香港の歴史と中国本土との関係。2020年の混乱をわかりやすく解説

1842年、中国の清朝はアヘン戦争に敗北し、香港はイギリスの植民地になりました。それ以来香港では行政のリーダーを選挙で選ぶことはできませんでした。1997年の香港の中国への返還に先立って、1984年、中英共同声明が調印されました。この声明には、「従来の資本主義体制や生活様式を、返還後50年間維持する」と明記されています。

このように、香港の人々は中国の一国二制度の下、英国流の資本主義経済や言論の自由の中で暮らしてきました。香港は、アジアの国際金融センター、国際貿易港として、繁栄を謳歌してきた側面も持っています。

 

しかし、行政長官が民主的に選出されないなど、一国二制度に対しての不満の声が高まっていきます。

2014年、若者らが道路を占拠する「雨傘運動」が起こりました。また、2019年にも、大規模なデモが起こり、民主派政党・香港衆志の創始者の一人であるアグネス・チョウ氏の存在が世界的に広まりました。

 

民主化を求める若者を中心とする市民の要求が高まり、中国政府は神経をとがらせていました。

中国の習近平国家主席は、2019年のデモの後、2020年6月30日に、中国政府が香港の統制を強める「国家安全維持法」に署名し、一国二制度が崩壊することが懸念される歴史的な節目を迎えました。

習近平国家主席は、これまで香港に認められてきた自治と自由は許すべきではないと判断し、国内の厳密な専制体制を香港にも適用することとしたのです。

ここでは、中国と香港の歴史、なぜねじれた関係になっていったのか、この問題への各国のスタンスについてご紹介します。

中国返還

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「一国二制度」とは

一国二制度

https://asahi.gakujo.ne.jp/common_sense/current_events/detail/id=3014

グローバルにおける香港のビジネスポジション

香港は、中国広東省の沿岸部深セン市の南部に位置します。香港島、九龍半島、新界に分かれており、2020年現在の人口は約750万人で、市街地は香港島北部と九龍半島に集中しています。

人口密度が極めて高い地域としても有名です。周囲は天然の良港になっており、古来より貿易拠点として、現在は観光地としても栄えています。

 

香港とシンガポールは中継貿易拠点として、中国とASEAN諸国をそれぞれの後背地に持ち、国際金融センター(銀行や証券会社などの金融業において中心的な役割を持つ都市)としての地位を築いてきました。

80年代には、アジア諸国の急速な経済成長にと中国経済の本格的な開放で、諸外国からの対中投資や対中貿易が拡大。資金需要が増加しました。しかし、1997年のアジア通貨危機の発生後は、金融機能の低下を余儀なくされ、銀行業務の規制緩和や資本市場の統合などの金融改革を進めてきました。

 

独自の行政機関と法律

中国の一部でありながら独自の行政機関を持ち、独自の法律が運用されています。

このように、中国本土とは異なる制度を適用し、高度な自治権を認める制度のことを「一国二制度」と言い、この制度が適用される地域は「特別行政区」と呼ばれています。中国では、香港とマカオが特別行政区になっています。

 

1997年7月、イギリスから返還された香港に対して中国は、外交・防衛を除外する分野で高度の自治を、50年間維持すると約束していました。

香港は、独自の行政、立法、司法権を持ち、中国本土では認められない言論の自由、通貨やパスポートの発行権を有しています。

一方中国には、憲法にあたる香港基本法の解釈や改正権、政府高官の任命権を持つなど、香港をコントロールするシステムもあります。

一国二制度v2

 

一国二制度の問題点と雨傘運動

香港の行政長官の選挙は、従来親中国の人々が多数を占める選挙委員会で選ばれる間接選挙でしたが、2017年の選挙以降普通選挙に改めると発表されました。

しかし、これには条件がついており、中国からの独立を主張する候補者は立候補することができないというものでした。「これは偽りの普通選挙だ」と人々が立ち上がったのが「雨傘運動」だったのです。この運動は、中国から何の譲歩も得られることなく失敗しました。

 

「雨傘運動」以後、運動参加者や活動家たちの間には何をしても無駄という挫折感が広まりましたが、香港独立を目標に掲げる政党「香港民族党」が2016 年に発足しました。

発起人の陳浩天氏は「香港で民主化を実現するには、まず独立するしかない」と語りました。このデモは、最盛期は参加者が10万人を超えていました。しかし、警察がバリケードの強制撤去を進め、79日間でデモは終結しました。

暴動

 

その後の大規模デモは、2019年6月、香港政府の「逃亡犯条例」改正案に対するデモが起こりました。民主活動家のアグネス・チョウ氏を始めとする3人が、警察本部包囲デモを扇動したとして無許可集会の扇動罪に問われました。2020年12月、裁判官は3人に実刑判決を言い渡しました。

アグネス

 

中国は、一国二制度の下、2047年まで香港では社会主義は行なわないと約束し、基本法にも盛り込まれています。「2047 年になる前に香港は中国に呑み込まれるのではないか」という香港の人々の不安は的中したのです。

 

習近平国家主席がどうしても香港を手に入れたい理由

中国は、清朝時代にアヘン戦争に敗北することで、香港という領土をイギリスに取られてしまったという苦い経験があります。中国にはこれ以降「国家の利益を守るために領土は一寸たりとも失ってはいけない」という考えが教訓として残っています。しかし習近平国家主席による香港への介入について各国は「強引過ぎる」との意見を示しています。

なぜそこまでして手に入れたいのでしょうか。その理由を2つの視点から見てみましょう。

 

中国に比べて資本の移動や資金調達が簡単

香港が中国に返還された1997年、中国と香港のGDPの比率は100対18でした。人口12億の中国に対して、香港にはその1%にも満たない650万人しかなかったのですが、1人あたりの経済力は圧倒的に大きく、優秀な人材も集まる香港は、「金の卵を産むニワトリ」のような存在でした。

 

その後、国際金融センターとしての力を失っていったこともあり、GDP比率は現在100対3になりました。それでも共産党の指導下にある中国と比較して、資本の移動や資金調達が簡単である点が魅力の一つとなっています。

 

米中貿易摩擦を回避するため

米中貿易摩擦

https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji6/

 

香港は中国大陸にとっての合法的で合理的な「貿易障壁の抜け道」です。

中国大陸の対外貿易相手国の第1位は米国です。中米貿易額は中国輸出入総額の19%を占め、第2位は香港です。中国大陸と香港の貿易額は、中国輸出入総額の14%を占めており、これは対日、対韓、対独の3カ国の合計に匹敵します。

2018年における輸出面を見てみると、大陸の331億ドル相当の通信設備、167億ドル相当のコンピューター設備、258億ドル相当の集積回路設備が香港に輸出されています。

香港の人口は750万人です。面積1000平方キロと国土は狭く、大陸の14%もの輸出入を消化しきれません。なぜ大陸は香港から大量の貨物を輸出入しているのかというと、香港は大陸の対外貿易の中継点だからです。

 

中国大陸の製品は、まず香港に持ち込まれ、ラベルを「香港」と貼り変えられ、世界各地に輸出されます。一部、先進国の中国大陸に対する制限を回避できるというメリットにより、中国大陸から直接輸出した場合と比べて、関税を軽減できました。巧妙に貿易摩擦を回避し、中国の1/7の製品が香港を通じて全世界に販売されてきました。

 

ラベルを貼り変えた商品の一部は米国にまで輸出されています。米中貿易戦争によって、万が一中国の多くの対外貿易が中止されるなどの窮地に立たされたとしても、中国はこの香港というパイプがあればたくさんのことをすり抜けられます。

中国がどうしても香港を手に入れることにこだわる理由は上記以外にもあるかもしれませんが、上記2つが主な理由と考えられます。

 

国家安全維持法

2019年のアグネス・チョウ氏らのデモの影響を受け、習近平国家主席は、中国共産党が香港への支配を強めるために、「国家安全維持法」の制定に動きました。5月下旬の全人代で導入方針を承認後、たったの1か月で審議を終えるという異例の速さで可決しました。

習近平国家主席は、これまで香港に与えられてきた自治と自由は許可できないと判断し、中国本土の厳密な専制体制を香港にも適用する意志をこの国家安全維持法に込めたのです。

 

国家安全維持法には主に下記の4つが定められています。

香港国家安全維持法

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60844530W0A620C2I00000/

 

この法律によって中国政府の権限が大幅に強化され、「一国二制度」が有名無実化となるのは明らかです。従来のような民主化要求デモは今後できないことになりました。

この国家安全維持法が恐れられているのは、できたばかりの法律で裁判の判例もないため、何が罪になるのかまだ分からない点と言われています。何が国家分裂で、何が海外勢力との結託になるのか。多くの香港の人々が、政治的な発言を控えるようになっているようです。

香港国家安全維持法の仕組み

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60844530W0A620C2I00000/

 

国家安全維持法に対する各国の動き

香港では、反政府的な動きを取り締まる国家安全維持法が施行された後、多数の民主派の議員や活動家が逮捕されるなど、民主派への圧力が強まっています。

国家安全維持法の設定に対して強く反発したのがイギリスとアメリカです。旧宗主国のイギリスではジョンソン首相が、「国家安全維持法の施行は、中英共同声明に明確な違反で、香港基本法に反する」と強く批判し、英国海外市民の資格を持つ香港市民がイギリスに5年滞在でき就労も認める特例措置を発表しました。

アメリカでは、トランプ米大統領が、2019年11月、香港の人権と自治を擁護する「香港人権・民主主義法案」に署名し、「香港人権法」が成立しました。

香港人権法

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52701890Y9A121C1000000/

 

同法は、米国務省に対して香港の高度な自治を保障した「一国二制度」が正しく機能しているかどうかを検証する「年次報告書」を作成するように義務づけ、香港で人権侵害などが行われた際は、当局者に制裁を科すことできるようになります。

中国外務省は、「中国政府と人民は断固反対する」と、同法が成立したことに声明を出し、「重大な内政干渉で、あからさまな覇権の行使である」と米国を非難しました。「アメリカが独断専行を止めなければ中国は必ず報復措置を取る」と強調しました。

2021年1月、バイデン政権が誕生後、バイデン大統領も中国に対し厳しい姿勢を示しています。3月18~19日に開いた米中外相会談において、新疆ウイグル自治区、香港の人権侵害、台湾問題について懸念を表明しています。2021年4月には、アメリカのブリンケン国務長官が、「中国が香港の自治の弱体化を進めている」と述べ、中国への強硬姿勢を鮮明にしました。

 

最後に

中国と香港がなぜ長年揉めているのか、その歴史や背景についてご説明しました。4月に行われた菅首相とバイデン大統領の会談のキーワードの1つに「対中強硬姿勢」があり、両国は台湾の安全確保に努めると約束を交わしました。

香港の民主活動家のアグネス氏が逮捕された際、日本政府は何も言及しなかったことから、「このような人権問題に対して何も発言しないのはどうなのか?」と国内で批判が高まりました。今回バイデン大統領との会談で対中強硬姿勢に舵を切った日本は、今後香港のこの問題に対して、無言を貫くことはできなくなるのでしょう。

 

<参考>

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210401/k10012949271000.html

https://hkbenricho.com/basic-information-on-hong-kong/%E9%A6%99%E6%B8%AF%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/51492?page=3

https://honcierge.jp/articles/shelf_story/8142

https://www.tokyo-np.co.jp/article/38866

https://www.asahi.com/articles/ASMCX2R6YMCXUHBI00H.html

https://www.fnn.jp/articles/-/75099

https://diamond.jp/articles/-/240646?page=5

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/20137

https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=15887

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62490270Q0A810C2000000/

https://president.jp/articles/-/30317?page=3

https://www.koryu.or.jp/Portals/0/images/publications/magazine/2017/6/%E4%BA%A4%E6%B5%81_915%E5%8F%B7_2-%E4%B8%AD%E5%9B%BDvs%E9%A6%99%E6%B8%AF%20%E6%88%A6%E3%81%84%E3%81%AE20%E5%B9%B4.pdf

 

 

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