
アングロ・アメリカンはイギリスに本社を置く、資源メジャーの1つです。
2024年5月29日にBHPグループがアングロ・アメリカンの買収を断念しましたが、業界再編の主要企業として注目されています。
本記事ではアングロ・アメリカンについて詳しく知りたい方に向けて、会社概要・事業内容・業績などをわかりやすく解説します。
参考:Bloomberg「BHP、7.7兆円のアングロ買収計画を断念-交渉期限延長拒否で」
アングロ・アメリカンとはどんな会社

出典:アングロ・アメリカン「At a glance」
アングロ・アメリカンは銅やニッケル、白金族金属、鉄鉱石などを取り扱う資源メジャーです。まずは会社概要や歴史、事業内容を紹介します。
会社概要
アングロ・アメリカンの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | Anglo American plc |
本社 | イギリス |
設立 | 1917年 |
従業員数 | 90,000人 |
拠点数 | 世界に90カ所以上 |
売上高 | 307億ドル(2023年) |
アングロ・アメリカンは15カ国に56拠点を展開しており、世界に90,000人の従業員を抱えています。2023年の売上高は307億ドル(約4兆6,050億円)で、世界有数の鉱業企業です。※1ドル=150円換算
歴史
アングロ・アメリカンの始まりは1917年に、アーネスト・オッペンハイマー氏が前身企業のAnglo American Corporation of South Africaを設立したことです。その名残から、現在でもアングロ・アメリカンはAACと呼ばれることもあります。
設立当初はダイヤモンドや金鉱山の拡張により成長し、1924年に現ザンビアの「カッパーベルト」と呼ばれる地域で、銅の採掘を開始しました。さらに1953年には南アフリカにウラン工場を設立するなど、様々な分野へ進出しました。
1960年には日本の製鉄企業に対して、年間150万トンの鉄鉱石を供給し、日本の鉄鋼産業とも関係を深めています。
1973年にはブラジルに進出し、金やニッケル、鉄鉱石事業などを展開します。このように事業の多角化を推進したアングロ・アメリカンでしたが、1998年に大規模な事業再編を行い、ポートフォリオの最適化を図りました。
1999年、ミノルコ社との合併で現在のアングロ・アメリカンが誕生し、本社をイギリスのロンドンに移しています。
2024年5月、事業再編によりポートフォリオを見直すことを発表しています。
事業内容
アングロ・アメリカンの主力製品は以下のとおりです。
- 銅
高い伝導性が特徴で、インフラや家電製品などに使われています。現代社会には欠かせない物質です。
- ニッケル
ニッケルはステンレスの原料で、アングロ・アメリカンで生産されるニッケルの3分の2がステンレスの製造に使われています。
- 白金族金属
白金族元素はプラチナやパラジウム、ロジウムなどです。自動車の排出ガスを浄化する触媒などに使われています。
- ダイヤモンド
アングロ・アメリカンの子会社は世界のダイヤモンドの約3分の1を生産しています。
- 鉄鉱石
鉄鉱石は鉄の原料となる鉱物です。
- 石炭
製鉄で使用する石炭を生産しています。
- マンガン
マンガンは鉄鋼の強度・耐久性・加工性を高めるために使われる鉱物です。
- ポリハライト
ポリハライトはカリウム・硫黄・マグネシウム・カルシウムなどを含む天然鉱物です。ポリハライトを粉砕して粉状にするだけで、農作物の育成に必要な天然の肥料となります。鉱物がそのまま肥料として使えるため、廃棄物が少なく環境に優しいのが特徴です。
このようにアングロ・アメリカンは様々な鉱物を生産しています。
アングロ・アメリカンの業績
アングロ・アメリカンの経営状況を直近6年間の売上高・営業利益の推移から考察します。売上高・営業利益の推移は以下のとおりです。

参考:アングロ・アメリカン「Reports library」
アングロ・アメリカンの売上高は2年連続で減少しており、2023年は307億ドル(約4兆6,050億円)で、2021年と比較すると100億ドル(約1兆5,000億円)以上減っています。
営業利益も同様に、2年間で約132億ドル(1兆9,800億円)の減少となりました。営業利益が直近6年で最低の水準になっていることから、アングロ・アメリカンは苦戦していることが伺えます。
また、地域別の売上高は以下のとおりです。

参考:アングロ・アメリカン「Reports library」
中国・日本・インド・その他アジアの売上高の合計が全体の66.6%を占めており、主要な取引先はアジアであると分かります。とくに中国は全体の30.4%を占めており、アングロ・アメリカンにとって重要な市場です。
アングロ・アメリカンの事業別売上高の推移
この章では、アングロ・アメリカンの業績を深掘りするために、事業別の売上高に焦点を当てていきます。事業別売上高の構成割合は以下のとおりです。

参考:アングロ・アメリカン「Reports library」
※De Beers(デビアス)は、ダイヤモンド事業を担っているアングロ・アメリカンの子会社です。
グラフから売上高が多い事業は、鉄鉱石・銅・白金族元素であることがわかります。次に、これらの事業の売上高やEBITDAの推移を紹介します。※EBITDAとは、営業利益に減価償却費を加えた指標です。
鉄鉱石(Iron Ore)
鉄鉱石事業の売上高・EBITDAの推移は以下のとおりです。

参考:アングロ・アメリカン「Reports library」
鉄鉱石事業はグラフから、売上高・EBITDAが高い水準を維持しているとわかります。アングロ・アメリカンはブラジルと南アフリカで鉄鉱石を生産しており、2023年度の生産量は5,990万トンでした。
銅(Copper)
銅事業の売上高・EBITDAの推移は以下のとおりです。

参考:アングロ・アメリカン「Reports library」
銅事業は売上高が上昇傾向にあります。営業利益についても高い水準を維持しており、成長が期待できる分野と言えるでしょう。なお2023年は、チリの3つの鉱山とペルーの鉱山から82万トンの銅を生産しています。
白金族元素(Platinum Group Metals)
白金族元素事業の売上高・EBITDAの推移は以下のとおりです。

参考:アングロ・アメリカン「Reports library」
白金族元素事業は、2021年に急激に売上高を伸ばしました。その背景は2021年から2022年にかけて、商品価格が高騰したためです。反対に2023年は、パラジウムとロジウムの供給が安定したことで商品価格が急落し、売上高・EBITDAが減少しました。
また、アングロ・アメリカンは白金族元素事業のプラチナ事業について、2024年5月に分離・売却する計画を発表しています。
アングロ・アメリカンの成長戦略
アングロ・アメリカンは100年以上の歴史を持つ企業です。そのアングロ・アメリカンの成長戦略は、以下の3つを柱にしていることが特徴です。
- Operational excellence(事業の卓越性)
効率化やコスト削減などにより、競争力を高めることを指します。
- Portfolio improvement(ポートフォリオの改善)
2つ目の柱は、ポートフォリオの改善です。事業の再編などにより、ポートフォリオを最適化することで持続的な成長を目指しています。
- Growth delivery(成長の実現)
他の2つの柱を組み合わせることで、アングロ・アメリカンの成長を実現できるとしています。
アングロ・アメリカンの事業再編の動向に注目しよう
アングロ・アメリカンは成長戦略としてポートフォリオの改善を掲げています。その成長戦略に基づき、2024年5月14日にダイヤモンド・プラチナ・石炭の採掘事業から撤退することを表明しました。資源メジャーの1つであるアングロ・アメリカンの事業再編は、鉱業業界に大きな影響があるため、今後の動向にも注目しましょう。