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チリのリチウムはどこから買うのか|国家戦略とCodelco×SQM合弁を実務逆算する
2026.08.06 更新 / PROVE通信編集部
監修:森英朗(グループ代表)
チリのリチウムはどこから買うのか|国家戦略とCodelco×SQM合弁を実務逆算する

チリのリチウムはどこから買うのか|国家戦略とCodelco×SQM合弁を実務逆算する

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日本の電池・自動車・材料企業が最初に決めるべきは、「チリ産リチウムを誰から、どの契約形態で取るか」です。価格予想や資源埋蔵量の議論はその後です。チリは国家リチウム戦略のもと、国営Codelcoが戦略塩湖で過半を握る枠組みを進め、2025年12月27日にはCodelcoとSQMがアタカマ塩湖のリチウム事業合弁NovaAndino Litioを正式設立した、とCodelco公式が発表しました。合弁は2060年までを見据え、国家が過半を持つ公私連携です。実務は、この統治構造から逆算して決める必要があります。統治を無視した価格議論は、契約更新の場面で必ず破綻します。破綻してから統治図を描くのでは遅いのです。

最初に決めること——オフテイクか、出資か、代替国か

逆算の出発点は、調達部門の三択です。第一は、既存トレーダー/SQM系チャネル経由の長期オフテイクを更新する。第二は、合弁や下流加工への間接出資・共同投資で枠を取る。第三は、チリ依存を下げ、豪州硬岩やアルゼンチン・アフリカ案件へ比率を移す。中堅は第一が現実的で、第二は商社・OEM連合、第三は品質・物流・認証の再設計が要ります。どれを選ぶかは、価格観より先に「カウンターパーティが誰になるか」で決まります。NovaAndino成立後は、アタカマの供給窓口が公私合弁の統治下に入ります。契約書の相手方名義、更新条項、不可抗力、コミュニティ関連の停止リスクの書き方が変わります。相手方が変わったのに旧契約のまま延長すると、2027年以降の更新で詰まります。詰まる前に、相手方マスタを社内システムでも更新してください。マスタが古いと、与信も保険もずれます。与信がずれたまま発注すると、後から内部監査で止まります。

必要な事実①——国家リチウム戦略は「民間開放」ではない

次に必要な事実は、政策の方向です。チリ政府の国家リチウム戦略は、戦略的な塩湖で国家(Codelco/ENAMI等)が主導し、民間をプロセス全体に巻き込む設計だと公式に説明されています。民間資本を排除するのではなく、国家が過半や主導権を持つ形で拡大する、というのが骨格です。日本企業が「自由化が進むから投資しやすい」と読むと誤りです。逆に、「国有化だから撤退」も粗い。実務は、国家過半の合弁にどう接続するかを設計することです。投資委員会の資料には、資源量の次に統治構造の図を置いてください。図がないと、リスクの議論が地政学一般論に流れます。一般論では、次の四半期の発注数量は決まりません。決まるのは、相手方と条項だけです。相手方と条項が決まったあとで、ようやく価格の幅が意味を持ちます。

必要な事実②——NovaAndino Litioはいつ、何を決めたのか

Codelco公式(2025-12-27)によると、Minera Tarar(Codelco系)とSQM Salarの合併でNovaAndino Litio SpAが発足し、アタカマ塩湖の探査・開発・生産・商業化を2060年まで担う、とされています。Partnership Agreementは2024年5月31日署名で、チリ内外の多数機関の審査と、Corfo主導の先住民協議を経た、と説明があります。取締役会はCodelco側3名・SQM側3名。SQMはMaricunga塩湖の鉱業権をCodelcoへ移譲し、国家の戦略位置を強めた、とも発表されています。金融市場委員会(CMF)へ重要事実として通知済みです。日本の調達が追うべきは「生産が止まるか」ではなく、「誰が取締役会と販売方針を握るか」です。販売方針が変われば、既存顧客の優先順位も変わり得ます。優先順位の変更は、スポット価格より先に、割当と納期に出ます。納期が崩れると、電池ラインの計画が四半期単位でずれます。四半期がずれると、顧客OEMへの説明が後手になります。

必要な事実③——運営は2030年までSQM、2031年からCodelco

2024年5月のPartnership Agreement整理では、合弁の株式はCodelcoが50%+1株(過半)、運営は発効から2030年末までSQMが統括、2031年1月から2060年末までCodelcoが統括、とされています。逆算すると、いま締結する5〜7年契約はSQM運営期をまたぎ、更新時にはCodelco運営期に入る可能性があります。担当者が「今の窓口が続く」前提で交渉すると、2031年以降の条件変更に弱い。契約には、運営主体変更時の通知、価格フォーミュラの再協議、最低引取の扱いを入れておく必要があります。人事異動で窓口が変わっても、条項が残っていれば組織は耐えられます。条項がなければ、毎回の関係構築からやり直しです。やり直しは、コストというより時間の損失です。時間の損失は、代替認証のリードタイムとぶつかると致命的になります。

必要な事実④——アタカマ以外の塩湖は別案件として扱う

国家戦略は、アタカマ以外の塩湖でもCEOL(特別操業契約)や入札・協議を進める枠組みを示しています。ただしアタカマのNovaAndinoと、他塩湖の新規案件は段階もリスクも違います。日本企業が「チリ=一つの調達先」と束ねると、許可・コミュニティ・技術(ブライン回収率・淡水)の差を見失います。逆算の実務は、SKU(炭酸リチウム/水酸化リチウム)ごとに、アタカマ依存度と代替案件の進捗を別表にすることです。代替が未成熟なら、アタカマ契約の期間と数量を厚くする。代替が進むなら、依存度を計画的に下げる。束ねた表は、経営には分かりやすくても、調達には危険です。危険な表は、意思決定を早く見せる代わりに、現場の例外処理を増やします。

日本企業が取るべき分岐——買う/混ぜる/下流に触る

分岐を改めて落とします。A:既存オフテイクの更新+相手方名義のNovaAndino対応。B:商社・電池メーカー連合で長期枠+品質スペックの共同監査。C:水酸化リチウム等の下流加工や、他国案件とのポートフォリオ。中堅の現実解はAとBのハイブリッドです。Cは資本と技術の負担が大きい一方、IRA適格や顧客OEMの要求で必要になる場面もあります。重要なのは、Aだけを「様子見」と呼び続けないことです。様子見できるのは価格だけです。相手方法人の変更と、2031年の運営移管は、様子見中にも進みます。2026年の契約改定ウィンドウを逃すと、次は市況と在庫に押された交渉になります。押された交渉では、四点チェックリストのうち半分しか入りません。半分しか入らない契約は、次の更新でまた同じ論点に戻ります。同じ論点の繰り返しは、組織の学習ではなく、準備不足の再演です。

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契約に書くべき四点——名義・運営移管・コミュニティ・スペック

実務逆算で契約チームに渡すチェックリストは四点です。(1) 供給者名義がSQM単体かNovaAndinoか、承継条項があるか。(2) 2031年の運営移管時に価格・数量・品質の再協議条項があるか。(3) 先住民協議・環境許可に起因する供給制限の扱い(通知期限・代替供給・不可抗力の定義)。(4) 炭酸/水酸化のスペック、不純物、包装、船積み港の変更手続き。この四点が空欄の契約は、資源契約ではなく「関係者の善意」に依存しています。善意は人事で消えます。条項は残りません。法務に「チリ案件だから特別」と丸投げせず、調達が四点のドラフトを先に書く方が速いです。速いだけではありません。現場の用語で書いたドラフトの方が、抜けが少ないです。抜けが少ない契約ほど、更新交渉も短く済みます。

価格と需給を見る順番——市況の前に統治リスク

リチウム価格は上下します。しかしチリ案件の固有リスクは、市況より統治と許認可の側に出やすい。Codelcoは合弁完了が2025年12月期の業績に重要な正の影響を与える、と公式に述べています。国家側の財務インセンティブは、供給継続と価値最大化の両方に働きます。一方、コミュニティと環境の制約は、回収率向上や新技術投資とセットで語られます。日本の購買がLMEやスポットだけを見ると、契約停止リスクを過小評価します。見る順番は、統治構造→契約条項→代替供給→その上での価格フォーミュラ、です。順番を逆にすると、安いが届かない契約を選びます。届かない契約は、決算の在庫評価より先に、顧客への供給責任を壊します。

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若手が誤解しやすい一点——「国営化=すぐ供給が止まる」ではない

NovaAndinoは供給停止宣言ではありません。Codelco公式は、現行Corfo契約の継続と、2031年以降の契約も含め事業継続を強調しています。誤解の二つ目は、「SQMがなくなる」です。2030年まではSQMが統括し、その後も株主として残ります。三つ目は、「チリ以外にすぐ移せる」です。品質・物流・顧客認証の移管には年単位が要ります。正しく逆算するなら、国営化パニックでも、現状維持でもなく、名義・運営・代替の三点を更新することです。三点が更新された契約だけが、2026年の調達計画に載せられます。載らない契約は、計画上は数量があっても、実行上は予備費です。予備費扱いの数量で顧客約束をすると、信用だけが先に減ります。信用は、あとから買い戻せません。

この先90日でやること——逆算の実行手順

90日の手順は次です。(1) 既存チリ調達契約の相手方・期限・再協議条項を棚卸しする。(2) NovaAndino向けの名義変更・承継の要否を相手に照会する。(3) 2031年運営移管を想定した再協議条項のドラフトを法務と作る。(4) 豪州・アルゼンチン等の代替オフテイク候補を数量とスペックで比較する。(5) 経営会議には「価格シナリオ」ではなく「統治・契約・代替」の一枚を先に出す。この順番を守ると、市況ニュースに振り回されにくくなります。守らないと、毎回の価格急変で同じ議論を繰り返します。チリのリチウムは、資源の話であると同時に、契約統治の話です。契約統治が埋まって初めて、資源の話が投資判断になります。投資判断の一枚目に資源量だけを置くのは、もう止めましょう。

読み解きのポイント ①決めるのはオフテイク/出資/代替の三択 ②NovaAndinoは2025-12-27にCodelco公式で発足 ③過半はCodelco、運営は2030までSQM→2031からCodelco ④契約は名義・移管・コミュニティ・スペックの四点 ⑤価格の前に統治リスクを見る

チリのリチウム調達は、埋蔵量論から入ると迷います。日本企業が先に決めるべきは、誰からどう取るかです。国家過半の合弁が動いたいま、逆算の起点は契約の相手方と2031年の運営移管です。そこが埋まれば、価格交渉も代替調達も具体になります。起点が空のままの価格議論は、まだ市場コメントです。市場コメントを会議資料の一枚目にしないでください。一枚目には、相手方・移管・代替の三点を置いてください。

よくある質問

Q. NovaAndino Litioとは何ですか?

CodelcoとSQMの子会社合併で発足した、アタカマ塩湖のリチウム事業合弁です(Codelco公式・2025-12-27)。

Q. 誰が経営を主導しますか?

株式はCodelcoが過半。運営は2030年末までSQM、2031年からCodelcoが統括する整理です。

Q. 供給は止まるのですか?

公式発表は事業継続と契約の連続性を強調しています。停止前提ではなく、統治変更前提で契約を更新すべきです。

Q. 日本企業は何から着手すべきですか?

既存契約の相手方・期限の棚卸しと、名義承継・2031年再協議条項の確認からです。

主な出典

Codelco公式「Codelco and SQM form NovaAndino Litio…」(2025-12-27)/Codelco–SQM Partnership Agreement発表(2024-05-31)/acuerdocodelcosqm.cl(運営期間・枠組み)/Chile政府 National Lithium Strategy(gob.cl)/Corfo関連の先住民協議説明(合弁発表内)。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。

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