EU向けに製品を売る・EUから輸出する企業は、強制労働で作られた製品を市場に置けなくなります。規則(EU)2024/3015は2027年12月14日から適用され、一部でも強制労働が関与した製品が対象です。2026年6月には準備用のガイドラインとSingle Portalが揃い始めました。日本企業が今週やる1点は、EU向けSKUごとに一次・二次サプライヤー名とリスク確認日を1行表に残すことです。本記事では規則の要点と、その1点をわかりやすく解説します。
先に決める実務1点:EU向けSKUの供給表を1枚作る
規則の本文を全部読む前に、社内で先に作るのは次の表です。「SKU/EU向け有無/一次サプライヤー/二次(材料・部品)/最終確認日/リスクDB参照有無」。EU向けがゼロなら、この規則の優先度は下がります。あるなら、調査が来たときに30営業日で資料を出せるかが勝負になります。
表の例:「部品A/EU向け有/Supplier X(ベトナム)/材料Y(国Z)/2026-08-20/リスクDB確認済」。空欄の二次は「未把握」と書き、埋め期限を別列にします。把握できていない二次を「問題なし」と社内報告しない方が安全です。未把握行の件数を、週次のKPIにすると進捗が見えます。ゼロになるまで調達会議の冒頭議題に残します。
この1点を先に決める理由は、規則がデューデリジェンス法そのものではなく、禁止と調査・決定の枠だからです。証拠を出せる供給一覧がないと、予備調査の段階で不利になります。
規則の骨格:上市・提供・輸出の禁止
EUR-Lexの要約は、経済事業者が強制労働で作られた製品をEU市場に置き、提供し、またはEUから輸出することを禁じる、と書いています。対象はセクターや製品種別、原産地(域内・輸入)を問いません。製品の一部だけが強制労働で作られた場合も含まれます。製造・収穫・抽出・加工のいずれの段階でも対象です。EUの最終利用者向けの遠隔販売(オンライン含む)も対象になり得ます。つまり「EU倉庫に置かない輸出専用」でも、EUからの輸出禁止がかかれば別問題になります。
強制労働の定義は、罰の脅威の下で求められ、自発的に申し出たものではない労働または役務、という整理です。ILO等の国際基準に沿った枠です。社内説明では「人権DDの任意ガイド」ではなく、「市場禁止の規則」と言い切った方が誤解が減ります。営業資料の「サステナビリティ対応済」だけでは、税関や権限当局の決定には足りません。
CBAMやAI法と混ぜないでください。これは製品の市場アクセスそのものに効く禁止枠です。関税計算の話とは別トラックです。社内の担当会議でも、議題名を分けて議事録を残します。
いつから効くか:2027年12月14日が本適用
規則の適用は2027年12月14日です。ただし、権限当局の指定、実施ガイドラインとリスクデータベースの公表、国内の罰則制度の整備など、先行して動く条項があります。欧州委員会のForced Labour Single Portalは、2026年6月30日に準備パッケージとポータルの立ち上げを示し、実施準備期間が始まった、と整理しています。ガイドライン本文やリスクDBへのリンクも、同ポータルから辿れます。
加盟国は権限当局の通知期限を2025年12月14日、罰則制度の整備期限を2026年12月14日としています(EUR-Lex要約)。2026年8月時点では、ガイドラインやリスクデータベースなど、企業が今から使える道具がポータルに並び始めています。分野別の説明会(ソーラー、繊維、電子・半導体など)も2026年秋に案内されています。
「2027年まで何もしなくてよい」は危険です。調査が始まると、回答期限は営業日単位で短く、供給一覧の作り込みは年単位でかかります。二次サプライヤーの把握が弱い業種ほど、今から埋める列が多いです。一次だけ埋めて二次が空欄のままだと、予備調査の提出で詰まります。
調査はどう進むか:予備→本調査→決定
域外の強制労働事案は欧州委員会、域内は加盟国の権限当局が担う、という二層です。リスクベースで優先し、製品量、疑いの重大さ、最終製品に占める疑い部分の割合などを見ます。サプライチェーン上のリスク源に近い事業者、規模と資源、是正のてこ、複雑さも考慮します。中小企業でも、最終製品に近い位置にいれば優先され得ます。
予備段階では、デューデリジェンスや緩和・防止・是正の情報提出を求められることがあります。回答は原則30営業日。情報受領後、予備評価はおおむね30営業日以内に終える、と要約にあります。本調査に入ると追加情報や例外的な現地調査があり、回答は30〜60営業日。可能な限り9か月以内に終える、という目安です。社内では「調査開始=余裕あり」と読まず、カレンダーに営業日で逆算します。
強制労働が確認されれば、上市・提供・輸出の禁止、回収・処分の命令が出ます。決定は公表され、見直し請求は通知から30営業日以内に新しい重要情報を出す、という流れです。税関は通関・輸出を止め、権限当局の確認後に拒否・押収へ進みます。在庫・船積み中の扱いも、決定文の期限に従って動きます。
ガイドラインとリスクDB:2026年に使える道具
欧州委員会は実施ガイドラインを事業者と権限当局向けに用意し、リスク指標やデューデリジェンス、当局とのやり取りなどをカバーする、と規則要約にあります。Single Portal上では、ガイドライン、リスクデータベース、トレーサビリティ関連ツール、加盟国当局リストが並びます。ガイドライン採択は2026年6月26日(Commission Notice C(2026) 4386 final)として、Single Portalに記録されています。
リスクデータベースは、製品・製品群・地理的領域に紐づく強制労働リスクの、公開・示唆的・非網羅のDBです。ILOや国連、研究機関などの検証可能な情報を使う、と要約にあります。「リストに無い=安全」ではありません。優先して見る参照表、という位置づけです。自社の二次が集中する国・品目を、先にDBで突き合わせます。
Single Information Submission Pointは、疑い情報の提出窓口で、2027年12月14日から利用可能、とポータルは書いています。それまでは、企業側の準備は供給一覧と社内証拠の整理が中心です。監査報告・是正完了証・発注書の保存場所を、SKU表の脚注に書いておきます。
中小企業向けの支援と、日本本社の役割
規則はすべての規模の経済事業者に禁則がかかります。一方で、中小企業向けのガイダンス・研修・オンライン資源や、加盟国の窓口指定が用意される、と要約にあります。ポータルにはSME向けの準備チェックリストも案内されています。
日本企業がEU子会社や販売代理店経由で売る場合、契約上の「経済事業者」が誰かが先です。EU法人が上市するなら、その法人が調査の窓口になります。日本本社は、二次サプライヤーの把握と監査記録を渡せるかが実務の核心です。代理店に丸投げし、供給一覧が代理店PCにしか無い状態は避けます。契約終了後も自社が写しを持てる条項にしておきます。
ソーラー、繊維、電子・半導体、農食品、自動車、漁業など、ポータルは2026年秋に分野別ウェビナーを並べています。自社の主力分野があるなら、案内日をカレンダーに入れてください。
CSDDDや人権DDとの切り分け
企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)などは、一定規模の企業に手続き義務を課す枠です。強制労働製品禁止規則は、強制労働が確認された製品を市場から排除する結果の禁止です。両方ある場合でも、社内の担当と文書を混ぜない方が安全です。
「人権方針を公開した」だけでは、この規則の調査回答には足りません。SKU単位の供給経路、是正の記録、当局への提出可能な一次資料が要ります。方針PDFと、発注書・監査報告・是正完了証を分けて保管します。
米国の輸入差止め(例:強制労働関連の税関措置)とも論点が近いですが、手続きと当局は別です。EU向けと米向けで同じ表を使い回す場合も、列に「どの法域か」を付けます。
今週の更新手順:表を止まらせない
週次で見る列は、EU向けSKUの増減、未把握の二次サプライヤー数、リスクDBの再確認日、権限当局リストの更新有無、の4つで足ります。月次で、主要SKUの監査日と是正オープン件数を足します。数字が動かない週でも、「確認した日」だけは更新します。
調査メールが来たら、社内の「EU Forced Labour窓口」1名と、法務・調達・品質の副窓口を先に固定します。30営業日は短いです。窓口が不在で期限切れ、は避けたい失敗です。休暇カレンダーに副窓口を書き、代理送信の権限も先に決めます。
表ができたら、EU子会社のコンプライアンス担当と同じファイルを共有します。日本語だけの表は、現地が使えません。SKUコードと法人名は英語併記にします。クラウドの権限は「編集可」を最小人数に限り、監査ログが残る場所に置きます。
例えば、繊維と電子部品を両方EUへ出す企業は、SKU表を事業部ごとに分けず、会社共通の1枚に統合します。事業部ごとの別表だと、調査対象SKUが漏れることがあります。統合表の更新責任者を1名にし、各事業部は行の追加だけを担う形が運用しやすいです。
よくある質問
Q. 2027年12月まで、何もしなくてよいですか?A. いいえ。本適用は2027年12月14日ですが、2026年にガイドラインとリスクDBが動き、調査時の回答期限は短いです。供給一覧の整備は今から必要です。
Q. 一部だけ強制労働なら対象外ですか?A. いいえ。製品の一部でも強制労働が関与すれば対象になり得ます。段階も製造・収穫・抽出・加工を含みます。
Q. リスクデータベースに載っていなければ安全ですか?A. いいえ。示唆的・非網羅です。優先確認の参照表であり、未掲載=安全ではありません。
Q. 今週やる1点は何ですか?A. EU向けSKUごとに一次・二次サプライヤーとリスク確認日を1行表に残すことです。
主な出典
調査時点:2026年8月。罰金額の二次推計は未使用。ガイドライン本文の細部はポータルの最新版を都度確認。
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。
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