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EVバッテリーの供給網とは?|リチウムからセルまでの工程と日本企業の立ち位置
2026.08.12 更新 / PROVE通信編集部
監修:森英朗(グループ代表)
EVバッテリーの供給網とは?|リチウムからセルまでの工程と日本企業の立ち位置

EVバッテリーの供給網とは?|リチウムからセルまでの工程と日本企業の立ち位置

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EV用リチウムイオン電池は、リチウム・ニッケル・コバルト・黒鉛という4つの資源の採掘から、精製、正極材・負極材への加工、セルの組み立て、車両に積むパックへの成形まで、国境を何度も越えて作られています。米地質調査所(USGS)が2026年2月に公表した最新統計によれば、2025年の世界生産量はリチウムが約29万トン(前年比+31%)、ニッケルが約390万トン、コバルトが約31万トン、黒鉛が約180万トン(前年比+16%)でした。本記事では、この4資源がどの国で採れ、どの国で電池になるのかという工程を一次資料で整理した上で、住友金属鉱山・旭化成・パナソニックといった日本企業がどの工程にいるのかを解説します。

電池が通る4つの資源

EV電池の中身を決める資源は、大きく4つです。

USGSが2026年2月に公表した「鉱物資源統計2026」による2025年の世界生産量(推定)は、リチウムが約29万トン(前年比+31%)、ニッケルが約390万トン(同+5%)、コバルトが約31万トン、黒鉛が約180万トン(同+16%)でした。

2025年・世界生産量(USGS推定)
29万トン リチウム(前年比+31%)|390万トン ニッケル(+5%)|31万トン コバルト|180万トン 黒鉛(+16%)

この4資源は、採れる国も、精製されて電池材料になる国も、それぞれ異なる工程を通ります。次章から、資源ごとにその工程を見ていきます。

リチウムの鉱山と精製

リチウムの鉱山生産は、USGS「鉱物資源統計2026」によれば2025年にオーストラリアが9万2千トン、中国が6万2千トン、チリが5万6千トンと、この3か国で世界の大半を占めています。

IEAの「世界EVアウトルック2025」は、2023年時点でオーストラリア・チリ・中国の3か国がリチウム鉱山生産の約85%を占め、精製工程になると中国が65%、チリが25%を担う構造になっていると分析しています。

つまりリチウムは「採る国」と「溶かす国」が入れ替わる、二段構造になっているのが特徴です。鉱山だけを見ていると、精製での中国依存を見落とします。

コバルトの生産偏り

コバルトはリチウムよりも偏りが大きい資源です。

USGS「鉱物資源統計2026」によれば、コンゴ民主共和国は2025年に23万トンを生産し、世界の推定73%を占めました。IEAの分析では、鉱山生産でコンゴ民主共和国が世界の「ほぼ3分の2」を占め、精錬工程になると中国が「4分の3」を担う構図です。

供給が政治判断で動く資源 コンゴ民主共和国は2025年2月にコバルト輸出を一時禁止し、同年10月に解除しましたが、2025年内は1万8,125トン、2026・2027年は年間9万6,600トン(基本枠8万7千トン+国家戦略備蓄枠9,600トン)という輸出枠制度に切り替わっています。輸出停止と枠設定という2段階の政策変更が、わずか半年余りで起きました。

ニッケルとインドネシア

ニッケルはこの10年で主役が変わった資源です。

USGS「鉱物資源統計2026」によれば、インドネシアは2025年に260万トンを生産し、世界の約67%を占めました。インドネシアは2020年、未加工のニッケル鉱石の輸出を禁止し、国内での製錬・加工を義務づけています。

IEAの分析によれば、この製錬所の運営には中国資本のTsingshan Group(青山集団)やJiangsu Delong Nickel(江蘇徳龍)などがウェダ湾・モロワリの工業団地で関与しています。「インドネシア産」のニッケルの多くは実質的に中国資本の設備で加工されています。

なお2025年はフィリピンの生産が前年比24%減、オーストラリアが54%減となり、インドネシアへの集中がさらに強まりました。

黒鉛と中国の輸出管理

黒鉛は4資源の中でもっとも中国への集中度が高い資源です。

USGS「鉱物資源統計2026」によれば、中国は2025年に140万トンを生産し、世界の82%を占めました。

中国商務部・海関総署は2023年12月1日、高純度人造黒鉛や天然鱗片黒鉛の輸出を許可制に切り替える公告(2023年第39号)を施行しました。さらに2025年10月9日には公告2025年第58号により、リチウム電池・正極材・人造黒鉛負極材および関連の専用設備・技術も輸出許可の対象に加えると発表しました。

ただしこの58号は、施行前日の2025年11月7日に発表された公告2025年第70号により、2026年11月10日まで実施が一時停止されています。米中通商協議の進展を受けた措置で、制度そのものは存在しつつ運用は止まっている状態です。

米商務省は2025年、中国製の黒鉛負極活物質(AAM)に暫定の反ダンピング関税93.50%、相殺関税11.58〜721.03%を発表しています。輸出規制と輸入規制の両方が同時に動いています。

セルと正極材の生産集中

資源の偏りよりも大きいのが、電池を「作る」工程の偏りです。

IEAの「世界EVアウトルック2025」によれば、2024年時点で世界の電池セル生産の80%を中国が担い、正極活物質(CAM)の約85%、負極活物質(AAM)の90%超も中国が生産しています。

中国のEV生産規模も大きく、IEAによれば中国は世界のEV生産の70%超を占めています(世界のEV販売シェアでは2024年時点で「ほぼ3分の2」)。別の調査では、中国の新エネルギー車(NEV)生産は世界の約71%に達し、しかもその国内販売の91%は自国内向けと、生産と消費がともに自国に閉じている点も特徴です。

採掘は数か国に分散していても、電池に仕上げる工程では中国への集中がむしろ強まります。これがこの供給網の逆転構造です。

セルの先にあるもう一つの工程、モジュール・パックの組み立ては、これとは逆に分散します。

BMWは2024年7月30日、次世代(第6世代)の高電圧電池パックについて、ドイツ・ストラースキルヒェン、ハンガリー・デブレツェン、米サウスカロライナ州ウッドラフ(完成車工場のあるスパータンバーグに隣接)、中国・瀋陽、メキシコ・サンルイスポトシの5拠点で組立工場を建設中と発表しました。

掲げた方針は「ローカル・フォー・ローカル」です。電池パックを完成車工場のすぐ近くに置くという考え方です。鉱物と材料は中国に集まりますが、パックは「車が作られる場所」に集まります。この2つの流れが重なって、EV電池の供給網ができています。

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セルメーカーのシェア

実際に車に載るセルのメーカー別シェアを見ると、この構図がさらに明確になります。

SNE Researchが2026年2月4日に発表した2025年1〜12月の速報によると、世界の電池搭載量は1,187GWhで前年比31.7%増加しました。

順位会社本社シェア搭載量(GWh)
1CATL中国39.2%464.7
2BYD中国16.4%194.8
3LGエナジーソリューション韓国9.2%108.8
4CALB中国5.3%62.8
5Gotion High-tech中国4.5%53.5
6SK On韓国3.7%44.5
7パナソニック日本3.7%44.2
8Eve Energy中国2.6%31.3
9サムスンSDI韓国2.4%28.9
10Svolt中国2.4%28.5

CATLが39.2%、BYDが16.4%で、中国2社の合計は55.6%に達しています。韓国大手3社(LGエナジーソリューション・SK On・サムスンSDI)の合計シェアは15.4%まで下がり、前年から3.3ポイントの低下です(2026年1〜3月期も15.6%と低水準が続いています)。

日本企業の立ち位置

日本企業で唯一、この上位に残っているのはパナソニックです。表の通り、搭載量は44.2GWh・シェア3.7%で世界7位でした。

パナソニックエナジーは北米で、ネバダ工場(年産約41GWh)とカンザス工場(2025年7月稼働・将来年産約32GWh)を運営し、2026年度の北米向け販売計画は46GWhとしています(2025年度実績は38.7GWhで、そこからの拡大を見込む計画です)。

ただし米国のEV購入補助(IRA 30D条項の税額控除)は、2025年制定の法律(One Big Beautiful Bill Act)により、当初の想定より前倒しで2025年9月30日をもって終了しました。

IEAの分析では、欧州連合域内での韓国メーカーの市場シェアは2022年の約80%から2024年に60%まで下がり、米国では逆に2022年の約20%から2024年に35%超まで上昇しています。

セルの出荷量だけで見ると、日本企業がいる場所は「鉱山」でも「電池セル」でもなく、その間にある材料工程だという方が実態に近くなります。

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セパレーターとバインダー

その材料工程でも、分野によって明暗が分かれています。

矢野経済研究所の2025年2〜3月調査によれば、電池のセパレーター(正極と負極を絶縁する部材)の世界シェアは2024年時点で中国が推計9割に達し、日本は1割以下まで下がったとみられます。一方、負極材に使うSBRバインダーでは、日本ゼオンが世界シェア約21%、日本エイアンドエルが約17%を持つとの市場調査があります。

旭化成は2024年4月25日、カナダ・オンタリオ州ポートコルボーンにリチウムイオン電池用セパレーターの一貫工場を建設すると発表し、投資額は約1,800億円、当初は2027年半ばの商業生産開始を予定していました。しかし2026年4月15日、北米EV市場の成長鈍化を理由に、稼働時期を1年半〜2年程度延期すると発表しています。

セパレーターのように装置産業型で価格競争が激しい分野は中国に奪われ、バインダーのように化学設計のノウハウが競争力になる分野では日本企業がまだシェアを保っている、という違いが見えます。

住友金属鉱山とトヨタの共同開発

住友金属鉱山は2025年3月期第4四半期に572億8,600万円の減損損失を計上しました。理由は、電池材料事業でNCA(ニッケル酸リチウム系)正極材からハイニッケル系NMCへの需要シフトが急速に進んだことによる生産能力の低下です。「量」で戦う正極材市場では、需要の変化一つで大型の減損が発生するほど競争が厳しくなっています。

その一方で、同社はトヨタ自動車と2025年10月8日、全固体電池用の正極材量産に向けた共同開発契約を締結しました。両社は2021年頃から共同研究を続けており、トヨタは2027〜2028年の実用化を目指し、初期の生産規模は年間数百トン程度になる見通しです。

既存の正極材で量を競うのではなく、次世代電池という特殊な用途に資源を振り分ける動きだと言えます。

欧州電池規則の義務

EU電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)は2023年8月に発効し、コバルト・天然黒鉛・リチウム・ニッケルの調達について、サプライチェーンの人権・環境デューデリジェンスを義務化しています。

当初2025年8月18日とされていた適用開始日は、2025年7月18日に採択された改正規則(EU)2025/1561により、2027年8月18日へ2年延期されました。同時に、欧州委員会がデューデリジェンスの運用指針を公表する期限も2026年7月26日に延期されています。

一方、カーボンフットプリント申告義務は延期の対象外で、EV用電池は2025年2月18日から、2kWh超の産業用電池は2026年2月18日から、それぞれ既に適用が始まっています。「義務が延びた」という報道だけを見て安心すると、実際にはもう始まっている申告義務を見落とすことになります。

米国IRAと材料の追跡

米国のインフレ抑制法(IRA)に基づく新車購入税額控除は、電池部品が「懸念される外国事業体」(FEOC=中国・ロシア・イラン・北朝鮮政府が25%以上の役員指名権・投票権・株式を持つ事業体等)に関与していない車両を2024年以降、重要鉱物についても同様の要件を2025年以降、それぞれ課してきました。

ただしこの税額控除自体は、2025年制定の法律により当初の想定より前倒しで、2025年9月30日以降に取得した車両を対象外としています。

制度としては終了に向かう一方、米財務省・内国歳入庁が2024年5月の最終規則で設けた移行措置は今も生きています。負極材中の黒鉛や、電解液の塩・バインダー・添加剤に含まれる重要鉱物のように「追跡が実務上難しい電池材料」については、2027年1月1日より前に提出する報告書に限り、出所の追跡義務から除外されます。

実質的には2026年末に切れる猶予で、この期限が過ぎれば、黒鉛のように中国依存度が高い材料ほど、出所を証明できるかどうかが問われる場面が増えます。

調達前に確認したい3つの問い

ここまでの工程を、自社の調達に当てはめるなら、確認しておきたい問いは3つあります。中国の黒鉛規制のように、発表と施行の間で状況が変わる制度は少なくありません。「規制がある」という一報だけで調達方針を決めるのは早計です。

調達前に確認したい3つの問い ①自社が使う原料・材料は、資源(鉱山)・精製・材料・セルのどの工程に位置しているか ②その工程で自社が依存している国・企業は、輸出管理や関税、デューデリジェンス義務といった制度変更の対象になっていないか ③その制度変更は「施行済み」「施行予定だが一時停止中」「延期済み」のどの状態か

よくある質問

Q. EV電池のサプライチェーンで、まず見るべき工程はどこですか?

鉱山(資源)・精製・材料(正極・負極など)・セルの4層に分けて、自社品がどこに触れるかを先に置くことです。工程を飛ばすと、輸出管理や関税の影響範囲を誤ります。

Q. 中国の黒鉛規制は、2026年時点でもそのまま効いていますか?

制度自体は残っていますが、公告2025年第70号により関連規制の実施が2026年11月10日まで一時停止されています。発表・施行・停止の区別を確認してください。

Q. 欧州の電池規則は延期されたので、対応はまだ不要ですか?

デューデリジェンスの適用開始は2027年8月へ延期されましたが、カーボンフットプリント申告など既に始まっている義務もあります。延期報道だけで安心しないことです。

Q. 日本企業はどの工程に強みがありますか?

材料・部材の一部(セパレーターやバインダー等)と、セル周辺の高度な製造・品質管理に強みがあります。資源そのものの権益は国・企業ごとに偏りが大きいです。

主な出典

USGS「Mineral Commodity Summaries 2026」Lithium/Nickel/Cobalt/Graphite(2026年2月)/IEA「Global EV Outlook 2025」Electric vehicle batteries/IEA「Global Critical Minerals Outlook 2025」/SNE Research「Global EV Battery Usage 2025」プレスリリース(2026年2月4日、2026年5月)/住友金属鉱山「2025年3月期決算電話会議スクリプト」(2025年5月9日)「住友金属鉱山とトヨタ、全固体電池用正極材量産に向けて協業」(2025年10月8日)/旭化成プレスリリース(2024年4月25日)・ロイター報道(2026年4月15日)/パナソニックエナジー・パナソニックホールディングス各発表(2025年7月14日、2026年5月15日)/Regulation(EU)2023/1542、Regulation(EU)2025/1561(2025年7月18日採択)/26 CFR 1.30D-6・Congress.gov CRS Insight/中国商務部・海関総署 公告2023年第39号・2025年第58号・2025年第70号/矢野経済研究所リチウムイオン電池部材市場調査(2025年)/BMW Group プレスリリース「Think global – act local for local」(2024年7月30日)。数値は各出典の発表・公表時点のものであり、その後の規制運用・企業業績により変動する可能性があります。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。

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