古都や文化遺産の街である京都には独自技術で世界市場を切り開いてきたハイテク企業が多く存在します。
前回の記事では、島津製作所、堀場製作所、京セラ、任天堂を取り上げましたが、後半のこの記事では、GSユアサ、オムロン、村田製作所、日本電産、ロームについてご紹介し、今なぜ東京に本社を構えるFinTechなどのベンチャー企業が京都に支社を出すことに魅力を感じているかについてもご説明します。
前回の記事:
https://www.provej.jp/column/st/kyoto-global-maker/
※本コラムは各社のオープン情報やニュースメディアを中心に引用して作成しています。
GSユアサ
https://gyb.gs-yuasa.com/reason/
※GSユアサの自動車用電池
GSユアサの創業と沿革
株式会社GS・ユアサコーポレーションの創業者は、島津製作所を創業した島津源蔵の息子である二代目島津源蔵(襲名前は梅次郎)です。
ジーエスのGSは「Genzo Shimazu」のイニシャルをイニシャルに由来しています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B3%B6%E6%B4%A5%E6%BA%90%E8%94%B5_(2%E4%BB%A3%E7%9B%AE)
1894年に初代・源蔵が急死した後、梅次郎は2代目源蔵を襲名して島津製作所の事業を継承する一方で、1897年、京都帝国大学の理工科大学から注文を受けて鉛蓄電池を作製し始めました。
この電池は「GS蓄電池」と呼ばれ、日露戦争で徴発されて軍艦和泉でも使用されるなどして歴史的役割を支えました。
現在同社は、産業用電池、自動車電池、電力貯蔵用電池、燃料電池、特殊電池などの電池を中心に開発から販売をしており、自動車・二輪車用の鉛蓄電池で国内シェアはトップ、世界でも第2位のシェアを占めています。
https://www.nanshin.net/contents/?pageid=gsyuasa_battery
https://www.gs-yuasa.com/jp/ir/individual/05.php
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO48834010R20C19A8DTA000/
成長のカギを握るリチウムイオン電池事業
同社の連結売上高は年々右肩上がりになっていますが、特に長期成長のカギを握っているのがリチウムイオン電池です。
国内の新車販売を2030年代半ばまでにEVにするという政府の目標の対象に、ハイブリッド車(HV)も含まれています。同社はEVよりもHV向け電池の生産能力拡大を続けています。
https://finance.logmi.jp/375926
元々EV車向けのリチウムイオン電池を製造していましたが、価格競争が激しい製品のためHVへの注力に切り替えました。
村尾社長は19年5月に、「当社の強みを活かした独自の市場ポジショニングを行う」と中期経営計画で発表し、GSユアサとホンダの共同出資会社ブルーエナジーの工場で開発と製造を進めています。
オムロン
オムロンは、制御機器・ファクトリーオートメーションシステム事業、電子部品事業、車載電装部品事業、健康医療機器事業、社会システム事業の主要5事業を展開しています。
https://iroots-search.jp/14601
オムロンの創業と沿革
もともとは1933年に「立石電機製作所」という名前でに創業し、レントゲン写真撮影用のタイマー、家庭用電子血圧計などを開発していた企業で、その後1990年に事業のグローバル化に伴い社名を「オムロン」に変更しました。京都市右京区花園の通称「御室」(おむろ)から命名されました。
https://www.sbbit.jp/article/cont1/34450#&gid=null&pid=1
オムロンいう社名を聞けば、体温計や血圧計を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際売上を圧倒的に多く占めているのは制御機器事業で、ヘルスケア事業の売上高は連結全体の売上高の約13%に過ぎません。全体の約40%が当該事業の売上高になを占める制御機器事業ではどのようなサービスが提供されているのでしょうか。
https://iroots-search.jp/14605
世界に先駆けて開発した画期的製品
オムロンがベンチャー企業と言われる理由は、創業者の立石一真氏が世界に先駆けて自動改札機やATMなどを開発してきたからです。
高度経済成長下の昭和30年代は、人口集中に伴って鉄道の混雑が大きな社会問題になっていました。
ダイヤの乱れやホームからの転落事故などが多発していたのです。鉄道会社は、「人の流れを止めないために1分間に80人の切符を処理しなければならない」という危機に直面し、各メーカーに自動改札機の開発を打診しました。
若手技術者の一人である田中寿雄氏は、試作機を作っては、近所の主婦や子供たちを集め試行錯誤を重ねた。昭和42年、大阪の北千里駅に児童開発機が初めて設置されました。その後の北千里駅は、ラッシュの混雑を劇的に緩和していったのです。
「不可能だ」と各社が後込みする中、唯一手を挙げたのが立石電機(現オムロン)でした。
https://socialsolution.omron.com/jp/ja/products_service/station/gate.html
自動改札機を日本で初めて開発した同社は現在も国内50パーセントとトップシェアを誇っており、この自動改札機の技術はATMにも応用されています。
世界7極に地域統括本社(日本、アメリカ、オランダ、インド、中国、シンガポール、ブラジル)を設置。中国を中心とした海外へのビジネス展開に積極的で、既に連結での海外売上比率は5割を超えています。
村田製作所
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00047/053000001/
元々は陶器製品を製造する町工場
セラミックが持つ優れた高周波特性を持ち、小型で大容量を実現できる積層セラミックコンデンサーで世界一のプレゼンスを誇る村田製作所は、1944年10月、村田昭により創業されました。京都市中京区四条大宮で元染物工場を借りて工場として創業し、元々は陶器製品を製造する町工場でした。
主力商品はセラミックスコンデンサー以外に、セラミックフィルタ、高周波部品、センサー部品も強みを持っており、これらの製品は、パソコン、スマートフォン、車、電子機器に使用されています。いずれも世界的に圧倒的なシェアを占め、原材料からの一貫生産に特徴があります。
https://recruit.murata.com/ja-jp/about/ambition/electronics/
スマートフォン向けのコンデンサー・通信事業
2019年3月期の売上高を見てみると、コンデンサーが36%で、用途別ではスマートフォンなどの通信が約半数の割合を占めています。
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00119/
アメリカ、ブラジル、イギリス、オランダ、フランス、イタリア、ドイツ、中国、台湾、香港、韓国、シンガポール、マレーシア、タイなどに約70社持ち、海外売上比率は90%を超えており、これは売上高1兆円以上の企業でトップの海外売上高比率と言われています。
村田製作所が発表した2020年4~9月期の連結純利益は、前年同期比9%増の990億円と発表しました。いち早くコロナ禍の経済から立ち直った中国などの需要回復を取り込むことに成功し、スマホや自動車向け部品の販売が増加しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65410390T21C20A0DTA000/
竹村善人取締役常務執行役員は「新型コロナウイルスの感染拡大でマイナスになると思ったが、結果として増収増益になりそう」と好調ぶりをにじませ、2021年3月期の連結営業利益が前期比15%増の2900億円と過去最高になる見込みと話しています。
巣ごもり需要だけでなく、普及期に入った5Gスマホ需要も順調です。
注目を集めるメトロサーク
そんな村田製が期待する分野がミリ波関連です。ミリ波は、「超高速通信」「超低遅延」などを特徴とする30ギガヘルツ以上の超高周波帯域の電波です。現状の5Gスマホの多くでは「サブ6」と呼ばれる帯域を使っていますが、サブ6はミリ波に比べて周波数が低く技術的なハードルが高くない半面、ミリ波も含めた5G本来の実力を発揮しにくいという欠点がありました。
そこで注目が集まるミリ波関連商品の一つが、高機能樹脂多層基板「メトロサーク」と呼ばれる部品で、高周波の電気信号の伝送損失が少ないという特徴があり、同社はメトロサークを通信モジュールに組み込んでスマホメーカーに供給する提案をしており、富山県の工場に加え、受注に対応するため岡山県や石川県の工場などで生産を始めています。
https://corporate.murata.com/ja-jp/group/wakuramurata/products/power
日本電産
1973年、創業者の永守重信氏が 京都市に設立した精密小型ACモーター生産の企業ですスマートフォン、PC、車などの様々な用途に使われる精密小型モータを製造し、世界一のシェアを維持しています。
https://www.nidec.com/jp/corporate/about/outline/
パソコン市場の縮小で、精密小型モーター事業は厳しさを増しているため、収益力を高める事業構造の転換を図り、7年間の間で事業ポートフォリオのメインは「車載・家電・商業・産業用製品」に逆転しました。
車載用の世界市場は年間2兆円規模とされています。同社は自動車産業での変革をかつてないチャンスと見ており、これまでに車載用モーターをはじめ、白物家電や産業用モーターの関連企業の買収を続け、一気に攻め入る方針を打ち出しています。
https://toyokeizai.net/articles/-/4065
日本電産の中規模M&Aによる成長戦略
実は、国内企業によるM&Aを語る上で欠かせない存在として名前が挙がる企業の1つが日本電産です。今までに下記のような大規模なN&Aを行っており、一時期は売上が伸び悩み失敗したと言われた時期もありましたが、現在は大きく改善されています。
同社がM&Aの巧者である最大のポイントは、同社が国内で数十社の小規模買収を繰り返してきたという点が専門家によって評価されています。小規模な買収を繰り返しながらノウハウを蓄積し、海外M&Aにおいてもそのノウハウを活用しているのです。
特に海外企業の買収に苦労している日本企業が多く、国内の場合に比べてスムーズに行かない場合が多い現状に対して、常務執行役員企業執務室担当荒木氏は「買収後の企業経営に注力する」と述べています。
例えば同社が買収したモータードライブ事業のフランスのロア・ソマーホールディング社買収の際、買収完了直後永森会長自らが現地に出向き幹部の前に当社の経営理念や経営手法について詳しく説明するなどして対応をし、なるべく買収後のリストラをせずに相互理解を図りながら買収に取り組んできた歩みがあります。
※より詳しいM&Aの企業をご覧になりたい方は日本電産のHPをご覧ください
https://www.nidec.com/jp/corporate/about/ma/
ローム
創業者の佐藤研一郎が、立命館大学在学時に考案した「炭素皮膜抵抗」の特許を元に創業した企業です。
社名のROHMは、R:抵抗、Ohm:抵抗を示す単位、これらの2つの言葉に由来します。当初は大規模集積回路の製造からスタートしましたが、現在は様々な機能を顧客の要望に応じてカスタマイズする「カスタムLSI」が主力となっています。
カスタムLSIで市場を席巻
日本のカスタムLSI市場を席巻する企業で、国内の集積回路のトップシェアを誇っていますが、ロゴなどは製品上に表示していないため、地元京都以外では知名度があまり高くないと言われています。
カスタムLSI(large-scale IC)は、特定の用途・製品向けに設計・製造される半導体チップで、ロームはこの分野で業界首位を維持しています。近年は、世界に先駆けて量産を始めたパワー半導体に注力し、省エネ、小型化、高機能化を推進しています。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO53353060T11C19A2DTA000?unlock=1
SiCパワーデバイス
SiCは、シリコン(Si)と炭素(C)で構成される化合物半導体材料で、SiCの特徴である高速動作、低抵抗、高温動作がもたらすメリット結合力が非常に強いため、熱的、機械的、科学的に安定しています。SiCを利用すると大幅なエネルギーロスの削減が可能になります。
https://techweb.rohm.co.jp/knowledge/sic/s-sic/02-s-sic/4161
同社専務取締役の東克己氏は、SiCパワーデバイスに対する市場予測について、「2025年にはおよそ23億米ドルの市場規模になる」と述べています。EVの社会浸透速度が最も大きいとしつつ、仮想通貨のマイニングに用いる「マイニングサーバー」の需要動向も大きな影響を与えるとされています。
現在ロームはこのSiCメーカーで世界3位となっていますが、2025年にはシェア30%を狙い、世界市場1位に向けてSiCの事業に注力しています。
東京に本社を構えるベンチャーが京都に魅力を感じる理由
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01285/042000004/
元々はベンチャーから始まり今や大企業になっている企業を数多く輩出した京都の地に、ここ数年、東京に本社を持つベンチャー企業が続々と京都に進出しています。LINE、サイバーエージェント、Sansanなどはなぜ京都に魅力を感じているのでしょうか。主に採用面で優位な2点を挙げたいと思います。
大学も多くインターンシップから採用につなげやすい
2019年度の学校基本調査によると、都府内にある大学数は34あります。関東の千葉、埼玉、神奈川の3県はそれぞれ30以下となっています。京都には京都大学をはじめとして優秀な学生が多く、インターンシップに大学生や大学院生を受け入れて、そのまま新卒で優秀な人材を獲得しよういう試みです。
人材を取り合う競合他社が比較的少ない
東京はネットサービスを手掛けるようなメガベンチャーだけでなく、金融や製造などの幅広い業種がデジタル人材を争奪し合っています。一方、京都は競合となるインターンシップの受け入れ先が多くないため、比較的人材を採用しやすいというメリットがあります。
最後に
前回に引き続き、今回でもイノベーションを成し遂げた企業を5社紹介しました。
京都に進出する東京本社の有名ベンチャー企業も増えていることから、今後は京都にまた新しい波がやって来るかもしれません。
<参考>
https://www.rohm.co.jp/investor-relations/financial-overview/net-sales
https://www.papy.co.jp/act/books/1-19697/
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B3%B6%E6%B4%A5%E6%BA%90%E8%94%B5_(2%E4%BB%A3%E7%9B%AE)
https://job.mynavi.jp/22/pc/search/corp598/outline.html
https://piles-garage.com/article/2528
https://minsaku.com/articles/post508/
https://ekuippmagazine.com/business/muratamanufact/
https://job.rikunabi.com/2021/company/r362700008/
https://www.trygate.com/article/?p=2856
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJB2884J0Y1A120C2000000/?unlock=1