ソニー神話復活なるか。2021年過去最高益の背景と今後の事業戦略

ソニーの21年3月期第3四半期の連結業績は、前年同期比4.1%増の6兆7789億円の売上高となり、純利益は87.0%増の1兆647億円と、ソニーにとって純利益が1兆円を超えたことは一大ニュースとなりました。

新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり需要によりPS5などゲーム事業が好調に推移し、東宝と共同配給したアニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が大ヒットし、アニメ事業の売り上げが増加したことが理由です。

1970年来、ソニーは日本を代表する電子メーカーとなり熱烈なファンを生み、その成長の軌跡は「ソニー神話」と呼ばれていました。しかし、世界トップのブランド力を持つようになったソニーは、21世紀突入後ヒット商品を生めず、多くのファンは嘆き悲しみました。2万人の大リストラなどのニュースに対して、「もうソニーは復活できないのでは」とまで言われるほどでした。

ソニー傘下のアニプレックスが制作した映画『鬼滅の刃』がヒットした要因には、原作の魅力だけでなく、ソニーの秀逸なアニメ戦略があります。ここではソニーが純利益を1兆円超えた主な要因と、アニメの海外戦略についてご紹介します。

過去最高益の理由となったPS5と『鬼滅の刃』

PS5と『鬼滅の刃』の2大ヒットは、今年に入ってからのソニーの好調さのけん引役となりました。

しかし、それ以外にもソニーの業績に良い影響を与えた事業があります。それぞれを見てみましょう。

ソニー連結決算
ソニー事業ポートフォリオ

プレイステーション5

プレイステーション5

https://www.playstation.com/ja-jp/ps5/

2021年2月に行われた、2021年3月期第3四半期決算説明会では、PS5やゲームソフトを含むゲーム&ネットワークサービス分野の売上高が、前年同期比40パーセントと増の8,832億円となりました。

販売台数が350万台を突破しましたが、世界的な半導体不足の影響もあったため「需要に対し供給が追い付かない」状況が続き、改善に力を入れました。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』

子会社のアニプレックスが配給する劇場版『鬼滅の刃』のヒットにより、アニメ事業を含む音楽分野では、売上高・営業利益ともに上方修正されました。

金融分野

ソニー生命保険の特別勘定における運用益増において従来の見通しを上回る見込みです。

イメージセンサー事業

イメージセンサー

https://daiwair.webcdn.stream.ne.jp/www11/daiwair/qlviewer/pdf/2009066758jxmp3j6jj.pdf

2020年は、米中摩擦の影響によりファーウェイへのモバイル機器向けセンサーの出荷が一時中止となり、売り上げが落ち込んでいました。しかし、出荷が再開できるようになり、ファーウェイ以外の顧客からの需要も増え、販売台数の見込みを上方修正しました。

営業利益を520億円増の1360億円になると発表されています。

イメージセンサー事業は、もともとソニーの稼ぎ頭でした。今後同社のこの事業が期待されているのは、スマホのカメラ向けではなく画像認識などに使用される「センシングデバイス」の需要で、同社は世界一のシェアを狙っています。そこで武器となるのが世界初の「AI処理機能」を搭載した同社のインテリジェントビジョンセンサーです。

CPUやGPUまでデータを送信する必要がなく、30分の1秒以内で処理が完了し、画像でなく男女や年齢層などの「認識結果」だけで転送する情報量は激減します。5年前のハイエンドスマホ並みの演算力を持ち、8MBのメモリーを搭載しています。

今後のソニーの注力事業:メディカル事業

メディカル事業

https://daiwair.webcdn.stream.ne.jp/www11/daiwair/qlviewer/pdf/2009066758jxmp3j6jj.pdf

ソニーは実は1980年代からメディカル事業も手掛けています。アンケート結果によると、ソニーがメディカル事業をしていることを知っているのは約半数と、それほど知られていないことが分かります。

メディカル事業が、現在新たな可能性として提示しているのが、医療映像ソリューションとライフサイエンス分野です。

内視鏡や各種検査機器から得た映像の活用の仕方は、医療の現場にとって大きな課題です。医療映像ソリューションでは、撮影するだけでなく、手術中や診断中などに即座に見やすく表示できるように、インターネット・プロトコルベースの技術を使い、サーバー連携によって低コストな医療映像管理システム「NUCLeUS」を提供しています。

ライフサイエンス分野では、iPS細胞による再生医療研究、先端がん治療分野向けの技術を開発しています。

新型コロナウイルスの流行が落ち着いても多くの人が電車や飛行機で移動ができず、集まることもできない状況が長く続くとみて、このような状況を解決する技術取得に向けて注力しています。

リモートソリューション

ソニーと「鬼滅の刃」

独自のビジネスモデル

集英社と週刊少年ジャンプがこのアニメを世に出した産みの親だとすると、アニメと映画を大ヒットに導いたのはソニーと言ってもいいでしょう。ソニーのアニメの歴史を見てみましょう。

2000年代にSPE・ビジュアルワークスがソニー・ミュージックのグループ会社となりました。このことをきっかけに、アニメ制作部門として現在のアニプレックスが設立されました。『鬼滅の刃』のテレビシリーズと劇場版のアニメ化を手がけたのはアニプレックスは、これまでに多くの代表作を世に送り出してきました。

アニプレックス

https://www.aniplex.co.jp/lineup/drama_movie/

2016年に、鬼滅が連載開始された頃、今ほどのブームになるとは誰も予想していませんでしたが、唯一アニプレックスが目をつけ、アニメ化を企画してきました。30年かけて日本を代表するアニメ制作会社として歩んできた経験が、功を奏したと言えるでしょう。

アニメ関連の事業戦略

ソニーのアニメ事業のビジネスモデルはどのような特徴があるのでしょう。それは「クリエイター・ファースト」で、国内にある優れたマンガ作品をアニメ化、映画化を、音楽を含めたコンテンツ販売で稼ぎ、それをゲーム化して稼ぐというモデルです。このビジネスモデルを取る際には、常に良い作品や原作マンガの雑誌社との契約が重要になります。

ヒット漫画の原作者や雑誌社に「ソニーと組みたい」と思ってもらうことで、ソニーは常に良いコンテンツと独占的に契約が可能になり、そうなれば、人気マンガのパイプラインが途切れることがありません。

ソニーはディズニーのように原作のIPで長期間稼ぐビジネスモデルではないため、常に新作品でヒットを打ち続ける必要で、そのためにはアニメ化候補作のパイプライン拡充が重要になってきます。

「ビジネス・ファースト」ではなく、「クリエーター・ファースト」というのは、日本的な「三方よし」の戦略にも似ており、消費者、原作者などの制作側、配信サービス企業にとってメリットが大きいコンテンツに仕上げます。ソニーの非自前主義、非クローズの戦略は、実はとても合理的な戦略なのです。

ソニーアニメーション

「技術偏重」からの脱却なるか

1990年代頃まで、日本の家電業界は技術力によってグローバル競争を優位に進めてきました。

テレビなど家電の機能・性能が成熟化してアジア勢と価格競争になっても、「技術では負けない」との声は根強かったと言います。しかし、ウォークマンのような革新的なヒット商品を生み出した同社は、デジタルの音楽プレイヤーが普及し始めた2000年前後、米アップルの「iPod」に人気をさらわれた苦い過去もあります。

2010年以降デジタル化が進み、ソニーのゲーム事業は、ネットを通じてソフトが利用できるネットワークサービス利用増加が増益につながり、十時副社長は「収益構造が大きく変化している」と述べました。

ソニー連結売上高の推移

https://daiwair.webcdn.stream.ne.jp/www11/daiwair/qlviewer/pdf/2009066758jxmp3j6jj.pdf

コンテンツ流通のデジタル化は、音楽や映画でも進んでいます。鬼滅の刃やPS5をはじめとし、中長期的に拡大しているエンタメ分野が引き続きけん引役となり、ソニーは来期以降も成長が見込まれています。

エース経済研究所シニアアナリストの安田氏は、テレビなどの消費者向け製品への波及効果はある程度は見込めるものの、今後はソフトだけでなくハードで、ソニー製品を選んでもらう工夫が必要であると言指摘しています。

ソニー業績推移

https://www.asahi.com/articles/photo/AS20180427005657.html

海外ヒットのけん引役であるソニーが買収したクランチロール

鬼滅の刃

https://uslifeblog.com/video/service/demonslayerninki/

台湾、香港、ベトナム、シンガポールでも公開中で、2020年12月時点における全世界興行収入は320億円で、インターナショナル興行収入ランキング(北米を除く)で、劇場版は3億350万ドル(約315億円)の『テネット』を抜き、トップ3に上昇しました。

新型コロナウイルスの感染拡大により各国の映画館が影響を受ける中、輝きを放つ米メディアが鬼滅の刃に注目しています。米ニューヨーク・タイムズは、2020年10月20日、日本で映画公開された初日に、「世界最大のオープニングになった」と報じています。

日本国内だけでの公開にも関わらず、公開初週の興行収入が、日本以外の全ての国の映画興行収入合計を上回ったからです。

海外で「デーモン・スレイヤー」と呼ばれる鬼滅の刃について、9週目の時点で、海外の記事は「全世界で3億1000万ドル(約320億円)の興行収入を見込む」と報じました。

このように、国内でのヒットばかりが報じられていますが、実は海外でも非常に人気なのです。

この海外での成功は、アニメ配信サービスのクランチロール社がけん引しています。クランチロールは2006年に創業された、アニメを中心とした映像配信事業者で、アメリカとヨーロッパを中心に、200以上の国と地域で広告ベースの無料配信と、月額課金制の有料サービス両方を展開しています。

ソニー子会社であるSony Pictures Entertainmentは、2020年、買収金額11億7500万ドル(約1222億円)で、アメリカのAT&T社からクランチロール社を完全子会社したことがきっかけで、ソニーの海外におけるアニメ配信は強化されるようになったのです。

クランチロールは、世界各国のさまざまな作品を、ファンの主体性を尊重しながらグローバルヒットに導いてきており、鬼滅もその実績の1つに加わりました。

海外ではクランチロールによって、2019年から配信が始まり、配信以降人気が少しずつ広がり、2020年冬の時点で、英国、カナダ、メキシコ、ブラジルなどでアニメ部門のトップ10に入りました。1100万を超える世界のアニメファンの投票によって毎年選ばれる「アニメアワード2020」で最優秀作品賞を受賞しました。

ソニーのプレスリリースによると、2020年時点での有料会員数は300万人以上で、登録ユーザーは9000万人超。アニメファンを中心にして1億人の登録ユーザーと5000万人の公式SNSフォロワーも抱えています。

もう一つの特徴は、動画配信サービスであると同時に、扱う各コンテンツのファンコミュニティーの集合体を持っていることです。これを生かしながらコンテンツの視聴からグッズ購入につなげ、イベント参加までサポートしながら、コンテンツの価値を高める戦略を取っています。

最後に

過去最高収益を上げたソニーの事業を改めてご説明し、その中でも現在アニメ事業が特に好調であることをお伝えしました。今後はアニメだけでなく、世界シェアトップを目指すイメージセンサー事業や医療事業も伸長していくことが期待できます。ソニー神話復活となる日も近いかもしれません。

<参考>
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2102/03/news124.html

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021020300900&g=eco

https://jp.reuters.com/article/sony-idJPKBN2BN1CR

https://news.yahoo.co.jp/articles/efcd0b19e99708e000ab44ca2e5dad818bacbf89

https://news.yahoo.co.jp/articles/efcd0b19e99708e000ab44ca2e5dad818bacbf89?page=2

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9

https://www.businessinsider.jp/post-225974

https://diamond.jp/articles/-/257607?page=2

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/01320/?P=2

https://news.yahoo.co.jp/articles/a3eb6e932cdb54b4113db6b0c056a4b67699a030

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65854710V01C20A1X12000/?unlock=1

https://net.keizaikai.co.jp/23504-2

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