コロナ禍でリモートワークが浸透し、緊急事態宣言下で移動や外出の自粛される中、「雑談」の機会が激減したと嘆く人も多いと言われています。2020年4月にアメリカで始まり、2021年2月に日本に上陸した音声のSNS「Clubhouse(クラブハウス)」は、iPhoneやiPadのみの対応にも関わらず、ユーザーが急増し、瞬時に話題になりました。
人気に火が着いた背景の1つに「コロナ禍で人と会えない中、気軽に交流できる雑談への需要が高かった」と専門家は分析しています。
リアルタイム配信のみで、録音・複製不可、招待制のシステム。
アプリ上に誰でも作成できる「ルーム」が無数にあり、ユーザーはいつでも出入りでき、ただ会話を聞くだけでも、会話に参加しても良いという自由さが魅力です。
アメリカ本土でクラブハウスは、開始された2020年12月から半年も経たないうちに、Twitterがライバル視する存在となっています。ここではクラブハウスの人気の秘密と、クラブハウスの戦略、各国の使用動向についてご紹介します。
クラブハウスとは
クラブハウスは、2020年春に、アメリカ・サンフランシスコに拠点を構えるベンチャー企業「Alpha Exploration」がリリースしたSNSアプリです。アプリの登録者数は60万人を超えており、週間のユニークユーザーは200万人以上となっています。日本のユーザー数は、2月4日時点で約50万人程度と試算されています。
SpaceXとTeslaのCEOイーロン・マスク氏や、FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏がルームに登場したことで高い関心が寄せられました。
https://www.businessinsider.jp/post-229023
クラブハウスの特徴
それでは、クラブハウスの主な特徴を見てみましょう。
実名制のSNS
クラブハウスへの招待を受けるためには、自分のスマホの連絡先に招待してくれるユーザーの電話番号が事前に登録されている必要があります。「リアルなつながり」が本当にあるかどうかを見られている点が、他のSNSと違う点でしょう。
「誰から招待されたか」、「誰を招待したか」が自身のプロフィール上に記載され、クラブハウスを使用する限り永久的に招待のつながりが第三者に公開されます。
著名人の配信や対話を聴ける
クラブハウスの配信には、なかなか講演を聴けないような著名人が登場します。著名人の生の話を聴いて貴重な学びや交流ができる点はクラブハウスの醍醐味でしょう。
気軽で自由度が高い
YouTubeなど動画配信は、テンポよく編集されていますが、基本的に視覚を奪われる工夫が施されていることが多く、他の作業をしながら楽しむことは難しい場合があるでしょう。一方、クラブハウスは音声配信のため、通勤や家事の時、ゆったり家で過ごしている時でも他の作業をしながら気軽に聴くことが可能です。
アメリカでは、多くの人がZoomミーティングの間にクラブハウスをチェックし、面白そうな会話が見つかったらバックグラウンドで流し聞きするパターンが多いようです。最も聞く時間が増えるのが23〜24時頃で、寝る前にクラブハウスを覗いて面白い会話を見つけると2〜3時間聞いてしまうという現象が起こっています。
今までにない独自性のSNS
クラブハウスについて、LINEグループやZoomのウェビナーのようだと言う人もいます。stand.fmやVoicyなどの日本から生れた音声アプリと比較されますが、クラブハウスはどのSNSとも一線を画しています。
その独自性とは、「人が直接声で語り合えるオンライン空間」であることと、Facebookの実名制のネットワークのように直接対話できるだけでなく、その空間に存在する他の人の対話も生で聴くことができる点です。
クラブハウスでは他人が電話で話しているような会話をラジオのように聴けるだけでなく、その対話に自分が直接参加できるのです。
日本ではわずか2週間で100万人規模に達したクラブハウスのルームは、雑談のタイプが下記の3つの種類に分類されるようです。
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishitanimasaki/20210209-00221658/
クラブハウスの禁止事項
次に、クラブハウスが公表している禁止事項についても見てみましょう。
https://www.cloudsign.jp/media/20210128-clubhouse-tos/
- 知的財産を侵害するコンテンツ、下品、わいせつ、ポルノ的な会話
- 音声の録音
- 音声配信の録音や配信内容の口外
※この利用規約によって、利用者はクラブハウスでしか得られない希少価値のある情報を得ることができます。この点も他のSNSと差別化されている大きな特徴です。
禁止事項に違反した際には、そのユーザーのアカウントは停止され、使用できなくなります。
登録には電話番号が必須なことから、事実上サービスにアクセスする手段を失うペナルティは、クラブハウスの人気が高まるほど強力なインパクトとなるでしょう。
クラブハウス創業のきっかけ
クラブハウスを運営するのは、2020年2月に設立されたAlpha Explorationです。アメリカの写真SNS「Pintarest」に買収されたアプリ提供企業を創業したポール・デイビソン氏と、GoogleでGoogle Mapのエンジニアとして経験豊富なローハン・セス氏の2人が創業しました。
ローハン氏の娘のリディアちゃんが難病で苦しんでいることから、2019年の秋、治療のための資金調達について話し合い、クラブハウスを立ち上げることになりました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/4d84aac5c9a3690d5c0f33237c77c82a60ff1374/images/000
Clubhouse共同創業者ローハン・セス氏と娘のリディアちゃん
アメリカのスタートアップ情報サイトのクランチベースの調査によると、アプリリリース後の2020年5月の時点において約12億円を調達しており、2021年1月には、評価額が約1000億円に達したと分かっています。
クラブハウスのサービス戦略
クラブハウスは、マーケティング戦略の視点で見ると、下記2つの点にフォーカスしています。
FOMO
https://www.irishtimes.com/life-and-style/health-family/fomo-are-you-afraid-of-missing-out-1.3704521
クラブハウスは規約の中で、会話の録音を禁止し、記録が残らないようにしています。「こんな人がこんな話をしていた」という短編的な内容がSNSで共有されると、それを見た人は「私も聞きたい」と渇望感を持ってしまうという人間の心理があります。これは「FOMO(Fear Of Missing Out、情報を逃すことの恐れ)」と呼ばれ、2011年にNew York Timesがこの現象を名付けています。
アメリカでは、多くの人が1日10〜20回ぐらいクラブハウスのアプリを開いており、何が起きているかを見に行っているようですが、これはFacebookなどの他のアプリでは起きない現象です。
招待枠が2名というプレミアム感
リリース1週間で20代の34%が認知したクラブハウスが短期間で急速に広まった大きな理由として、「既存ユーザーに招待されないとアプリを使うことができない。しかもその枠は2名しかない」というプレミアム感を創出している点が挙げられています。
※日本では招待チケットがメルカリで1〜3万円で販売されていました。
日本発のSNSであるmixiも招待制でしたが、mixiが1年かけて獲得した50万人のユーザーに、クラブハウスはわずか10日で到達しています。
収益モデルはまだ計画中
2021年2月現在、現在無料で使用できるこのサービスの収益モデルはまだ構築されていませんが、「クリエイター助成プログラム」が1月末の時点で検討されています。クラブハウスのブログによると、「プラットフォームで人気を得つつあるクリエーターをサポートする」とかかれており、今後はこのプラットフォームで、YouTuberやTikTokのインフルエンサーのような人々が活躍するようになるのかもしれません。
この計画はまだ決定していませんが、3つの分野であるチップ、チケット、サブスクリプションについての数カ月のうちにテストを開始すると述べています。
音声技術は中国のAgoraを使用
クラブハウスに音声技術サービスを提供しているのは、米中両国に本社を置く中華系クラウドサービスのAgoraです。
同社がクラブハウスに音声技術サービスを提供しているというニュースが流れ始めた後、同社の株価はわずか1週間で40%も急騰しました。
日本での反響
LINEの調査によると、1月30日時点でのクラブハウスの認知度は2割弱でした。「知っている」と答えたのは20代の34%に対し、40代は12%と、世代や業種によってばらつきがありました。
現状Appleのアプリでしかダウンロードができないため、アンドロイドユーザーには取り残された感を持つ人も多いと言われています。20代の中には、クラブハウスに登録するためにiPadを買った人も実際にいるようです。
アメリカでリリースされた当日、日本人で初めて登録したユーザーはシリコンバレーで起業し、1対1のビデオ会議サービスRemotehour(リモートアワー)を経営する山田俊輔氏だったとされています。たまたま友人から招待のリンクをもらった際、招待枠は1人当たり2枠ですが、ユーザー同士でフォローし合ったり、会話に参加したりすることで招待枠が追加されるシステムになっています。登録から半年後、山田氏は新たに20人分の招待枠を得てからは芸能界に波及していきました。
注意点
クラブハウスは自由で親密なコミュニケーションを重視していますが、ユーザーの良心がべ―スにあってのサービスのため、一歩間違えれば「無法地帯」になるのではないかと危惧されています。使用するにあたって事前に下記の点に注意しておきましょう。
他のSNSで起こっているトラブルが発生する可能性
他のSNSでも起こっているアカウントのなりすまし、名誉棄損に相当する発言が発生する可能性があります。現状クラブハウスのアプリは日本語対応していないため、日本市場のサポート体制は整っていないと考えた方が良いでしょう。
差別の温床になる可能性
クラブハウスは、「差別の場に利用しないでください」と利用規約に明記していますが、状さまざまなヘイトスピーチ(人種差別、女性差別など)の場に使用されることもあると言われています。
セキュリティを心配する声
スタンフォード・インターネットオブザーバトリーは、「クラブハウスは世界中で行われる会話上のプライバシーに対して何も約束できない」とセキュリティへの危惧を示しています。
※詳細:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-02-22/QOWR70DWX2PV01
「記録を残してはいけない」という規約により証拠が残せない
クラブハウスはアカウントが電話番号と紐づけられているため、犯罪の抑止力になることは期待できますが、「記録を残してはいけない」という規約ある限り、犯罪、トラブル、情報漏洩が起きた際に調査が難航するかもしれません。
海外の動向
中国
クラブハウスは中国でも人気になっていましたが、2月8日、当局によって利用を禁止されました。
中国のクラブハウスのルームにおいて、ウイグル自治区における大規模な強制収容、香港の民主化デモ、台湾の独立などのテーマがも採り上げられたため、検閲対象になったと見られています。
中国ではクラブハウスの”Clubhouse”を”Clubhorse”の綴りに変えた 馬のアイコンのアプリも登場しましたが、これも利用禁止となりました。
ドイツ消費者保護法違反
ドイツ市場では、クラブハウスは「ドイツ消費者保護法」に違反するとの声が高まっています。ドイツでは、アプリの利用規約がドイツ語で示されるべきとされているのですが、クラブハウスの利用規約とプライバシーが英語でしか表示されていないためです。
2016年、ドイツ消費者組織連盟は中国のアプリWhatsAppに対して訴訟を起こしています。ベルリンの控訴裁判所は、ドイツのユーザーに英語での契約条件を示すだけの会社は、「不透明な方法で行動している。このことは全ての消費者に不利益をもたらす」という判決を下しました。
EU
https://www.sbbit.jp/article/cont1/34759
EUは、クラブハウスを「データ保護法の重大な違反になる」として批判しています。
クラブハウスの利用規約内に、EUのGDPRが必要とする適切なデータ保護通知がないためです。
最後に
リモートワークや人と気軽に会えないコロナ渦において爆発的にヒットしたクラブハウス。今後コロナ渦がしばらく続く中、しばらくこの人気の熱は冷めそうにありませんが、アフターコロナに入っても人気は続くのか?という議論もあります。
今後、YouTubeやTikTokのプラットフォームで活躍するインフルエンサーのような存在が、クラブハウスにも登場するのでしょうか。クラブハウスがこのサービスをどのように収益化していくかも世界中が注目しています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-02-22/QOWR70DWX2PV01
https://mub.co.jp/clubhouse-sns-appli/
https://find-model.jp/insta-lab/how-to-use-clubhouse/
https://toyokeizai.net/articles/-/410282?page=4
https://umepon.net/clubhouse-demerit/#i-5
https://umepon.net/clubhouse-monetize/
https://toyokeizai.net/articles/-/412238?page=4
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2102/01/news101.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000035887.html
https://news.yahoo.co.jp/articles/4d84aac5c9a3690d5c0f33237c77c82a60ff1374
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000035887.html
https://www.afpbb.com/articles/-/3330734
https://news.yahoo.co.jp/articles/8bed9d21d605b733784fa023530c4e247747065d
https://jp.techcrunch.com/2020/05/17/clubhouse/