のある人材確保を継続的に続けていけるかという視点も考える必要があります。
財務面でのフィジビリティスタディ
海外進出には、どれくらいの資金が必要になるのか、企画段階から事業に至るまでのコストや費用対効果はどれほどなのか、などをあらかじめ把握しておくことが重要です。
財務面では特に、利益額や投資収益率(ROI)を予測するためにフィジビリティスタディを実施する必要があります。他にもプロジェクトごとの内部利益率や、投資額の採算性の調査が必要です。
業界・市場面でのフィジビリティスタディ
海外進出するには、進出先の政治や宗教にかかるマーケット需要、経済状況などを把握することが必要不可欠です。日本国内で成功しているビジネスでも、海外では同じように進めても成功しない可能性があります。フィジビリティスタディでは、自社商品が現地の人たちの需要にマッチし、売上につながるのかを調査することが大切です。
フィジビリティスタディの4要素の中でも主に外部要因の割合を大きく占めるのが、この業界・市場面での調査となります。外部脅威などの自社ではコントロールが難しい側面にもしっかり対策できるような調査・分析をすることが重要です。
運用面でのフィジビリティスタディ
運用面では、主に企業内における人的リソースや組織構造が重要となります。新規ビジネスを進めるにあたって、そのプロジェクトを完遂する能力があるかを調査することが重要です。
プロジェクトの立ち上げやスタートしてまもなくの間は上手くいったとしても、成果があがるまで持続的に運用するには十分な知識や対策、人員が必要となります。プロジェクトが途中で失敗しないためには、運用面においてのフィジビリティスタディもしっかりおこなうのがビジネス成功の秘訣です。
フィジビリティスタディとPOCの違い
実現可能性調査と訳されるフィジビリティスタディは、「概念実証」と訳されるPOC(ポックまたはピーオーシー)と混同されるケースが多いです。下記でその違いを解説します。
POCとは
まずPOCとは、新規プロジェクトを進めるにあたって、プロトタイプを用いて検証することを指します。ビジネスが成功するかを考えるうえで、机上の空論のままとなってしまっては無駄なコストになってしまいます。実際に試作品の作成や実装をおこない、それに基づいて検証をおこなうことで、より実現可能性を精密にはかることが可能です。
フィジビリティスタディとの違い
新規のプロジェクトを実現するべきかの調査を実施することを、フィジビリティスタディといいます。前述のとおり、広い視点を持ってそのビジネスが成功できるか、成功するにはどのような手立てが必要かを見極める段階です。
実際にプロトタイプなどを作成する前段階でおこなわれる調査のことであり、机上で議論されるイメージを持つとわかりやすいでしょう。
反対にPOCとは、フィジビリティスタディで得た調査結果をもとにプロトタイプを作成し、プロトタイプが完成した時点から検証する段階のことです。より本番に近い想定で検証がおこなわれるため、課題が発見しやすいといわれています。
新規ビジネスが成功するのかを判断して綿密な計画を立てるには、フィジビリティスタディとPOCのどちらも重要となるので、それぞれの役割を理解しておきましょう。
フィジビリティスタディの進め方5STEP
フィジビリティスタディの重要性を把握したところで、具体的にどのように進めるのかを5STEPにわけて紹介します。
手順は以下のとおりです。
- 課題点の明確化
- 課題解決に向けたプロセスの決定
- 代替策の作成
- 評価項目の明確化
- 調査結果の評価
下記で詳しく解説します。
課題点の明確化
フィジビリティスタディにおける最初のステップは、課題点の明確化です。まず新規ビジネスを進めるうえで、どのような課題や問題点があるのかを洗い出す必要があります。たとえば、新規のプロジェクトを計画する段階で予算を設定しますが、課題が浮き彫りになることで想定よりも大幅な予算オーバーとなることが判明するかもしれません。
コストだけでなく、プロジェクトにかかる期間や人員を適切に把握することや、そもそもの実現可能性を調査することが重要です。
もし課題点を明確化せずにいきなりプロジェクトを進めてしまうと、思わぬトラブルで計画中止を余儀なくされ、途中までかけたコストや時間が無駄となる可能性もあります。時間をかけてでも、課題はできるだけ詳細に洗い出すと良いでしょう。
課題解決に向けたプロセスの決定
課題が洗い出せたら、次は見つかった課題を解決するための計画を立てる必要があります。各課題を解決するための要求事項をリストアップし、その課題解決にかかる期間や予算も算出することが大切です。 課題解決には、人員確保や予算の拡充、必要となるシステム導入の検討や設備・資材の確保など、多角的な視点から考える必要があります。おおよその計画を立てるのではなく、課題が解決できる見通しが立つ程度まで、綿密なプロセスを組みましょう。具体的なプロセスを確立しなければフィジビリティスタディが無駄となってしまうので、重要な作業となります。
代替策の作成
3ステップ目は、代替策の作成を実施しましょう。いくら課題解決のために細かい計画を立てていたとしても、実際に着手すると実現が困難となるケースも出てくる可能性があります。
あらゆる角度から起こり得る問題を模索し、複数の代替策を用意しましょう。代替策を作成したら、実現可能であるかを確認することも重要です。臨機応変に対応できるような柔軟性のある対策を用意することで、安心してプロジェクトを進められます。
評価項目の明確化
複数の代替策が作成できたら、最終的にフィジビリティスタディを評価するための評価項目を明確化しましょう。評価項目は内部的な影響だけではなく、プロジェクトを遂行したことによる外部への影響や、競合他社に対する優位性の持続度合い、市場動向や法律にかかる規則などの視点から作成する必要があります。 多くのケースを想定し、実現可能性について広い視野で評価できるように準備することが大切です。
調査結果の評価
最後に、フィジビリティスタディの評価をおこないます。ステップ4で設定した評価項目に基づき実施しましょう。
評価内容は、プロジェクト担当者や、企業や投資家の意思決定に大きく関わります。最終的に大事な要素となるのはプロジェクトにおける利益なので、評価資料には正確に結果をまとめましょう。
フィジビリティスタディの具体例
実際に海外進出を検討する場合を想定し、フィジビリティスタディの具体例を解説します。
日本企業が多く進出している国が、自社の新しい輸出先として候補にあがった場合、比較的容易に進出できる想定をすることもあるでしょう。しかし、このような場合でもフィジビリティスタディが必要です。
たとえ現地の経済状況が良くて、治安が安定していたとしても、フィジビリティスタディを実施することで問題が発覚するかもしれません。自社の状況では、進出準備に期間と費用が膨大にかかることが判明する場合もあります。
フィジビリティスタディの段階で把握できれば、多額のコストをかける前に進出を中止・延期することが可能となり、費用損失を防ぐことが可能です。
もしフィジビリティスタディが不十分のまま海外進出してしまった場合は、費用の損失だけでなく、最悪の場合企業自体の信用も下がってしまう場合があるため、フィジビリティスタディの実施が重要となります。
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まとめ
本記事では、フィジビリティスタディの意味やPOCとの違い、具体的な進め方などを紹介しました。
新しい事業やプロジェクトなどを始める際には、綿密な計画が必要となります。新ビジネスの失敗を防ぐために、しっかりフィジビリティスタディを行い、想定できるあらゆる課題について事前に対応策を考えておくことが重要です。
得られた結果によっては大幅な計画変更や、プロジェクトの中止・延期などを決断することも、フィジビリティスタディにおける大切な考え方となります。
フィジビリティスタディを適切におこない、新しい取り組みを成功させましょう。