2024年5月29日、BHPグループによるアングロ・アメリカンの買収計画は断念する形で終結しました。ここで、「BHPグループってどんな会社なの?」と疑問に思うビジネスパーソンもいるでしょう。そこで今回はBHPグループの事業内容や経営状況、成長戦略について紹介します。
参考:Bloomberg「BHP、7.7兆円のアングロ買収計画を断念-交渉期限延長拒否で」
BHPグループとはどんな会社?
出典:BHP
BHPグループはオーストラリアに本社を置く、世界最大の鉱業会社です。再生可能エネルギーで使われる銅や電気自動車に必要なニッケル、農業をサポートするためのカリウムなど、多くの資源を生産しています。ここではBHPグループの会社概要や主力製品、歴史を紹介します。
会社概要
BHPグループの会社概要は以下のとおりです。
会社名 | BHP Group Limited |
本社 | オーストラリア |
創業 | 1851年 |
設立 | 1885年 |
従業員数 | 83,211人(2023年) |
拠点数 | 世界に90カ所以上 |
売上高 | 538億ドル(2023年) |
BHPグループは、2001年にBroken Hill Proprietary Company(ブロークン・ヒル・プロプライエタリー・カンパニー)と、インドネシアのBilliton(ビリトン)が合併した企業です。
ブロークン・ヒル・プロプライエタリー・カンパニーは、1885年にオーストラリアのブロークンヒルにある銀や鉛の鉱山から始まった企業で、ビリトンは1851年に創業した企業です。両社が合併したことで、現在では売上高538億ドル(約8兆700億円)を誇る、鉱業業界の世界的リーダーに成長しています。※1ドル=150円換算
主力製品
BHPグループの特徴は多くの資源に進出していることで、その中でも主力製品は銅・鉄鉱石・石炭・ニッケル・カリウムです。これらの主力製品が生活の中のどのような場所に使われているのかを紹介します。
・銅
銅は伝導性に優れた鉱物で、電線などの電力網になくてはならない資源です。そのため、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの普及に不可欠です。さらに自動車や航空機、電車、家電製品、スマートフォンなどの様々な製品に使われています。
・鉄鉱石
鉄鉱石は鉄の生産に必要な鉱物です。鉄は「産業の米」と呼ばれるほど、ほとんどの産業で使われています。BHPグループの2023年の鉄鉱石の生産量は2億5,300万トンでした。
・⽯炭
BHPグループは主に冶金(やきん)用として石炭を生産しています。冶金とは、高炉で鉱石から金属を取り出す手法のことです。
・ニッケル
ニッケルはステンレスや電気自動車に使われるリチウムイオン電池の主要な資源です。BHPグループで生産されたニッケルのうち、85%以上を電気自動車のバッテリー関連企業に販売しています。
・カリウム
カリウムは畑の生産性を維持するのに必要な肥料です。世界的に人口増加が進む現代において、安定した食料を生産するために不可欠な鉱物と言えます。
買収・提携の歴史
BHPグループは、今回アングロ・アメリカンの買収計画を断念しましたが、これまでも買収や提携で成功と失敗を繰り返してきました。ここでは、BHPグループについて理解を深めるために買収・提携の歴史について紹介します。
2004年:日本のJFEスチール株式会社との合弁事業を開始。
2005年:オーストラリアの肥料会社Western Mining Corporation (ウェスタン・マイニング)を買収。
2008年:オーストラリアの鉱業会社Rio Tinto(リオ・ティント)に敵対的買収を仕掛けるも失敗。
2010年:カナダの肥料会社Athabasca Potash Inc.(アサバスカ・ポタッシュ)を買収。
2012年:事業を統合し、ダイヤモンド鉱山やウラン鉱床を売却。
2024年:イギリスの鉱業会社アングロ・アメリカンの買収計画を断念。
BHPグループは買収や提携、事業の売却により資源のポートフォリオの最適化を図ってきたと言えます。
BHPグループの経営状況
BHPグループの経営状況を直近6年間の売上高・営業利益の推移から考察します。売上高・営業利益の推移は以下のとおりです。
参考:BHP「Annual reporting」
2023年は商品価格の低下やインフレ圧力などにより売上高・営業利益が落ち込んでいるものの、直近の6年間で見ると好調を維持していると言えます。
また、地域別の売上高は以下のとおりです。
参考:BHP「Annual reporting」
2023年の最も売上の多い地域は中国で、次いで日本です。具体的に2023年の中国における売上高は312億ドル(約4兆6,800億円)で、日本が69億ドル(約1兆350億円)でした。グラフからも、BHPグループの主要な取引先はアジアに集中していることがわかります。
BHPグループの事業別売上高の推移
BHPグループでどの事業が売上に貢献しているのかを解説するために、事業別売上高の構成割合を紹介します。
参考:BHP「Annual reporting」
グラフからわかるように、BHPグループの主要事業は銅・鉄鉱石・石炭の3事業です。さらに各事業の売上高やEBITDAの推移から、各事業の状況を考察します。※EBITDAとは、営業利益に減価償却費を加えた指標で、国際的な企業価値を評価するのに用いられます。
銅
銅事業の売上高・EBITDAの推移は以下のとおりです。
参考:BHP「Annual reporting」
2023年の銅事業の売上高は160億ドル(約2兆4,000億円)で、2022年と比較して減少しました。要因としては2023年下半期にかけて銅の価格が不安定になったことや、中国の景気低迷が挙げられます。
ただし、売上高は高い水準を維持している状態で、今後も銅の需要は継続する見込みです。そのため、BHPグループの2023年の銅生産量は171万トンでしたが、2024年度の銅生産量は172~191万トンと予測しています。
鉄鉱石
鉄鉱石事業の売上高・EBITDAの推移は以下のとおりです。
参考:BHP「Annual reporting」
2023年の鉄鉱石事業の売上高は248億ドル(約3兆7,200億円)で、2年連続の減少となりました。
売上減少の大きな要因は商品価格の下落です。また今後の不確定要素として、中国における不動産業界への景気刺激策の実施とその効果、鉄鋼の生産抑制政策の可能性が挙げられます。
ただし、BHPグループは中国の鉄鉱石の需要が減少すると予想される中、他のアジア新興国である程度を相殺できるとしています。
石炭
石炭事業の売上高・EBITDAの推移は以下のとおりです。
参考:BHP「Annual reporting」
2023年の石炭事業の売上高は109億ドル(約1兆6,350億円)で、2022年と比較して減少しました。減少した要因は、各国での供給状況が改善したことや、OECD(経済協力開発機構)加盟国での鉄鋼生産量の減少が挙げられます。
BHPグループの成長戦略
BHPグループの成長戦略は、ポートフォリオの見直しや組織の再編などで長期的に最適化を図っていることです。例えば、2012年のダイヤモンド鉱山やウラン鉱床の売却や、今回のアングロ・アメリカンの買収計画などが該当します。また今後の新たな成長分野として、持続的な農業に不可欠となるカリウムの生産能力を高める予定です。
鉱業業界の再編の動きに注目しよう
BHPグループはアングロ・アメリカンの買収計画を断念しました。しかし、アングロ・アメリカンはBHPグループの買収計画とは別に、ポートフォリオの合理化や一部事業の売却を発表しています。 そのため、今回の騒動をきっかけに鉱山業界の再編の動きが加速するかもしれません。あらゆる産業に影響があるだけに、鉱業業界の今後の動向に注目してみましょう。