京都から生まれた世界企業。各社の特徴と世界企業が生まれた背景・競争力の源泉その①(島津製作所、堀場製作所、京セラ、任天堂)

独自技術で世界市場を切り開いたハイテク企業が多く存在する京都。例えば島津源蔵氏が1875年に創業した島津製作所や、堀場雅夫氏の創業した堀場製作所、稲盛和夫氏の京セラなどが代表的な企業です。

財団法人京都高度技術研究所の白須事務局長は、「売上の大きさを含めて世界に知れ渡る企業は1973年に設立された日本電産が最後かもしれないが、京都からはその後も数多くのベンチャーが生まれている」と話しています。

古都や文化遺産の街である京都に最先端ハイテク企業が集まる、その土壌にはどんな特徴があるのでしょうか。

ここでは、前半後半の記事に分けて、独自技術を持つ企業が多く存在するビジネス視点での京都の魅力と、代表的な企業のご紹介をします。

京都ハイテク企業の起源と歩み。

舎密局開設で教育に力を注ぐ

1869(明治2)年

明治維新で東京に遷都となった時、京都の人々は教育と科学技術による産業振興を行いました。

町衆が私財を投じることで小学校を創設し、「東京に負けない」という反骨精神を教育に注ぎました。

1870(明治3)年

舎密局(せいみきょく:舎密はオランダ語で「化学」を意味する)を大阪から招致し、木屋町に開局されました。陶磁器やガラス製造などの理化学や印刷技術、レモンシロップや氷砂糖製造を学生へ教えました。1872(明治5)年から舎密局を拡張し開局5年間で学んだ学生は3,000人に達し、島津製作所を創業した初代島津源蔵もその1人でした。

その後、1945年に堀場製作所、1954年にロームが、1959年に京セラを創業され、これらの企業が高度経済成長期に地域経済をけん引しました。

京都

https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2009/01/articles/0901-03-3/0901-03-3_article.html

ビジネスを発展させた京都ならではの土壌

ビジネスを成功に導く京都の文化の特徴には下記のようなものがあります。

  • ベンチャー企業だから他人のやらないことにこだわるチャレンジ精神がある
  • 伝統的文化や歴史を重んじ、東京への負けん気もある
  • 町が適当な大きさで、大学や優秀な学生が多く大学との連携も盛ん
  • 先輩経営者が若手起業家を手助ける独特の文化
    (京都では西陣などの旦那衆が上客でもある料亭やお茶屋やを支えるという相互扶助のシステムがあり、街に活気を生み出してきた文化が残っており、経済界もこれに倣っている)
  • 地元にユーザーがいないため初めから海外を目指した
    (半導体製造装置メーカーサムコの辻社長は、京都のベンチャー企業が世界に進出を成功させていることについて、「企業城下町でなかったことが幸いした」と述べており、地元にユーザーがないため、外に出て行かざるを得なず、最初から海外を目指してきた

これらを見ると、確かに京都独特の文化が独自視点を持つビジネスを発展させてきたと感じます。

京都を代表する大手企業

それでは早速、島津製作所、堀場製作所、京セラ、任天堂の4社をご紹介します。

島津製作所

同社は1875(明治8)年創業の国内屈指の老舗企業で、2025年に創業150周年を迎えます。同社は仏金具製造技術を活用し、理化学機器製造のベンチャー企業としてスタートしました。1896(明治29)年、2代目島津源蔵がX線写真撮影に成功しています。

2002年、エグゼクティブ・リサーチフェローだった田中耕一さんが、43歳の若さでノーベル賞化学賞を受賞したことで一躍世界で有名になった企業です。

島津歴史

https://www.sankei.com/west/news/201113/wst2011130016-n1.html

田中紘一

主な事業内容は、分析・計測機器(光吸収分析装置、環境測定機器など)、医用機器(デジタルX線システム、医用画像機器のPET・CTスキャナシステム、超音波診断システム)、産業機器(半導体の製造装置をはじめとする油圧機器、携帯電話やパソコンなどに使用する成膜装置など)ですが、2019年の決算においてけん引したのは「計測・産業」で、過去最高業績を更新しました。

グローバル製品

計測の地域別の売上高を見てみると、増加額が多いのが、中国・北米となっています。

計測機器
計測機器2

島津製作所は、2021年3月度の決算で、コロナウイルスの影響を受け、自動車向けの試験機などは伸び悩む結果となりました。

しかし、主力の計測機器事業が新薬開発などの追い風を受け、5Gの普及で半導体製造装置に組み込む部品も堅調な動向となっています。

同社は、2020年4月からコロナウイルス向け研究用試薬キットを製造し、9月に厚生労働省から「体外診断用医薬品」として製造販売承認を取得しました。

現在、検出試薬キットの海外販売を本格化する動きに出ており、アメリカでは、FDA(食品医薬品局)の許可に基づき、2020年9月から実施しています。同年10月にはオーストリアで研究用試薬を販売し、現在はクロアチアやフランスなど欧州各国への輸出準備を始めています。

■島津製作所のサービスについてYouTube動画で紹介されています

堀場製作所

株式会社堀場製作所は、京都府京都市南区に本社を置く企業で、計測機器のグローバル企業です。

創業は1945年。創業者の堀場雅夫氏は、学生時代に原子核物理を研究していました。しかし戦後、GHQによって原子核の研究を禁止されてしまったためコンデンサー事業を起こしました。

自社開発したpHメーターが高評価を受け、53年に堀場製作所を設立。1990年代からM&Aを積極的に進め、現在は28カ国50社に展開し、従業員の6割以上が外国人というグローバル企業です。

堀場製作所

https://hrmos.co/pages/horiba

堀場製作所は「おもしろおかしく」という社是を掲げています。仕事にプライドとチャレンジ精神を持って、エキサイティングに取り組むことを通して、人生の満足度を高めて欲しいという願いが込められています。

設立以来、分析・計測機器の総合メーカーとして、主に自動車や半導体産業をはじめ新素材、エネルギー、鉄鋼、食品、バイオ、化学などの分野で活躍してきました。

堀場製作所2

https://www.nippon-shacho.com/interview/in_horiba/

現在の事業部門は下記の5つに分かれています。

  • ・自動車計測システム機器
  • ・環境・プロセスシステム機器
  • ・医用システム機器
  • ・半導体システム機器
  • ・科学システム機器

エンジン排ガス測定・分析装置分野で80%の世界トップシェアを握る。

島津製作所は創業の1875年以降、他社に先駆けてグローバル展開を行っています。簡単な年表でその動きを追ってみましょう。

・1951年

貿易課を設置し、アメリカを始めとした世界市場に輸出を開始

・1963

戦後初の海外駐在員事務所をニューヨークに開設し、サンフランシスコ、ドイツと営業拠点を増やす

・1970年代

中国や中近東諸国との関係を深め、モスクワ、シンガポールなど世界市場を開拓

・1984年

輸出比率が25%に上昇した

同社の誇る技術にはどのようなものがあるのでしょうか。そのうちの一つは、ガス成分計測のNDIRと呼ばれる「非分散赤外線吸収法」があります。

NDIR

https://www.horiba.com/jp/horiba-stec/element-technology/what-is-a-ndir/

分子の赤外線吸収を利用した計測方法で成分が検出できる仕組みです。マルチガス分析計「VA-5000」は、1台で最大4成分の計測を可能にし、汎用性の高いのが最大の特徴で、大学や工場の生産過程、研究用途などさまざまなケースで使われています。

NDIR2

https://www.nanonet.go.jp/magazine/feature/10-9-innovation/75.html

堀場製作所2020

次に半導体事業を見てみると、2018年のメモリバブルから反落以降、回復基調が継続しています。

コロナウイルス感染拡大の影響により、テレワークやデジタルビジネスが拡大し、パソコンやデータセンターにおける半導体の需要増の追い風を受けました。今後も5GとIoTの進化で需要は増加していくでしょう。

■堀場製作所の会長のインタビューがYouTubeでご覧になれます

京セラ

京セラ

https://www.kyocera.co.jp/kyocera-land/life.html

※動画紹介はこちら

https://www.kyocera.co.jp/company/movie/index.html

京セラ株式会社は1959年、鹿児島県出身の稲盛和夫氏(現名誉会長)が、ファインセラミックス製造業として京都に京都セラミック株式会社として設立したのが起源です。1984年に25社の出資を受けて設立した第二電電(DDI)を軸にして、事業領域を通信機器(携帯電話)にまで拡大し、現在はファインセラミック部品だけでなく、情報機器、半導体部品、電子デバイス、太陽光発電、医療、ヘルスケア関連と領域は多岐にわたり、230以上のグループ会社から成り立っています。

京セラが発表した2020年4~9月期連結決算では、純利益が前年同期比42%減の343億円と落ち込みました。

次世代通信規格「5G」向け部品などが堅調だったものの、自動車向けの需要の減少、在宅勤務による複合機利用の減少によって補いきれませんでした。しかし、7~9月期は全ての主要事業において4~6月期よりも収益が改善し、谷本社長は「世界の景気回復が進んでおり、自動車は予想より早く回復している」と述べました。

京セラ売上

https://www.kyocera.co.jp/prdct/fc/kyocera_overview/detail_area1.html

カリスマ経営者として有名な稲盛和夫氏についても少し触れておきたいと思います。

稲森和夫

https://www.kyocera.co.jp/inamori/profile/

各家庭に有線で引く固定電話しかない時代において、電話通信事業者は、売上高4兆円、従業員32万人を持つ電電公社だけの独占状態で、消費者は電話会社を選べませんでした。

当時の公社はの巨大企業でした。1980年代に民営化すると、固定電話の通信事業にDDIなどの企業が数社参入し、携帯電話への参入も許可が降りたことからKDDIが誕生しました。

京セラを立ち上げた稲盛氏は、DDI創業後にKDDI名誉会長に就き、「競争できる通信会社をつくって、料金を安くしたい」という思いから、通信事業に乗り出します。

NTTの独占に対抗することは一筋縄で行かないことばかりでしたが、「世の中の役に立ちたい」という気持ちで事業を成功させることができました。

また、経営破綻した日本航空を再生させた伝説のカリスマ経営者でもある稲盛氏は、京セラの経営手法「アメーバ経営」を広め、現在約11,000名が会員となっている経営者塾「盛和塾」の塾長も務めます。国内にとどまらず世界中で彼の哲学を学ぶ経営者がいるようです。

稲盛氏は「稲盛哲学」を、「『人間として何が正しいのか』を考えた結果に過ぎない」と言っています。正義、誠実、謙虚、勇気などを大事にして、人として恥ずかしくないような生き方をすることこそ成功の哲学と語っています。

任天堂

任天堂

https://timeslip.co/chronicle/13/

任天堂トランプ

https://gigazine.net/news/20200626-nintendo-washable-playing-cards/

任天堂は創業者の山内房次郎氏によっては1889年に設立されました。当時は「任天堂カルタ」という社名で、花札の製造・販売からスタートさせたのが原点です。

終戦直後の1949年に任天堂の社長に、山内氏の孫が就任すると、敗戦後の日本人の嗜好が西洋化していく流れを捉え、欧米の遊び道具のトランプに目を付けました。製造へと舵を切り、1962年に任天堂はトランプメーカーとして株式上場を果たしました。

その後多角化経営が失敗するなどして経営危機にも二度遭遇しましたが、おもちゃ販売企業として1984年に発売した「スーパーファミコン」が大ヒット。これを機に任天堂は世界的なテレビゲーム機メーカーとして飛躍していきました。

現在、任天堂は主にどのような事業を行っているのでしょうか。3本柱の事業を見てみましょう。

・ゲーム専用機ビジネス

「任天堂Switch」を始めとし、ゲーム機を用いた任天堂の中核ビジネスで、多くのファンから支持を得ています。

任天堂業績

https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO2841849022032018000000?channel=DF200320183543

ニンテンドーDS

https://strainer.jp/notes/5527

上記2つのグラフを見ていただくと、最も売れたゲーム機器は「ニンテンドーDS」です。一方企画が失敗し、最も赤字を出したのは「Wii U」と言われています。

・モバイルビジネス

「マリオカートツアー」や「どうぶつの森ポケットキャンプ」など、スマホ向けに配信されるゲーム事業。国内以外にも南米や英語圏の更なる拡大を行い、世界的なユーザー獲得に力を入れています。

マリオカート

https://gigazine.net/news/20190925-mariokart-tour/

・IP展開ビジネス

映画やテーマパークとの協業し、IPを活用したビジネスの最大化を狙っています。IPを世界展開する際、ゲームの世界観がメジャーであり、起用するキャラクターの認知度が高く、国民性に関係なくファンを作れることが重要です。

これら3つを満たす任天堂のIPビジネスは成功しており、この点が他のゲーム会社どの差別化であると言われています

テーマパーク

https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20190201024/

最後に

京都にハイテクベンチャーが集まる理由は意外なものだったのではないでしょうか。後半ではGSユアサ、オムロン、村田製作所、日本電産、ロームの紹介をいたしますのでそちらも是非ご覧になってください。

<参考>
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65627640Z21C20A0DTB000

https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2009/01/articles/0901-03-3/0901-03-3_article.html

https://www.sbbit.jp/article/cont1/37933

https://blogos.com/article/252852/?p=1

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65994210Z01C20A1DTC000

https://finance.logmi.jp/342005

https://asahi.gakujo.ne.jp/common_sense/morning_paper/detail/id=695

https://www.jsme.or.jp/kaisi/1215-32/

https://finance.logmi.jp/375694

https://jobhouse.jp/factory/columns/289

https://news.livedoor.com/article/detail/11499032/

https://the-shashi.com/tse/7974/

https://www.shopowner-support.net/glossary/differentiation/nintendo/

https://www.projectdesign.jp/201301/pn-kyoto/000306.php

https://gomuhouchi.com/corona/32642/

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