RCEP(アールセップ)とは何か。日本との関わりをわかりやすく解説

2012年から8年に及ぶ交渉が実を結んだRCEPは”Regional Comprehensive Economic Partnershipの略”です。

日本や中国、韓国、ASEAN10か国にオーストラリアとニュージーランドを加えた15か国が自由な貿易を進めるための協定です。

日本にとって最大の貿易相手国である中国や、3番目の韓国とは初めての経済連携協定することになり、この協定によって世界の人口とGDPの約割を占めることになります。

経済協定の枠組み

上記の表を見ていただくと、RCEPとASEAN、TPPなどに加盟している国が分かります。

※RCEPにインドは加盟しなかったため正式には15ヶ国

ここでは、日本にとって輸出のチャンスが広がると言われるRCEPを分かりやすく説明し、日本にとってのデメリットとメリットをご紹介します。

RCEPのポイントと、最もメリットを得る中国

RCEPのポイントとして押えるべきポイントは下記の3つです。

  1. 全てのASEAN加盟国が含まれており、巨大市場参入へのチャンス
  2. 協定参加国に、インドネシアやマレーシア、また中国など世界的に見ても人口大国といえる国々が名を連ねている
  3. 関税の引き下げによる貿易円滑化

例えば工業品の場合、14カ国全体で約92%の品目について関税の撤廃が行われる

RCEPの概要

RCEPに加盟した各国のGDP押し上げ効果を見てみるとそれぞれの国のGDPは上がりますが、中国、韓国・ブルネイ、日本の効果が突出しています。その中でも中国が最もメリットを得ると数字は示しています。このため、RCEPは「中国が中心の世界最大の自由貿易圏」とも言われています。

RCEPのGDP押し上げ効果

https://news.yahoo.co.jp/articles/88e2c6c704d444aad2eb47dd75c8bf2d2105d079/images/000

※インドは加盟しなかったため現在は含まれない

TPPのアメリカ離脱とRCEPの関係

TPPのアメリカ離脱

オバマ政権は、北米3カ国とアジア太平洋9カ国が締結するTPP(自由貿易協定構想)を支持しており、それが成立していれば世界のGDP約4割をカバーする世界最大の貿易協定となっていました。

TPPは、数千品目の関税引き下げに加えて、労働・環境保護の高い基準を設定し、知的財産権や為替操作についても新たなルールを掲げました。しかし、トランプ米大統領が就任直後、アメリカの離脱を表明し、波紋を呼びました。

トランプ大統領が離脱した理由は、自国の産業を守るためでした。多くの国家間で貿易をしやすくするとアメリカに入ってくる輸入品が増えて、自分の国の産業が弱くなることを懸念したからです。

そのため、トランプ大統領は、鉄鋼製品などの輸入品に対して高い関税をかけ始め、(このことは「貿易戦争」とも呼ばれています)自動車まで関税をかけることを検討していました。

この貿易戦争の影響により、各国の世界貿易の流れは滞ってしまいます。経済効果が得られなくなるのではないかと危惧した国々は、自由に貿易ができて経済活性化につながるRCEPを期待するようになったのです。

当初、オーストラリアやニュージーランドなどを始めとする多くの参加予定国は、規定が緩いRCEPにあまり積極的ではありませんでした。しかし、貿易交渉に関税を利用するトランプ大統領のやり方や、貿易戦争が世界経済を冷え込ませていることを受けて、締結をする姿勢に転じました。

TPPとRCEPの違い

まず、参加国が違う点が大きな違いとして挙げられます。TPPでは、中国は除外されており、アメリカを始めとして各国が中国の経済支配に対抗する道を作ったことです。一方RCEPには中国、ASEAN諸国の加盟が多く、アジア中心の貿易協定の色合いが濃いでしょう。

RCEPとTPPの比較

TPPのような厳しい労働・環境基準を設けておらず、カバー範囲が広いことも特徴です。

TPPにおいては重要な課題となっていた知的財産、環境問題、労働者の権利、国有企業に関しては盛り込まれていないため、こうした問題を考えることなく経済便益を享受できる点も異なる点です。

日本にはどのような影響があるのでしょうか。メリットとデメリットを見てみましょう。

日本へのメリット

関税が撤廃され、ビジネスチャンスが広がる

工業製品の輸出において91.5%の品目に対し関税が撤廃されます。鉄鋼製品、電子レンジ、冷蔵庫などの家電製品や、今後成長が期待される電気自動車用のリチウムイオン電池の素材やモーターなどで大きなメリットがあるとされています。

農林水産品では、輸出量が多い中国向けのほたて貝、インドネシアへの牛肉、中国や韓国への日本酒や焼酎もも段階的に撤廃されます。

日本の輸出とRCEP

中国の巨大な市場にアクセスしやすくなる

2019年4月1日から、他の先進国と同様「WTO税率」が適用されており、中国製品に対する関税率は上昇しています。RCEPにより、中国との輸出入において関税が削減されるため、貿易が活発化するでしょう。(しかし、これまで以上に中国製品が日本に流通することは脅威にもなります。)

別の協定と比較・検討ができる

輸出入をする際、同じ商品であったとしても適用する協定により関税差ががあります。2020年12月の段階で、日本はRCEPの他に、TPP、日欧EPAを含めて17のEPAを締結しているため、複数の協定から最適な物を選んで貿易することが可能になります。

日本へのデメリット

安い製品や農林水産品を輸入することになる

「重要5項目」である米、牛肉・豚肉、乳製品などは今回の関税の削減や撤廃の対象から外れています。

中国から輸入される業務用かき揚げなどの冷凍した野菜の総菜が9%、冷凍の枝豆やたこが6~7%の関税がそれぞれかけられていま。しかし今後、段階的に関税が下がり発効後11年目から16年目に撤廃されるようです。

日本の輸入とRCEP

安い製品が日本に多く入ってくると、国内の生産者や企業は価格競争に巻き込まれたりビジネスチャンスを失ったりといった課題が出てくるでしょう。

知的財産権の侵害 粗悪な品が入ってきやすくなる

中国・韓国製品の偽物のブランドバックなどがRCEP経済圏に輸出され出回ると言われており、知的侵害行為が増えることが懸念点となっています。

移民が増える

移民に該当するRCEPの協定書「9章の自然人の一時的な移動」について見てみると、ビジネス的な交流を促進するために高度な技術を持つ方、投資家の活動を活性化することが目的とされています。

「付属書4」では、これらの人々の滞在期間は、「90日又は5年を限度であり、更新が可能」とあります。これらに対して「RCEPが締結されると移民が増えるのでは」との心配の声も上がっています。

加盟を断ったインドと加盟できなかった台湾

なぜインドは加盟を断ったのか

もともと、RCEPへの加盟はインドも検討していました。

RCEPの最大の魅力は、総人口6億を超えるASEAN加盟国だけでなく、世界屈指の人口大国である中国とインドが参加していることでした。16ヶ国を合計した人口は約34億人で、これは人類のほぼ半数となる膨大な数として期待されていました。

菅首相も首脳会合で「コロナ禍で世界経済が低迷している中、自由貿易を推進していくことが重要。」となかなか意志を示さないインドに対してRCEPの意義を強調し、加入を働きかける考えを持っていました。

しかし、インドは加盟を断りました。

13億の人口のインドを取り込めなかったことで各国は大きなビジネスチャンスを失ったとも言えるでしょう。

それではなぜインドは加盟を断ったのでしょうか。

インドは、中国から大量の安価な製品が流入し、国内産業がダメージを受けることを懸念していました。

また、インドは以前より中国に対する警戒を強めており、今回の新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、さらに態度を硬化させています。インドの英字紙ビジネス・スタンダードは、「インド政府はRCEPに加入することで、中国への依存を高めることを警戒した」と述べました。

インドはアメリカと中国の双方と等距離を取る貿易の基本方針としています。

当初、中国が参加するRCEPとアメリカが参加するTPPの双方に参加する意志を持ち、バランスをとっていました。

しかし、アメリカが2017年にTPPから離脱した以上RCEPが意味の無いものになってしまったのです。

RCEPとしては近い将来インド政府の気が変わって加盟してくれる日を待っており、参加希望を示せば直ちに交渉を再開すると言っています。インドとの良好な関係を維持する日本としては、復帰をどう働きかけていくのかが課題となるでしょう。

なぜ台湾は加盟できなかったのか

参加を希望していた台湾は、加盟を許可されませんでした。

台湾から見れば周りの全ての国やエリア間の関税が大幅に下がる中、台湾だけが高関税のままとなります。

台湾製品の競争力は落ちてしまい、受ける経済的な打撃は相当なものになるでしょう。

中国は台湾に対して「RCEPに加盟したいのであれば台湾も香港・マカオ同様に一国二制度を採用せよ」というメッセージを送っているのではないかとも言われています。

そう考えるとRCEPは台湾に対する経済封鎖を意味しているのかもしれません。

米中貿易戦争から見る中国のRCEPへの期待

今回RCEPの中心的な存在となる中国は、RCEPがASEAN主導である点に大きな魅力を感じているでしょう。

2016年頃から始まった米中貿易戦争に悩まされてきた中国にとって、ASEAN主導であるRCEPにおいて、米国と直接対決する状況も解消でき、米国からの横槍も回避できるのです。

米中の貿易戦争は「米中新冷戦」とも呼ばれていますが、これまで双方にどのような争いが繰り広げられてきたのかを簡単にご紹介します。

トランプ前大統領と習近平主席

https://toyokeizai.net/articles/-/247019

米中貿易戦争

「米中貿易摩擦」という言葉がニュースで私達の耳に入るようになったのは、2018年春頃です。

2016年11月にアメリカ大統領となったトランプ大統領は、「対中貿易赤字の解消」、「貿易の不均衡の解消」を掲げました。

具体的には、2018年3月、中国の鉄鋼製品などへの関税引き上げを宣言しています。トランプ大統領は貿易赤字を悪とみなし、他国の製品に関税をかけ、値上げすることで自国の製品を売り易くし、国内の雇用を確保しようと考えたのです。

米中関税戦争:米国の対中赤字は約4,000億ドル

それでは次にトランプ大統領がかけた関税によって生じた「米中関税戦争」を見てみましょう。

トランプ大統領の関税引き上げに対して、報復措置として中国もアメリカからの輸入品に関税をかけるようになりました。2018年には、アメリカは中国製品の約半分、対する中国はアメリカ製品の約7割に関税をかけるという泥沼の合戦に突入。

しかし、好調なアメリカ経済や、利上げに伴うドル高や、中国以外にも他国から関税をかけられることによって、トランプ大統領の思惑通りとはなりませんでした。結果的に、アメリカの2018年対中貿易赤字は、約4,000億ドルに達しました。

ファーウェイ問題の技術覇権戦争

最後はファーウェイ問題をめぐる「技術覇権戦争」です。トランプ政権は、ファーウェイが中国政府の意を受けたスパイ行為を通信ネットワーク上で行う恐れがあるとして、国防授権法を作りました。

「アメリカの政府機関は、ファーウェイから買ってはいけない」とし、2019年5月、米商務省はエンティティリストにファーウェイを指定しました。

次期大統領と言われているバイデン氏は、11月、デラウェア州ウィルミントンで開かれた記者会見において、TPPへの復帰については明らかにしませんでした。

しかし、多くのメディアや経済評論家はバイデン氏がTPPに復帰するのではないかと見ています。もしアメリカがTPPに再加盟したら、米中貿易摩擦やRCEPの動向も変化していくでしょう。

最後に

RCEPの概要をご理解いただけましたでしょうか。インドの加盟を強く願っていた日本は無念な結果に終わりました。

しかし、コロナ渦において工場拠点を中国からインドに移す日本企業が増えていることから、インドと個別に関係を強化していくことが重要です。

https://hunade.com/rcep#toc12

https://honcierge.jp/articles/shelf_story/8605

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00118/111600039/?P=1

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E7%9A%84%E3%81%AA%E5%8C%85%E6%8B%AC%E7%9A%84%E7%B5%8C%E6%B8%88%E9%80%A3%E6%90%BA%E5%8D%94%E5%AE%9A

https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/articles/20180702.html

https://www2.deloitte.com/jp/ja/blog/d-nnovation-perspectives/2020/what-companies-do-for-rcep.html

http://www.am-one.co.jp/warashibe/article/chiehako-20200205-1.html

https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20201120-00208680/

https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/11/rcep_2.php

https://diamond.jp/articles/-/255122?page=4

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