2022年10月、食品スーパー世界1位のクローガーと世界2位のアルバートソンズとの合併計画が発表されました。しかし、アメリカの独占禁止当局の米連邦取引委員会(FTC)から計画阻止を求める訴訟が起こされており、同計画の動向に注目が集まっています。
本記事では、当事者の1社であるクローガーのことを詳しく知りたい方に向けて、会社概要・業績、成長戦略について紹介します。
参考:JETRO「米連邦取引委員会、スーパーマーケット大手クローガーの買収計画阻止へ」
クローガーとはどんな会社
出典:クローガー
クローガーは、アメリカの大手スーパーマーケットチェーンを運営している企業です。35州に2,722店舗を展開し、食品スーパーとして世界1位の規模を誇っています。この章では、同社の会社概要や歴史、事業内容について紹介します。
会社概要
クローガーの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | The Kroger Co. |
本社 | アメリカ |
設立 | 1883年 |
店舗数 | 2,722店舗(2024年2月3日時点) |
従業員数 | 414,000人 |
売上高 | 1,500億ドル(2023年) |
2,722店舗のうち、1,665店舗にガソリンスタンド、2,257店舗に薬局を併設しています。また、プライベートブランドの製品(主にパンと乳製品)を生産する食品工場は、33拠点あります。
歴史
クローガーの歴史の始まりは、1883年に創業者のバーナード・ヘンリー・クローガー氏が食料品店をオープンさせたことです。当時の食料品店は、パン屋からパンを仕入れて販売するのが一般的でした。そのような時代背景の中、1901年にバーナード氏はパンを自分たちで焼くことができれば、安価で新鮮なパンを消費者に提供できることを思いつきます。その後、店舗内に精肉店を設け、1つの食料品店でパン・食肉・食料品を購入できるようにしました。
そして、クローガーの歴史の中で重要な意味を持つのが他企業との合併です。
1983年、Dillon Companies Inc. と合併し、全米規模で食料品店・薬局・コンビニエンスストアを運営する企業になりました。また、2014年にはEC企業のVitacost.comと合併してEC分野に参入しています。その後も合併による事業拡大を続け、現在の地位を確立しました。
事業内容
クローガーは創業者のバーナード氏の発案により、古くからワンストップ・ショッピングを戦略の柱にしています。ワンストップ・ショッピングとは、様々な商品を1カ所で購入できることです。
パン・食肉・食料品から始まった同社のワンストップ・ショッピングは、さらに進化を遂げており、一部の店舗ではドラッグストアやガソリンスタンドを併設しています。さらに、価格重視の店舗や高級ジュエリー店など、多様な店舗形式を提供することで様々な消費者のニーズに対応しています。
クローガーの経営状況
クローガーの経営状況として、直近6年間の売上高と営業利益の推移を紹介します。
参考:クローガー「Quarterly Results」
2023年の売上高は1,500億ドル(22兆5,000億円)で、2022年の1,483億ドル(22兆2,450億円)から17億ドル(2,550億円)増加しました。一方、2023年の営業利益は31億ドル(4,650億円)で、2022年の41億ドル(6,150億円)から10億ドル(1,500億円)減少しました。※1ドル=150円換算
同社の業績は売上高が右肩上がりに増加しており、好調を維持しています。しかし、2023年の営業利益は前年比24.4%減で、大幅に縮小しました。その原因はオピオイド訴訟の示談金として、15億ドル(2,250億円)を支出しているためです。
オピオイド訴訟とは、同社の薬局がオピオイドの蔓延を助長したとして、同社に対して2,000件以上の訴訟が提起されている問題です。オピオイドは鎮痛剤の一種で、アメリカではオピオイドの中毒患者や過剰摂取による死者の増加が社会問題となっています。実際に、2022年のオピオイドに関連した死者数は8万人を超えています。
クローガーの製品別売上高の推移
この章では業績を深掘りするために、製品別の売上高に焦点を当てます。製品別売上高の構成割合は以下のとおりです。
参考:クローガー「Quarterly Results」
構成割合から、主要な製品は非生鮮品と生鮮食品です。そして、ガソリンスタンドで販売する燃料と薬局の売上高は全体の20.6%を占めており、同社のワンストップ・ショッピングの戦略が功を奏していると言えます。
ここでは、さらに製品別の売上高の推移を紹介します。
非生鮮食品(食料品・雑貨など)
非生鮮品の売上高の推移は以下のとおりです。※非生鮮品は、食料品(生鮮食品を除く)・雑貨・ヘルス&ビューティーケア用品・自然食品などが該当します。
参考:クローガー「Quarterly Results」
2023年の売上高は769億ドル(11兆5,350億円)で、2022年の741億ドル(11兆1,150億円)から28億ドル(4,200億円)増加しました。売上高が増加しているため、同社の成長を牽引している製品と言えます。
生鮮食品
生鮮食品の売上高の推移は以下のとおりです。※生鮮食品は、青果物・花・食肉・魚介類・惣菜・パン・調理済み生鮮食品などが該当します。
参考:クローガー「Quarterly Results」
2023年の売上高は357億ドル(5兆3,550億円)で、2022年の354億ドル(5兆3,100億円)から3億ドル(450億円)増加しました。非生鮮品と同様に、右肩上がりに売上高が増加しており、同社の成長を牽引しています。
燃料
燃料の売上高の推移は以下のとおりです。※スーパーマーケットに併設しているガソリンスタンドにおける燃料の売上高です。
参考:クローガー「Quarterly Results」
2023年の売上高は166億ドル(2兆4,900億円)で、2022年の186億ドル(2兆7,900億円)から20億ドル(3,000億円)減少しました。主な要因は、2023年の燃料の小売価格が平均で11.1%下落したことです。
薬局
薬局の売上高の推移は以下のとおりです。※スーパーマーケットに併設している薬局の売上高です。
参考:クローガー「Quarterly Results」
2023年の売上高は143億ドル(2兆1,450億円)で、2022年の134億ドル(2兆100億円)から9億ドル(1,350億円)増加しました。薬局の売上高は順調に拡大しているものの、同社は2024年3月に、専門薬局事業をエレバンス・ヘルスの子会社であるCarelonRxに売却することを発表しています。ただし、スーパーマーケット内の薬局は含みません。
クローガーの成長戦略
クローガーの成長戦略は、「Value Creation Model(価値創造モデル)」です。具体的には、「フレッシュ」「ブランド」「パーソナライゼーション」「シームレス」をキーワードにした取り組みにより、持続的な株主総利回り8~11%の実現を目指しています。※株主総利回りとは、同社の株主が得られるリターン(値上がり率+配当金)の指標です。
●取り組み例
- フレッシュ:高品質で産地直送の生鮮食品を提供する新ブランドの立ち上げ
- ブランド:自社ブランドの新商品の開発
- パーソナライゼーション:クーポンの配布により、パーソナライズ(顧客一人ひとりに対して最適化すること)された価値を提供
- シームレス:ECサイトで注文されてから配達が完了するまでの時間の短縮
クローガーは合併による事業拡大の成功事例
クローガーは、アメリカに2,722店舗のスーパーマーケットを展開している企業です。食品スーパーとしては世界1位の規模を誇っています。このように事業を拡大できた要因は、多くの企業と合併を繰り返してきたことです。近年話題のアルバートソンズとの合併計画も、その一環と言えるでしょう。事業規模の拡大や海外進出でお悩みの経営者様は、クローガーを参考に他企業との合併や協業を検討してみてはいかがでしょうか。