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インドの自動車市場とGST 2.0|税率改正が価格と需要をどう動かしたか
2026.08.01 更新 / PROVE通信編集部
監修:森英朗(グループ代表)
インドの自動車市場とGST 2.0|税率改正が価格と需要をどう動かしたか

インドの自動車市場とGST 2.0|税率改正が価格と需要をどう動かしたか

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2025年9月22日、インドの自動車にかかる税率は「28%+セス(追加課税)0〜22%」という複雑な二重構造から、「18%」と「40%」の二段階に一本化されました。小型車は実質減税、SUVや大型車は税率だけ見れば上がったのに、業界統計(SIAM)では2026年度第1四半期(4〜6月)の乗用車販売が過去最高の127万台を記録しています。同時に、電動二輪の購入補助「PM E-DRIVE」は2026年7月31日で新規登録分の締め切りを迎えました。減税と補助縮小が同時に起きている——この一見矛盾した動きの中身を、インド政府とSIAMの一次資料で解きほぐします。

まず結論——なぜインドの新車価格は2025年9月22日を境に変わったのか

2025年9月3日の第56回GST(物品サービス税)評議会で決定された税率改正が、同年9月22日に施行されました。財務・企業省のニルマラ・シタラマン大臣が議長を務めたこの会議で、自動車を含む多数の品目についてGST税率とセス(補償目的の追加課税)の構造そのものが作り直されています。結論から言えば、狙いは「税率区分の単純化」と「大衆車の値ごろ感の回復」です。裏を返すと、高価格帯の車には税負担を寄せる設計であり、単純な「自動車減税」ではありません。この改正のポイントは、車両区分ごとに税率がどちらの方向に動いたかを分けて理解することにあります。

28%+セスという迷路から、18%/40%の二段階へ

改正前は、自動車に28%のGSTに加え、車格や燃費区分に応じて1%から22%のセスが上乗せされ、実効税率は29%から最大50%まで幅がありました。中央間接税・関税委員会(CBIC)は2025年9月17日付の告示(第02/2025号)で、自動車を含む19の主要品目カテゴリーについて補償セスを撤廃し、この複雑な二重構造を解消しています。改正後は、対象車両に応じてGST単体で18%または40%のいずれかに一本化され、セスは実質的に無くなりました。GST評議会が公表したFAQでも、この「セス撤廃+二段階税率」が明記されています。企業側から見ると、価格設定のたびにセス区分を確認する手間がなくなった一方、上位区分に入る車種は税率そのものが大きく上がったことになります。

小型車18%、SUV・大型車40%——線引きはどこにあるのか

GST評議会のFAQによれば、小型車の定義は「排気量1,200cc以下・全長4,000mm以下のガソリン・LPG・CNG車」または「排気量1,500cc以下・全長4,000mm以下のディーゼル車」で、これらは28%から18%に引き下げられました。一方、排気量1,500ccを超える、または全長4,000mmを超える中大型車と、最低地上高170mm以上のSUV・MUV・MPV・XUV(呼び名を問わずユーティリティビークル全般)は、セスなしのGST40%に統一されています。改正前は中大型車の実効税率が45%から50%に達していたため、単純比較では税率が下がったとも言えますが、従来28%区分だった一部の中型車がセス込みの実効税率より高い40%に着地するケースもあり、車格によって損得が分かれる設計です。

二輪車も対象——350cc以下18%、超は40%

二輪車も同じ枠組みで再設計されました。排気量350cc以下のオートバイとスクーター(電動を除く)は28%から18%に引き下げられ、350ccを超える大排気量車は、従来の28%+3%セス(実効31%)から、セスなしのGST40%に変わっています。電動スクーター・電動三輪車はもともとGST5%で据え置きです。三輪車(オート・リキシャ等)も28%から18%へ引き下げられました。全体として、大衆が日常的に使う排気量帯の二輪車は明確な値下げ要因になった一方、大型二輪はSUVと同じ「40%区分」に括られた形です。

販売現場でどう動いたか——2025年8月の駆け込み手控えから9月以降の急回復

SIAM(インド自動車工業会)が発表した2025年度(2025年4月〜2026年3月)通期実績によれば、上半期(4〜9月)は乗用車販売が前年同期比1.4%の減少にとどまった一方、下半期(10月〜翌3月)は16.7%の増加に転じました。SIAM月次実績によれば、施行直前の2025年8月は二輪車卸売が前年同月比7.1%増(祭事シーズンに向けたディーラー在庫積み増しが先行)と底堅く推移していました。ただし四半期でみると2025年4〜6月期の二輪車販売は前年同期比6.2%減という谷を経ており、増勢は施行前からすでに始まっていたことになります。施行後は10月が前年同月比2.1%増、11月が21.2%増、12月が39%増と、祭事シーズンの需要とも重なって月を追うごとに伸びが加速する推移が示されています。税率改正が発表された直後は買い控えが起き、施行後にまとめて需要が動いたという典型的な税制変更時のパターンです。

2026年度第1四半期、乗用車販売は過去最高の127万台

SIAMが2026年7月15日に発表した2026年度(2026年4月〜2027年3月)第1四半期(4〜6月)の実績では、乗用車の国内出荷が前年同期比25.9%増の127万3,811台と、同時期として過去最高を記録しました。二輪車も同期間に20.3%増の562万8,675台です。SIAM会長のシャイレシュ・チャンドラ氏は、中東情勢の混乱という逆風があったにもかかわらず、GST引き下げによる値ごろ感の改善、金利低下による割賦条件の緩和、低い前年基準、新型モデルの投入が需要を押し上げたと説明しています。単月の6月についても、乗用車販売は前年同月比24.1%増の38万8,144台でした。この統計だけを見ると「GST改正は自動車業界にとって明確な追い風だった」という評価が成り立ちます。

PM E-DRIVE——FAME IIの後継が抱える「二重の終わり」

電動車の購入を後押しする補助制度は、GSTとは別の政策です。インドは2024年3月末で先代の補助制度FAME IIを終了させ、同年10月1日から総額1,090億ルピー(10,900クロール)規模の新制度「PM E-DRIVE」(Prime Minister Electric Drive Revolution in Innovative Vehicle Enhancement)を開始しました。重工業省の告示によれば、この制度は電動二輪・電動三輪・電動バス・充電インフラなど複数の柱からなり、資金の上限に達し次第、各区分が個別に締め切られる「予算消化型」の制度です。2026年1月27日時点で、電動二輪と電動三輪を合わせて約2,212,000台がこの制度の支援を受けて販売され、補助金支出は170億ルピーを超えています。

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2026年7月31日、電動二輪補助はなぜここで区切られたのか

重工業省は2026年に入り、PM E-DRIVEの制度を改定し、電動二輪の新規登録に対する補助の対象期限を2026年7月31日に設定しました(当初想定の2026年3月末から4カ月延長)。同時に、1kWhあたりの補助額を2,500ルピー(1台あたり上限5,000ルピー)へと、制度開始時より引き下げています。電動三輪については2028年3月末まで対象が続くため、電動二輪だけが先に区切られた形です。制度全体としては2028年3月末までの継続が決まっている一方、電動二輪という個別区分は「補助を薄く広くばらまく初期段階」から「普及が進んだ区分から先に自走させる段階」へ移行しつつある、と読むのが実態に近い整理です。

若手が誤解しやすい一点——GST減税とEV補助縮小は矛盾していない

「ガソリン車の税金は下がったのに、なぜ同じタイミングで電動車の補助は縮小されるのか」という疑問は自然に出てきますが、この二つは別の政策レイヤーです。GST改正は消費税制全体の簡素化が目的であり、電動車は改正前から低いGST5%のまま据え置かれているため、相対的な優位性は変わっていません。一方のPM E-DRIVEは、EV普及の初期段階を支えるための時限的な財政支援であり、予算総額と登録台数の上限があらかじめ決まっている制度です。税制(恒久的な仕組み)と補助金(時限的な仕組み)を同じ「政府のEV支援策」として一括りにすると、なぜ片方は据え置きで片方は縮小するのかが分からなくなります。制度の性格の違いを分けて見る必要があります。

日本の部品メーカーへの含意——価格帯構成の変化にどう備えるか

日本の自動車部品メーカーにとって重要なのは、税率そのものより「どの価格帯・車格の需要が伸びるか」という構成変化です。小型車・小排気量二輪という大衆価格帯は明確な追い風を受けており、この区分向けの部品供給比率が高い企業には販売数量の増加が直接効きます。一方、SUVや大型二輪は税率区分が上がった影響で価格転嫁の余地が問われる局面にあり、高付加価値部品を供給する企業は、価格転嫁の交渉力と現地生産比率の両方を再点検する必要があります。また電動二輪の補助縮小は、電動化関連部品の需要拡大ペースが政策頼みで急に鈍る可能性を示しており、EV関連投資の回収計画をガソリン二輪の需要動向と合わせて見ておくことが実務上の備えになります。

読み解きのポイント ①2025年9月22日、GSTは28%+セスから18%/40%の二段階に一本化 ②小型車・350cc以下二輪は実質減税、大型車・大型二輪は40%区分に ③2026年度Q1の乗用車販売は過去最高の127万台(SIAM) ④PM E-DRIVEの電動二輪補助は2026年7月31日で新規登録の締切 ⑤GST(恒久税制)とEV補助(時限財政支援)は別レイヤーの政策

インドの自動車市場を語るとき、税制と補助金を一緒くたにすると政策の意図を読み違えます。GST 2.0は「税制の簡素化」、PM E-DRIVEは「EV普及初期の時限支援」という別のロジックで動いており、それぞれの締切・区分・資金上限を分けて追うことが、需要予測の精度を上げる近道です。

よくある質問

Q. GST 2.0でインドの自動車価格は下がったのですか?

車格によります。小型車(1,200cc以下・全長4,000mm以下のガソリン等)と350cc以下の二輪は28%から18%へ引き下げられ実質減税ですが、SUVや1,500ccを超える車、350ccを超える二輪はセスなしのGST40%に統一され、従来より税負担が増えるケースもあります。

Q. GST 2.0はいつ施行されましたか?

2025年9月3日の第56回GST評議会で決定され、2025年9月22日に施行されました。

Q. PM E-DRIVEとは何ですか?

2024年10月1日に開始された、電動二輪・電動三輪・電動バス等を対象とするインド政府の購入支援制度です。先代のFAME II(2024年3月末終了)の後継にあたります。

Q. 電動二輪の補助はいつまでですか?

新規登録分の対象期限は2026年7月31日です。電動三輪は2028年3月末まで対象が続きます。制度は予算上限に達し次第、区分ごとに前倒しで締め切られる設計です。

主な出典

GST評議会「56th GST Council Meeting FAQ」(2025年9月・gstcouncil.gov.in)/インド報道情報局(PIB)プレスリリース(GST税率改正の詳細)/CBIC「Notification No. 02/2025-Compensation Cess (Rate)」(2025年9月17日付)/SIAM(インド自動車工業会)月次・年次販売統計プレスリリース(siam.in)/The Hindu・The Hindu BusinessLine・Autocar Professional によるSIAM 2026年度第1四半期統計の報道(2026年7月)/インド重工業省 PM E-DRIVEスキーム改定告示・The Tribune, Fortune India による報道(2026年)。数値は各一次資料・SIAM統計の発表値に基づく。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。

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