裾野産業は、完成品工場の隣にある部品・素材の供給網です。組立が増えても、現地調達は自動では増えません。ジェトロの2024年度調査では、ベトナム進出企業の現地調達率は36.6%です。地場企業からの分は15.7%まで落ちます。差の21ポイント弱は、同じ国内にいる外資サプライヤーです。「ベトナムで買う」と「ベトナム資本から買う」は別の数字です。本記事では、2026年5月の政府プログラムと、実際に現地で揃う部材の線引きをわかりやすく解説します。
当コラムで注目する用語
- 裾野産業(công nghiệp hỗ trợ):完成品ではなく、原材料・部品・金型・治具など、製造の入力を担う産業。
- 現地調達率:工場がベトナム国内で買う原材料・部品の割合。外資工場からの購入も含むことが多い。
- 国産化率(tỷ lệ nội địa hóa):政府プログラムで使う指標。業種ごとに2030年・2035年の目標が分かれる。
- 決定929/QĐ-TTg:2026年5月25日、裾野産業プログラム2026〜2035を承認した首相決定。
- 輸出加工企業(EPE):輸出向けに輸入原材料を使う地位。関税・付加価値税の扱いが一般工場と違う。
- 地場企業:ベトナム資本のサプライヤー。ジェトロ調査では現地調達のうちこの層だけを分けて集計している。
裾野産業とは何か
ベトナム政府が言う裾野産業は、電子・機械・自動車・繊維・靴などの完成品に、部品と素材を渡す層です。商工省が2026年5月25日付の決定929を紹介する記事では、原材料、部品、予備部品、入力設備の国内生産能力を形成し、輸入依存を減らす、と書いています。完成車やスマホの組み立てそのものではありません。
工場が増えることと、この層が厚くなることは同時ではありません。組み立ては外資の大規模投資で一気に増えます。金型、熱処理、精密プレス、電子部品の前工程は、設備・技能・不良率の管理が別に要ります。ここが薄いと、完成品の輸出は伸びても、部品は日本・中国・ASEANから入り続けます。
ご担当者様が「現地調達でコストを下げる」と書く前に、買う相手が地場なのか、国内の外資工場なのかを分けてください。後者はベトナムに工場があるだけで、技術も価格も本社のグローバル仕様です。
いまの調達率——36.6%と15.7%の差
ジェトロが2024年8〜9月に実施した「2024年度海外進出日系企業実態調査」では、ベトナムから863社が回答しています(2025年3月7日付ハノイ事務所レポート)。現地調達率は36.6%で、前年比5.3ポイント低下しました。うち地場企業からの調達は15.7%(1.5ポイント低下)です。日本からの調達は33.6%、中国から12.6%、ASEANから11.3%と、いずれも増えています。
同じ調査で、今後1〜2年に現地調達を「拡大」すると答えた企業は50.9%です。ASEAN平均37.7%を上回り、域内で最も高い意欲です。事業拡大も56.1%でASEAN首位。意欲と実績が逆向きに動いている、というのが2024年時点の姿です。営業利益の黒字見込みは64.1%で、2019年以来5年ぶりに6割を超えています。工場の採算は戻っても、部品の買い先はまだ域外に残っている、と読めます。
ジェトロは低下の理由として、移管直後の企業が移管元(中国や日本)の既存サプライヤーから原材料を買っている可能性と、円安を挙げています。直近5年で他国から生産機能を移したと答えた割合は24.8%(181社)で、アジア・オセアニアで最多でした。中国からASEANへの移管176件のうち、ベトナムは90件です。工場は来ても、部品の契約はまだ旧拠点側に残っている、という読み方ができます。
2030年の目標は業種で分かれる
決定929(2026年5月25日)は、2030年に主要産業の平均国産化率を40〜45%とし、ASEANの工業競争力で上位3か国に入る、としています。業種別の目標は次のとおりです(政府ポータル英語版および商工省発表)。
| 業種 | 2030年 | 2035年 |
|---|---|---|
| 電子 | 25〜30% | 35〜40% |
| 機械製造 | 40% | 50% |
| 自動車 | 22〜30% | 32〜40% |
| 繊維 | 60% | 70% |
| 皮革・靴 | 60〜65% | 70〜75% |
| ハイテク産業 | 15% | 20% |
繊維と靴は目標が高い。電子とハイテクは低い。自動車は22〜30%と幅があります。一律に「ベトナムは国産化30%」と書かないでください。電子の25〜30%は、いまの実績がそれより低い前提の目標です。2025年時点の電子の実績%を、本稿は政府の確定値として持っていません。
プログラムは2030年までに、裾野企業約600社へ国際標準の管理・生産の助言と訓練を出し、うち約400社が導入に成功する、とも置いています。研究開発・技術移転の支援は約80社、うち40社が新技術を応用する想定です。数は計画値であり、2026年8月時点の達成数ではありません。
現地で揃いやすいものと、輸入が残るもの
揃いやすい側
包装、印刷、一部の樹脂成型、単純な金属加工、縫製の付属、靴の一部部材は、地場と国内外資の両方で候補が出やすいです。繊維・靴の2030目標が60%台なのは、この層がすでに厚い、という政府の見立てです。ジェトロ調査でも、繊維・衣服は現地調達の拡大意欲が高い業種に入っています。
輸入が残りやすい側
半導体、高精度コネクタ、特殊鋼、熱処理を伴う精密部品、自動車の電子制御、金型の上位工程は、国内では足りないことが多いです。精密部品のセルでも、現地サプライヤーが需要のごく一部しか満たさない、という整理が続いています。電子の2030目標が25〜30%に止まるのは、この層が厚いからです。
同じ「ベトナム国内」でも、北部の電子クラスター(バクニン、バクザン、ハイフォン周辺)と、南部の機械・消費財では、揃う品目が違います。カタログ1枚で全国を語らないでください。
政策はあっても率が伸びない理由
プログラムは、制度の整備、科学技術と人材、データベース、市場開拓と広報の4つの作業の束を挙げています。決定が出たことと、バイヤーの図面に地場企業が載ることは別です。2026年8月時点では、目標年は2030年と2035年です。今年の発注に間に合う部品リストではありません。
決定929は、先導企業(完成品側)の技術要求・品質基準・国産化率を、支援の向きにすると書いています。補助金で地場企業を増やすだけでは、バイヤーの図面に載りません。不良率、納期、ロットの再現、監査への対応が、契約の条件です。
生産移管が速いことも、率を下げます。ジェトロが指摘したとおり、移管直後は旧サプライヤーからの輸入が合理的です。2024年調査では現地調達が下がり、日本・中国・ASEANからの調達が上がっています。政策の方向と、工場の立ち上げ順序が、同じ年に逆を向くことがあります。
競争も増えています。同調査で、2019年比で競合の数が「増加」と答えた企業は57.4%とASEANで最も高い。地場だけでなく、移管してきた中国企業や他の外資も、同じ部品を取りに来ます。単価だけを見て地場に切り替えると、品質と供給の両方が止まります。
輸出加工企業という別の列
輸出向けに原材料を入れる工場は、輸出加工企業(EPE)の地位を使うことがあります。輸入関税と付加価値税の扱いが、国内販売工場と違います。「現地調達率を上げよ」という政策と、「輸出用は無税で輸入せよ」という実務が、同じ企業の中で並びます。どちらを優先するかは、販売先が国内か輸出かで決まります。
国内向けに売るなら、現地調達と原産地は価格とFTAの両方に効きます。輸出専用なら、EPEの輸入と、後から地場を足す二段が現実的です。稟議では、最初から一つの調達率目標にまとめない方が安全です。
調達先の探し方
展示会では、ハノイのベトナム・マニュファクチャリング・エキスポ(VME)と、日越裾野産業展示会(SIE)が機械・部品の接点になります。JETROハノイ、商工省の貿易促進機関(VIETRADE)、RX Tradexが共催する形が続いています。年に一度の名簿より、出展リストの業種コードを先に見てください。
団体では、ベトナム機械工業協会(VAMI)が機械裾野のマッチング窓口になります。電子は完成品側(EMS・ブランド)の承認サプライヤーリストが先です。地場団体の名簿に載っていても、完成品側の監査を通っていなければ使えません。
工業団地の管理会社と、既存の日本企業の購買担当への紹介は、展示会より遅い代わりに、不良の話が出やすいです。初めての品目は、展示会で候補を10社に絞り、うち2社で試作、という順が現場に合います。
与信と品質の確認
企業の存在確認は、国家企業登録ポータル(dangkykinhdoanh.gov.vn)の登記情報から入ります。税コード、法定代表人、資本金、業種コードを、名刺と突き合わせてください。登記があることと、その図面を量産できることは別です。
与信は、直近の監査済み財務、主要顧客の名前、設備リスト、ISOなどの認証、工場見学の4点を最低セットにします。資本金の登記額は、運転資金の代理ではありません。得意先が1社に偏っていると、その1社の減産で連鎖します。前払い比率を下げる交渉は、試作ロットが規格に入ってからにしてください。初回から60日サイトは、相手の運転資金を見ない限り危険です。
品質は、図面どおりの初物ではなく、20ロット目のばらつきです。熱処理・メッキ・樹脂の吸湿は、雨季に崩れます。北部と南部で湿度が違うので、同じ仕様書でも保管条件を契約に書いてください。不合格時の再検査費用と、代替輸入のリードタイムも、同じメモに1行足します。
先に決める3つ
1つ目は、指標です。政府の国産化率、ジェトロの現地調達率、地場からの調達率は、分母が違います。社内KPIをどれにするかを先に書いてください。
2つ目は、品目の線です。包装・単純成型は地場、精密と電子の中核は輸入または国内外資、と最初から2列にします。全部を地場に寄せる目標は、電子では2030年の政府目標とも合いません。
3つ目は、移管のタイミングです。ラインが安定するまでは旧サプライヤーを残し、安定後に地場を1品目ずつ足す。2024年調査の「意欲は高いが率は下がった」は、この順序を飛ばすと再現します。
よくある質問
Q. 現地調達率36.6%なら、部品の3分の1はベトナム製ですか。国内で買った割合です。売り手は外資工場も含みます。地場だけなら15.7%です(ジェトロ2024年度調査)。
Q. 政府が40〜45%と言っているので、あと数年で電子部品も揃いますか。40〜45%は主要産業の平均目標です。電子は2030年でも25〜30%です(決定929)。ハイテクは15%です。業種を分けて読んでください。
Q. 調達先はどこで探せばよいですか。機械はVME/SIEとVAMI。電子は完成品側の承認リストが先です。登記は国家企業登録ポータルで確認し、試作と工場見学を契約の前に置いてください。
主な出典
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗(グループ代表)。
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