インドネシア財閥のシナルマス・グループとは?歴史や主要事業

インドネシアの2024年のGDP成長率は5.03%で、政府の目標には届かなかったものの、堅調な成長が続いています。背景には、2億7,900万人という人口規模による旺盛な内需の存在があり、日本企業にとってもビジネスチャンスの多い国の一つと言えるでしょう。

こうしたインドネシア市場に大きな影響力を持つのが、インドネシア財閥の「シナルマス・グループ」です。本記事ではインドネシアへの進出を検討しているビジネスパーソンに向けて、シナルマス・グループの概要や主要事業、日本企業との提携事例をわかりやすく紹介します。

参考:JETRO「2024年のGDP成長率は5.03%、政府目標に未達

シナルマス・グループとは

出典:シナルマス・グループ

シナルマス・グループは、パルプ・紙、農業・食品・金融サービスなどの7つの事業を展開するインドネシア財閥です。インドネシアを中心に東南アジアに強い影響力を持っています。ここでは、同グループの歴史と企業理念を紹介します。

歴史

シナルマス・グループは、福建省出身の華人エカ・チプタ・ウィジャヤ氏が1938年、インドネシア・マカッサルでココナッツオイルなどを扱う小さな貿易商を始めたことからスタートしました。

創業当初は、インドネシア独立戦争などの影響で様々な困難に直面しましたが、ネットワークを着実に築きながら、徐々に事業を拡大していきました。具体的には1972年に不動産開発事業に参入し、製紙工場やソーダ化学工場を設立しました。その後も事業拡大を続け、1982年には金融サービス、1996年には電力事業に参入。そして2006年には通信事業を開始するなど、積極的に新たな分野へ進出しています。

このような多角的な事業展開を通じて、シナルマス・グループは現在、インドネシアを代表する財閥の一つへと成長を遂げています。

企業理念

シナルマス・グループは企業理念として、「事業の成功は、事業を展開する地域社会から得られる機会にかかっている」と考えています。そこで、得られる機会を増やすために、同グループでは以下の6つの価値観を重要視しています。

  • 誠実:他人の信頼を得るために、約束を実行する
  • 前向きな姿勢:相互に感謝し合い、協力的な職場環境の構築に向けて行動する
  • 献身:最高の結果を達成するために、心を込めて仕事を遂行する
  • 継続的な改善:最高の結果を得るために、継続的に改善を行う
  • 革新的:生産性と会社の成長を高めるアイデアを考察したり、新商品・ツール・システムを作成したりする
  • 忠誠心:シナルマス・グループの一員として、中核となる価値観を理解し実施する

シナルマス・グループの主要事業


出典:シナルマス・グループ

シナルマス・グループは7つの主要事業により、インドネシア経済に大きな影響を与えています。ここでは、それぞれの事業内容を紹介します。

パルプ・紙

パルプ・紙事業を担っているのは、関連企業の「APP(Asia Pulp & Paper)」です。1972年に設立され、本社の所在地はインドネシアのジャカルタです。年間2,000万トンを超える加工能力を有し、世界150カ国以上で製品を販売しています。

インドネシア、米国、シンガポール、日本、英国など世界各地に拠点を持ち、約3万人の従業員を雇用しています。現在、APPは世界最大級のパルプ・紙・包装材メーカーへと成長しており、シナルマス・グループの中核となる企業です。

農業・食品

シナルマス・グループは関連企業のゴールデン・アグリ・リソーシズを通じて、農業・食品事業を展開しています。同社は1996年に設立され、世界有数のパーム油用のプランテーションを保有している企業です。現在では14カ国で事業を展開し、約10万の従業員を雇用しています。同社の製品は、中国、インド、米国、欧州、中東など、世界110カ国以上に出荷されています。

金融サービス

シナルマス・グループは、関連企業のシナルマス・ムルティアルタ(SMMA)を通じて、金融サービスを展開しています。同社はインドネシアを代表する金融サービスプロバイダーの一つです。多くの子会社を持ち、銀行業務、保険業務、ファイナンス、資産運用、株式管理、証券などの統合的なサービスを提供しています。

開発・不動産

シナルマス・グループは、関連企業のシナルマス・ランド(SML)を通じて、開発・不動産事業を展開しています。同社はインドネシア最大の不動産開発会社の一つです。1万ヘクタールの土地を保有し、住宅地や商業施設、ホテル、工業施設などの開発を行っています。また、インドネシアだけではなく、中国、マレーシア、シンガポール、英国でも事業を展開しています。

通信・テクノロジー

シナルマス・グループは、関連企業のスマートフレン・テレコムを通じて、通信・テクノロジー事業を展開しています。同社はインドネシアで初めて4G LTEを提供した通信事業者です。

エネルギー・インフラ

シナルマス・グループは、関連企業のディアン・スワスタティカ・セントーサ(DSSA)を通じて、エネルギー・インフラ事業を展開しています。同社は発電や石炭の採掘、化学薬品の販売、インフラ整備などを行う企業です。2023年12月31日時点で10億7,000万トンを超える石炭の埋蔵量を保有しています。

ヘルスケア

シナルマス・グループは、新たな事業としてヘルスケア分野に進出しました。具体的には、インドネシア有数の病院の一つであるエカ病院を運営しています。

シナルマス・グループと日本企業との提携事例

シナルマス・グループと日本は関係が深く、これまでに複数の日本企業が同グループと提携して、事業を推進してきました。ここでは、そうしたシナルマス・グループと日本企業の提携事例を紹介します。

伊藤忠商事株式会社

シナルマス・グループと伊藤忠商事株式会社は、1992年に共同出資で「カワラン工業団地」の開発を行いました。この工業団地は、ジャカルタ中心部から東へ約55kmの場所に位置し、現在では約140社が入居。そのうち約85%を日本企業が占めています。伊藤忠商事株式会社は、グループ企業を通じて入居企業に対し、通関手続きの代行や物流サービスなど、幅広い支援を提供しています。

さらに2017年に同社は、シナルマス・グループの融資仲介サービスを手がける子会社に資本参加することに合意しました。これにより、インドネシアにおける「総合金融サービス」の展開に向けた足がかりを築きました。

双日株式会社

出典:デルタマスシティ

双日株式会社は、1996年にジャカルタ中心部から東へ約45kmの場所に位置する「デルタマスシティ」の開発事業に出資し、同プロジェクトに参加しました。現在も同工業団地の開発及び区画の提供を行っています。デルタマスシティには約150社が入居しており、就業者数は約5万人です。

さらに2023年には、シナルマス・グループの子会社と合弁会社を設立。この新会社を通じて、インドネシア国内で商業用・産業用の太陽光発電を中心とした脱炭素ソリューションの提供を予定しています。

このように双日株式会社は、インフラ開発から環境分野に至るまで、シナルマス・グループと連携しながら、インドネシア市場での事業拡大を積極的に進めています。

フマキラー株式会社

フマキラー株式会社は、東京に本社を構える殺虫剤などの製造・販売を行う日本企業です。インドネシアには30年以上前から進出しており、同国が蚊取り線香の主要な製造拠点となっています。

同社は、シナルマス・グループと双日株式会社が運営する工業団地「デルタマスシティ」内で、日系企業向けに害虫防除サービスを提供しています。この取り組みを起点に、インドネシア市場に適した業務用製品の開発も進めていく方針です。

シナルマス・グループの動向に注目しよう

シナルマス・グループは、7つの主要事業を展開するインドネシア財閥で、同国経済に大きな影響力を持っています。日本とも関係が深く、日本企業と共同で開発した工業団地には多くの日本企業が入居しています。こうした背景から、インドネシア進出を検討している経営者様は、シナルマス・グループの動向にも注目しましょう。

また、インドネシアで大きな影響力を持つインドネシア財閥の一つに「サリム・グループ」があります。同財閥について知りたい方は、「インドネシア財閥のサリム・グループとは?歴史や主要事業を解説」もぜひチェックしてみてください。

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