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ベトナムを販売市場として攻める——1億人・所得5,000ドル・EC×SNS・南北二重構造
2026.07.27 更新 / PROVE通信編集部
監修:森英朗(グループ代表)
ベトナムを販売市場として攻める——1億人・所得5,000ドル・EC×SNS・南北二重構造

ベトナムを販売市場として攻める——1億人・所得5,000ドル・EC×SNS・南北二重構造

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「ベトナム=安い工場」という前提は、消費市場の側から見ると急速に古びています。人口1.02億人、一人当たりGDPは約5,066ドル(2025年)と、耐久消費財や外食・サービスの消費が動き出す水準に入り、2026年上半期の最終消費は前年同期比+8.15%で伸びました。ただし、この市場で成果を出せるかどうかは、結局のところ北部と南部を「別の国」として扱えるかにかかっています。商慣習も、消費者の好みも、組める相手も、ハノイとホーチミンではまるで違うからです。以下では、消費の現在地、EC×SNSのチャネル設計、現地大手との組み方、そして南北の使い分けを順に見ていきます。

消費市場としてのベトナムの現在地——「工場」から「市場」へ

ベトナムというと生産拠点の印象が強いですが、消費市場としての条件が揃い始めています。人口は1.02億人(2025年)で東南アジア3位。一人当たりGDPは約5,066ドル(2025年)と、一般に耐久消費財・外食・サービス消費が加速するとされる水準帯です。マクロでも、2026年上半期の最終消費は前年同期比+8.15%(国家統計局)と、GDP成長(+8.18%)と足並みを揃えて伸びています。

デジタル面の受容性も高く、インターネット普及率は84.2%(2024年)。都市部の若年・中間層はスマートフォン起点で商品を発見し、購入まで完結させます。「所得はまだ低いから早い」ではなく、「都市中間層のデジタル消費はすでに立ち上がっている」が2026年時点の実態です。

販売市場としてのベトナム・要点数値
1.02億人 人口(2025年)|5,066ドル 一人当たりGDP(2025年)|+8.15% 最終消費の伸び(2026年上半期・前年同期比)

チャネル設計:EC×SNSの組み合わせが基本形

ベトナムの消費財市場で成果を出している型は、ECモール販売にSNS発信を組み合わせるものです。ただしこの数年で、「どのモールに出すか」「なぜSNSが必須なのか」の答えが大きく変わりました。順に押さえます。

出店先は事実上2択になった。主要4モール(Shopee・TikTok Shop・Lazada・Tiki)の2025年の流通総額は429.7兆VND(約164億ドル)で前年比+34.75%。ベトナムの小売市場全体(2,163億ドル・国家統計局)の伸びが+8%ですから、EC市場は小売全体の4倍超のスピードで伸びています。問題はその中身で、Shopeeが56.0%、TikTok Shopが41.3%、この2社で97%を占め、LazadaとTikiは合計3%まで縮小しました(前年6%)。特にTikTok Shopは2024年の29%から急伸しています。数年前の「まずLazada」という設計は2026年時点では通用せず、出店先の検討は実質ShopeeとTikTok Shopの2択です(いずれもMetric社「オンライン小売プラットフォーム市場レポート2025」2026年1月公表)。

SNSが必須なのは、「発見」の入口が変わったから。TikTok Shopの急伸は、検索して比較して買うのではなく、動画やライブ配信で偶然出会って買う——いわゆるショッパテインメント型の購買が主流化したことを意味します。つまり、商品ページを整えて広告を当てるだけでは売上が立ちません。動画制作・ライブ配信・KOC(現地の中小インフルエンサー)起用を、継続的に回せる現地体制があるかどうかが売上を分けます。日本企業がつまずくのはほぼここで、アカウントは開設できても、週次で配信を回す人員・ベトナム語のクリエイティブ・在庫連動が用意できず失速するケースが目立ちます。

Zaloは「集客」ではなく「購入後と再購入」の基盤。Zaloは2026年第1四半期末で月間利用者8,020万人(前年同期7,770万人)・1日約21億メッセージ、運営元VNGの開示では全国の利用率81%に達します。実務では注文確認・配送通知・再購入案内をZalo公式アカウント(OA)や通知サービス(ZNS)で送るのが標準で、日本企業がメール・SMS・チャットツールに分けて考える役割がここに集約されます。ただし認証済みOA(公式マーク付き)の取得にはベトナムの事業登録証明書と+84の電話番号が必要で、ZNSを使うにはZalo Business Solutions(旧Zalo Cloud Account)の契約が前提です。ベトナム法人を持たない場合、実務上は認証コード(OTP)の送信程度に用途が限られ、顧客と継続的に対話する使い方はできません。現地法人・パートナー・認定リセラーのいずれかを確保する必要があり、「日本から越境ECだけで様子見」という設計では顧客接点の根幹が組めない点は、初期段階から織り込むべきです。

売れている価格帯は「中の上」に動いている。2026年第1四半期の価格帯別売上構成比を見ると、最大は10万〜20万VND(約590〜1,180円)の24.8%、次が10万VND未満の21.2%です。ここだけ見ると低単価市場に見えますが、重要なのは変化の方向で、20万〜35万VND帯は16.6%→17.5%、35万〜50万VND帯は8.6%→9.4%、50万〜75万VND帯は6.5%→7.1%と中価格帯が揃って拡大し、逆に100万VND超(約5,900円超)の高単価帯は17.2%→15.8%へ縮小しています。最大シェアの10万〜20万VND帯も25.9%から微減です。つまり伸びているのは「約1,200〜4,400円のそこそこ良いもの」で、日本ブランドが得意な品質・安全訴求と価格帯が重なります。一方、5,900円超の高単価をオンラインで通すのは現時点では逆風です。

公式店(Shop Mall)に売上が集中している。Shopee・Lazada・TikTok Shopの3モールで、公式店は店舗数では全体の2.47%にすぎないのに売上の32.4%を占めます。しかも公式店の店舗数は前年同期比13%減っているのに、公式店の売上は+53%。Metricはこの背景を、法人格の明示・税務の透明性・運営基準といった要件が「自然なフィルター」として働き、それに適応できる売り手に売上が集中していると説明しています。年単位でも2025年に出店者数は約65万店から60.2万店へ7.4%減少しました(偽造品・規格外品の取締り強化も背景)。日本企業にとっては、この規制強化の流れは追い風です。法人格・納税・品質表示を正面から満たせることが競争優位になる市場に変わりつつあり、実際に南部ホーチミン圏の中間層向けでは、化粧品・食品・アパレルで公式店型の実績が積み上がっています。

もうひとつの有力ルートが、現地コングロマリットと組むことです。ただし「大手だから棚を借りられる」という単純な話ではなく、各社が押さえている資産の種類がまるで違います。マサングループ(Masan Group)傘下のWinCommerceは、WinMart・WinMart+ブランドで全国5,000店超(2026年6月時点)を運営するベトナム最大の近代小売チェーンで、年内6,100店を目標に拡大中。2026年1〜5月の新規出店の8割超が地方部向け(WinMart+ rural型)で、大都市の外まで面を押さえているのが強みです。一方、ビングループ(Vingroup)自動車(VinFast)・住宅開発(Vinhomes)・商業施設(Vincom Retail)が中核で、WinMart/WinMart+はすでに2019年末にマサンへ売却済みです。ビングループと組む場合は「棚を借りる」ではなく、住宅開発エリア内の店舗テナント・EVディーラー網といった、生活圏に入り込む形の参入になります。

WinCommerceとの取引を検討する際は、交渉の実態も踏まえておくべきです。同社は2020年以降、店舗当たりの資本支出・運営費を約3割圧縮するなど収益性重視の運営へ転換し、2026年通期でVND1兆(約38百万ドル)の利益を目標にしています。新規ブランドの取り扱いも、売上・回転率の実績で継続の有無が判断される傾向が強く、「棚を確保できた」ことと「棚を維持できる」ことは別問題です。なお、ベトナムの近代小売(スーパー・コンビニ等)の普及率はまだ全国の14%程度(WinCommerce調べ)で、伝統的な小規模店・市場が主流のため、EC×SNSと現地大手の棚は「代替」ではなく「併用」で考えるのが実務的です。

確認ポイント ①出店先をShopeeとTikTok Shopの2択で設計しているか(Lazada中心の旧設計のままになっていないか)。②動画・ライブ配信・KOC起用を週次で回せる現地体制(制作・ベトナム語・在庫連動)を確保しているか。③自社商材の現地想定価格は、シェアが拡大している20万〜75万VND(約1,180〜4,400円)帯に置けるか。100万VND(約5,900円)超になる場合、オンライン単独ではなく実店舗・法人販売を含めた設計にしているか。④ZaloのOA/ZNSを使う前提なら、ベトナム法人・現地パートナー・認定リセラーのいずれかを確保しているか。⑤自社の商材は「WinCommerceのような配送・棚型」「Vincom Retailのようなテナント型」「Vinhomesのような生活圏埋め込み型」のどれに向くか。

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最大の落とし穴:北部と南部で「別の国」

ベトナム市場でもっとも多い失敗が、南北の違いを軽視した一括展開です。「北部と南部で違う」というだけでは対策になりません。実務でどう現れるかを具体的に見ておきます。

訴求軸が逆に効くことがある。北部(ハノイ)は政治・行政の中心地で、企業の実績・ブランドの歴史・保証といった無形の価値を重視し、購買判断に時間をかける傾向があります。南部(ホーチミン)は商業都市として発展し、新商品・トレンドへの受容性が高く、決定が速い傾向があります。北部で効く「老舗・実績・保証」訴求の広告をそのまま南部に流すと反応が弱くなりやすく、逆に南部で効く「新登場・限定・割引」訴求を北部にそのまま流すと、安さ以外の価値を疑われて逆効果になることがあります。

ただし「南部はデジタル、北部は対面」という理解は誤りです。ECは南部だけの現象ではありません。ベトナム電子商取引協会(VECOM)や工業貿易省のEC指数レポートは、ハノイとホーチミンの2都市でEC取引規模の7割超を占める状態が2016年以降続いていると繰り返し指摘しており、政府は地方の比率を引き上げる目標を掲げてきました。つまりデジタルで薄いのは北部ではなく地方部です。逆に地方では近代小売網の出店が北部・中部に集中しており、WinCommerceの2026年1〜5月の新規出店は北部339店・中部119店が中心でした。チャネルの重心が変わるのは南北ではなく「都市か地方か」の軸で、都市はEC×SNS、地方は店舗網が先に届く、と切り分けるのが実務的です。南北で分けるべきなのは予算配分ではなく、上記の訴求軸とパートナー選定です。

なお、この南北差は縮小方向にあります。マッキンゼーは、国内移動の増加とデジタルメディアの普及により地域間の消費者の嗜好が収斂しつつあり、従来のような「北向け・南向け」の型どおりの出し分けだけでは足りなくなっていると指摘しています。地域のステレオタイプに寄りかかった設計は、それ自体が新しい落とし穴になり得ます。南北の違いは仮説として持ちつつ、実際の顧客インタビューと販売データで検証する——これが2026年時点での正しい構えです。

確認ポイント 広告の訴求軸(信頼性・実績訴求か、トレンド・お得訴求か)を南北で分けているか。チャネル予算は「南北」ではなく「都市(EC×SNS)/地方(店舗網)」の軸で組んでいるか。パートナー候補との商談スケジュールは、北部の意思決定の速度差を織り込んでいるか。南北の想定を、現地の顧客インタビューと実売データで検証する仕組みを持っているか。

いま織り込むべき前提 規制環境も動きます。ベトナムは投資法・企業法・EC規制・データ移転規制が毎年のように改正され、近年は外資ECプラットフォームへの課税強化やデータローカライゼーション要件の強化が進みました。EC・デジタルを軸に攻める場合、規制のリアルタイム監視と許認可の年次レビューを運用に組み込む必要があります。

まとめ:ベトナムを販売市場として攻める4条件

  1. 北部・南部は訴求軸とパートナーを分ける(ただしチャネル予算は「都市/地方」の軸で組む。南北差は縮小方向なので実データで検証する)
  2. EC×SNSの基本形を押さえる(出店はShopee・TikTok Shopの2強で97%/発見はライブ・KOC/購入後はZalo。ZaloのOA運用にはベトナム法人が必要)
  3. 現地大手と組む選択肢(WinCommerce=マサンの棚・物流/Vinhomes・Vincom Retail=ビングループの生活圏)を資産の違いを踏まえて検討する
  4. EC課税・データ規制の変化を監視する運用を最初から組み込む

関連して読む:ベトナム財閥のビングループ(Vingroup)を徹底解説ベトナムのマサングループ(Masan Group)とは?/ 数字で見る:ベトナムの市場データ(PROVE Global Data Hub)

主な出典

ベトナム国家統計局(NSO)2026年第2四半期・上半期社会経済統計(2026-07-03発表・GDP/最終消費)/World Bank系列(人口・一人当たりGDP 2025年、インターネット普及率2024年=PROVE Global Data Hub反映値 2026-07-24時点)/Metric「オンライン小売プラットフォーム市場レポート2025」(2026-01-15公表・4モールGMV 429.7兆VND、Shopee 56.0%/TikTok Shop 41.3%、出店者数60.18万店)およびMetric「ベトナムEC市場レポート2026年第1四半期」(価格帯構成比・Shop Mall比率・VnEconomy 2026掲載)/Zalo・VNG開示(2026年Q1末 月間8,020万人・1日約21億メッセージ・全国利用率81%)、Zalo Official Account公式ドキュメント(認証OAの事業登録証明書・+84電話番号要件)/VECOM「ベトナムEC指数レポート」および工業貿易省系レポート(ハノイ・ホーチミン2都市でEC規模の7割超)/McKinsey「The new faces of the Vietnamese consumer」(地域差の収斂傾向)/WinCommerce・Masan Group公表資料(2026年6月・5,000店舗達成、2026年通期利益目標、近代小売普及率14%)/Vingroup事業構成(VinFast・Vinhomes・Vincom Retail、WinMart系は2019年末にMasanへ売却)/南北の消費者行動差はハノイ・ホーチミンの市場調査各社レポートに基づく一般的傾向/EC×SNSチャネル・規制動向はPROVE現地支援実績に基づく(2026年時点)。数値は調査時点のもので、最新の一次情報をご確認ください。

※2026年7月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。

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