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華僑・華人系財閥とは?|東南アジアで取引相手になる企業グループの全体像
2026.08.14 更新 / PROVE通信編集部
監修:森英朗(グループ代表)
華僑・華人系財閥とは?|東南アジアで取引相手になる企業グループの全体像

華僑・華人系財閥とは?|東南アジアで取引相手になる企業グループの全体像

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タイの正大集団(CPグループ)、インドネシアのシナルマス、マレーシアの郭鶴年(ロバート・クオック)の兄弟会社、シンガポールのOCBC・UOB、フィリピンのSMとJGサミット——東南アジアの証券取引所で上位に名前が並ぶ企業の多くは、19世紀後半から20世紀前半に中国南部から渡った移民一族が創業したグループです。出身地の方言(潮州・福建・海南など)によって進出した業種が違い、現地の民族資本・国有企業との関係も国ごとに制度が異なります。5カ国の主要グループの広がりと、日本企業がすでに持っているかもしれない取引関係の確かめ方を一次資料で整理します。

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5カ国の株式市場、上位に並ぶ「同じ姓」

東南アジアの証券取引所を見ると、上場企業の大株主欄に同じ一族の名前が繰り返し出てきます。フィリピン証券取引所の代表指数PSEiでは、2026年6月〜7月時点で国際コンテナターミナルサービス(ICTSI)が構成比の4分の1超を占めて最大の銘柄となり、施至成(シー)家のSMインベストメンツが9%前後で続いています(個別銘柄の比重は変動が大きく、順位は年によって入れ替わります)。インドネシア証券取引所では、1957年にスルヤジャヤ家が創業したアストラ・インターナショナルの株式の過半(2026年4〜5月時点で50.11%)を、シンガポールのジャーディン・サイクル&キャリッジ(ジャーディン・マセソン系)が保有しています。まず5カ国の主な系譜を1枚の表で見ます。

代表グループ創業家創業年中核業種
タイ正大集団(CP)/盤谷銀行謝家/陳家1921年/1944年農業・食品/銀行
インドネシアサリム/シナルマス林家/黄家1972年/1962年登記食品・不動産/製紙・農業
マレーシアクオック兄弟会社/ゲンティン郭家/林家1949年/1965年砂糖・食用油/リゾート
シンガポールOCBC/UOB李家等/黄家1932年/1935年銀行
フィリピンSM/JGサミット施家/呉家1958年/1954年流通・銀行/食品・航空

タイ——正大集団と盤谷銀行、同じ「潮州」から出た二つの財閥

タイ最大の民間企業グループ、正大集団(CPグループ)の起点は1921年、広東省澄海(潮州府管轄、1896年生)出身の謝易初が、後を追ってタイへ渡った弟の謝少飛とともにバンコクで開いた種もの屋「正大荘」でした。同じ潮州出身者がもう1つの巨大グループを作っています。1944年12月1日に開業した盤谷銀行(バンコク銀行)です。創業者の陳弼臣は広東省汕頭・潮陽の出身で、CPグループの謝家と同じ潮州系の移民でした。タイでは流通・農業を潮州系のCPが、銀行を同じ潮州系の陳家が押さえるという形で、出身地を共有する一族が業種を分けて並立しています。

インドネシア——アストラとサリムの外に立つシナルマスという財閥

インドネシアでは、1957年創業(現在は株式の50.11%をジャーディン・マセソン系が保有)のアストラ・インターナショナルや、福建省福清出身の林紹良が1972年に興したサリムグループがよく知られていますが、もう1つ規模の大きいグループがシナルマスです。創業者の黄奕聰(エカ・チプタ・ウィジャヤ)は福建省泉州の出身で、幼少期にインドネシアへ移住し(移住の具体的な年は資料間で一致しないため明記しません)、1962年にスラバヤで貿易会社CVシナルマスを登記して天然産品の輸出と繊維の輸入を始めました。同グループの製紙会社APP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)は、インドネシア国内のティッシュ生産能力の4分の3超を占めています(紙全体のシェアではありません)。不動産子会社シナルマス・ランドは双日と組んでブカシ県の工業団地GIIC(約2,200ha)を開発しており、これとは別に、イオンは2015年5月30日にシナルマス・ランドが開発するBSD地区でインドネシア1号店を開いています。

マレーシアで「アジアの砂糖王」と呼ばれた男の兄弟会社

福建省福州出身の父を持つ郭鶴年(ロバート・クオック)は、1949年にジョホールバルで郭氏兄弟会社を設立しました。1959年には日新製糖・三井物産と合弁でマラヤ製糖(MSM)を興し、1961年時点でマレーシアの精糖流通量(年25万トン)の8割が同社を経由するまでになり、「アジアの砂糖王」と呼ばれています。この砂糖事業は1991年に甥の郭孔豊が設立したウィルマー・インターナショナルへ2007年に統合されました。もう1つの代表格が、福建省安渓出身で1937年にマレーシアへ渡った林梧桐が1965年4月27日に設立したゲンティン・ハイランド社です。1969年に国内で唯一のカジノ営業許可を得たことを軸に、山頂のリゾート開発を進めました。

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シンガポール——1932年と1935年に生まれた「方言」の銀行

シンガポールを代表する2つの銀行も、華人の同郷ネットワークから生まれています。OCBC(華僑銀行)は1932年10月31日、華商銀行・和豊銀行・華僑銀行の3行が合併して発足し、福建(閩南)系実業家の李光前が合併を主導しました。UOB(大華銀行)は1935年8月6日、サラワク出身の福建商人・黄慶昌が設立し、当初の名称は「United Chinese Bank(中華銀行)」でした。いずれも福建系のコミュニティを基盤に、同郷者同士の信用と資金を集めて銀行という形に発展させた点が共通しています。

フィリピン——靴屋から始まったSMと、コーンスターチ工場から始まったJGサミット

フィリピンでは、財閥の名前が業種の壁を越えて重なります。福建省晋江の生まれで12歳の時に家族とフィリピンへ移った施至成(ヘンリー・シー)は、1958年10月にマニラで靴店「シューマート」を開業し、これが百貨店・モールのSMグループ、さらにフィリピン最大の銀行BDOユニバンクへと育っています。福建省アモイ生まれの呉奕輝(ジョン・ゴコンウェイ)は1954年9月28日、パシッグでコーンスターチ工場「ユニバーサル・コーン・プロダクツ」を設立し、1966年にユニバーサル・ロビナ・コーポレーションを興しました。同社はその後、日清食品との合弁やカルビーのライセンス製品も手がけるようになり、後にJGサミット・ホールディングスとして航空(セブパシフィック)・銀行にも進出しました。一方でフィリピンの有力財閥アヤラはスペイン系メスティーソの家系であり、華人系ではありません。フィリピンの財閥をひとくくりに「華人系」と呼ぶと、この違いを取りこぼします。

なぜ同郷・同方言のネットワークが流通・金融・不動産の発展に強い影響を持つのか

ここまでの各社を出身地でそろえると、潮州系(CP・盤谷銀行)、福建系(サリム・シナルマス・OCBC・UOB・SM・JGサミット・クオック)というまとまりが見えます。これは偶然ではありません。19世紀後半から、同郷・同方言の移民は「僑批」と呼ばれる民間送金網や、方言別の互助組織(閩帮=福建系、粤帮=広東系、潮汕帮=潮州系、琼帮=海南系など)を通じて、銀行融資に頼れない移民同士で資金を回してきました。個別の運用条件は資料によって差がありますが、同郷者同士の信用取引が担保代わりに機能してきたという点は広く確認されています。現金の回転が速い流通業で稼いだ資金を、動かせない資産である不動産に転換し、その収益を元手に金融へ進出するという順番が、OCBC(銀行)・SM(靴店→百貨店→銀行)・シナルマス(貿易→製紙・不動産)に共通する成長経路です。

確認しておきたいこと ①同じ「華人系」でも出身地(潮州・福建・広東・海南)が違えば、別系統のネットワークであり資本関係はない ②フィリピンのアヤラのように、財閥でも華人系ではない一族もある ③流通・金融・不動産への集中は「商才」だけでなく、同郷網の信用取引という歴史的経路の結果である

「株式の12.5%」——マレーシアで今も生きている現行制度

マレーシアは1969年の民族暴動を機に1971年から新経済政策(NEP)を始め、現地のマレー系等(ブミプトラ)に一定の企業株式を持たせる政策を続けています。2024年8月19日、アンワル首相は株式所有率を2020年の18.4%から2035年までに30%へ引き上げる新計画「ブミプトラ経済転換計画2035(プトラ35)」を発表しました。この目標自体はまだ達成されていませんが、現行制度として今も適用されているのが上場ルールです。マレーシア証券委員会が2025年2月12日付で改訂公開しているFAQによれば、ブルサ・マレーシアのメインマーケットに新規上場する企業は、上場時点で発行済株式の12.5%をMITI(投資貿易産業省)が認定するブミプトラ投資家に割り当てる義務があります。2026年6月施行の関連ガイドライン改訂でも、この12.5%の条項自体は変更されていません。

マレーシア ブミプトラ資本比率(政府発表値)
30% 2035年目標(プトラ35)|18.4% 2020年時点の株式所有率|12.5% 新規上場時に現行で課されるブミプトラ株式割当義務

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1998年5月、ジャカルタで焼き打ちにあった財閥の家、その後の法制度

インドネシアの華人系財閥は、1998年5月13〜14日の反スハルト暴動で大きな転換点を迎えます。サリムグループの林紹良(当時総裁)の自宅も焼き打ちを受けました。当時の報道では、政権に抗議する人々の矛先は「人口の3%なのに富の7割を握っている」とされた華人に向かったと伝えられています(この数値は当時の通説的な表現であり、統計的な裏付けの精度には異論もあります)。政権崩壊後、後任のハビビ大統領は1999年、行政での「プリブミ(原住民)」「非プリブミ」という呼称の使用を禁止しました。2000年1月17日にはワヒド大統領が大統領決定第6号で、1967年の大統領指示第14号(華人の宗教・慣習の公的実践を制限)を廃止し、2002年4月9日にはメガワティ大統領が大統領決定第19号で旧正月(イムレック)を国の祝日に指定、2003年から適用されています。現行の外資規制は大統領令2021年第10号(同年第49号で改定)の「ポジティブ投資リスト」が基準で、対象106分野のうち60分野は外資参入禁止、46分野は協同組合・中小零細企業(UMKM)との提携が条件です。2025年の政令改正はライセンス実務の見直しが中心で、このリスト自体は2026年時点でも変わっていません。

伊藤忠がCPグループの株主になった日——資本提携という関わり方

日本企業が華人系財閥と実際に深く組んでいる代表例が、伊藤忠商事とCPグループの提携です。2014年7月24日、伊藤忠は約1,024.14億円の第三者割当増資を実施してCPグループに新株を割り当て、CPグループが議決権の合計約4.9%を持つ実質的な筆頭株主となりました。同時に伊藤忠は、CPグループの子会社CPPの株式25%を約870億円で取得しています。2015年1月20日には、伊藤忠とCPグループが折半出資する共同投資会社CTBを通じて、中国国有複合企業CITICリミテッドの株式の合計約20%を、総額803億香港ドル(約1兆2,040億円)で取得する枠組みを公表しました。単独では政治的リスクの大きい中国国有企業への大型出資を、現地に深く根を張るタイの財閥と組むことで分散した形です。2025年4月21日、両社は相互の持ち合い株式を解消することで合意しましたが、CITICとの共同出資の枠組みと戦略的業務提携そのものは継続しています。

伊藤忠×CPグループ 資本提携の経緯
2014年7月 約1,024億円の第三者割当でCPグループが実質筆頭株主に|2015年1月 折半出資のCTB経由でCITIC株20%を約1兆2,040億円で取得|2025年4月 相互持ち合いは解消、CITIC枠組みと提携自体は継続

取引先の資本構成を確認する4つの窓口

自社の現地取引先が、これらの財閥のどこに接続しているかを確かめる公開の窓口が各国にあります。インドネシアでは法務人権省が運営する「AHU Online」の実質的所有者(ビジネス・オーナーシップ)検索が2022年7月1日から公開されており、法人の実質的な支配者をたどれます。マレーシアでは会社登記所(SSM)の「e-Info」で株主・取締役情報を確認できます。タイでは商務省事業開発局(DBD)の「DataWarehouse+」で登記情報を検索できます。フィリピンでは証券取引委員会(SEC)のオンライン検索で法人の登記内容を確認できます。いずれも料金や運用の細目は変わることがあるため、商談前に最新の使い方を各当局のサイトで確認することを勧めます。

名刺交換の前に、株主名簿を1枚確認する

ここまで見てきたように、東南アジアの華人系財閥は一枚岩ではなく、出身地・国・業種によって系譜が分かれ、フィリピンのアヤラのように華人系ではない財閥も同じ土俵に並びます。現地の民族資本との関係も、マレーシアのように株式比率の目標を制度として強化する方向と、インドネシアのように行政上の民族区分自体を廃止して業種区分で規制する方向とに分かれており、どちらに進むかは国ごとに異なります。ただ、どちらの方向でも、現地の取引先の先にどの一族が立っているかを把握しておくことは、契約交渉や現地パートナー選定の判断材料になります。次に東南アジアでの商談を控えている方は、名刺交換の前に、取引先の株主名簿を1枚開くところから始めてみてください。

主な出典

日本語版Wikipedia・百度百科「CPグループ」「謝易初」/e-ASEAN「タイの財閥研究CPグループ①」/Wikipedia英語版「Bangkok Bank」「Chin Sophonpanich」/Wikipedia英語版「Eka Tjipta Widjaja」/Tissue World Magazine「Indonesia Country Report」/双日公式「インドネシアGIIC工業団地」/日本経済新聞「双日グループ、デルタマス・シティの工業団地を拡張」/AEON「AEON’s First Store in Indonesia, AEON Mall BSD CITY to Open」(2015年)/Kuok Group公式「About Us」/Commoncog「Robert Kuok: The Sugar King of the East」/PPB Group Berhad会社史/日本語版Wikipedia「ロバート・クオック」/Wikipedia英語版・中国語版「Lim Goh Tong」「Resorts World Genting」/Genting公式「History – The Genting Story」/OCBC公式「Our Banking Milestones」/UOB公式「From Humble Beginnings」/Philippine Daily Inquirer「Tracing a tycoon’s roots」/Wikipedia英語版「Henry Sy」/Universal Robina Corporation SEC Form 17-A(2024年12月期)/Wikipedia英語版「John Gokongwei」「Universal Robina Corporation」/富士通総研FRI Review等の学術的整理(同郷・方言ネットワークの一般的解説)/長島・大野・常松法律事務所「ブミプトラ政策に基づく外資規制の概要」(2024年9月19日)/ジェトロ・ビジネス短信「新たなブミプトラ政策を発表」(2024年8月19日)/マレーシア首相府演説原文(2024年8月19日)/Securities Commission Malaysia「Bumiputera Equity Requirement For Public Listed Companies」(2025年2月12日改訂)/日本経済新聞「ジャカルタ暴動『経済を支配』華人標的に」/CNBC Indonesia「Kisah Bisnis Salim」(2023年7月23日)/インドネシア総合研究所「インドネシアの華人の歴史とビジネス②」/インドネシア大統領決定第6号(2000年)・第19号(2002年)原文(Wikisource)/tempo.co「22 Tahun Lalu Pertama Kali Tahun Baru Imlek Ditetapkan」/弁護士法人上原総合法律事務所「インドネシアのポジティブ投資リスト」/Nusantara Legal Partnership「Indonesia New Investment Regime」/伊藤忠商事プレスリリース(2014年7月24日・2025年4月21日)および臨時報告書(2015年1月20日付)/ロイター「伊藤忠とタイCPがCITICに出資」(2015年1月20日)/CITIC Limited・Charoen Pokphand Group・ITOCHU共同発表資料(2015年1月20日)/日本経済新聞「伊藤忠、タイ最大財閥と相互出資を発表」(2014年7月24日)・「伊藤忠、タイCPグループと相互出資解消」(2025年4月21日)/EITI「Indonesia Scoping Report」(AHU Online公開開始2022年7月1日)。会計年度・開示単位・単位換算の過程は社内ファクトチェック台帳(_factcheck_ledger.md)に記録しています。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。

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