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EU森林破壊防止規則(EUDR)、2度目の延期の中身——2026年12月30日から何が義務になるのか
2026.08.21 更新 / PROVE通信編集部
監修:森英朗(グループ代表)
EU森林破壊防止規則(EUDR)、2度目の延期の中身——2026年12月30日から何が義務になるのか

EU森林破壊防止規則(EUDR)、2度目の延期の中身——2026年12月30日から何が義務になるのか

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EUの森林破壊防止規則(EUDR)は、2023年6月29日に発効してから一度も本格適用されていません。2024年12月に1年延期され、2025年12月にもう1年延期されたためです。大企業への適用開始は2026年12月30日、小規模・零細事業者は2027年6月30日にずれ込みました。延期は「先送り」というより「作り直し」です。義務を負う事業者の範囲や対象品目そのものが、延期のたびに書き変わっています。パーム油・大豆・木材・ゴム・カカオ・コーヒー・牛肉を扱う商社や食品メーカーにとって、税率のような分かりやすい数字がない分、何がいつ確定したのかを一次情報で追い直す必要があります。

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2026年8月時点で、まだ一度も本格適用されていない規則

EUDR(Regulation (EU) 2023/1115)は2023年5月31日に欧州議会・理事会で採択され、同年6月9日に官報公表、6月29日に発効しました。当初の予定では、大企業・中規模企業は2024年12月30日から、小規模・零細事業者は2025年6月30日から義務が始まるはずでした。ところがこの日付は一度も実現していません。2024年12月に施行規則(Regulation (EU) 2024/3234)で1年延期され、2025年12月にさらに施行規則(Regulation (EU) 2025/2650)で1年延期されたためです。発効から3年以上経ったいまも、企業は「まだ準備期間の中にいる」状態です。

EUDR・数字で見る現在地
7対象コモディティ(牛・カカオ・コーヒー・パーム油・ゴム・大豆・木材)|2回の適用延期(2024年12月・2025年12月)|2026/12/30大企業の適用開始日|3年超発効から本適用までの実質準備期間

対象は7品目——牛・カカオ・コーヒー・パーム油・ゴム・大豆・木材と、その加工品

規則が対象とする「関連コモディティ」は牛、カカオ、コーヒー、アブラヤシ(パーム油)、ゴム、大豆、木材の7つです(EUDR第2条)。これに加えて、これらを原料とする「関連製品」も対象です。例えば牛であれば牛肉・皮革・タンまで、カカオならカカオ豆からチョコレートまで、パーム油であれば油そのものだけでなく、パーム核油を使ったパルミチン酸やグリセロールといった派生化学品まで、規則の付属書Iに品目番号(HSコード)単位で細かく列記されています。日本企業が最初に確認すべきは「自社製品がこの7品目のどこかに連なっているか」という点で、原料の名前だけで判断すると漏れが出ます。

デューデリジェンス宣言書に書く、農地の緯度経度

EU市場に対象品目を出す事業者は、(1)2020年12月31日より後に森林減少していない土地で生産されたこと、(2)生産国の関連法規に従って生産されたこと、(3)これらを確認したデューデリジェンス宣言書を提出すること、という3条件をすべて満たす必要があります(EUDR第3条)。宣言書には生産国だけでなく、商品が生産されたすべての農地の位置情報(緯度・経度)を記載する義務があり、4ヘクタールを超える農地では境界を示す多角形(ポリゴン)データまで求められます(同第9条・付属書II)。牛の場合は農地ではなく、飼養されたすべての施設の位置情報が対象です。この座標単位のトレーサビリティが、EUDRを他の環境規制と分ける最大の実務負荷になっています。

延期は2回、理由は毎回別——2024年12月と2025年12月

決定大企業・中規模企業小規模・零細事業者主な理由
当初規則(2023年5月採択)2024年12月30日2025年6月30日
1次延期(2024/3234・2024年12月採択)2025年12月30日2026年6月30日第三国・加盟国・事業者のDD体制整備が未完了
2次延期(2025/2650・2025年12月採択)2026年12月30日2027年6月30日簡素化案が中途半端との反発を受け、範囲縮小とあわせて再延期

1次延期は欧州議会が546対97、7棄権という大差で承認したものです。理由は「第三国・加盟国・事業者がデューデリジェンス体制を整えるための時間が必要」という準備不足でした。2次延期の経緯はこれとは違います。欧州委員会は適用開始まで約2カ月という2025年10月21日、内容が限定的な簡素化案を突如発表しましたが、延期ではなく猶予期間の設定にとどまる中途半端さが事業者・農業団体の反発を招きました。これを受けて理事会と欧州議会が2025年12月4日に政治合意し、範囲縮小を伴う1年再延期に切り替えたという流れです。

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2025年5月22日、世界の国が「低・標準・高」の3つに分けられた

欧州委員会は2025年5月22日、対象品目の生産国をリスク別に分類する施行規則(Regulation (EU) 2025/1093)を発表しました。「高リスク」に指定されたのはベラルーシ・ミャンマー・北朝鮮・ロシアの4カ国のみで、いずれも西側諸国からすでに制裁を受けている国です。「標準リスク」はインドネシア・マレーシア・ブラジル・カンボジア・コンゴ民主共和国など約50カ国、残る約140カ国が「低リスク」とされ、日本・米国・中国・EU加盟国はすべて低リスクに入りました。分類はデューデリジェンスの厳しさそのものではなく、加盟国当局によるチェック実施率を左右します(低リスク1%・標準リスク3%・高リスク9%)。

インドネシアの答えは「Not comply」だった

世界のパーム油生産量の58%(2024年)を占めるインドネシアは、EUDRに正面から異議を唱えた国です。2023年12月、インドネシア外務省欧米局(Amerop)の担当者は「政府として(EUDRに)コンプライする立場にはない」と述べ、業界団体GAPKIも「政府が拒否するなら我々も拒否する」という姿勢を明確にしました。理由として挙げられたのは、EUが生産国を交渉に正式に加えずに規則を内部決定したという手続きへの不満です。一方で、インドネシア国内のパーム油認証制度(ISPO)にも森林の定義や森林減少の基準日(cutoff date)がEUDRと一致しないという技術的なずれがあり、政府批判と自国制度の整備は並行して進んでいます。

ブラジルは、農業省とIBAMAで答えが違った

ブラジルの反応はもう少し複雑です。農業・牧畜省はEUDRを保護主義的だと批判し、適用延期を求める側に立ちました。対照的に、連邦環境庁(IBAMA)はEUDRをアマゾンの森林破壊対策とトレーサビリティ向上の機会として歓迎しています。同じ国の中で、規制対応を負担と見るか好機と見るかが省庁ごとに割れているわけです。駐EUブラジル大使は2025年5月23日、リスク分類について「『高リスク』はロシア・ベラルーシ・ミャンマー・北朝鮮のみで、いずれも既に制裁下にある国だ。この分類は差別的だ」と批判しました。ブラジルの対EU輸出は、上位10品目で輸出額全体の71.7%(2024年)を占め、そのうちコーヒー・大豆油かす・大豆の3品目だけでEUDR関連品目が輸出額全体の26.9%に達します。

読み方の注意 「標準リスク」は「危険ではない」という意味ではありません。ブラジル・インドネシア・コンゴ民主共和国は世界の森林減少の大半に関わる主要生産国でありながら「標準」区分にとどまっており、環境団体からは「実質的な規制緩和」との批判も出ています。分類は2026年に予定される見直しで変わる可能性があります。

欧州議会が373対289で、自分たちの規則に反対した

2025年7月9日、欧州議会は本会議で373対289、26棄権という票数で、5月のリスク分類そのものに異議を申し立てる決議を採択しました。決議は「欧州委員会が委任された権限を超えている」として分類の撤回と、最新データ・地域差を反映した見直しを求めています。この決議は法的拘束力を持たないため、リスク分類自体は撤回されていません。もともとEUDR審議の過程では、欧州人民党(EPP)が主導する「無リスク国」区分の新設案がありましたが、世界貿易機関(WTO)の無差別原則に抵触する懸念から2024年の三者協議で削除された経緯もあります。今回の決議も、その流れの延長線上にあります。

延期のたびに、義務者の範囲は2段階で絞られた

2025年12月4日の政治合意には、日付の変更以上に重要な中身があります。デューデリジェンス宣言書を提出する義務が、対象品目をEU市場に最初に投入する「一次事業者(operator)」に限定され、それ以降に商品を扱う「取引事業者(trader)」や、対象品目を加工して別の対象品目にする「下流事業者」は提出義務そのものを免除されました。宣言書の参照番号を収集する義務も、サプライチェーン上で最初にその商品を受け取る下流事業者に限られています。低リスク国の小規模・零細な一次事業者には、宣言書の代わりに1回限りの簡易版申告で済む簡素化も加わりました。書籍・新聞などの印刷物(HSコード49)は対象から除外されています。

2027年12月30日、対象品目にインスタントコーヒーや冷凍牛タンが加わる

簡素化は範囲を縮めるだけではありません。欧州委員会は2026年5月4日に簡素化レビュー報告書を公表し、2026年7月13日には対象品目の見直しを含む措置を採択しました。牛の原皮・革(HSコード4101・4104・4107)は経済価値の低さを理由に対象から外れる方向ですが、代わりにインスタントコーヒー、一部のパーム油由来石けん、冷凍牛タン(HSコード0206.21.00)が新たに対象品目に加わります。新規追加分の適用開始は2027年12月30日です。この簡素化案について、穀物油糧種子貿易協会(COCERAL)・欧州植物油タンパク質ミール工業会(FEDIOL)・欧州飼料製造業者連盟(FEFAC)は2026年5月、法改正を伴わないFAQ・ガイダンスだけでは法的確実性を確保できないとする共同声明を発表しました。Copa-Cogecaなど欧州の農業・林業関連11団体も2026年4月28日、同様に「実効性のある簡素化にはなっていない」との共同声明を出しています。延期で時間は増えましたが、対象自体は動き続けています。

日本の和牛は「低リスク国」でも免除にならない

日本は2025年5月22日の分類で「低リスク国」に入りました。ただし、低リスクは「デューデリジェンスが不要」という意味ではなく、情報収集は必須のまま、追加のリスク評価・低減措置だけが原則不要になるという簡易化です。具体的な負担が生じているのが牛肉です。EUに牛肉を輸出する日本の事業者は、その牛が生まれてから と畜されるまでに経由したすべての飼養地の住所を、EU側の輸入事業者に提供する義務を負います。対象は2023年6月29日(規則発効日)以降に生まれた牛の肉で、飼養期間を考慮すると2025年末以降に輸出される牛肉から実務上の対象になる見込みです。農林水産省は2024年12月・2025年5月・2025年10月と輸出事業者向け説明会を重ね、飼養地の住所提供に関する同意書の様式例を都道府県経由で周知しています。

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パーム油と天然ゴムの9割超は、東南アジアから来ている

日本はパーム油と天然ゴムの9割以上を東南アジアからの輸入に依存しています(アジア経済研究所、2026年2月)。インドネシア・リアウ州の調査では、約400戸の小規模農家が加盟するあるパーム油協同組合でさえ、収穫記録は手書きの転記にとどまり、位置情報のデジタル化やトレーサビリティの整備がほとんど進んでいませんでした。同州はインドネシアの国内生産の2割近くを担う主要産地ですが、国内の作付面積の約4割は25ヘクタール未満の小規模農家が占め、ISPO認証の取得に必要な土地証書の入手にも手間取っているのが実情です。天然ゴムはさらに構造が厳しく、インドネシアの生産の9割が小規模農家によるものです。日本の輸出財のうちゴム・同製品(HSコード40)は総輸出額の1.4%(2024年)を占め、タイヤなど加工品としてEUに向かう分は、原料側の産地情報が整わない限りEUDR対応が完結しません。

確認しておきたい点 自社の取扱品目が7コモディティ・派生製品のHSコードに含まれるか/EU向け販売・輸出が自社直接か欧州子会社経由かを確認したか/自社は「一次事業者」か「下流事業者」かで義務の重さが変わることを把握しているか/原料サプライヤーに農地の位置情報を今のうちから依頼しているか。証明書を集める作業は、これらの順番を確認した後にしか進みません。

よくある質問

Q. EUDRの対象品目は結局何ですか?

牛・カカオ・コーヒー・パーム油(アブラヤシ)・ゴム・大豆・木材の7品目と、これらを原料とする関連製品が対象です(EUDR第2条・付属書I)。関連製品には牛肉・皮革、チョコレート、パーム核油由来の化学品、天然ゴムやタイヤ、大豆油、木材・家具まで、HSコード単位で細かく指定されています。

Q. 大企業への適用はいつから始まりますか?

現行の規則では2026年12月30日からです。当初は2024年12月30日の予定でしたが、2024年12月(Regulation (EU) 2024/3234)と2025年12月(Regulation (EU) 2025/2650)の2度の延期を経て、この日付になりました。小規模・零細事業者は2027年6月30日からです。

Q. 日本は「低リスク国」なので、対応は不要ですか?

いいえ。2025年5月22日の分類で日本は低リスク国に入りましたが、免除ではありません。産地情報などの情報収集義務は残り、追加のリスク評価・低減措置だけが原則不要になる簡易化です。EUに牛肉を輸出する事業者には、飼養地の住所提供義務が別途生じています。

Q. 自社がEUに直接輸出していなくても関係しますか?

可能性があります。EU域内の取引先(欧州子会社や現地の輸入事業者など)が「一次事業者」としてデューデリジェンス宣言書を提出する義務を負う場合、その原料の産地座標などの情報提供を求められることがあります。パーム油や天然ゴムのように東南アジア産原料への依存度が高い品目では、サプライチェーンの上流にいる日本企業にも情報提供の要請が及びます。

証明書を集める前に、対象品目とEU接点を確認する

延期が2度続いたことで、社内の優先順位が下がった企業は少なくないはずです。しかし2026年12月30日という適用日は今回変わっておらず、対象品目は2027年12月30日にさらに広がる方向で決まっています。まずやるべきことは証明書の書式を整えることではなく、自社製品がどのHSコードに該当し、EU向けのどの経路(直接輸出・欧州子会社・OEM先)を通っているかを洗い出す作業です。例えば、原料が東南アジア産のパーム油や天然ゴムであれば産地の座標データの有無を、EU向け牛肉であれば飼養地の同意書が整っているかを、それぞれ担当部門ごとに確認する必要があります。低リスク国というカテゴリーは免除ではなく「調べる項目が少し減る」という程度の意味だと理解しておくと、準備の優先順位を誤りません。

主な出典

EUR-Lex「Regulation (EU) 2023/1115」原文(2023年6月9日官報公表・6月29日発効)/EUR-Lex「Regulation (EU) 2025/2650」原文欧州委員会 Access2Markets「Delay until December 2026 and other developments in the implementation of the EUDR Regulation」/欧州議会プレスリリース(2024年12月12日・2025年7月9日決議 P10_TA(2025)0149)/欧州理事会プレスリリース(2024年12月18日)/ジェトロ ビジネス短信「EUの森林破壊防止デューディリジェンス規則、ラオスを『低リスク国』と評価」(2025年5月30日)/同「ブラジルを『標準リスク国』に分類」(2025年6月10日)/同「EU、森林破壊デューディリジェンス規則の大幅簡素化と再度の適用延期で合意」(2025年12月9日)/農林水産省「EUの森林減少防止に関する規則への対応について」アジア経済研究所 アジ研ポリシー・ブリーフNo.254「森林破壊防止規則(EUDR)への対応と課題:インドネシア産パーム油を事例に」(2026年2月13日)/農畜産業振興機構「欧州委員会のEUDR簡素化に向けた提案、農業団体は不十分と指摘」/GAPKI(インドネシア・パーム油協会)発表(2023年12月)/Mongabay「EUDR risk classifications omit governance & enforcement failures, critics say」(2025年6月)/Politico Europe「Parliament rejects EU anti-deforestation black list」(2025年7月10日)/European Commission「Commission updates product scope and tools to support EUDR」(2026年7月13日)/欧州委員会 簡素化レビュー報告書 COM(2026)191 final(2026年5月4日)/COCERAL・FEDIOL・FEFAC共同声明「The EUDR Simplification Package is Insufficient to Deliver Legal Certainty」(2026年5月)/Copa-Cogeca等11団体共同声明(2026年4月28日)。数値・制度状況は2026年8月時点のもので、以後の見直し・改正で変動する可能性があります。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。

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