近年、ASEAN諸国を中心に海外進出を希望している、あるいは実際に進出している日系企業は増加しています。事実、弊社にご相談いただくお客様も年々増え続けています。
今回は、そんな日系企業が海外進出を考える上で陥りやすい“罠”を大きく3つのポイントに分け、そこから導ける成功の秘訣についてお伝えします。
日本製品=「世界で通用する」に潜む罠
日本製品と聞いて、「品質がいい」「信頼がある」といったイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。
しかし、今や「日本の製品は世界で通用する」という考え方は改める必要があります。
例えば、同じアジアの国でもフィリピンとインドでは、日本製品に対する印象が大きく異なります。
フィリピンでは、たしかに今でも日本製品、また日本人自体が階級や身分を問わず大変歓迎されており、フィリピンに進出する日系企業がフィリピン企業に歓迎されるケースが多くあります。
ところが、インドでは労働者階級をはじめ一般的な消費者の間では、まだまだ欧米への憧れが強かったり、自国製品やサービスへのプライドが高いことも相まって、日本製品の印象や興味すら持っていないことが事実としてあります。
一方で、韓国製品は、家電の分野において日本製品よりもはるかに浸透しています。その理由の一つに、製品に現地のニーズを的確に反映させているところがあります。
日本企業は日本製品をそのままインドに輸出して販売していたりしますが、韓国企業は、鍵付き冷蔵庫だったり、ジャガイモを洗える洗濯機といった製品を販売していたりと、商品企画の段階から現地に入り込んだビジネス展開をしています。
また、かつて60年代に日本がアメリカを模倣をしていたように、中国や韓国が日本の製品を模倣して、より低価格で、かつ日本よりも品質の高いものを提供し始めています。
このまま改良が続けば、日本の製品が近隣のアジアの国々に追い越され、差は開く一方になってしまうかもしれません。
つまり「日本製品」=「世界で通用する・世界で売れる」という幻想を抱いたまま、海外進出を進めてしまうのは、非常に危険です。
今回は2つの対象的な国を例に挙げましたが、他の国・地域でも日本製品への評価が必ずし高い前提で商談が進むわけではない、と認識しておく必要があるでしょう。
そして、一口に「世界」と言っても「アジア」「ヨーロッパ」でも国ごとに違いますし、「アメリカ」や「インド」は一つの国ですが州ごとに法律も違えばその地域で求められている製品は異なります。
大事なことは、先入観を捨て、いかに現地の企業や消費者のニーズを汲み取った製品やサービスを提供できるか、競合他社との優位性を築けるか、を愚直に追及することなのです。
調査は完璧?「現地で情報を収集しているから大丈夫」に潜む罠
日系企業の中には、海外の情報を収集をする際に、現地拠点と提携したり自社の社員を現地に派遣して情報収集を行うことがあります。ところが、ここにも陥りやすい上に見落としやすい罠があります。
一つ目は、現地社員が事業判断を行えるほどの情報収集ができているのかという問題です。
そもそも、どういった方が現地調査をされているでしょうか?
現地駐在者の場合は、営業や開発といった自身の主要業務のほかにも、労務・法務・人事といった現地マネジメント業務を並行して抱えているケースが多くあるのではないでしょうか。
そのような状況下で、現地市場概況や競合企業の情報を網羅的に収集することは困難となります。
また、そもそも日本国内の市場や流通構造の理解のない人をアサインしたら、集まる情報は断片的となり、収集された情報に担当者のバイアスがかかってしまいます。
つまり担当者の見たい、または都合の良い情報のみに偏ってしまうことにも気を付ける必要があります。
決して良い話ではありませんが、現地に派遣された社員が早く日本に帰りたい一心で、ネガティブな情報ばかりを本社に報告するケースもごく稀に存在することも実情と言えます。
二つ目は、誰から話を伺っているのかという問題です。
商流上に存在する多様なプレイヤーに話を伺い、消費者あるいは製品にとって有益な情報を精査していくことは非常に重要です。
ある国におけるオフィス設備機器を例に上げると、1つの設備を導入するにあたり、オーナーやデベロッパーをはじめ、不動産会社、デザイン会社、ゼネコン、サブコン、資産コンサル、テナント、販売代理店など、上流から下流まで非常に多くのプレイヤーが関わっていました。
さらにオーナーやデベロッパーが決定権を持つ場合もあれば、テナントの意向が強く反映されることもありました。
こういった状況の中で事業展開の判断をするための有益な情報を得るためには、一人ひとり話を伺っていく中で、仮説を検証していく以外に方法はありません。
またその国独自のプレイヤーが存在していることが多々あります。こういった事実も多様なプレイヤーに話を聞く中で把握していくことになります。
現地で情報を収集しているから大丈夫。という認識を、一度疑ってみても良いのではないでしょうか。
本当に恵まれている?現地パートナーの定義と罠
とある日本企業が、販売代理店として現地パートナーを探している中、相手の経営者の考え方や想いに惹かれたために即座に提携、事業展開に動き出しました。
ただし、事業展開を進める中でパートナー側と狙っているターゲットが異なっていたり、想定していた販売網も持っていないために進出に失敗してしまった。
というケースがありました。
ここから考えられるのは、パートナーに求める条件とその事実確認を明確にできていなかったということです。またパートナーの形態は販売代理店や生産委託などさまざまですが、各国の市場概況の理解なしにパートナーの良し悪しを判断することは困難、ということが共通して言えます。
市場概況を理解し、自社が狙うべきターゲットを明確にし、自社の競合優位性を理解することで、初めて必要とすべきパートナーの条件が揃ってきます。
もちろんパートナー先となる経営者の考え方や想いも重要ですが、同時に、実労働部隊となるスタッフがどのように考えているのかであったり、ターゲットとすべき販売網を本当にもっているのか、顧客をつかむだけの営業力やノウハウをもっているのか、といったスキルの部分も重要となってきます。
さらに自社が必要とするパートナーの判断を、候補企業だけへのヒアリングや財務情報のみで判断することも危険です。本当に組むべき相手かどうかを、客観的に判断するためにも、候補企業を取り巻くステークホルダーからの情報収集が重要となります。
加えて、日本企業の場合ですと、販売代理店などのパートナー企業をみつけた場合に、製品を渡して終わり、というケースを多く見かけます。
パートナー企業と運命共同体となって、信念と覚悟をもって自社製品を広めていく、という心構えも重要だと考えております。
罠は成功の秘訣?ピンチをチャンスに
今回ご紹介したのはあくまで一例ですが、実際に日系企業が陥りやすい罠を挙げていきました。海外事業を進める際に正解こそありませんが、失敗は数多く存在します。こうした3つの罠を注意することは、失敗の要因を減らすことに繋がります。
当然と思われることも多くありますが、当然のことを愚直に実行していくことが重要であり、その一方で、当然と思われることに関して、立ち止まって疑う時間を持つことも必要となってきます。
つまり俯瞰して、客観的に市場の実態を捉えることこそが、海外進出を成功させるために必要なのです。