フィリピンにおける小売業のビジネス事業の現状と可能性について、食文化の側面からお伝えします。
フィリピンのビジネス事情
フィリピンでのビジネスは、日本と同じようにモノゴトが進まないことが多々あります。
取引先が時間を守らないようなことは日常茶飯事ですが、行政手続きが1回では終わらず何度も役所に足を運ばなければいけなかったり、従業員の健康診断に3日かかったり…
渋滞も年々悪化しており、何を行うにも時間がかかります。
フィリピンの日常生活全体において予定より時間が遅れる状況のことを「フィリピノタイム」と現地の人々は言っています。
「フィリピノタイムだから遅れるのは当たり前」という感覚がどこかしらあり、日本と違って遅刻に対してあまり失礼だと思わない傾向が強いです。
日本では余裕をもって10分以上前に到着することはビジネスパーソンにとって常識ではありますが、この点では文化、考え方の違いが生じています。
もしフィリピンへ行った際にフィリピノタイムに直面した場合、初めはなかなか受け入れることが難しいとは思いますが、徐々に慣れていくしかありません。その場に合わせて柔軟な対応を取ることは、フィリピンに限らずどの国においても非常に重要です。
フィリピンで対応力を養えば、その力はあらゆる国での予想外な出来事に対しても活きてくるでしょう。
心に余裕を持って、現地の文化を受け入れる必要があります。
時間に対してはルーズな傾向が強いというマイナスイメージのあるフィリピンですが、親日国家という面ではとてもプラスイメージです。
ビジネスや日常生活においてこの親日派の多さには驚く方も多いでしょう。
2018年にアウンコンサルティング社が出した親日派のフィリピン国民の割合によると、およそ98%もの人々が日本が「大好き」または「好き」と回答しています。
ビジネスにおいて、フィリピンが日本に良い印象を持っていると感じた場面は、急な事情などでアポイントを取らずに大手企業へ訪問することになっても、日系企業であると紹介すると、部長や副社長クラスの方とお会いすることができるケースが多いです。
このようにフィリピンでは日本とのビジネス提携にとても前向きです。
それはフィリピンへのODA(政府開発援助)を50%以上出し、どの国よりも一番フィリピンを支えている日本の存在が深く関わっています。
日本のODAは空港、高速道路の建設といったインフラの整備などに使われ、フィリピンの経済成長に大きく貢献しているからです。
このようにフィリピン国内に日本の大きな影響力があるため、ビジネスの面でも日系企業との提携に前向きなフィリピンの会社は多いのです。
その他、フィリピンのショッピングモールで日系商品のPRをお手伝いした際には、現地の人たちの日本製商品への関心度の高さに驚きました。このようなことからも、フィリピンには、日系企業がビジネスしやすい土壌があると感じます。
フィリピンのマクタン・セブ空港で撮った写真。
日本のODAによって空港の一部が建設されたことを示す。
白米が主役のフィリピンの食卓
フィリピンの食卓では、白米が主役だというのはご存じでしょうか?
食卓には、大量の白米と数々のおかずが並びます。
おかずは鶏、豚肉がとても多く、フィリピン人はみんな肉が大好きです。
フィリピンでは多くの家庭でニワトリを買っているところが多いため、鶏肉は様々な料理に使われ愛食されています。豚肉は鶏よりも少し高価です。
レチョンという子豚の丸焼きは大人数でのホームパーティーなどで食べられる料理として有名です。
フィリピン南部に位置するミンダナオ島ではイスラム教徒の人々が多い地域があるため、そうしたところでは宗教上豚肉は食べられておらず、チキンがメインのおかずになってます。
どれも味付けが甘く、非常に濃いです。
そのためとにかくご飯がすすみます。
フィリピンではファストフードでもフライドチキンとご飯、甘いパスタとご飯、魚とご飯など、どんなおかずにもご飯と共に食べます。
そんなフィリピンの食文化ですが、日本のようなふりかけやお茶漬けのような白米と相性の良い副食物があまりありません。
フィリピンの小売店ではほとんど見かけることはないです。
以前フィリピンの方に日本のお土産として卵味とすき焼き味のふりかけを渡し、食べてもらったことがありますがとても好評でした。
フィリピン料理の甘くて濃い味付けが合っているようで、そうした味付けの副食物をフィリピンに進出させたり、開発していくことは大きなメリットがあります。
日本の副食物は、白米が好きな多くのフィリピンの人たちに受け入れられるでしょう。
お米はフィリピンの国産米が市場の大半を占めています。
食感は日本のものと比べるとパラパラしていて粘り気が少ないです。
以下の写真は一見、日本米を輸入しているかのように思えますが、実は日本品種のフィリピン栽培米なのです。
フィリピン栽培米であっても品種は日本米と同じなので、フィリピン品種のものに比べたら5倍近く高いです。
こうしたお米は現地の日本食レストランなどで使用されていることが多いようです。
フィリピンの小売店といえば、サリサリストア
サリサリストアは、フィリピン全土に80万以上存在するといわれる家族経営の小型小売店舗です。
フィリピンの人は、自宅から徒歩圏内のお店で買い物をする傾向があり、サリサリストアでは食品やドリンク、調味料や雑貨まで、生活に必要な商品を幅広く扱っています。
サリサリストアの特徴は、ばら売り・量り売りです。ほとんどの商品が「サシェ」と呼ばれる一回使い切りサイズで販売されています。
ばら売りで売られているのには2つ理由があります。
1つは気候面です。フィリピンは一年中温暖な気候であるため、食品などはすぐに腐ったり、劣化してしまいます。
せっかく買ったのに食べられなくなってしまうのは、もったいないうえ、お金の無駄使いにもなります。
一応冷蔵庫は中級層以上の家庭は持っていますが、こうしたリスクを考えてすぐに消費しきれる小袋を購入する人もいます。
また、気候が温暖なことにより虫が多く、大量のアリなどが糖分の入った食品に入り込んでしまうことが多々あります。
大袋は一回袋を開けるといくら封を閉めていても、小さな隙間から虫が入ってきてしまうのです。
アリがいたるところで大量にくっついてくる事にはフィリピンの人々は慣れていますが、できれば避けたい所です。
下の写真は大袋ではなく、日本から持ってきたインスタント食品ですが、少し蓋を開けて置いておいただけでこのようにアリが大量に集まってきます。
もう1つは家庭での経済面です。
ばら売りより、大袋を買った方が安いしお得なのではないかと思いますが、フィリピンの多くの家庭にとってはばら売りの方が好都合なのです。
その理由は、一回の購入時にかかる値段が安いからです。
実はフィリピンの家庭の収入では、大袋の物の出費だけで1か月の給料が飛んで行ってしまうことがあります。
いくら量が多くて安くても、それをいっぺんに買ってしまうと、後の生活が苦しくなってしまうのです。
そのため、必要になったものだけ少量で安く抑えて購入することで、ばら売り・量り売りの文化が浸透しているのです。
フィリピンは経済成長をし続けている国であるとはいえ、国民の貧富の格差は年々開いています。
豊かではない人々が大半を占めているので、そうした人々の暮らしに合わせた売り方はフィリピンへのビジネス進出の際に重要になってきます。
その重要さがよくわかる事例を一つご紹介しましょう。みなさんもご存じの味の素を例にあげます。
現在、味の素はフィリピン全土のサリサリストアやマーケットでよく目にします。
このように味の素が広く展開できた理由も、このばら売りに隠されているのです。
味の素は味付けもフィリピンの食文化にも合っているうえ、何かの料理にちょっと加えるだけで風味がよりよくなるなど、商品としては絶対売れると考えられていました。
しかし、進出当初はなかなか売り上げが伸びませんでした。
その原因を考えていたところ、ばら売りの商品を見て、大袋から小袋に変更しました。
これにより、今まで高い大袋に手を出せなかった人々が安い値段の小袋を買えるようになったことで、味の素の良さが多くの人々に知れ渡り、大きな売り上げを出すことができました。
今もなお味の素を愛食し、小袋を買い続けている消費者がたくさんいます。
味の素の他にマンダム、日清食品などが、サシェの形態で商品展開を行っておりサリサリストアでも定番商品として並んでいます。
その一方でこうした便利な調味料と販売方法を真似する企業も出てきます。味の素のライバルであるスイスの会社マギー(Maggi)がその一つです。
マギーはMagic Sarapという商品名で味の素と同じような調味料を販売しました。
また、味の素よりも価格を安くし、味もとても香ばしくおいしいため、ここ数年では味の素からMagic Sarapへと移っていった消費者も多くいます。
大型スーパー(MT:Modern Trade)について
サリサリストアの商品仕入れ元の多くは大型スーパーです。
大型スーパーで大量に購入した商品をサシェ単位でばらし、庶民が購入しやすい価格で販売をします。
次に大型スーパーについて話をします。
フィリピンには大型スーパーが大都市を中心に多く存在します。
地方都市でも少し栄えていて人口が密集しているところだと大体一つはあります。
代表的な大型スーパーは大型ショッピングモール内に入っているものが多いですが、施設内ではなく一軒としてスーパーを出している店舗もあります。
上の写真にはフィリピン国内で代表的な3つの大型ショッピングモールです。
このような国内の大型ショッピングモール及びスーパーはほとんどが華僑系の財閥が運営しています。
フィリピンのビジネスや日常生活において、華僑の影響力はかなり大きいものとなっています。
例えばSMモールはShoe Martの略であり、初めは華僑の人が一人で靴屋を経営していたところからスタートしました。
靴屋からどんどんビジネスを拡大させていき、わずか一代で大型ショッピングモールをフィリピンの多くの都市に展開させるまでに成長していきました。
他のモールも同じように急成長していったのです。こうしたことから、いかに短期間でビジネスを急拡大させていったかがお分かりいただけたでしょう。
そんな歴史の浅い大型スーパーですが、いったいどんな日系企業が進出しているのでしょうか。
下の写真はパナイ島イロイロ市内のSMモールの中にあったWattsという日本の100円ショップコーナーです。
75ペソとかかれているので約160円です。
関税があるため、日本より割高ですが、100均の機能性、独創的な便利グッズは人気です。
Wattsの他にDAISOダイソーもこうした大型スーパーに進出しています。
上の写真2つには日本企業の色々な商品が写っています。
エスビー食品のカレールー、キッコーマンの醤油、ヤマキの鰹節、ミツカンの本みりん、ハウス食品の生わさび、白鶴酒造のさゆりという日本酒、キユーピーぼ胡麻ドレッシング、マヨネーズなどが進出していました。
キユーピーのマヨネーズは1本450mのものが約700円ほどの価格で売られていました。
店員に聞くととても高く、ここではあまり売れていないと言っていました。
キユーピーのマヨネーズの真横に韓国製品のマヨネーズがありました。
それは半額以上の安い値段だったのでそちらの方がよく売れるそうです。
マヨネーズに関してはフィリピン製品でもっと安いものがありますが、甘い味付けのため、それが口に合わないような人は韓国か日本のマヨネーズを買っていくお客様もいらっしゃるとのことでした。
このモールの地域は比較的豊かな暮らしをしている人が多いため、高額な日本製の商品でも購入する人がいるが、地域によってはもっと平均所得の低い場合も沢山あるため、このような金額では全く売れないこともある。
同じフィリピンでも地域によってお客様の経済状況が異なるため、その点を把握したうえでビジネス展開を行っていく必要があります。
最後に
ここまでフィリピンの食文化とビジネス状況を見てきました。
その中で感じることは日本の加工食品は、小分けされているが多いので、サリサリストアでの展開がしやすいということです。。
また重要なことは、フィリピンの小売マーケットへ参入する際は、消費者嗜好のほか、現地の商習慣や、流通フロー、家庭の経済面の特徴を把握することです。
フィリピンへの進出、またはフィリピンでの市場拡大を検討している企業様がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。