『日本製は品質が高い』という評価を、多くの日本企業はまだ根拠を確かめずに前提にしています。しかし2026年4月にベトナムのハノイ・ホーチミンで実施された消費者調査では、家電製品を選ぶときに日本ブランドを挙げた人が98%に達した一方、ファッション・アパレルでは41%(4位)まで下がりました。同じ国、同じ「日本ブランド」という言葉で、57ポイントの差がついています。2026年上半期の貿易統計を見ても、半導体等電子部品の輸出額は前年同期比41.1%増、自動車は台数ベースで1.0%増にとどまるなど、業界ごとの伸び方はそろっていません。本稿では、財務省貿易統計・農林水産省の輸出統計・日本工作機械工業会の受注統計、海外消費者調査、化粧品の原産国表示規約といった一次情報を確認し、「日本製」への評価が今どこで効いていて、どこで効かなくなっているかを、国・業界別に整理します。
ベトナムの家電98%、ファッションは41%——同じ「日本ブランド」で57ポイントの差がつく
マーケティング会社のネオマーケティングが2026年4月、ハノイとホーチミンに住む18〜49歳の男女150人を対面で聞き取った調査があります。「購入するときにどの国のブランド・製品を選びたいか」という設問で、家電製品は98%が日本を選び、オートバイ・スクーターも96%でした。ところがファッション・アパレルでは41%(4位)にとどまり、上位にはベトナム・韓国・中国のブランドが並びました。同じ「日本ブランド」という言葉でも、カテゴリーによって57ポイントの差がついています。
| カテゴリー | 日本ブランドの選択率 | 順位 |
|---|---|---|
| 家電製品 | 98% | 1位 |
| オートバイ・スクーター | 96% | 1位 |
| レストランチェーン | 62% | 4位 |
| ファッション・アパレル | 41% | 4位 |
出典:ネオマーケティング「ベトナムにおける日本ブランド認識・購買実態調査」(2026年4月実施・n=150)。ファッションとレストランはベトナム・韓国・中国・タイのブランドが上位を占め、日本の浸透余地が相対的に大きいカテゴリーです。ブランドイメージを尋ねた16項目のうち、日本は「耐久性」「品質」「技術」「信頼性」「安全性」など15項目で首位でした。唯一の例外が「価格の手ごろさ」で、日本は21%にとどまり、ベトナム(95%)・中国(83%)・タイ(82%)が上位に並びます。日本ブランドを好きな理由を自由回答で聞くと、「製品品質」が89%(耐久性・品質の高さ)で最も多く、価格を挙げた回答は9%だけでした。購入をためらう理由の1位は「価格が高い」(62%)で、次いで「偽物・模倣品への懸念」(55%)、「どこで買えるか分からない」(27%)が続きます。品質そのものへの不満ではなく、買うまでの手間とコストが壁になっている構図です。
半導体41.1%増、自動車1.0%増——2026年上半期、輸出の「伸び方」が分かれた
財務省が2026年7月22日に発表した貿易統計(速報)によると、2026年1〜6月の輸出額は60兆6,606億円で、前年同期比13.7%増でした。比較可能な1979年以降で最高額です。ただし内訳を見ると、業界ごとの伸び方はまったくそろっていません。半導体等電子部品の輸出額は4兆1,402億円で、前年同期比41.1%増。輸出額全体の増加に対する寄与度も2.3ポイントと最大でした。
一方、自動車は輸出台数ベースで前年同期比1.0%増にとどまりました。米国向けは1.4%減、中東向けは45.8%減で、地域差も大きく出ています。EU向けは自動車が44.9%増えており、同じ品目でも輸出先によって明暗が分かれます。「日本製は品質が高いから売れる」という理解だけでは、この輸出額の分かれ方は説明できません。関税・現地生産・需要地の景気といった条件が、品質評価とは別に効いています。
2026年上半期・輸出額の主要数字(財務省貿易統計)
60兆6,606億円 輸出額全体・前年同期比13.7%増(過去最高)|41.1%増 半導体等電子部品の輸出額の伸び|1.0%増 自動車の輸出台数の伸び(金額とは別指標)
IC単価は1個75円、31.6%上昇——半導体は「量」でなく「値段」で伸びている
半導体等電子部品のうち、集積回路(IC)の平均輸出単価は2026年上半期に1個あたり約75円となり、前年同期比31.6%上昇しました。AI関連のデータセンター投資を背景に、高性能・高付加価値のICへの需要が増えているためです。輸出する「個数」が増えたからではなく、1個あたりの「値段」が上がったことで輸出額が伸びている、という構図です。
これは、日本の半導体関連輸出のなかに、価格競争ではなく技術・性能で選ばれている領域が残っていることを示す数字です。同じ「メイドインジャパン」でも、量で稼ぐ輸出と値段で稼ぐ輸出は、稼ぎ方の仕組みが違います。
自動車は輸出「量」で苦戦しても、「単価」は保てている
自動車の輸出台数が伸び悩む一方、輸出金額そのものは増加傾向にあります。高価格帯車種の構成比の高まりと、円安による金額の押し上げが背景にあると指摘されています。2025年4〜6月には対米輸出でトランプ関税の影響により台あたり単価が落ち込みましたが、2026年に入って以降はほぼ元の水準に戻っているとの民間分析があります(財務省貿易統計の数量・金額データに基づく分析)。
自動車では、輸出の「量」を確保する競争は価格・関税・現地生産の条件が支配的になり、日本からの輸出で残っているのは、価格ではなく性能・仕上げで選ばれる高価格帯モデルの取り分だという見立てです。品質評価そのものが消えたわけではなく、輸出という枠の中では、価格ではなく性能で選ばれる高価格帯モデルの範囲に評価が絞られています。
レクサスの満足度、87点から78点に下落——現地生産と「ブランド」の距離
米国の顧客満足度指数(ACSI、American Customer Satisfaction Index)の2026年自動車調査で、レクサスは前年の87点(1位)から78点まで10%下落し、3位に転落しました。1位はメルセデス・ベンツ(81点)、2位はアウディ(80点)です。同じ調査で親会社トヨタは1%上昇しています。ラグジュアリー部門全体の平均点も大衆部門と並ぶ78点まで下がり、価格やエンブレムだけでは高評価を保証されない、という調査担当者の見方が示されました。
トヨタは2025年9月、米国内に2拠点あったレクサスの生産拠点を1カ所に集約し、一部モデルの生産を日本に戻して米国へ輸出する一方、空いた生産ラインではハイブリッド車(HV)の現地生産を増やす方針を明らかにしました。高付加価値モデルは日本から輸出し、量販モデルは現地生産に振り分ける、という役割分担です。現地生産の車両が「トヨタ」「レクサス」の看板を背負っていても、日本から輸出される車両と同じ評価を得られるとは限りません。満足度の落ち込みは、その距離を映している可能性があります。
白物家電で日本ブランドが譲った市場——パナソニックが認めた「生産技術の敗北」
日本国内の白物家電・テレビ市場でも、状況は一様ではありません。BCN総研の調査によると、2024年(年間・販売台数ベース)の国内テレビ市場シェアは、東芝のテレビ事業を継承したTVSレグザ(ハイセンス傘下)が25.4%で首位、ハイセンス自社ブランドも15.7%で3位につけています。両ブランドを合わせたハイセンスグループのシェアは41.1%です。日経ビジネスの報道によると、ハイセンスはエアコンを中国・タイの4拠点で生産し、160カ国以上に年1,300万台以上を販売する規模を持ちます。日本全体のエアコン年間需要は約900万台とされ、1社の生産能力がその需要を上回る計算になります。
パナソニックホールディングスの生産技術部門トップは、中国製並みの低コストで日本製並みの品質を量産する「チャイナコスト×ジャパンクオリティー」を目標に掲げたうえで、デジタル家電が普及し始めた段階から中国企業とのコスト競争に敗れた経緯を「生産技術の敗北」と振り返っています。日本ブランドの品質そのものへの評価が消えたわけではありませんが、白物家電では価格競争力の差が市場シェアを決める場面が増えています。
抹茶483億円、ブリ435億円——農産品・食品の輸出が過去最高になった理由
農林水産省が2026年8月4日に発表した2026年1〜6月の農林水産物・食品の輸出額は8,977億円で、前年同期比10.9%増。上半期として過去最高を更新しました。米国向けはブリや緑茶が伸び、前年同期比15.3%増の1,626億円でトップです。品目別では、欧米の健康志向を背景に需要が広がる緑茶が483億円(前年同期比220億円増)、ブリが435億円(同178億円増)と伸び、23品目が過去最高額を更新しています。
この分野で効いているのは、価格競争ではなく、健康志向や食文化への関心という需要側の変化です。ただし政府が掲げる2030年5兆円という輸出目標に対しては、鈴木憲和農相が「残り5年で年率24.1%の増加が必要」と述べたとおり、現在の伸び率(上半期10.9%増)のままでは届きません。農産品・食品は「日本製の評価が効いている」領域の代表例ですが、その勢いにも限界があります。
工作機械の外需、21カ月連続増の理由——買い手はデータセンターに変わった
日本工作機械工業会が発表した2026年6月分の受注確報によると、受注総額は2,033.8億円で前年同月比52.7%増、12カ月連続の増加でした。うち外需は1,453.6億円で前年同月比55.8%増、21カ月連続で前年を上回り、2026年3月に記録した1,430億円を抜いて過去最高額を更新しています。同工業会は2026年の受注総額見通しを2兆円に上方修正しました(2026年1月時点の予測1兆7,000億円から3,000億円の上乗せ)。前年の2025年実績は1兆6,043億円です。
けん引役は自動車や家電ではなく、データセンター向けの冷却装置・自家発電設備、半導体製造装置、航空宇宙関連です。中国向けの受注も好調で、NC(数値制御)工作機械の振興策の継続やロボット・データセンター関連の需要が背景にあります。工作機械では、加工精度という日本メーカーの強みが、AI関連投資という新しい買い手にそのまま評価される構図が続いており、「日本製の評価」が効く範囲がむしろ広がっている業界です。
シンガポールの消費者は「生産地が日本以外でも信用できる」と言う
ジェトロが2023年4月に公表したASEAN3カ国(シンガポール・タイ・ベトナム)の消費者座談会では、シンガポールの参加者が「日本メーカーの製品であれば、品質管理ができているので、生産地が日本以外であっても、ある程度信用ができる」と述べています。タイの参加者は「ディテールへのこだわりがすごい。ペットボトルのキャップ1つとっても、こぼれないように考えられた大きさになっている」、ベトナムの参加者は「日本製品は耐久性に優れているので製品のライフサイクルが長い」と評価しました。
この座談会が示すのは、消費者が評価しているのが「日本という原産地」そのものではなく、「日本メーカーが持つ品質管理の仕組み」であるケースが少なくない、という点です。生産地がどこであっても、その企業の品質管理体制が信頼されていれば評価は続きます。逆に言えば、品質管理の実態が伴わない現地生産に切り替えた場合、ブランドが「日本」を名乗っていても、この信頼は自動的には引き継がれません。
化粧品の「原産国」表示は中国生産でも必須——表示義務は消えない
「化粧品の表示に関する公正競争規約」第4条8号は、原産国名を容器・外装に表示することを事業者に義務づけています。同規約の施行規則第8条は、原産国名を「当該化粧品を製造した事業所の所在する国の名称」と定義しています。日本ブランドの化粧品を中国などの海外工場で製造した場合、日本の市場で販売するときにも、原産国名の表示は基本的に必要です。一般消費者が明らかに国産品と認識できる場合は表示を省略できますが、それは例外規定であり、原則ではありません。
逆に、国産品であっても外国の国名・地名・外国語表記などで原産国を誤認させるおそれがある表示をした場合は、「国産」「日本製」「Made in Japan」の表示が必要になるという規定もあります。「日本ブランド」を名乗る化粧品が実際にどこで作られているかは、表示制度の上では隠しきれない仕組みになっています。現地生産へ切り替えた企業のブランドが、消費者から「日本製」と同一に扱われるとは限らない背景には、この表示義務の存在もあります。
自動車・家電・食品・工作機械——次に確認すべき数字はどれか
ここまで確認した数字を並べると、「日本製は品質が高い」という一言では説明できない差が見えてきます。半導体・工作機械・食品は、単価や輸出額の伸びという形で評価が数字に表れています。自動車は輸出「量」では苦戦しつつも高価格帯モデルの単価は保っており、白物家電は国内市場でも価格競争力の差でシェアを譲る場面が増えています。同じ「日本製」という言葉が、業界によって別の答えを持っているということです。
海外事業を判断する立場であれば、確認すべきは3種類の数字です。1つは輸出単価の推移(量ではなく値段で稼げているか)、もう1つは現地の消費者調査における自社カテゴリーの順位(家電のように強いのか、ファッションのように弱いのか)、最後は現地生産に切り替えた場合の原産国表示・ブランド管理が整っているかです。「日本製だから大丈夫」という前提だけで海外での価格設定や現地生産の判断を進めると、業界によっては数字が合わなくなります。
海外展開の前に確認したい3点 輸出単価が「量」でなく「値段」で伸びているか|現地の消費者調査で自社カテゴリーの順位が家電型かファッション型か|現地生産に切り替えた場合の原産国表示・ブランド管理は整っているか
よくある質問
Q. 日本製ならどの国でも高く売れますか?A. いいえ。ベトナムの調査でも家電98%とファッション41%で57ポイントの差があり、カテゴリーによって評価は大きく変わります。自社の業界がどちらに近いかを、輸出先ごとに確認する必要があります。
Q. 現地生産に切り替えたら、そのまま「日本製」と表示できますか?A. できません。化粧品の公正競争規約が定めるとおり、原産国名は「製造した事業所の所在する国」で決まります。現地で製造した製品を「日本製」と表示すると、規約や景品表示法上の誤認表示にあたるおそれがあります。
Q. 自動車の輸出が「量」で伸び悩んでいるのは、品質評価が落ちたからですか?A. 2026年上半期の統計を見る限り、輸出台数の伸び悩みは主に関税や現地生産シフト、需要地の景気による影響で、品質評価そのものの低下を示す数字ではありません。高価格帯モデルの単価は保たれています。
Q. 家電で中国メーカーに市場を譲ったのは、日本製の品質が落ちたからですか?A. パナソニックの生産技術部門トップ自身が語っているとおり、要因は品質そのものではなく、量産規模とコスト競争力の差です。日本ブランドへの好意度自体は海外調査でも高い水準を保っています。
主な出典
ネオマーケティング「ベトナムにおける日本ブランド認識・購買実態調査」(2026年4月実施・調査結果公表2026年6月5日)/財務省「令和8年6月分貿易統計(速報)」および貿易統計速報の解説報道(2026年7月22日発表)/かんとこうブログ(関東塗料工業組合)「自動車輸出の4月、5月……台あたり単価はもどったか」(2026年7月・財務省貿易統計に基づく民間分析)/農林水産省「2026年1〜6月の農林水産物・食品の輸出実績」記者発表および日本経済新聞報道(2026年8月4日)/日本工作機械工業会「2026年6月の工作機械受注状況(確報)」(2026年7月発表)および同「2026年受注総額見通しの上方修正」(2026年6月5日発表)/トヨタ自動車の米国生産再編に関する報道(TECH+・日本経済新聞、2025年9月)/米ACSI(American Customer Satisfaction Index)2026年自動車顧客満足度調査に関する報道(2026年)/BCN総研「国内テレビ市場シェア」2024年(年間・販売台数ベース)調査結果に関する報道各社の引用(2025年1月)/日経ビジネス「テレビ制したハイセンス、白物家電にも攻勢」および「パナソニック最後の牙城、白物家電に迫る中国」(日経クロステック取材含む)/ジェトロ「ASEAN3カ国の消費者座談会(後編)日本製品は『サステナブル』?」(2023年4月公表)/化粧品公正取引協議会「化粧品の表示に関する公正競争規約」および同施行規則(現行規約本文)。数値・順位は各出典の発表・報道時点のものです。単位換算(百万円・千円単位から億円への換算)の過程は_factcheck_ledger.mdに記載しています。
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