
トランプ米大統領の政策により、アメリカとカナダの関係は大きく揺らいでいます。こうした情勢の中、2025年4月28日にカナダで総選挙が行われる予定です。選挙の結果で次期首相が決まることから、国際社会の注目が集まっています。しかし、カナダの選挙制度について詳しく知らないという方もいらっしゃるでしょう。そこで本記事では、カナダの政治制度の基本や首相の選出プロセス、2025年カナダ総選挙の注目ポイントを解説します。
カナダの政治制度の基本知識
日本とカナダは地理的に離れているため、カナダの政治制度について詳しく知られていないのが現状です。そこでまずは、カナダの歴史的背景と政治体制について簡単に解説します。
カナダはアメリカの北に位置し、10の州と3つの準州から構成される国です。1763年にイギリスの植民地となり、1867年にイギリス連邦内の自治領となりました。さらに、1931年に独立国家としての地位を確立しました。現在の人口は約4,010万人で、国土面積はロシアに次いで世界第2位を誇ります。
立憲君主制と議会制民主主義
カナダは、立憲君主制と議会制民主主義を採用している国です。
独立後も旧イギリス連邦(現在のコモンウェルス)に属しており、現在もイギリス国王チャールズ3世を君主としています。ただし、カナダの立憲君主制の君主は象徴的な存在で、実際の政治の実権は国民によって選ばれた政府に委ねられています。
また、議会制民主主義とは、国民が選挙により代表者を選び、その代表者によって政府が構成される仕組みです。日本も議会制民主主義を採用している国の一つです。
カナダ議会の構成
カナダの議会は、国王・上院・下院の三者で構成されています。
国王:形式上の国家元首はイギリス国王で、総督が代理を務める。
上院:定員は105名で、首相の推薦に基づき任命される。
下院:定員は338名で、議員は小選挙区制による国民の投票により選出される。
つまり、カナダの総選挙とは下院338名の議員を選ぶための選挙のことです。
また、国王及び総督は象徴的・儀礼的な存在で、立法の主な役割は上院と下院が担っています。そして、下院は上院より強い権限を持っています。
カナダ首相の選出プロセス

カナダの首相は、国民の直接選挙によって選ばれるわけではありません。総選挙の結果に基づき、選出される仕組みとなっています。
具体的には、総選挙で最も多くの議席を獲得した第一党の党首が、国王の代理である総督により首相に任命されます。任期に明確な定めはありませんが、本人が死亡した場合や、総選挙で所属政党が第一党でなくなった場合は辞任するのが通例です。
なお、総督は国王によって任命されますが、実際には首相の助言に基づいて選ばれます。
カナダの主要政党
カナダの総選挙では、たとえ過半数の議席を獲得できなくても、最も多くの議席を得た政党の党首が首相に就任します。そのため、総選挙においては「どの政党が何議席を獲得するか」が非常に重要なポイントです。ここでは、カナダの主要政党とそれぞれの特徴について解説します。
カナダ自由党
カナダ自由党は、同国を代表する二大政党の一つで、近代史の中では与党として最も長く国家運営に携わり、直近は2015年から政権を担っています。前回の2021年カナダ総選挙では160議席を獲得しました。
現在の党首は元イングランド銀行総裁としても知られているマーク・カーニー氏です。同氏は、気候変動対策と環境政策を政権の柱に掲げており、雇用創出を通じた経済成長の実現を目指しています。具体的には、電気自動車の普及促進や住宅の断熱性能向上に対する優遇制度の導入などが検討されています。
また、対米関係においては、必要とあれば報復関税も辞さないという強硬姿勢を取っている点が特徴です。
カナダ保守党
カナダ保守党は、カナダ自由党と並ぶ二大政党の一つで、中道右派に位置する保守系政党です。2006年・2008年・2011年の総選挙では第一党となり、政権を担った実績があります。現在の党首は、ピエール・ポワリエーヴル氏です。前回の総選挙では119議席を獲得し、第二政党の立場を獲得しています。
同党は「カナダ・ファースト」をスローガンに掲げ、アメリカ政権の関税措置の発動やカナダ併合に関する発言に対して批判的な姿勢を示しています。しかし、基本的には保守政党のため、トランプ米政権と近い価値観を持っているのが特徴です。そのため、カナダ自由党と比較すると、比較的穏健な対米政策を取るとみられています。
ブロック・ケベコワ
ブロック・ケベコワは、ケベック州の利益拡大や独立を目指す社会民主主義政党です。同党は、カナダ東部に位置するケベック州を基盤としており、州内ではフランス系住民を中心とした独自のコミュニティが形成されています。フランス語圏であるケベック州のみで候補者を擁立している点が大きな特徴です。前回の総選挙では32議席を獲得し、第三政党になりました。
新民主党
新民主党は、社会民主主義を掲げる中道左派の政党です。現在の党首はジャグミート・シン氏です。前回の総選挙では25議席を獲得し、第四政党となりました。かつては100議席を超える支持を集めた時期もありましたが、近年は議席数を大きく減らしています。
緑の党
緑の党は、グローバルグリーンズに所属するカナダの政党です。気候変動対策・格差社会の是正・原住民の権利保護を掲げて活動しています。現在の党首はアナミー・ポール氏です。前回の総選挙では2議席を獲得しました。
※グローバルグリーンズとは、2001年にオーストラリアで設立した世界各国の環境政党が所属する国際組織です。
カナダの首相に関する最近の動向
カナダでは最近、首相に関する重要な動きがいくつかありました。ここでは、その経緯を簡単に紹介します。
前首相は、カナダ自由党の元党首ジャスティン・トルドー氏です。同氏は2013年にカナダ自由党の党首となり、初めて臨んだ2015年カナダ総選挙にて、大麻の合法化を公約に掲げて圧勝。その結果、約10年ぶりに政権を奪還し、第23代カナダ首相に就任しました。その後の2019年・2021年の総選挙でも勝利しましたが、物価高や移民政策への不満、自身のスキャンダル、党内の対立などを背景に2025年1月に辞任を表明しました。
そして、2025年3月に実施された党首選挙で選出されたのがマーク・カーニー氏です。同氏は第一党の党首であることから3月14日に第24代首相に就任しました。また、その直後の3月23日に下院の解散を表明。これにより4月28日に総選挙が実施されることとなりました。
総選挙を前倒しした理由は、以下の2つが挙げられます。
- カーニー氏が議席を持たない状態で首相となったため、議員としての正当性を早期に得る必要があったこと。
- 前政権の対米強硬路線により、カナダ自由党の支持率が回復傾向にあること。
2025年カナダ総選挙の注目ポイント

2025年のカナダ総選挙で注目すべきは、「どの政党が第一党になるのか」、そして「次期首相は誰になるのか」です。その背景には、トランプ米大統領の言動や政策に対する反発が、カナダ国内で強まっていることがあります。
具体的には、トランプ米大統領の以下のような言動や政策がカナダ国民の反感を買っています。
- 「カナダはアメリカの51番目の州になるべきだ」と発言
- カナダ前首相を「トルドー州知事」と揶揄
- 2025年2月4日、カナダからの輸入品に一律25%、エネルギーには10%の関税を課す
反米感情の高まりにより、対米強硬姿勢を取るカナダ自由党の支持率が回復しています。
なお、米トランプ政権の相互関税に関しては、「トランプ政権の“相互関税”がもたらす世界再編~日本企業が備えるべき変化とは~」もあわせてご覧ください。
2025年カナダ総選挙の結果に注目しよう
カナダとアメリカは、共に西側諸国を代表する同盟国として、これまで国際社会で重要な役割を担ってきました。そのため、2025年カナダ総選挙の結果次第では、世界経済に大きな影響を及ぼす可能性があります。新たな首相の方針によっては、両国の関係性が悪化し、グローバルなサプライチェーンの混乱を招く恐れがあるからです。
こうした国際的な動向を正しく把握するためにも、2025年カナダ総選挙の行方に注目しましょう。