現地調査をする頻度の多い国の一つである、タイ。
今回は、タイの文化の変化と企業進出時に押さえておきたいポイントについてお伝えいたします。
ASEAN諸国の製造拠点 タイ
タイは、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジア、マレーシアといった多くの国々に囲まれており、周りの国に行き来がしやすいことから、製造業における拠点のハブとしての役割を担ってきました。また、40~50年ほど前から自動車業界などの製造拠点として日系の企業が多く進出している国でもあります。
しかし、近年、タイの人件費は高騰しており、ベトナムやインドネシアに工場を移す企業も増えつつあります。そのような状況の中、タイでは単に製造のみを行うのではなく、製品に高付加価値を加えるための工場を置かれることが増えてきました。
その結果、タイにおける製造技術は向上してきていると言われています。
変わりつつあるタイの風景
みなさんは、タイというとどのような景色を思い浮かべるでしょうか。
トゥクトゥクと呼ばれる三輪のタクシーが走り、屋台が並んでいるような光景でしょうか。
しかし、近年、タイのインフラ設備は発達し、トゥクトゥクは安全性の問題と排気ガス規制の理由から減少傾向にあります。そして、屋台も、交通整備と不法占拠の取り締まりという政府の方針によって撤去され、少なくなってきているのです。
その代わりに、街にはショッピングモールが増えつつあります。店舗の様子は日本の百貨店のようなものからショッピングモールのような形態までさまざまで、そこには多くの人々が集っています。
数年前からタイを何度も訪れ、タイの風景と文化に馴染んできた私からすると、行く度に景色が変化していくのは、少し淋しくも感じられます。
食品市場におけるタイの変化
生クリームの需要とともに変化した運送車
みなさんご存知のように、タイではカレーに合わせてお米をよく食べます。特に都市圏であるバンコクでは、タイローカルの60歳以上の層は米食中心で、パン製品を食べることはほとんどありません。
しかし、20年以上前からパン食の広告が積極的に行われ、パンが認知され始めました。また近年では、約5年前にマレーシアから入ったロティと呼ばれる菓子パンが流行したこともあり、パン食文化がより一般的になってきていると考えられています。
それに伴い、生クリームが流通するようになりました。これまでは、タイでクリームと言えば生クリームではなく、融点が高く、運送する際にも冷蔵が不要なバタークリームが主流でした。現在では、生クリームの流通が増えたことで運送車も冷蔵・冷凍車のニーズが高まりを見せています。
外食文化が根付いているタイ
また、タイにおいて、レトルト食品文化が根付くのか、という調査をしたこともあります。
現在のタイでは、レトルト食品はほとんど流通していません。レトルト食品を調理するには、鍋にお湯を沸かしてパッケージごと湯煎をするか、電子レンジで温めるかのどちらかですが、現在のタイでは、電子レンジを持っている人は富裕層に限られるからです。
また、タイでは外食が一般的であり、自炊をする人は少ないこともレトルト食品が広がっていない一因です。
しかし、インスタント食品のニーズを見てみると、近年、男女ともに労働人口が増加していることにより需要が増えてきているのです。
今後、家電の普及と屋台の減少が、タイの食事文化に影響を与えることが考えられます。
現地のお宅の冷蔵庫や調味料も見学させてもらい、仮説を立てていく
タイのペット事情
タイでは、元国王ラーマ9世(プミポン国王)の支持率が高く、元国王が犬を飼っていたことから、ペットとして犬を飼う文化があります。ネコを飼っている人は少数派です。
犬を飼うことに関する法律もあり、例えば、リードから50、60cm以内の範囲で飼わなければならないという内容のものもあるそうです。このような法律を守るために、室内で飼育をしている人が多く、最近ではトリミングの需要も増えてきているようです。
ペットに関する法律まであるという話は、私も現地調査をする中で初めて知りました。このように現地に行ってみて初めて知ることも多いので、改めて現地での調査は必要だと思い知らされます。
市場の例として、タイの食品事情とペット事情についてお伝えしましたが、市場調査を通してまず訪問国の文化への理解を深め、その国に市場がない商材を広めていく場合には、土台となる文化を作り上げていくところから始めなくてはなりません。
タイの市場は飽和状態とも言われ、実際に進出を諦める企業様もいらっしゃいます。
そのような中で、タイへの企業進出を成功させるためには、タイの市場をしっかりと把握した上で自社のポジショニング、ターゲティングを明確にし、他社との差別化を図ることが大切です。
また、タイだけでなくミャンマーも現地調査で数多く訪れる国です。
その理由は、タイへの企業進出が難しい場合に、ベトナムやミャンマーへの進出を検討することもあるからです。常に、リスクヘッジとしての国を考え、その可能性を検討する、一歩踏み込んだ調査を行うことが必要なのではないでしょうか。