「米国が一番大事」と「人が足りない」は、同じ調査の別のページに並びます。ジェトロの第24回「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2025年11〜12月実施・有効回答3,369社)では、今後3年程度で最も重視する輸出先として米国が27.1%で首位です。一方、海外展開人材は9割近くの企業が不足と答えます。本記事では記者発表の主要数字を分解し、社内の優先国リストと人材・調達の台帳を同じ会議で混ぜない読み方をわかりやすく解説します。数字の出典は発表日とレポート掲載日を分けて注記します。
表:まず押さえる主要数字
| 項目 | 数字 | 読み方の注意 |
|---|---|---|
| 対象・回答 | 9,647社に送付/有効回答3,369社(34.9%) | 海外関心が高い母集団。日本企業全体の平均ではない |
| 最重視の輸出先 | 米国27.1%(首位) | 比較可能な2018年度以降で最高、と記者発表 |
| 事業拡大先 | 米国が4年連続で最大 | 進出方針の設問。輸出先の設問と列を分ける |
| 米国リスクの分散先 | 関心先の4割がEU(最多) | ASEAN・日本が続く。米国撤退を意味しない |
| 地政学の認識 | 中小でも7割超が影響・懸念 | 要因最多は米中関係・対立 |
| 海外展開人材 | 9割近くが不足・確保できず | 外国人材雇用は52.5%(過去最高) |
| SC見直し | 全体の4分の1強(進出企業は約3分の1) | 検討含む。実行済みと分けて読む |
数字はジェトロ記者発表(2026年2月12日)と調査レポートページ(2026年3月10日掲載)に基づきます。詳細表はPDF本編で確認し、社内資料には「発表日/設問文」を注記します。表の%だけをスライド1枚に載せ、母集団の注記を落とすと、経営会議で「日本全体の話」に誤読されます。注記は表の直下に残します。
数字①:輸出先としての米国27.1%
記者発表は、今後3年程度で最も重視する輸出先として米国が27.1%で首位を維持し、比較可能な2018年度以降で最高になった、と書いています。ASEANや中国との差が広がった、ともあります。米国ビジネスへの意欲は輸出を中心に堅調、一方でリスクも認識、という両面です。
社内で「だから米国一択」と書くと外れます。同じ発表は、米国リスクに備えた分散・移管先として、関心国・地域を挙げた企業の4割がEUと答え、ASEAN、日本が続いた、と続けます。米国重視と、リスク時の受け皿は別列です。受け皿が「日本」と答えた企業もあるので、国内回帰と第三国移管を同じ「分散」セルにまとめない方がよいです。
中国ビジネスについては、拡張意欲に改善の兆候があり、米中とも市場規模や成長性への期待はなお健在、とあります。「中国離れ」一語で議事録を閉じない方が安全です。米国向け輸出を増やす計画と、中国市場の価格改定を同じ週に議論する場合は、議題を分けます。
実務では、輸出先の優先順位を決めたあと、関税・物流・決済・販路の4列を空欄チェックします。27.1%は「行く国」の投票結果であり、「どう売るか」の設計図ではありません。
数字②:事業拡大先でも米国が4年連続最大
海外進出方針で事業拡大を図る国・地域としても、米国を選ぶ企業が4年連続で最大、と発表されています。輸出先の設問と進出方針の設問を、同じ「米国優先」セルにマージすると、製造拠点の話と輸出の話が混ざります。
日本企業が「米国」と書いたとき、倉庫・販社・工場・越境ECのどれかが曖昧なまま予算が付くことがあります。調査の見出し数字を決裁資料の結論に使う前に、自社の案件票で形態を1語にします。形態が決まらない案件は、優先国リストの下に「形態未定」と赤く残します。
調査の母集団は海外ビジネス関心が高い企業です。国内だけを見る企業の平均ではありません。社内の未進出部門に「日本企業の27%が米国」と話すと、母集団がずれます。説明資料の冒頭に「海外関心企業への調査」と1行入れるだけで、誤読はかなり減ります。
4年連続という時間軸は、単年のブーム説明より重いです。ただし連続首位でも、自社の製品が米国の規制・規格・販路に合うかは別問題です。調査は方向感、適合性は自社の一次確認、と役割を分けます。適合性の確認日も、優先国のリストに1列足しておきます。
数字③:地政学は中小でも7割超、要因は米中
地政学リスクの高まりを受け、中小企業でも回答企業の7割超が事業への影響またはその懸念を認識しています。懸念要因として最多なのは「米中関係・米中対立」です。大企業だけの話題、と片付ける数字ではありません。
実施している対応では、「情報収集の強化」が4割で最多、「販売価格の見直し、価格転嫁」が僅差で続きます。影響が出やすいのは調達(輸入)、販売(輸出)、物流、とあります。主要部材を海外から調達する企業のうち6割が中国から調達、という記述もあります。
「情報収集を強化した」だけでは調達先は変わりません。次の節のサプライチェーン見直し率とセットで見ます。週次でニュースを共有していても、発注先リストが1年前のままなら、数字③の「認識」だけで止まっている状態です。
価格転嫁を進める場合も、契約の改定時期と為替条項の有無を先に確認します。転嫁できない契約のまま「価格見直し」と社内報告すると、実態とラベルがずれます。
数字④:サプライチェーン見直しは4分の1強
地政学や為替などの影響を踏まえ、サプライチェーンを見直す(検討を含む)企業は全体の4分の1強、海外進出企業では約3分の1、と発表されています。新規調達先の検討では「安定性」「地理的近接性」を重視、とあります。
ここでの注意は、「検討を含む」です。社内KPIに「見直し率」を置くなら、検討開始と契約切替を分けて数えます。切替済みの件数だけを別列にします。検討中を実行済みと同じ色で塗ると、経営が見誤ります。
中国調達6割という数字は、主要部材を海外調達している企業の中での話です。全回答企業の6割が中国調達、と読み替えると外れます。脚注に設問条件を残します。
安定性と近接性を重視する、という回答は、コスト最安だけを追う調達から距離を置く動きでもあります。ただし近接の定義(国内かASEANか北米か)は会社ごとに違います。自社の定義を1語で書いてから、候補国を並べます。
数字⑤:人材は9割不足、外国人材雇用は52.5%
海外展開人材の確保状況について、9割近くの企業が「不足している・確保できていない」と答えています。外国人材を雇用する企業の割合は52.5%で、前年比2.9ポイント増、2014年以降の調査で過去最高です。
高度外国人材を採用する最多の理由は「多言語対応できる外国人材の確保」。そのうち7割超は、ビジネス上級レベル以上の日本語能力を希望、とあります。英語だけの採用票では、調査が示す希望とずれることがあります。求人票の言語要件を、営業現場の実際のやりとりに合わせて書き直すのが先です。
米国向け輸出を増やす計画と、海外展開人材の採用計画が別シートのまま並走している会社は少なくありません。数字⑤を、数字①の隣に置くのがこの調査の実務的な使い方です。
人材不足を「採用できない」だけで終わらせず、業務の切り出し(現地パートナー/通訳/外部営業)も列に入れます。足りない職種が営業なのか、規制対応なのか、生産技術なのかで打ち手が変わります。職種列が空のまま「海外人材不足」と書くと、次のアクションが決まりません。
取り違えやすい読み方
取り違え1は、27.1%を「日本企業全体」に外挿することです。取り違え2は、米国首位を「ASEAN不要」と読むことです。取り違え3は、EUが分散先最多を「米国からEUへ移転済み」と読むことです。取り違え4は、人材不足9割を「外国人を雇えば足りる」と単純化することです(日本語能力希望が重い)。
取り違え5は、記者発表の要約だけでPDF本編の定義を見ないことです。設問文が違うと同じ%でも意味が変わります。取り違え6は、外国人材雇用52.5%を「人材不足は解消に向かっている」と読むことです。雇用率の上昇と、海外展開人材の不足感は同じ調査で両立しています。
切り分けの質問は3つです。「輸出か進出か」「検討か実行か」「人材の不足は量か質か(言語要件含む)」。答えが曖昧な行は、優先国リストから一時的に外して構いません。外した理由も1語で残します。
今週の実務1点:優先国×人材×調達の1行表
今週やる1点は、次の1行です。「事業名/最重視国(輸出or進出)/米国リスク時の受け皿/海外展開人材の過不足/主要部材の調達国/SC見直しの状態(未/検討/実行)/出典(JETRO第24回・確認日)」。この1行が埋まれば、会議の論点は半分まで整理できます。
例:「北米向け部品輸出/輸出・米国/受け皿EU検討/人材不足・採用1名/部材中国60%想定→要実測/SC検討中/記者発表2026-02-12・2026-08-21確認」。空欄の調達国は「未確認」とし、推定%を決裁資料に載せないようにします。
表ができたら、営業・調達・人事で同じファイルを共有します。優先国だけが更新され、人材と調達が前年のまま、という状態を週次で止めます。PDF本編の該当ページ番号が分かったら、出典列に追記します。
未確認が3行以上残る週は、新規の海外予算申請を止める運用でも構いません。調査の見出しを引用する資料ほど、自社台帳の空欄が目立ちます。空欄を埋める作業自体が、第24回調査の読み方の本番です。週次の確認日だけでも更新し、古い行を残さないようにします。確認日が2週間以上空いた行は、会議の冒頭で読み上げます。
よくある質問
Q. 米国27.1%は何の数字ですか?A. 今後3年程度で最も重視する輸出先として米国を選んだ割合です。ジェトロ記者発表の記載に基づきます。
Q. 人材が足りないのに米国を目指してよいですか?A. 調査は両方の事実を同時に示しています。優先国を決める会議に、人材の過不足列を必ず載せます。
Q. 調査対象は誰ですか?A. 海外ビジネスに関心の高い日本企業本社9,647社への送付に対し、有効回答3,369社(34.9%)です。
Q. 今週やる1点は何ですか?A. 優先国・人材・調達・SC状態を1行に書き、未確認を残さないことです。
主な出典
調査時点:実施2025年11〜12月、記者発表2026-02-12、レポートページ2026-03-10。本文の%は発表要約。細目表はPDF本編。母集団は海外関心企業。
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。
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