TSMCは2024年2月に熊本県に進出し、日本で注目を集めている半導体企業です。ニュースなどで、TSMCバブルに湧く熊本県の様子を見聞きした方も多いはずです。
そこでTSMCがどのような会社なのか、何がすごいのかと疑問に思っている方もいるでしょう。
本記事ではそのような方に向けて、TSMCの会社概要・経営状況・成長戦略について徹底解説します。
TSMCとはどんな会社?
TSMCは台湾に本社を置く半導体企業です。世界初の専業ファウンドリとして知られています。ファウンドリとは、自社の半導体工場で他社の半導体製造の前工程を請け負うことです。この章では、TSMCの会社概要・経営理念・事業内容を紹介します。
会社概要
出典:TSMC「会社情報」
TSMCの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | 台湾積体電路製造股份有限公司 Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd. 略称:TSMC |
本社 | 台湾 |
設立 | 1987年 |
従業員数 | 73,000人 |
製造拠点 | 18拠点 |
ウェーハの総出荷量 | 12インチ相当ウェーハ:1,530万枚分 ※ウェーハとは、シリコンの薄い板のこと |
売上高 | 2.2兆台湾ドル |
2022年のメモリを除く世界の半導体生産額の30%を同社が生産しています。
TSMCの強みは、高性能の半導体製品を生産できる技術力です。具体的には3nmプロセス技術と呼ばれる最先端技術を持っています。1987年に3μmから始まった技術が3nmまでに達しているのです。なお、半導体は線幅が狭いほど高性能を意味します。
出典:TSMC「3nmテクノロジー」
経営理念
TSMCは経営理念として、以下の10項目を掲げています。
1. 常に誠実であること
2. 核となるビジネスへの注力
3. 国際化を目指す
4. 長期展望と戦略の重要性の認識
5. 顧客はパートナーである
6. 業務全般において常に質の向上を目指す
7. たゆまぬ改革を怠らない
8. 活力のある有意義な労働環境を追求する
9. 風通しの良い組織体系を維持する
10. 従業員と株主を大切にし、社会に対する模範企業を目指す
これらの経営理念をもとに、TSMCはテクノロジーかつメーカーのリーダーとして、最大限の利益を生み出すファウンドリを目指しています。
事業内容
TSMCの事業内容は、自社工場で他社の半導体製品の前工程を請け負うファウンドリです。
半導体産業では半導体を製造するのに、設計を担当するファブレスと生産を担当するファウンドリで分業するのが一般的です。ファブレスとは、自社で工場を持たずに製造をファウンドリに委託する企業を指します。
代表的なファブレスはNVIDIAやQualcommで、代表的なファウンドリはTSMCやサムスン電子です。TSMCはファウンドリのなかでも群を抜いており、世界シェアの5割以上を獲得しています。シェア率の高さの要因は、技術力や品質の高さ、優れた生産能力などが挙げられます。
またスマートフォン用・自動車用・デジタル家電用など、多岐の用途に対応できる生産拠点を保有しているのも強みです。
TSMCの経営状況
TSMCの経営状況を売上高・営業利益の推移から考察します。
参考:TSMC「Annual Report」
TSMCの2022年の売上高は、2兆2,639億台湾ドル(約9.9兆円)でした。営業利益も1兆台湾ドル(約4.4兆円)を突破するまでに成長しています。TSMCの経営状況の特徴は、利益率の高さが挙げられます。実際に、2022年の売上高営業利益率は約49%でした。※1台湾ドル=4.4円換算
また、2022年の地域別売上高の構成割合は以下のとおりです。
参考:TSMC「Annual Report」
TSMCの主要な取引先は、Apple・Qualcomm・NVIDIAなどのアメリカ企業が多く含まれています。そのため、地域別の売上高も北アメリカが約7割を占めています。
TSMCの製品別売上高
2022年、TSMCは532社の顧客向けに12,698個の製品を製造しました。製品の主な分野は以下の5つです。
- ハイパフォーマンスコンピューティング
- スマートフォン
- IoT
- 自動車
- デジタル家電
また、2022年の製品別売上高の構成割合は以下のとおりです。
参考:TSMC「Annual Report」
この章では各製品の売上高の推移を紹介します。
ハイパフォーマンスコンピューティング
ハイパフォーマンスコンピューティングには、パソコンやタブレット、ゲーム機、サーバーなどの半導体製品が含まれます。同分野の売上高の推移は以下のとおりです。
参考:TSMC「Annual Report」
近年、売上高が急速に拡大している要因はAI・5G・DXのニーズが高まっているためです。とくにAIや5Gに必要なデータ分析のために、クラウドデータセンターやインフラ整備への需要が高まっています。
ハイパフォーマンスコンピューティングは、TSMCの売上高の41.2%を占めており、成長をけん引している分野といえます。
スマートフォン
スマートフォンは2022年の売上高の39.3%を占める、ハイパフォーマンスコンピューティングに次ぐ主要な製品です。スマートフォンの売上高の推移は以下のとおりです。
参考:TSMC「Annual Report」
2022年は約8,889億台湾ドルで、2018年と比較すると約1.9倍に拡大しました。グラフより、スマートフォンは年々需要が高まっている分野といえます。
IoT
IoT製品はウェアラブルや健康モニター、スマートホームなどの市場拡大に伴い、需要が増加しています。IoTの売上高の推移は以下のとおりです。
参考:TSMC「Annual Report」
IoTが全体に占める割合は8.7%で、先の2分野よりもウェイトが小さいものの、順調に成長しています。TSMCでは、2023年のIoT製品の出荷台数成長率を10%台前半と予想しており、今後も拡大を期待しています。
自動車
自動車産業は、近年さまざまな新しい技術が登場している分野です。例えば電気自動車やハイブリッド車、自動運転車、先進運転支援システムなどがあります。このような技術の発達により、自動車関連の半導体製品の需要が高まっています。自動車製品の売上高の推移は以下のとおりです。
参考:TSMC「Annual Report」
自動車製品は2022年に急速に伸びた分野です。ただし、2023年の世界自動車販売台数は1桁台の成長にとどまると見込まれています。
デジタル家電
デジタル家電は4Kや8Kテレビ、デジタル一眼レフ向けの半導体製品です。デジタル家電製品の売上高の推移は以下のとおりです。
参考:TSMC「Annual Report」
デジタル家電は550億台湾ドル前後を推移しており、横ばいの状態が続いています。
TSMCの成長戦略
TSMCの成功の秘訣は、世界に先駆けてファウンドリのビジネスモデルを始めたことです。半導体企業にとって、半導体製品を設計から製造まで一気通貫で行うよりも、ファウンドリを活用したほうが開発スピードを高められます。そのため、半導体産業ではファブレスとファウンドリの分業が進み、先駆者であるTSMCが大きな成功を収めているのです。
またTSMCの成長戦略は、創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が掲げた「バーチャルウェーハ工場」の構想と大きく関係しています。バーチャルウェーハ工場とは、「顧客がまるで自社工場のように、TSMCの工場を管理できる仕組み」のことです。実際にTSMCは、顧客に対して製造の進捗状況をリアルタイムで確認できる仕組みを構築しています。
これらの取り組みにより、TSMCはファウンドリの世界シェアの5割以上を獲得しているのです。
特需で湧く熊本!TSMCは日本でも注目の半導体企業の1つ
TSMCは世界最大のファウンドリで、半導体サプライチェーンの重要な役割を担っています。そのTSMCが熊本に第一工場を開所したことで、地元ではTSMCバブルやTSMC特需といわれるほど、賃金・地価・不動産価格が高騰しています。また第二工場の建設が予定されており、さらに第三工場が検討段階です。そのためTSMCは、日本の経済や半導体産業の復活を担う企業としても注目されています。