1979年のスリーマイル島事故以来、実質的に時計が止まっていた米国の原子力産業に、まったく想定外の方向から需要がやってきました。AIです。データセンター向けの電力需要は2025年の31ギガワットから2027年には66ギガワットへと倍増する見通しで、2030年には米国全体の電力消費の1割超を占めるとされます。この需要を受け止めるため、Microsoft・Amazonといったテック大手が、経済的な理由で停止していた原子力発電所の再稼働に相次いで乗り出している。かつて「斜陽産業」と呼ばれた技術が、なぜいま呼び戻されているのか。数字を一つずつ分解しながら、この産業再編の構造を読み解きます。
31ギガワットから66ギガワットへ——2年で倍になる需要
まず起点となる数字から。米国のデータセンター向け電力需要は、2025年の31ギガワットから2026年に41ギガワット、2027年には66ギガワットへ拡大するという試算があります(Goldman Sachs試算・予測値)。2年で2倍を超えるペースです。
電力インフラの世界で「2年で倍」という増加率は異常値に近い。発電所も送電網も、需要が数%ずつ伸びる前提で計画・投資されてきた産業だからです。この一点だけで、既存の供給計画が前提から崩れることが分かります。
世界のデータセンターは、すでに「国ひとつ分」を消費している
視野を世界に広げると、規模感がより明確になります。2024年時点で世界のデータセンターの電力消費量は約415テラワット時。これは世界の電力消費全体の約1.5%にあたります。そして2017年以降の年平均成長率は12%——世界全体の電力消費の伸びの4倍以上のペースです。
ある試算では、2026年には世界のデータセンター消費電力が1,050テラワット時に達するとされています。これを国に換算すると、日本とロシアの間に位置する世界5位の電力消費国が突然出現したのに相当します。「データセンターが増えている」という定性的な話ではなく、国家規模の新規需要が数年で立ち上がったと捉えるのが実態に近い。
そのうちAI関連のワークロードが占める割合は、現時点で15〜25%程度と推計されており、比率は急速に上昇しているとされます。裏を返せば、いま見えている電力需要はまだAI以前の用途が主体だということです。検索・動画配信・業務システムといった従来型の負荷が土台にある上に、AIの負荷が積み上がっていく。今後の増加分の多くがAI由来だとすれば、需要曲線は現在の延長線よりも急になる可能性があります。予測のレンジが機関によって大きく割れているのは、この比率がどこまで伸びるかの見方が定まっていないためです。
AIデータセンター電力・要点数値
31→66GW 米データセンター電力需要(2025年→2027年予測・Goldman Sachs試算)|9.5〜15.3% 2030年の米国データセンター電力が全電力に占める比率レンジ(中央値11.8%・LBNL 2025年改訂版)|40% 現状のデータセンター電力に占める天然ガス比率(原子力は20%)
1979年で止まった時計——米国原子力の空白
受け止める側の産業は、長らく縮小均衡にありました。米国の原子力発電は1979年のスリーマイル島原発事故を境に、新規建設がほぼ止まった状態が続きます。安全規制の強化によるコスト増が重くのしかかり、新設プロジェクトは採算が合わなくなりました。
この「空白の数十年」が、いま効いてきています。長期間にわたって新設がなかったということは、建設のノウハウを持つ人材、サプライチェーン、規制対応の実務経験がいずれも痩せ細ったということでもあります。需要が戻っても、供給側がすぐには応えられない。ここが後述するボトルネックの伏線になります。
とどめを刺したのは事故ではなく、安いガスだった
見落とされがちですが、直近で原発を止めたのは安全問題ではありません。2000年代後半のシェール革命によって天然ガスが極めて安価になり、既存の原発ですら電力市場での競争力を失ったことが原因です。
ミシガン州のパリセード原発も、ペンシルベニア州のスリーマイル島(クレーン・クリーン・エナジー・センターに改称された号機)も、事故や重大な安全上の問題ではなく、「採算が合わない」という経済的理由だけで運転を停止した発電所です。この事実は、いま起きている再稼働の動きを理解するうえで決定的に重要です。技術的に壊れたわけでも、安全上失格になったわけでもない設備が止まっている。だからこそ「戻せる」という発想が成り立つのです。
スリーマイル島が戻ってくる——Microsoftの選択
流れを変えたのはテック側でした。Microsoftはペンシルベニア州スリーマイル島原発の一部再稼働について、Constellation Energyと契約を締結しています(再稼働の目標は2027年とされていますが、これは計画値であり確定ではありません)。
この案件が象徴的なのは、電力会社が需要を見込んで設備投資したのではなく、電力の買い手が、特定の発電所の復活そのものに関与したという構図です。従来の電力ビジネスでは、需要家は系統から電気を買うだけの存在でした。その関係が逆転しつつあります。
同様に、ミシガン州のパリセード原発も米原子力規制委員会(NRC)から運転再開に向けたステータスを取得済みです(2025年8月時点)。NextEra Energyもデュエイン・アーノルド原発の再稼働を電力購入契約を通じて計画していますが、こちらはまだ計画段階です。
原発の隣に土地を買う——Amazonの解法
Amazonはより直接的な手を打ちました。ペンシルベニア州のデータセンター用地を6億5,000万ドルで取得し、隣接するスサケハナ原発から直接電力供給を受ける構造をとっています。
送電網を経由せず発電所から直接引く、いわゆる「ビハインド・ザ・メーター」型の発想です。送電網の増強には長い年月がかかるため、それを待たずに済む場所を選んで建てる。土地の選定基準が「通信インフラと地価」から「電源への近さ」へと移り始めていることを示す動きで、データセンター立地の論理そのものが書き換わりつつあります。
フランスの別解——EDFと結んだ12年の「生産割当」
この動きは米国だけではありません。フランスのデータセンター事業者Data4は、国営電力会社EDFと12年間の「原子力生産割当契約」を締結しました。40メガワットの容量を、市場価格の変動ではなく生産コストに連動した価格で原発から直接調達する初の事例とされます。
ここで買っているのは電力そのものだけではありません。「12年間、価格が読める」という予見可能性です。AI投資の採算計算において、電力費は最大級の変動要因になります。その変動を長期契約で固定できるなら、電力を高く買ってでも見合う——そういう計算が成立し始めているということです。
なぜ太陽光と風力だけでは足りないのか
ここまでの動きに対して、当然の疑問が出ます。脱炭素なら再生可能エネルギーでよいのではないか、と。
答えは需要の「質」にあります。AIの学習・推論は24時間365日、高い稼働率で継続的に電力を消費します。太陽光や風力のように出力が変動する電源だけでは、この需要を安定して支えられません。常に一定量を供給できるベースロード電源が必要になる。原子力は炭素排出がほぼゼロでありながら高稼働率を維持できる、数少ない選択肢です。
重要なのは、これが再エネと原子力の対立ではないという点です。2024年時点のデータセンター電力の内訳は天然ガス40%・再生可能エネルギー24%・原子力20%・石炭15%。需要の伸びを考えれば、どれか一つを選ぶのではなく、すべてを同時に増やさなければ追いつかないというのが実情です。
本当のボトルネックは、発電量ではなく建設スピード
この問題の核心は、実は電源構成の議論ではありません。時間の非対称性です。
送電網や新規発電所は、計画から稼働まで何年もかかります。一方でデータセンターそのものは数年で建ってしまう。需要側の拡大スピードに、供給側のインフラ整備が構造的に追いつかない。この時間差こそが、いま起きている混乱の正体です。
停止済みの原発の再稼働が急速に注目されているのは、まさにこの点に効くからです。ゼロから新設すれば十数年かかるところを、既存設備の復活なら数年で済む可能性がある。技術的な優位性というより、時間を買う手段として選ばれていると理解したほうが実態に近いでしょう。
読み解きのポイント ①電力需要の「量」だけでなく「24時間安定供給が必要」という質の要求が、原子力回帰の主因になっている ②供給インフラの建設リードタイムとデータセンターの建設スピードの非対称性が、再稼働という短期解を後押ししている ③再エネ拡大と原子力回帰は対立関係ではなく、両方増やさなければ需要に追いつかない併存関係にある
それでも当面の主役は天然ガスである
原子力回帰の話題性は高いのですが、冷静に見れば当面の主力は天然ガスです。新規発電の中心はガス火力になる見通しで、高成長シナリオではガス建設ペースが過去平均の2倍超になるとの予測もあります。
原子力はあくまで中長期の切り札という位置づけです。ここを取り違えると、投資判断のタイミングを大きく誤ります。再稼働案件が規制対応や工事の遅延、コスト超過で計画通りに進まなければ、当面の需要はガス火力で埋め合わせることになり、排出量の増加や、発電・送電コストの一般消費者への転嫁(電気料金の上昇)が政治的な論点として浮上します。この論点は、データセンター誘致をめぐる地域社会との摩擦という形で、すでに各地で表面化しつつあります。
日本企業の商機はどこにあるか
この構造変化を日本企業の側から見ると、機会は「原子力そのもの」よりも、その周辺に広く分布しています。
- 小型モジュール炉(SMR)の部材・機器——Kairos・X-energyなどの開発が進んでおり、部材・保守サービスの供給網が新たに形成されつつある
- 送配電インフラ——高効率変圧器、系統管理技術。ボトルネックが送電側にある以上、需要は発電より確実
- 冷却システム——電力需要の増加はそのまま排熱処理需要の増加を意味する
- 蓄電システム——再エネの変動を吸収する役割は、電源構成が多様化するほど重要になる
原子力回帰が計画通りに進むかどうかにかかわらず、米国・欧州のデータセンター向け電力インフラ需要そのものは当面拡大が続く公算が高いという点が重要です。再稼働が遅れればガス火力と送電網増強に投資が向かい、進めば原子力サプライチェーンに向かう。どちらに転んでも、電力インフラ周辺の需要は増える。この非対称性が、日本の電機・重電・素材メーカーにとっての実務的な読みどころになります。
主な出典
Lawrence Berkeley National Laboratory「United States Data Center Energy Usage Report: 2025 Update」(2026年6月改訂)/EPRI「Powering Intelligence 2026 FAQs」/Brookings Institution「Global energy demands within the AI regulatory landscape」(2026年)/Morgan Lewis「The Nuclear Industry at a Turning Point」(2026年2月)/WebProNews「Tech Giants Bet Billions on Nuclear Revival to Fuel AI Data Centers」(2026年・Goldman Sachs試算引用)。電力需要の将来値(31→66GW、2030年比率、1,050TWh等)はいずれも各機関の推計・予測であり、AI需要の伸びによって上下に変動し得ます。Microsoftのスリーマイル島再稼働時期、NextEraのデュエイン・アーノルド再稼働はいずれも計画段階の目標値です。
※2026年7〜8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。
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