タイ王室系企業のサイアム・セメント・グループ(SCG)とは

タイは親日国として知られ、多くの日本企業が進出している地域です。これからタイへの進出を検討している経営者も多いでしょう。

タイでビジネスを展開するなら押さえておきたいのは、サイアム・セメント・グループです。サイアム・セメント・グループはタイ王室系企業で、大きな影響力を持っているためです。

本記事ではサイアム・セメント・グループの歴史や事業内容、日本企業との協業事例を紹介します。

サイアム・セメント・グループ(SCG)とは

出典:SCG

サイアム・セメント・グループ(SCG)は、1913年に設立した大手セメント企業です。セメント・建築資材、化学品、パッケージングの事業を展開しています。タイ国内に30,709人、海外に24,869人で合計55,578人の従業員を抱えるグローバル企業です。なお、2023年の売上高は4,996億バーツ(約1兆9,984億円)でした。※1バーツ=4円換算

この章ではサイアム・セメント・グループの歴史や事業内容について紹介します。

歴史

サイアム・セメント・グループは、タイ国王のワチウーラット(ラーマ6世)の命により1913年に設立されました。ラーマ6世はタイ王朝で初めて海外留学を経験した国王で、一夫多妻制の廃止やタイ赤十字社の設立、空港・発電所などのインフラ整備といった功績を残しています。

サイアム・セメント・グループは、1915年にバンスー工場で年間生産能力2万トンからセメントの製造を開始しました。1942年には鉄鋼の生産を開始し、1978年には株式会社クボタと小型ディーゼルエンジンを生産するための合併会社を設立します。

このように事業を拡大した一方で、創立100周年を迎えた2013年に、次の100年の成長に向けて現在の3つの主要事業に再編しています。

事業内容

サイアム・セメント・グループの主要事業は、「セメント・建築資材事業」「化学品事業」「パッケージング事業」の3つです。それぞれの事業がグループ全体に占める売上高の割合は以下のとおりです。

参考:SCG「Financial Information

売上高の構成割合をみると、3つの事業がバランスよく売り上げに貢献しています。ここでは各事業の内容や主力製品を紹介します。

セメント・建築資材事業

セメント・建築資材事業の事業内容は、セメントや大型セラミックタイルの製造・販売です。2023年の売上高は1,893億バーツ(約7,572億円)で、営業利益は134億バーツ(約536億円)でした。

セメント・建築資材事業では再生可能エネルギーやバイオマス燃料などの代替エネルギーを使用することで、持続可能な事業運営を推進しています。また製品においても、生産工程で二酸化炭素の排出を抑制できる低炭素セメントや低炭素コンクリートなどで、二酸化炭素排出量の削減に貢献しています。

このように、温室効果ガスの削減という世界のメガトレンドに沿った経営を推進しているのが特徴です。

化学品事業

化学品事業はエチレンやプロピレン、SCGCグリーンポリマー、バイオプラスチックなどを製造・販売している事業です。SCGCグリーンポリマーは原材料の使用量を抑え、リサイクルしやすいように独自に開発したプラスチックのことです。事業全体の2023年の売上高は1,914億バーツ(約7,656億円)で、営業利益は5億バーツ(約20億円)でした。

パッケージング事業

パッケージング事業は高性能ポリマー包装資材や商品サービス製品、パルプ、紙製品などを開発・販売している事業です。タイだけではなくフィリピンやベトナム、マレーシア、インドネシア、イギリス、スペインなどに商品を展開しています。2023年の売上高は1,293億バーツ(約5,172億円)で、営業利益は52億バーツ(約208億円)でした。

日本企業との協業事例3選

サイアム・セメント・グループは日本と関係の深いグループで、初めて合弁会社を設立したのも日本の株式会社クボタでした。その後も多くの日本企業が業務提携をしています。この章ではサイアム・セメント・グループと提携した日本企業の事例3選を紹介します。

株式会社日本製紙グループ:洋紙事業

株式会社日本製紙グループ(現在の日本製紙株式会社)は、紙製品やキッチン用品、パルプ、化学品などを製造・販売している企業です。2008年に株式会社日本製紙グループは、サイアム・セメント・グループのSCG Paper Public Company Limited(現在のSCG Packaging Public Company Limited)と、洋紙事業において業務提携しました。

経済成長が見込まれる東南アジア地域への進出のパートナーとして、株式会社日本製紙グループはサイアム・セメント・グループを選択したのです。また、2013年に日本製紙株式会社はSCG Paper Public Company Limitedへの事業参画を締結し、洋紙事業の収益力の強化や事業の多角化を推進しています。

ヤマトホールディングス株式会社:宅急便サービス

ヤマトホールディングス株式会社は、クロネコヤマトで知られるヤマトグループの持ち株会社です。ヤマトグループとサイアム・セメント・グループは、タイ国内で宅急便サービスを展開するために、2016年に合弁会社のSCG Yamato Express Co., Ltd.を設立しました。SCG Yamato Express Co., Ltd.は、以下の宅急便サービスをタイ国内で提供しています。

  • 宅急便
  • クール宅急便
  • 代金引換
  • 大型宅配サービス
  • ゴルフバッグ配送サービス など

このようにサイアム・セメント・グループと協業することで、宅急便の国際ネットワークを拡大することに成功しました。

日鉄エンジニアリング株式会社:CO2分離回収

サイアム・セメント・グループは、温室効果ガスの排出削減に取り組んでいます。タイではセメント産業から排出される温室効果ガスが課題となっているためです。

そこでサイアム・セメント・グループと日鉄エンジニアリング株式会社は、CO2分離回収・利用に向けた実証研究で協業することに合意しました。具体的にはサイアム・セメント・グループのセメント工場の排ガスから、日鉄エンジニアリング株式会社が開発した技術でCO2を分離回収するというものです。

日鉄エンジニアリング株式会社が開発した省エネ型CO2回収技術は、従来の技術と比較すると熱消費量を4割以上削減し、高純度のCO2を回収できる技術です。カーボンニュートラル社会の実現に貢献できると期待されています。

サイアム・セメント・グループの中期経営戦略

サイアム・セメント・グループは中期経営戦略として、「ESG 4 Plus」を掲げています。「ESG 4 Plus」は持続可能な社会の実現に向けた取り組みのことで、同グループは地球温暖化や自然災害、資源の枯渇などによる影響を懸念しているためです。

具体的な取り組みや目標は以下のとおりです。

1. Net Zero

  • 2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすること

2. Go Green

  • 2025年までに100%リサイクル可能な包装を実現すること
  • 2023年までに500MW以上の再生可能エネルギーを導入すること

3. Reduce Inequality

  • 2025年までに市場で需要の高いスキルの教育を支援し、地域社会と中小企業に20,000人の雇用を創出すること

4. Enhance collaboration

  • ASEAN(東南アジア諸国連合)や世界的機関との連携を強化すること

サイアム・セメント・グループが中期経営戦略として掲げているように、ESG(環境・社会・企業統治を考慮した経営)は世界的なトレンドとなっています。

東南アジアの拠点にタイへの進出を検討しよう

多くの日本企業がサイアム・セメント・グループと提携することで、タイへの進出を果たしています。その背景として、タイは東南アジアの中心に位置し、同地域への進出拠点の足掛かりになることが挙げられます。海外進出先で悩んでいるのであれば、タイへの進出を検討してみてはいかがでしょうか。

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