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タイのEV政策を数字で分解する|30@30・生産義務・輸出1.5倍カウント
2026.08.06 更新 / PROVE通信編集部
監修:森英朗(グループ代表)
タイのEV政策を数字で分解する|30@30・生産義務・輸出1.5倍カウント

タイのEV政策を数字で分解する|30@30・生産義務・輸出1.5倍カウント

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タイのEV議論は、「中国勢が進出してきた」で終わらせると、投資判断になりません。分解すべき数字は四つです。①2030年にゼロエミッション車を生産の30%にする「30@30」(乗用車換算で約72.5万台など)。②EV3.5の輸入補償としての現地生産義務(2026年に1:2、2027年に1:3)。③輸出1台を義務達成で1.5台分と数える緩和。④EVサプライチェーン投資の累計規模(BOI説明で約1,377億バーツ)。この四つが揃うと、タイは「国内販売市場」ではなく「輸出拠点+義務消化の場」になります。日系企業が取る分岐も、この分解から決まります。分解しない議論は、進出ニュースの要約に終わります。要約では、次の設備の承認は取れません。

30@30を分解する——「普及率」ではなく「生産比率」

BOIが繰り返し示す30@30は、国内販売シェアの話ではなく、自動車生産に占めるゼロエミッション車(ZEV)比率を2030年までに少なくとも30%にする目標です。公式整理では、乗用車側で約72.5万台、二輪で約67.5万台という規模感が併記されます。ここが第一の分解です。「タイでEVが売れるか」と「タイでEVを作るか」は別指標です。国内需要が弱くても、生産比率目標とインセンティブが動けば工場投資は続きます。逆に、国内登録が増えても、生産義務を輸出で消化する設計になれば、タイは域内販売拠点というより輸出ハブに寄ります。日系のタイ工場計画は、国内ディーラーの販売予測だけでは足りません。生産台数のうち何割を輸出義務の消化に回すか、を先に置く必要があります。置かない計画は、在庫と義務の両方で詰まります。両方で詰まった計画は、挽回に一年がかかります。

EV3.5の生産義務を分解する——1台の輸入が何台の現地生産を呼ぶか

第二の分解は、補償比率です。EV3.5関連のBOI資料では、優遇付きで持ち込んだ完成車(CBU)に対し、2026年までに現地生産でおおむね1:2、2027年までに1:3で相殺する、という整理が示されています(制度の細則・対象区分は通知で確認)。要するに、輸入で需要を先取りした企業ほど、後年の現地生産コミットが厚くなります。ここが中国系完成車メーカーの工場投資を加速させた構造です。日系にとっても同じです。輸入でつなぐ戦略は、将来の生産キャパとサプライヤ認定の前倒しを意味します。数字の読み方を誤ると、「いまの輸入台数」だけ見て安心し、「将来の補償台数」を設備計画に入れ忘れます。入れ忘れた設備計画は、2027年の比率引き上げで一気に不足します。不足は、臨時輸入では解けません。義務の側が残るからです。義務が残る限り、工場の稼働計画から逃げられません。

輸出1.5倍カウントを分解する——義務消化の係数が変わった

第三の分解は、2025年7月のEV Board決定です。BOI公式リリースによると、輸出向けに現地生産したEV1台を、生産義務の達成計算で1.5台分として計上できるよう調整した、と説明されています。従来は国内登録中心のカウントに寄っていた運用を、輸出も含めて義務消化しやすくした形です。当局側の見通しとして、この緩和でEV輸出が2025年に約1.25万台、2026年に約5.2万台規模へ増える、という説明も同系統の発表に含まれます(見通しであり確約ではありません)。係数1.5は小さく見えますが、義務が1:2〜1:3の世界では効きます。同じ工場でも、国内向けと輸出向けの配分を変えるだけで、義務達成の見え方が変わります。日系の生産計画は、台数合計だけでなく、「義務カウント後の実効台数」で見る必要があります。実効台数を見ない計画会議は、毎回の輸出比率議論で終わります。議論で終わる会議は、現場のラインには届きません。

投資額1,377億バーツを分解する——完成車だけでは足りない

第四の分解は、サプライチェーン投資です。BOI/EV Boardの進捗説明では、2025年6月末時点でEV・主要部品・充電・バッテリー交換などに関する承認投資が累計約1,377億バーツ(約42億ドル規模の説明)に達した、とされています。内訳は完成車だけでなく、部品・充電・電池関連を含む点が重要です。BOIの広報誌(2025年)では、過去3年でxEV・部品関連の投資申請が644件、金額は86.2億ドル超、という整理もあります(集計定義の差に注意)。完成車工場のニュースだけを追うと、部材・電池・充電の層を落とします。日系部品メーカーにとっての機会は、むしろこの層です。完成車の義務が厚くなるほど、現地調達と認定の需要が増えます。投資額を「完成車の話」に丸めると、自社の提案余地を自分で消します。提案余地を消した会社は、価格だけの商談に戻ります。価格だけの商談では、タイの係数競争に勝てません。

BYDとChanganの数字が示すもの——雇用と輸出の向き

個別企業の数字も分解します。BOI広報では、BYDをタイ最大級のEV雇用主とし、従業員6,100人超(うちタイ人約92%、2026年時点)、2026年に8,000人規模・タイ人比率95%を目指す、と紹介されています。Changanは2025年5月16日にタイで初の海外工場を稼働させ、右ハンドル車の域内向けに加え、R&Dと地域統括、約2,000人の熟練雇用を掲げる、とBOIが成功事例として示しています。ここから読めるのは、タイ拠点が「国内向け組立」だけでなく「域外・右ハンドル市場への供給」を前提にしている点です。日系が同じ土俵で戦うなら、既存のASEAN向け輸出ネットワークをEVに載せ替える速度が勝負になります。載せ替えが遅いと、同じ工業団地でも顧客の引き合いが中国系サプライヤに流れます。流れは、一度定着すると戻すのに年単位が要ります。

補助金と税の数字——需要側のレバーは縮小しつつある

需要側も分解します。EV3.5では車両タイプ・電池容量・適用年に応じた購入支援と、物品税の軽減(例:条件付きで8%から2%へ)などが整理されています。乗用車では価格帯と電池容量で支援額が分かれ、高価格帯は支援が薄くなる設計です。重要なのは、支援が永続しないことです。年限と条件が切れる前提で、需要は政策依存から実需へ移ります。そのとき残るのは、生産義務と輸出係数の側です。つまりタイ政策の重心は、すでに「買わせる」から「作って出す」へ移っています。日系のタイ販売会社が補助金前提の需要計画を残していると、工場側の輸出計画と矛盾します。矛盾した計画は、在庫か義務違反のどちらかで表面化します。表面化する前に、販売計画と生産計画の前提数字を揃えてください。

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日系完成車の数字の読み方——既存拠点は強みか、惰性か

日系はタイにICE(内燃機関)の厚い拠点を持ちます。BOI広報も、MazdaがB-SUV/MHEVを年10万台超規模で輸出向けに生産する計画や、Nissanの次世代HEVラインなど、既存勢の電動化投資に触れています。数字の分解では、「拠点がある=EVでも勝つ」とは限りません。強みはサプライヤ網と熟練工、弱みはEV専用の電池・電子アーキテクチャと、中国系の速度です。取る分岐は三つです。①既存工場でHEV/MHEVを厚くし、ZEV比率を段階的に上げる。②BEVをタイで作り、輸出1.5倍カウントで義務と採算を両立する。③完成車は輸入/他拠点、タイは部品・ASEAN物流に特化する。中堅サプライヤは、完成車の選択に引きずられるので、顧客OEMの①②③を先に確認しないと設備投資が空振りします。空振りの設備は、減価償却だけが残ります。減価償却だけが残る投資は、次の稟議を通しません。

部品・電池の数字——現地化比率が次の競争軸

政策広報では、部品の現地化や電池関連投資を促すメッセージが強まっています。二次情報では、電池セル輸入比率の上限や、現地調達の要件強化が議論・導入されている、との説明もあります(細則は官報・BOIの最新通知で確認する)。確かなのは、完成車の義務が厚いほど、電池・インバータ・ハーネス・熱管理などの現地供給がボトルネックになる、という構造です。日系部品が出す数字は、「タイ向け売上」ではなく、「顧客OEMの義務達成に何%貢献するか」です。貢献度が見えない提案は、価格競争に押し戻されます。逆に、義務カウントと輸出計画に紐づく納入計画を出せる部品メーカーは、商談の順番が上がります。順番が上がる提案には、必ず係数の話が入っています。

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若手が誤解しやすい一点——「タイEV=国内ブーム」ではない

登録台数の伸びだけを見ると、タイはEVブームの国に見えます。しかし政策の中核数字は生産比率・補償比率・輸出係数です。国内需要が鈍い局面でも、輸出係数と義務が工場稼働を支える設計になっています。二つ目の誤解は、「中国系だけが得をする制度」です。条件は国籍ではなく、輸入と現地生産のバランスです。三つ目は、「日系は何もしなくても拠点勝ち」です。拠点は資産ですが、EVの部品構成が変われば資産の中身も更新が要ります。正しく分解するなら、ブーム論でも敗北論でもなく、四つの数字に自社計画を当てることです。当てられない計画は、ニュースの感想に過ぎません。感想では、次の設備投資は承認されません。承認される計画には、必ず係数が入っています。

この先の分岐——四つの数字を一枚の計画に落とす

実務の落とし込みは次です。(1) 自社/顧客の輸入実績から、2026〜27年の補償必要台数を試算する。(2) 輸出1.5倍カウントを織り込んだ実効生産台数を出す。(3) 30@30に向けたZEV比率の社内シナリオを、国内販売と輸出に分ける。(4) 部品・電池の現地化ギャップを金額とリードタイムで示す。(5) 経営会議には「EV市場は伸びるか」ではなく、この四数字の感度表を出す。感度表があれば、増産・輸出・撤退の議論が同じ土俵に乗ります。土俵がない議論は、毎回の市況ニュースでリセットされます。タイのEV政策は感情論のテーマではなく、係数と比率のテーマです。係数と比率が埋まって初めて、拠点戦略が書けます。

読み解きのポイント ①30@30は生産比率(約72.5万台規模の公式併記) ②EV3.5は2026年1:2→2027年1:3の補償イメージ ③輸出1台=義務1.5台(2025-07 EV Board) ④サプライチェーン投資累計約1,377億バーツ ⑤日系は拠点の有無より、義務・輸出・部品の三点で分岐

タイのEVを数字で分解すると、国内ブームの話から、輸出拠点と義務消化の話に切り替わります。日本企業が追うべきは登録台数の見出しではなく、補償比率と輸出係数です。四つの数字を一枚に落とせば、次の設備と顧客提案も決まります。落とせない議論は、まだ現地ニュースの要約です。要約の次に必要なのは、感度表です。感度表がない会議は、毎回同じ見出しで終わります。見出しだけでは、ラインは動きません。

よくある質問

Q. 30@30とは何ですか?

2030年までに自動車生産の少なくとも30%をZEVにするタイの目標です。販売シェア目標ではありません。

Q. 生産義務の1:2/1:3とは?

優遇付き輸入に対し、後年に現地生産で補償する比率の整理です。詳細はEV3.5の適用区分で確認します。

Q. 輸出1.5倍カウントはいつから?

2025年7月のEV Board決定としてBOIが説明。輸出1台を義務計算で1.5台分と計上する緩和です。

Q. 日系企業は何を優先すべきですか?

補償必要台数の試算、輸出係数込みの生産計画、部品現地化ギャップの三点です。

主な出典

BOI「EV Board Gives the Green Light to EV 3.5…」/BOI「EV3.5」概要PDF/BOI PR(EV輸出1.5倍カウント・投資1,377億バーツ等)/BOI TIR Newsletter 2025 Issue2(BYD・Changan・投資申請件数)/Reuters(2025-07-30政策調整の報道)。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。

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