世界第4位の人口を誇るインドネシア。
2010年から20年までの10年間で、さらに3000万人ほど人口増加する見込みと言われています。
日本の約5倍と広大な面積を誇り、1万3466もの島々から成るインドネシアという国が抱える課題と現地の人々の生活を調査する中で見えてきた、インドネシアの現状と企業の進出の可能性についてお伝えいたします。
課題1.インドネシア国民ID「E-KTPカード」
インドネシアの人々は、17歳になると個人IDとなるKTP(Kartu Tanda Penduduk)を発行することが義務づけられています。
しかし、1人に対して複数のID発行ができてしまうという事態になっており、一人で複数のIDを所持していたり、持っているID情報が最新のものでなかったりと、その管理はずさんなものでした。
このような事態になってしまった要因の一つに、インドネシアは国土が広く島も多いため、各拠点の役所の足並みが揃いにくく、国全体の統計がきちんと取られていなかったという理由もあるようです。
インドネシアの島々
(http://www2m.biglobe.ne.jp/ZenTech/world/map/Indonesia/Indonesia-Islands-Map.htm より引用)
このような状況を打破するため、2011年頃からKTPを電子化することで、国民1人に対して1つのIDを付与する取り組みが徐々に進められてきました。この電子化されたIDを「E-KTP」と呼びます。
E-KTPが導入されることで、より正確な公共サービスをスピーディーに受けることが可能となり、出生証明書、結婚証明書などの各種証明書を発行することもできるようになります。
E-KTPは導入されてきてはいるものの、まだ普及しているとは言い難く、より迅速な普及がインドネシアの課題となっています。
課題2.インドネシアの公的年金制度
年金制度は大きく、「積立方式」と「賦課方式」の2つに分けることができます。
例えば、日本では、その時の現役世代の保険料を原資として年金受給者へ支払う「賦課方式」が採用されています。
しかし、下図のように日本の人口ピラミッドは若い世代が少ない「逆ピラミッド型」となってしまっているため、現役世代の保険料増加や年金受給額削減の可能性などが大きな課題となっています。
【統計】東南アジア諸国の人口ピラミッドまとめ
(http://www.itsobi.com/2014/01/population-pyramid.html より抜粋)
それに対し、インドネシアの人口ピラミッドは若い世代の多い「ピラミッド型」です。
公的年金制度についても、日本のような逆ピラミッド型の国が抱える懸念はありませんが、そもそもインドネシアでは年金受給世代の年金を現役世代が賄う、「世代間扶養」という概念がありません。つまり自分の老後は自分で備える必要があります。
インドネシア政府は、2004年の法改正により国として①老齢積立金(一時金)制度と②拠出建て制度の2つの枠組みを構築することを定めました。しかし、その実施は大幅に遅れ、2011年になってやっと制度を進めるための社会保障実施機関(BPJS)※が設置されました。
また、2015年6月30日には、社会保障に関する新政令を公布し、従来の拠出建て制度に加えて、給付建ての新しい公的年金制度を導入しました。これにより、現在のインドネシアの公的年金制度は、①老齢積立金(一時金)制度に加え、②拠出建てと③給付建てとの3本柱となっています。
拠出建ては、退職時に事業主掛金と加入者掛金の元利合計を一時金として支払う制度を指します。
一方、給付建ては、勤続15年で年金の受給権が付与され、上限・下限金額が決まっています。
(2016年1月時点:最高年金月額は360万ルピア(約30,000円)、最低額は30万ルピア(約2,500円))
月毎に年金が支払われ、その掛金は算定給(基本給+固定手当)の3%(うち事業主拠出2%、本人拠出1%)と定められています。しかし、将来的には3%から8%に上昇することが見込まれており、事業主にとっては掛金がそのままコスト増加となり、経営に影響することが予測されます。
このように、インドネシアでも公的年金制度が構築されつつあります。しかし、国民情報の不足や未納者が把握できていないなど、E-KTPと同様、まだまだ課題が山積みとなっています。
※社会保障実施機関(BPJS)は、健康保障機関(BPJS Kesehatan)と労務保障機関(BPJS Ketenagakerjaan)によって構成されており、保障内容によって役割が分担されています。
デジタルネイティブな国民とそこから生まれる市場の可能性
国民情報の電子化がようやく進んできたところを見ると、インドネシアの人々はITに疎いのでは、と思ってしまいます。
しかし、インドネシアでは小学生時代からスマートフォンを使っている人がほとんどなのです。生活水準に関わらず通信費用の割合は高い傾向にあり、高価なiPhoneを使っている人をジャカルタ市内で見かけることもありました。
「アジア14都市のスマートフォン利用実態」
(http://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2013/08/201308091.pdf を参照して作成)
上図は、アジア14都市のパソコン世帯保有率と携帯電話、またはスマートフォン個人保有率の調査結果をグラフにしたものです。
ジャカルタはほかの都市と比べ、パソコン世帯保有率は30%に達しておらず、低いですが、携帯電話、またはスマートフォン個人保有率は90%以上と保有率の高さがうかがえます。
このように、インドネシアにおいてスマートフォン市場は成熟してきているため、日本のIT企業が進出する場合においてもハード面でもソフト面でも需要は見込めるかもしれません。
また、インドネシア政府としてさまざまな仕組みを検討する際には、他国の成功事例を取り入れることが多くあるようです。
日本で導入されている仕組みやノウハウを持った日本企業であれば、インドネシア政府と手を組めるチャンスもあるかもしれません。そのチャンスを掴むためには、日本のどのような仕組みがインドネシアの社会とマッチするのか、しっかりと検討していくことが必要だと考えられます。