EPAで関税を下げるには、税率表の確認だけでは足りず、貨物が「その協定の原産品」だと証明する必要があります。ご担当者様が「相手国の関税がゼロになるはず」と見積を組んでも、原産地基準や証明手続が揃わないと、輸入国税関は特恵税率を認めません。本記事では、原産地規則の見方と、日EU・CPTPP・RCEPなどで日本企業がつまずきやすい証明の違いをわかりやすく解説します。
当コラムで注目する用語
- EPA:経済連携協定。相手国との間で関税やルールを取り決め、特恵税率を使える枠組み。
- 原産地規則:貨物がその協定の「原産品」かどうかを決めるルール。基準と証明手続の両方を含む。
- 品目別規則:HSコードごとに、どの実質的変更基準を使うかを定めた表。
- 関税分類変更基準(CTC):非原産材料と完成品のHS番号が、協定で定めた桁数だけ変われば原産とみなす考え方。
- 付加価値基準:締約国で加わった価値が、品目ごとに決めた割合以上かを見る考え方。
- 自己申告制度:輸出者・生産者・輸入者が自ら原産品申告書を作り、輸入国税関に提出する証明方法。
原産地規則とは何か
原産地規則は、「この貨物を、どの国(またはどの協定の締約国)の産品とみなすか」を決めるルールです。税関の案内では、EPAや一般特恵(GSP)の特恵税率を使うには、貨物が各特恵原産地規則に基づく原産品であることと、輸入国税関への原産地証明手続が必要、と整理されています。
例えば、部品を第三国から買い、日本で組み立てて輸出する場合、「日本製」と呼べるかどうかは、協定ごとの品目別規則で決まります。「工場が日本にある」だけでは足りない、というのが出発点です。税率表で関税が低い品目でも、原産品と認められなければ、通常税率のまま通関します。
「関税ゼロ」だけで足りる、と考えられやすい理由
営業の見積では、相手国の関税欄が「0%」と書いてあると、原産地の話は後回しになりやすいです。実際に止まるのは、HSコードの確定、品目別規則の読み方、証明書類の作成、そして事後確認に耐える保管です。
若手が誤解しやすい点は、「協定が結ばれていれば自動的に関税が下がる」が半分しか正しくない、ということです。協定は枠です。枠の中に入るには、原産地基準を満たし、証明手続を踏む必要があります。第三者証明書の有効期限は、税関の案内では発給の日から1年とされています。期限切れの紙では、特恵は使えません。
原産品かどうかは、まず3つの箱で見る
税関の「原産地規則のいろは」では、EPAの原産品は大きく次の3つに整理されています。
- 完全生産品:農産物や鉱物など、締約国内で生産が完結したもの。
- 原産材料のみから生産される産品:使う一次材料が、すべて協定上の原産材料であるもの。
- 実質的変更基準を満たす産品:非原産材料を使っても、十分に変わっていれば原産とみなすもの。
工業製品の多くは3番目です。ここで使うのが、関税分類変更基準、付加価値基準、加工工程基準です。どれを使うかは品目別規則に書いてあり、協定によって組み合わせや選択制が違います。ご担当者様は、まず完成品のHSを確定し、その行の規則を読む、という順番が安全です。
積送基準も忘れないことが大切です。原産国から日本(または相手国)へ直送されない場合、第三国での加工や通関の扱いで原産性が切れることがあります。税関の輸入ステップ案内でも、原産地基準とあわせて積送基準の確認を求めています。船積みルートが変わったら、原産の話を最初から見直す必要があります。
CTC・付加価値・加工工程はどう違うか
関税分類変更基準(CTC)は、非原産材料のHSと完成品のHSが、協定が求める桁数だけ変わっているかを見ます。部品表(BOM:Bill of Materials)とHS対比表が、説明の芯になります。税関の初歩資料でも、日本のEPAでは一番多く採用されている、と説明されています。
付加価値基準は、締約国で加わった価値が基準値以上かを見ます。計算式は協定ごとに違い、製造原価計算書や仕入書が必要になります。材料価格が上がると、同じ工場でも比率が割れます。調達先を一国に寄せると、非原産材料の比率が一気に上がり、基準を割ることがあります。
加工工程基準は、化学反応や精製など、指定の工程を締約国で行ったかを見ます。化学品などで、CTCや付加価値と併用されることが多いです。工程名が一致していても、場所が第三国だと足りません。
証明手続は協定ごとに選べる制度が違う
税関は、原産地証明手続を大きく3種類に分けています。第三者証明、認定輸出者による自己証明、自己申告です。どの制度が使えるかは協定ごとに違います。
第三者証明では、輸出国の発給機関が原産地証明書を出します。日本では、多くのEPAで日本商工会議所が発給機関です(日シンガポールEPAは各地の商工会議所)。輸入者は、その証明書を輸入申告に使います。
自己申告制度では、輸出者・生産者・輸入者自らが原産品申告書を作ります。税関の2026年4月時点の表では、日本からの輸出で自己申告が使える例として、日豪、CPTPP、日EU、日英、RCEP(条件付き)、日米貿易協定が挙げられています。CPTPPは自己申告のみ、日米は輸入者自己申告のみ、といった制限もあります。様式は協定ごとに必要記載事項が違い、原則英語で作る、と案内されています。
認定輸出者による自己証明は、当局の認定を受けた輸出者が、認定番号入りの申告文を商業書類に書いて使う制度です。税関の案内では、メキシコ・スイス・ペルーとの各EPAなどで採用されています。RCEPでも認定輸出者制度が並ぶため、「自己申告ができる協定」と「認定が要る制度」を混ぜないでください。ひとつのEPAで複数制度がある場合は、利用者が選べますが、メリットと保管負担が違います。
日EU・CPTPP・RCEPでつまずきやすい点(2026年時点)
日EU・EPAとCPTPPは、自己申告が中心です。証明書を商工会議所に取りに行く代わりに、自社で申告書を作り、根拠書類を保管します。保存期間は、税関の表ではCPTPPが5年、日EU・日英が4年です(原産品申告書作成の日から起算)。
RCEPは、第三者証明、認定輸出者、自己申告の3つが並びます。税関FAQ(2025年1月1日現在)では、日本からの輸出で輸出者・生産者による自己申告を使える相手は、豪州・ニュージーランド・韓国に限られる、と書かれています。同じRCEPでも、仕向国によって証明の選択肢が違います。累積(他の締約国の原産材料を自国原産として数える仕組み)がある協定では、調達地図を一国に閉じると、累積のメリットを使えず、逆に基準割れしやすくなります。
例えば、東南アジアの部品を日本で組み立てて欧州へ出す場合、日EUの品目別規則と、ASEAN向けの別EPAでは、使う証明と基準が別物です。「ASEAN向けで通ったから欧州も同じ紙でよい」は通りません。仕向国と協定名を、見積の1行目に書いてください。
事後確認で否認されやすいのは「根拠が残っていない」場合
特恵を使ったあと、輸入国税関は事後確認(検認)で質問できます。自己申告では、申告書の写しと、契約書・仕入書・価格表・総部品表・製造工程表など、原産品であることを示す記録の保管が義務づけられています。紙が無い、部品表とHSが食い違う、付加価値の計算根拠が追えない、といった状態だと、特恵が事後に否認されるリスクが上がります。
第三者証明でも、発給申請時の内容と実態が違うと問題になります。証明書があれば終わり、ではありません。営業が「関税ゼロで出せる」と言った根拠を、調達と経理が同じ表で持てるかを、出荷前に確かめる必要があります。課税価格の総額が二十万円以下の貨物は、税関の案内では原産地証明書の提出が原則不要とされる例外がありますが、通常の商取引ではこの例外に頼れないことが多いです。小口サンプルと本船積みを、同じルールで雑に扱わない方が安全です。
調達を一国に依存すると、原産地が満たせなくなる例
付加価値基準の品目で、主要部品を第三国1社に集中すると、材料価格の上昇だけで原産比率が割れます。CTCの品目でも、その部品のHSが完成品と近いままだと、分類変更が足りません。どちらの場合も、「安いから一国調達」が、特恵を失う原因になります。
対策は、品目別規則を先に読み、非原産材料の上限(または必要なHS変更)を調達方針に落とすことです。例えば、代替部品を締約国内または累積できる国から買う、完成品のHSを再確認する、事前教示で原産性の見通しを取る、といった順です。CPTPPの自己申告手引きでも、自己申告では事前教示が有効、と税関は案内しています。文書回答を得た場合、輸入申告時に回答書番号を書けば、原産品であることを明らかにする書類の提出を省略できる、とも書かれています(法令改正などで取扱いが変わる場合を除き、発出後3年間尊重される、という説明です)。
歴史的には、二国間EPAでは第三者証明が長く主流でした。CPTPPや日EUのように自己申告が中心の協定が増えると、発給窓口より社内の部品表と原価資料の整備が先になります。将来も、仕向国ごとに証明制度が一本化される保証はありません。新規の輸出案件では、税率より先に「どの協定の、どの証明で行くか」を決める方が、手戻りは少ないです。
注意点と次の一手
原産地規則は、関税を下げるための条件表です。税率表の「0%」は、原産品だと認められたあとの話です。協定名、HS、品目別規則、証明制度、保存年数を、1行ずつ書いてから見積の関税欄を埋めてください。
ご担当者様が次に取る一手は、次の出荷について「どのEPAを使うか」「品目別規則はCTCか付加価値か」「証明は第三者か自己申告か」「根拠書類は誰が何年保管するか」の4点を社内で共有することです。ここが揃うと、関税ゼロの見積は、通関の現場でも同じ言葉で説明できます。数字や協定名は、税関の原産地規則ポータルで、出荷の直前にもう一度確認する習慣にしておくと安心です。
よくある質問
主な出典
出典(調査時点:2026年8月)
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。
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